No.613162

とある不良の学生生活(フリータイム) 第一話

森沢妖歩さん

ここでは初投稿にして長編です。
キャラは最新刊に準拠ですが、時間設定は特に決まってません。というかありません。
ストーリーとか全部オリジナルで、適当に書いていきます。更新も適当です。
まあ、適当な目で見てってください。

2013-08-27 21:45:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:284   閲覧ユーザー数:284

 
 

 

 

 

「あなたが、あの『なにをやっても傷一つつかず、あらゆる人間を取り込んでしまう恐怖の女』なんですね!」

 佐天涙子は、目を輝かせながら目の前の少女の手を両手で包むように握りしめる。

「なにをやっても傷一つつかないというのはあってるけど……」

 少女のほうは、彼女の勢いに少し戸惑いながらも一つの疑問を口にする。

「あらゆる人間を取り込むって、なに?」

 

 

 

 

 

 学園都市の路地裏。不良が多く徘徊するこんな場所に、一人の少女が無防備に歩いていた。

 腰を超すほどの長い黒髪に、校章がついてないブレザー、膝下ぐらいの黒いチェックのスカート。制服のように見えるが、彼女は私服として使っている。

「こんにちは♪」

 そんな少女は不良の溜まり場の一つに平然とやってきて、不良たちに向けて笑顔で挨拶をする。

「おう、こんちゃッス」

「ゆさちゃん、相変わらず可愛いね」

「なんかお土産あるッスか?」

 その厳つい見た目とは裏腹に、不良たちは明るい笑顔で対応する。その場には十数人もいるが、全員が友好的・好意的な眼差しを少女に送っていた。

「いや~、褒められちゃったらお土産渡すしかないな~」

 その中の一人が言った『可愛い』という言葉に反応したのか、頬をデレッと緩ませていそいそと財布から千円札を取り出した。そしてそれを手近な不良に手渡す。お土産というよりは、ただのお小遣いにしか見えない。

「おお、悪いね。はい、管理よろしく」

 その不良は、集団の中で一番奥に座るリーダー格の男に渡。

「了解。いつも悪いな、ゆさ」

「いやいや、どうってことないよ、ゆうき」

 ゆさと呼ばれた少女は屈託なく笑い、ゆうきと呼ばれた男は札を財布にしまう。

 彼の財布はいくらか厚みがあるが、なぜかその中身は全て千円札だ。ちなみにレシートは入ってない。

「結構貯まってるのね。しかも両替しないんだ」

「カツアゲするのも質より数だからな。いろんな奴から小金巻き上げてると、小銭ばかり貯まるのさ。両替しないのは面倒だから」

 ゆうきは小さな小銭入れも見せる。それもかなり膨らんでジャラジャラと音を鳴らしていた。ちなみに、五百円玉は一枚も入ってない。

「必要以上に傷つけてないよね?」

「他の奴らは知らないが、俺はあまり傷つけてねえよ。俺は嘘やハッタリも得意だから、傷つけずに盗ることも簡単だからな」

 つまり、スリや言葉のみの脅し、もしくは詐欺。とはいえ、さっき言った通りあまり盗ってないし、スッたとしても中身だけ盗って返している。

「そうそう、さっき女子が歩いてるのをみたぜ。見た感じ迷い込んだ様子だったから、暇なら大通りまで送ってやったら?」

「えっ、そう? なら、どこ行ったかわかる?」

「ちょっと待ってろ」

 ゆうきは鞄からスマートフォンを取り出し、軽く操作してからゆさに投げ渡した。

「これは、地図?」

 ゆさは左手で操作して、ざっと画面を眺める。立体的に地形が映し出されている普通の地図だが、ただの地図ではないのは一目でわかる。 上下になんかよくわかんないアイコンが並んでいたり、二画面になっていて自分の周辺と別のどこかが映し出されていたり、数種類のマークが置かれていたりと。

「それはなにか情報を登録すれば、個人の居場所を検出してくれるアプリだ。今回は足音を登録して情報に分解し、集音器によって拾った音の情報から個人を特定するって方法だ。この場合、範囲はせいぜい一キロってところだな。監視カメラとリンクできればもっと広がるんだが、こんな路地裏にそんなものはないからな」

「流石ねゆうき。そんなプログラム組めるなんて、あんた不良やめればいいのに」

 学校にも行かず独学で技術と知識をを身につけた彼は、それが能力と呼べるレベルまで達していた。

 電子機器の自作や改造、アプリの自作や改造、そしてハッキングにデータ改竄。裏方においてこれ以上の人物はいないだろうと、ゆさが心から信頼できるレベルだ。

「でも、よく足音なんて録音してたわね。ちょっと見かけただけなんでしょ?」

「ちょっと気になったから。それは周りにどんなやつがいるかもわかるから、もし囲まれたようなら助けに行こうかと」

 どんなやつ……つまり相手の体格や性別、その他諸々も把握できるということだろう。もちろん完全なんてありえないが、ないよりはマシだろう。

「監視するなんて、ただのストーカーじゃない。もしかしてそれが目的だったんじゃ……」

「先を見据えていると言ってくれ。お前が行くことになったんだから、結果オーライじゃねえか」

 冗談を言いながら後ずさるゆさに、ゆうきは笑いながら反論する。しかし、使い方次第でとんだ代物になることは間違いない。

「使い方がわからなかったら右上の?をタッチしてくれ。それでもわかんないことがあれば右下のTをタッチしてくれ。画面情報と共に俺に繋がるから」

 ゆうきの指示を受け、ゆさはハテナマークをタッチして表示されたヘルプを一読する。上下のアイコン、表示されているマークの意味が簡単に書かれていた。

「へぇ~、なんかすごいね。……うん、理解」

 頷いてからヘルプを閉じる。そして、Tをタッチする。通話するということから、TELの頭文字を取ったのだろう。

「って、今かけんのかよ!」

 ゆうきはツッコミつつも、律儀に左耳につけたイヤホンマイクのボタンを押し、別のスマフォを懐から取り出す。

「あらかじめ繋げてたほうがすぐに質問できる」

「それもそうだな。……ん?」

 ゆうきは縮小した地図を見て、眉をひそめた。違和感を見つけたからだ。

「近くにたまってる奴がいるのはいいとして、後ろにつけてる奴がいる」

 対象のマークが進んでいる道から少し横にそれた位置に複数のマークが固まって配置されている。それは恐らく不良が集まってるだけだろう。しかし後方数メートル先に、一つのマークが時折角に隠れながら少女と同じ速度で動いていた。

「念のため急げ。俺はそこら辺の奴と連絡を取る」

「了解! んじゃ、ちょっと行ってくる!」

 スマフォをしっかり握り、全速力でゆさは走り出した。

 

 

 

 

「う~ん、どにいるのかな?」

 噂の迷い人…佐天涙子は携帯画面の前で唸っていた。

「なにをやっても傷一つつかず、あらゆる人間を取り込んでしまうという恐怖の女は」

 今日も今日とて、彼女は大好きな都市伝説の解明を行うべくやってきたのだが、あまりにも情報が少なく詰まっていた。

「掲示板によればここら辺によく出没するって話なんだけど……」

 辺りを見回しながら、影が濃い細道を歩き回る。街灯は設置されておらず、監視カメラなどもないこんな道が危険なことくらい、彼女もわかっているはずだ。だがそれでも、彼女の好奇心は抑えられなかった。

「あ~、情報が少ない……」

 女の情報は、ここら辺にいるという大雑把な位置と、髪が長いということしかわかっていない。

「う~ん、もっと情報ないのかな」

 涙子は掲示板を眺めながら歩く。しかしやはりというか、有力な情報は一つもあがってない。

「はぁ~……あっと、すいません」

 画面に集中していたせいで、誰かとぶつかってしまった。

「あ?」

 ぶつかった相手は、金髪でいかにも不良やってる男。彼は低い声を発して、目の前の少女を見下ろしていた。

(ひいぃぃぃ!)

 涙子は内心で叫ぶ。ドッと汗が噴き出して、今にも全速力で逃げ出したい気持ちになった。しかし、目の前の不良の威圧感のせいで喋ることすらままならない。

「――いや、人とぶつかっただけだ」

 不良は通話中だったようで、涙子に目線を向けながらも電話に耳を傾けていた。

「ああ。……なんで? ……なんだと? …………わかった」

 通話が終わったのか、不良は携帯をポッケにしまう。そして、改めて涙子に目を向ける。

「よう嬢ちゃん。ここでぶつかったのも何かの縁だ。金くれや」

 まわりくどい事も言いがかりもつけずに、真っ正面から金を要求する不良。

「……え……あ……あの……」

 怖い顔を近づけられ、涙子はパクパクと口を動かすことしかできない。不良も彼女が恐怖してることはわかってるだろうに、指をポキポキとならしてさらに告げる。

「今ちょっと金欠なんだよ。なあお前ら!」

 不良は呼びかけるように後ろに向かって声を張り上げる。すると、角からゾロゾロと十人程度の明らかに不良やってますと言わんばかりの男女がやってきた。涙子がさらなる驚きと恐怖で固まってる間に、不良たちは涙子を囲む。

「千円でいいからよぉ。そんぐらいで見逃してやるから……なぁ?」

「………………へ?」

 涙子は一転して、意外な要求に拍子抜けしてしまった。こんな大勢に囲まれて、強面の男に脅されて、要求がたったの千円のみということに。

「それだけでいいんですか?」

 涙子はさっきまでの恐怖を忘れて、キョトンとしながら聞き返す。てっきり有り金全部とか言われると思っていたのだ。

「あ? お前もしかして金持ちか? 金持ちなのか?」

「いやいやいやそんなことはございません普通の学生ですぅ!」

 ずいずいと強面を近づけられて、涙子は涙目でブンブンと首を振る。

「だよな。てことで、金貰えねえか?」

「え? あ……やっぱりそうなっちゃいます?」

 一瞬柔らかい空気になった気がしたからそのまま逃げられるのかと涙子は期待していたが、やはり現実は甘くないみたいだ。周囲から恐い視線を向けられ、恐々としながらも鞄から財布を取り出し――。

「――なにやってんだお前ら」

 そこへ、第三者の声が響く。男の前方、涙子の後方からだ。

「一人の女に寄ってたかって、弱いな」

 現れたのは、一人の男。特に特徴があるわけでもないが、大勢の不良を前にしているにも歩み寄ってくる余裕を醸し出していた。

「なんだおめえ? こいつの連れか?」

 囲んでいた不良の中で一番近かった人物が男の前に立ちふさがる。不良の質問に、男は自信満々に答える。

「ああ」「いえ」

 男と涙子、二人の真逆な答えが重なる。

「いや、ここは合わせてくれよ!」

 即座に男がツッコンだ。涙子は完全に素だったようで、しまったという反応をする。

「ごめんなさい、思わず」

 男は大きく息を吐く。知り合いのフリをして涙子を助け出そうとしたのだろうが、最初で終わってしまった。

「仕方ない。……通りすがりのヒーローだ。その子を放してやりな」

 頭をかきながら、鋭い視線を浴びせる。しかし当然というか、不良たちは全く動じない。

「なに言ってんだ?」

 涙子を脅していた不良が前に出て、男に絡んでいた不良をどかして対峙する。その眼には、さっきとは違う意志が宿っていた。

「お前か、この嬢ちゃんを尾けてたって奴は」

「…………あ?」

 不良の言葉に、一瞬男の目の色が変わる。

「とぼけても無駄だぞ。知り合いでもない、通りすがりでもない。お前はなにをしようとしてた?」

 ゆっくりと、威圧感を放ちながら言葉を紡ぐ。

「――――はっ」

 図星だったのか 男は態度を一変させる。

「よくわかったな。ちょっと能力が上達しなくてイライラしてたから、女をかっこよく助けてどっか連れてってやろうかと思っただけだ」

 不自然過ぎる余裕を保ちながら、悪の顔を見せる男。化けの皮がはがれたとはこういうことだ。

「つかお前ら不良だろ? だったら、俺に荷担しろよ」

「馬鹿言うんじゃねえ」

 不良はただの恐い不良から一転、カッコイイ金髪の兄ちゃんみたいな雰囲気に変わる。

「俺達はな、自分と他人のことをしっかり考えるんだよ」

 金髪は右腕を広げる。その動きを合図に、涙子を囲んでいた不良たちは守るように涙子の前に集まる。この時涙子は思った。「さっき感じた柔らかい雰囲気は間違ってなかったんだ」と。

「逃げな嬢ちゃん。金はいらねえから」

 金髪は構える。その言葉を受けて、涙子は戸惑いながらも逃げだそうと――

「――させるかよ」 

「えっ……?」

 パチッという小さな音がしたと思ったら、涙子が抵抗もなく前に倒れた。

「俺は派手なことはできねえが、こういう繊細な技は得意なんだよ」

 男は手を前に向けて、パチパチと弱い電気を走らせていた。体に電気を流して、全身を麻痺させたのだ。

「十分弱ってところだが、お前らなんか五分もあれば充分だ。ボコしてストレス発散させてもらうぜ」

 男はあくどい笑みを浮かべる。対して、金髪は頼もしそうに笑う。

「嬢ちゃんを守れ! じゃねえとゆさに叩かれるぞ!」

『おう!』

 金髪の声を号令に、不良たちが唸りをあげた。

 

 

 

 

 
 

 
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