宿題を終え、机の上の時計をみる。普段ならこの時間はまだ弟妹達が起きていてリビングで一緒に過ごしている時間だ。
でも、今日は二人とも夢の中だ。お風呂から出てすぐに寝てしまった。
まぁ、あんだけ思う存分遊んだし、それに頑張って片付けのお手伝いもしてくれた。
その片付けにも色々あったから疲れちゃったんだろうな。
今日はおひなさま、女の子がいる家庭ならお祝いをしている日。我が家も女の子がいるので、雛飾りもちゃんと飾ってあった。
二人とも雛飾りを楽しそうに眺めその前で遊び、飾ってあるアラレを食べ夕食に雛寿司を食べはしゃいでいた。
そして、お風呂に入る直前まで、私とお母さんが片付けているのを手伝ってくれていた。
ふっとその時の事を思い出す。
お母さんが雛壇からおろした人形をコタツの上に置き、紙で包みながら箱にしまっていると、膝に座って作業を眺めていた妹が聞いてくる。
「ねぇ、もうしまっちゃうの。」
「そうだよ。お雛さんは今日まででおしまいだからね。」
この間の土曜日に出して飾ったから、四日間か、ちょっと短かったかな。
私は妹の頭を撫で、人形を箱の中につめていく作業を続ける。
「なんで、もっとかざっておこうよ。」
そういって妹が私を見上げる。さてどう説明しようかな。そんな風に考えていると人形を下ろし終えたお母さんと弟が、コタツの上に残りの人形を置き、私たちとは反対側に座り妹に説明をしてくれた。
「あのね、今日片付けないとりょうちゃんやお姉ちゃんがお嫁にいくのが遅くなるの。りょうちゃんはお嫁さんになるの遅くなるのは嫌でしょう。」
妹が私を見る。どうしたのかな。ああ、自分と私って言われたからか。私は頷いてやる。すると妹は首を降る。
「おそくてもいいもん、おひなさまかざろうよ。」
妹はそう言うと私にしがみつく。私はどうしていいのかわからず、頭を撫でながら抱いてあげる。お母さんを見ると少しだけ困った顔をしていた。でも、私と目があると何かを思いついたらく優しく妹に言う。
「もう、そんなこと言ってると、真一兄ちゃんに嫌われるよ。今度遊びにきても遊んでくれないよ。」
えっと、なんでそこで彼の名前がでてくるのかよくわからない。妹は驚いた顔をして私を見る。私が何も言えないでいると悲しそうな声で聞いてきた。
「うそ、おねえちゃん。ほんと。どうして?」
何て答えていいのかわからず、ただ妹を見つめているとお母さんがさらに続ける。
「だって。お姉ちゃんは真一兄ちゃんのお嫁さんになるんだから。お姉ちゃんがお嫁にいくのが遅くなったらお兄ちゃんが困るでしょう。」
えっとちょっと待って、どうしてそんな話になるんだろうか。妹を見るとなにやら考えているようにも見えるけど困ったような怒っているようなよくわからない表情をしていた。しばらく色々な表情を見せていた妹の表情が落ち着き、今度は楽しそうに尋ねてきた。
「わかった。はやくおかたづけする。ねぇ、それでいついくの。ねぇ、いつ。」
「う〜ん、そうね。お姉ちゃんに聞いてみな。」
「おねえちゃん、いつおにいちゃんところにいくの。」
妹はとっても嬉しそうな顔をして聞いてくる。
「お母さん。」
私はお母さんを睨む。何てことを言うんだろうか。確かに片付けるのに納得してくれたけど。もうちょっと別の方法もあったんじゃないかな。そんな風に思っていると今度は弟がこんな事を言いだした。
「だめ。おねちゃんはぼくのおよめさんになるの。」
そう言って今まで黙ってお母さんの膝に座っていた弟がコタツから出て後ろから私に抱きついてくる。
「ちょっと、よう君。苦しい。引っ付くのはいいけど、もっと優しく。」
「あらあら、しょうがないわね。」
お母さんはおっとりと二人を見ながらも着々と人形を箱の中につめていく。えっと助けてくれないのかな。この原因は100%お母さんなんだけど。
そして、私が弟をなだめている間、膝の上で妹はニコニコしながら箱の中に丸めた紙を詰めていた。
そんなことを思い出していると部屋のドアがノックされた。
「何。お母さん。」
ドアに声をかける。
「亜由美、いま良いかな。」
「いいよ。ちょうど、宿題も終わったし。」
そう答えると、お母さんがドアを開けて入ってきた。お母さんの手にはお盆があり、コップが二つあった。
「何もって来たの。」
「甘酒。本当は白酒なんだろうけど。まだ未成年だしね。」
そういって部屋に入ってくる。何だか甘い良い匂いがする。お盆を部屋にある小さなテーブルに置き座る。
「ほら、アンタもこっち来なさい。一緒に飲もう。」
ノートを閉じ、机の上を片付けてお母さんの横にすわる。コップと箸を渡される。箸でコップの中を混ぜながら口をつける。
「まだちょっと熱いかな。でも美味しい。」
「それはそれは、でも褒めても何もでないよ。」
そんなことを言いながらお母さんもコップに口をつける。
「それにしても、静よね。」
「あの子達も寝ちゃったから。」
「うん、よっぽど楽しかったんだね。そうそう、さっきはお疲れさま。」
「本当だよ。お風呂の中まで続いたんだから。」
普段も騒がしくなるお風呂なのだが、今日のは何時にも増して騒がしかった。おかげで風呂上がりは疲れが増えたような気がしたぐらいだ。
「いいじゃないの。二人ともアンタが大好きなんだから。でもありがとね。いつもいつもあの子達の事みていてくれて。」
お母さんがそんなことを言いだした。
「別にいいよ。あの子達と一緒にいるの好きだし。」
私はそう言ってちょっぴり照れくさくて甘酒を口に付ける。
「あっ、そうだ。聞いておいて欲しいって言われてたんだ。ねぇ亜由美。今ほしい物ってある。」
「えっ何で?」
私がそう聞くと、お母さんはちょっとだけ歯切れが悪くあの人がねと言って続けた。
「バレンタインのお返しに何がいいのか全然わからないから。リクエストはないかなって言われてたの。」
さて、いつもだと山のようなお菓子がお母さんと稜子と私宛でが送られてくるのに。どうしたんだろうか。よっぽど不思議そうな顔をしていたんだろう。お母さんが気づいたように理由を説明する。
「ほら、いつもは三人からって一個送るでしょう。でも今年は亜由美が作ったのと二つ送ったから。すっごく喜んでた。」
そう言ったお母さんはとっても幸せそうな顔をしていた。今年はお母さん達とは別に準備したので私のとお母さんのを送った。今まではお母さんと一緒だった。
「そう、お父さんがね。でも欲しい物って急に言われてもな。」
私は何かあったかなとあれこれと考えていると、お母さんおずおずと聞いてきた。
「ねぇ亜由美。今さ、何ていった。」
お母さんを見る。その表情はとっても驚いるようだった。さてなんか変な事を言ったかな。思い返してみる。
あっ、私は気がつき少しだけ気まずくなる。別に意識していったわけじゃない。ただ自然と口から出たのだ。
「えっとあのね。」
お母さんと目が合う。お母さんは私の言葉を待っているみたいだ。だから小さな声でもう一度言う。すると抱きしめられた。
「ありがとう。」
そう一言告げられた。声は擦れていて泣いているようだった。私はたまらずあやまってしまった。たぶん意識して今までそう呼んでいなかったから。
「私こそ、ごめんなさい。自然と口にしてた。たぶん、あの子達のおかげ。」
「そっか。いいのよ。ただね今度、帰ってくるときにそう呼んであげて欲しいな。泣いて喜ぶと思うから。」
そう言うとさらにギュッと力強く抱きしめれた。私は涙がゆっくりと頬を伝っていくの感じていた。
—そう私がこんなにも自然にこの言葉を口にできたのはあの子達がいたからだろう。あの子達の大好きな人。初めて会ったときはまだ幼く受け入れる事が出来なかった。でもあの子達が生まれてこうやって一緒に過ごしていくうちに段々と受け入れる事ができたみたいだ。こうして桃の日の夜はちょっとだけ湿っぽくそれでいて暖かく静かに静かに過ぎていった。—
fin
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今日はひなまつり。女の子がいる家ではお祝いがされているでしょう。今宵はそんな日の彼女を覗いてみました。「とある」シリーズ第6弾です。