第15剣 お正月
和人Side
「ん、知らない天井だ……アホらしいな、起きよう…」
自分で言っておきながらアホらしく思ってしまい、ベッドから身体を起こす。
隣には寝間着に身を包んだ明日奈が、静かな寝息を立てて眠っている。
彼女の髪を優しく梳いてから、その額に唇を落とし、時計に目をやる。
時刻は午前5時、丁度良い睡眠時間だったといえる。
枕元に置いておいた端末に手を伸ばし、電源を入れる。
「おはよ、ユイ」
『おはようございます、パパ。ママはまだお休み中ですか?』
「ああ。今日は俺が一足先に起きた」
愛娘であるユイと挨拶を交わし、俺は動きやすいジャージに着替える。
そこで部屋に備え付けてある洗面所で顔を洗い、歯を磨いてから髪を整える。
「ユイ。明日奈が起きたら、俺は身体を動かしに外に出たと伝えてくれ」
『了解です~♪』
端末を胸ポケットに入れ、俺は明日奈の客間から出た。廊下を歩いていると給仕の女性が俺を見つけ、傍まで歩み寄ってきた。
「おはようございます、桐ヶ谷様。失礼ながら、どちらに…」
「少し体を動かしに外へ行ってきます。日課の1つなので…」
「承知しました。7時半から朝食となりますので、それまでにお戻りいただけますか?」
「分かりました」
彼女は必要事項を伝えると一礼してから自分の仕事に戻って行った。さて、俺も行くとしよう。
そこまで長く動くつもりはないが、時間は限られているし。
そして玄関に辿り着いた時、そこにはなんと千里氏が居た。
「おはようございます、千里さん」
「おぉ和人君か、おはよう。その格好からして、運動でもしに行くのかね?」
「はい。日課なので……千里さんはどちらに?」
「儂も同じということだ。近くに剣道場があるのだが、いつも早朝は其処を借りて竹刀を振っている」
そういえば、千里氏も剣道をしていると言っていたな。
「どうかな、和人君。よければ、キミも道場に来ないかね?」
「是非、お願いします」
折角のお誘い、竹刀を振るうことが出来るのならば断わる理由などない。俺は千里氏と共にその剣道場へと向かった。
近くとはいっても、その剣道場までは500mほど離れていた。
到着してから準備体操をし、筋トレを行い、俺は千里氏と共に竹刀で素振りをしてから、何度か試合をした。
「いや、驚いた…。師範代とは聞いていたが、まさかあれほどの実力とは……剣術と剣道ではやはり違うものだな」
「千里さんこそ、剣道の腕は十分だと思います」
試合が終わり、道場の掃除を軽くしてから俺達はそこを後にした。
礼に始まり礼に終わる、この言葉の通りにちゃんと掃除をするのが礼儀というものだからな。
結城本家へと帰り着いた時、時間は丁度7時となっており、俺は千里氏と共に汗を流す為に風呂に入った。
いや、さすがに大きな風呂だった、うん。
しかも風呂に浸かっている最中、千里氏から何かと明日奈の様子や彼女とのことを聞かれた。
孫娘である明日奈はやはり千里氏に対し、まだ苦手意識があるから、俺に聞いたそうだ。
そこは今後で話せるようになりますよ、とフォローをしておいたがな。
風呂から上がって私服に着替えた俺は明日奈の客間に戻った。
「ただいま。それとおはよう、明日奈」
「おかえりなさい。おはよう、和人くん」
彼女は自身の端末を持って正面に見据えていた、どうやらユイと話しをしていたようだ。
するとベッドから立ち上がり、俺の前まで歩み寄ってきた……そこで、
「んぅ、ちゅっ…//////」
キスをされた。なるほど、おはようのキスというわけか。まぁ俺は先に額にしてあげたけどな。
「今日は何をしたの? 筋トレと走り込みかな?」
「筋トレはしたけど、千里さんと一緒に竹刀で素振りをして、あとは試合も少ししてきた」
「え、そうなの? 試合の結果は?」
「俺が言うのもアレだけど、全勝」
それを聞いた明日奈はかなり嬉しそう。
おいおい、お祖父さんが負けているのだから少しはそれも潜ませなさい。お祖父さんが哀しむぞ?
「あのね、和人くん。朝食を食べ終わったら、一緒に神社にいかない? 初詣は昨日もう終わらせちゃったけど…」
「そうだな、行くとするか」
「やった♪」
彼女の提案を受けて、俺達は神社へとお参りをしに行くことにした。
朝食後、休憩を取ってから出掛けることになり、明日奈は着物に着替えていた。
ふむ、今晩はベッドで姫はj(刃「それ以上はやるとしても言うんじゃない!」)…へいへい。
というわけで、明日奈と端末にいるユイの3人で大きな神社へとやってきた。
「2日とはいえ、やはり人が多いな…」
「昨日も凄かったよ~。こっちも大人数だったけど…」
『三箇日というのは凄いんですね~』
正月中はやはり参拝客が多く、かなり混んでいる。ユイも俺達の様子からそう思ったようだ。
『それでは、パパ、ママ。わたしはALOの方に戻っていますので、お2人でごゆっくり♪』
「え、ちょっ…」
「お、おい、ユイ………駄目だ、
愛娘は言うことだけ言うと、早々と移動してしまったようだ。
気を利かせてくれたのだろうけれど、折角だから参拝くらい一緒にしても良かったのではないだろうか?
でも昨日も俺と一緒に参拝をしたから、本人はいいのかもしれない。
「それじゃ、
「…手を繋ぐよりも、腕を組みたいな~///」
「(くすっ)じゃあ、そうしようか」
微笑を浮かべてから彼女と腕を組んで参拝客の中を歩む。それにしても、本当に人が多いなぁ~。
「明日奈、大丈夫か?」
「うん。腕組んでるし、着物はそれなりに慣れてるから」
彼女は着物用の履物を履いているので少し歩き辛いだろうし、着物を着用するときつめに帯を結ぶのでそれも多少は辛いだろう。
さらに人混みなので大変だろうから気に掛けたうえで声を掛けるが、本人は頬を少し紅く染めながら答えた。
紅くなっているのは俺と腕を組んでいるからだろう、柔らかな感触もあるし……うん、色々とキノセイ、キノセイ。
それから30分近く時間を掛けることで、ようやく賽銭箱の前まで辿り着くことができた。
五円玉を入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍一礼を行い、横に移動する。
さらに御神籤を引き、ずばり運勢のほどを確認する。
「吉か、可もなく不可もなくって感じだな。勉学、運動に成功の兆しあり、か」
「わたしは中吉だよ。恋愛運は………///(ぽっ)」
頬を再び紅く染めた明日奈、一体何が書かれていたのだろうか?
気になりはしたが、彼女が言わなかったので聞くことはせず、俺達は御神籤を枝に結んだ。
「さて、折角屋台も出ていることだし、何か食べるか」
「もぅ、キミは食べ物に目がないことが多いよね?」
「育ち盛りだからな」
「そういえば、身長が離されてきたかも…」
元々、俺と明日奈の身長差はほとんどなかった。
俺の方が彼女よりもほんの2cmほど高い程度だったのだが、現在では10cm近く差がある。
志郎や景一、公輝もそんな感じらしいし、烈弥と刻も少しずつ背が伸びていたな。あの2人も時期に俺達くらいになるだろう。
「ではまずたこ焼きでも……明日奈も食べるか?」
「わたしはいいです」
「拗ねてるのか?」
「拗ねてません」
どう見たって拗ねているだろう。
アレか?身長差が出てきてキスする時に背伸びをしなくてはいけなくなった時に、からかわれたことを思い出したのだろうか?
いつも可愛い明日奈があの時はさらに可愛かったな……と、そんな場合じゃないな。
俺はたこ焼きを売っている出店の店主に金を渡し、1パック受け取る。
爪楊枝をたこ焼きに刺して1つ頬張り、それからもう1つの刺し、明日奈の口元に持っていく。
「あ~ん」
「っ……///(ぷいっ)」
あ、少し迷ったな。
「あ~ん」
「………」
「口移しで食べさせるぞ?」
「っ/////////!?」
今度は驚いてこっちを振り向いた。口をパクパクと開閉し、しかし少し逡巡してから小さな口を可能な限り大きく開いた。
「はい、あ~ん」
「あんむ(もぐもぐ)……美味しい、です///」
「それは良かった」
まぁざっとこんなものだ。
それから2人で食べさせ合いをし(その際に周囲で口から砂を吐く人間が居た気もするが)、他にもお守りなどを購入した。
俺は進学のための学業成就、明日奈は健康祈願と安全祈願などを買っていた……安産祈願が目についたのは俺の気のせいかな?
気のせいにしよう、そうしよう…。
神社から帰り、結城本家へと着いたのは昼の12時前。
昼食は軽めの物にしてもらい、適度に済ませた。
そして午後2時を過ぎた頃、俺達の前にある4人が現れた。
「あけましておめでとうございます、和人」
「し、師匠っ!?」
そう、やってきたのは時井一家。八雲師匠の後ろには葵さん、九葉と燐もいる。
相も変わらずの師匠と葵さんはにっこり笑顔で、九葉と燐は苦笑しているが。
「あ、あけましておめでとうございます…。まさか、新年の挨拶に?」
「その通りです。和人も来ているとのことですから、4人揃って来てみました」
予想的中、師匠と千里氏は顔見知りなのだから当然か…。
「和人君、明日奈さん。あけましておめでとうございます~」
「あけおめ。和人さん、明日奈さん」
「あっけおめ~だよ、和兄、明日姉♪」
「「あけましておめでとう(ございます)」」
葵さん、九葉、燐の3人の挨拶に俺と明日奈もしっかりと返答する。
師匠と葵さんは大人達と話しをしにいき、俺と明日奈は久しぶりの九葉と燐との再会の為、話に花を咲かせた。
そのまま1日が無事に終わると思っていた俺が浅はかだった。理由は簡単、師匠に稽古を付けられたからさ。
午前中に千里氏と共に行った道場で、師匠が持ってきていた木刀で、半ば本気ギリギリまで戦ったのだから疲れもする。
結局試合は引き分け、痣だらけとは言わないが、切り傷(木刀なのに)がそれなりに出来てしまった。
無論、俺もそれなりに反撃したので師匠も無傷ではなかったが…。
「っ、少し傷に沁みるな…」
現在は夕食を終えた後であり、風呂を頂いている。時間は午後10時半を過ぎているがな。
「正月ってことで、気が抜けていたかな…? まだまだ、精進が必要っと……ん?」
反省しながら高めの天井を見上げていると脱衣所に人の気配を感じた。この感じは、まさか…っ!
―――がらがらがらっ…
「お、おじゃましま~す/////////」
「明日、奈…」
その気配に身に覚えがあり、やはりと思えば入ってきたのは明日奈だった。
生まれたままの姿、身体の前はタオルで隠れているだけである。さすがの俺も驚かずにはいられない。
「お、お背中を、流しにきました…//////」
「あ、あぁ…」
その言葉を受け、俺は湯船からあがり、彼女に背中を流してもらうことになった。
「痒いところ、ない//////?」
「ん、大丈夫…」
自宅やホテル、ALO内ならばここで行動を起こすのだが、今回ばかりはそうもいかない。
まぁ自制くらいは出来るので問題無い。
明日奈に背中を流してもらったあと、俺は一足先に風呂からあがり、彼女の客間へと戻った。
「ふぅ~………それにしても、何故いきなり明日奈が…」
『パパ、どうかしましたか?』
「ん、ユイか…。いや、ちょっとな…」
ベッドに座り込んでそう呟くとユイが声を掛けてきた。
さすがに状況を説明するわけにもいかないので、暈かしておく。
そんな時、愛娘が爆弾発言を投下してきた。
『あ、そうでした。パパ、ママと『俺が昼間に考えたこと』はしましたか?』
「………ユイ…。その言葉、誰から聞いたんだ?」
ユイから聞こえてはならない発言が聞こえたので事の真相を知る為、聞いてみた。
『志郎さんが年の初めに恋人さんが必ずすることだと言っていました。
ただ、内容を知ってはならないと言われましたので、わたしは知りませんが…』
「そうか……ユイ、少しの間だけでいいから、戻っていてくれ」
『はいです』
そうか、はは、志郎が…。俺は端末を操作して、TELをする。
『もしもし、和人か?』
「帰ったらお前をツブス!」
『え゛っ!?』
それだけ告げて通話を切る。はっはっはっ、帰ったらALOで相手してやらないとな…。
そこで部屋の扉が開き、明日奈が戻ってきた。
「おかえり、明日奈」
「た、ただいま///? か、かずとくん///? な、なんだか、笑顔が…///」
「俺はどうもしないぞ?」
「嘘だ///!」と、彼女は心の中で叫んでいるだろうが、そんなものは知らん。
俺は扉の前に立ち止まっている明日奈に歩み寄り、
彼女の顔の両隣に自身の手を置き、そのまま明日奈の耳元に口を近づける。
「ベッドに行こうか?」
「にゃっ、きゃあっ/////////!?」
そう言ってから彼女をお姫様抱っこでベッドまで運んで下ろす。
「ユイ。俺と明日奈はそろそろ寝るから、また明日な」
『わかりました。おやすみなさい、パパ、ママ』
「おやすみ、ユイ」
「おやすみなさい、ユイちゃん………じゃなくて待ってぇっ//////!?」
明日奈は助けを求めるも、既にユイは離脱している。
顔を真っ赤にしながらカタカタと震える明日奈はまるで生まれたての小鹿のようでさらに可愛い。
そして作者に言わせてもらえなかったアレをやらせていただいた(笑)
3日はゆっくりと行ける範囲で京都観光をし、4日の午前中には結城一家の皆さんと共に俺は自宅へと帰り着いた。
俺を迎えた家族に、全て上手くいったことを伝えるとかなり喜んでくれた。
なんにせよ、明日奈と婚約者という間柄になれてよかった。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
というわけで、今回はイチャラブ回でした~w
コーヒーで足りましたか?ゴーヤ汁や青汁の方が良かったのでは?…と、思ったりw
和人も明日奈も途中ではっちゃけていますが、気にしないようにw
まぁ最後はいつも通り和人さんが明日奈さんをいただいたのですがね・・・(黒笑)
次回からマザロザ編に突入します。
原作沿いではありますが、オリジナルの話や展開などを盛り込むつもりなので、色々とお楽しみに♪
それでは・・・。
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第15剣になります。
イチャラブ回のつもりです、コーヒーを準備して読むようにw
どうぞ・・・。