#48
紫苑さんや桔梗さん、璃々ちゃんに別れを告げ、荒野を歩く。
「ぜーっ…ぜぇぇっ……」
翠たんから貰った馬に乗り、ゆったりとした旅だ。
「ぜはーっ…ぜはぁ……」
そろそろ妹達にも会いたくなったし、旅用の路銀もたっぷり。
「はぁ゙―っ、ぜはぁ゙ぁあっ……」
店も、喧嘩を売ってきたメッシュヤンキーな女をボコボコにし、ひと通り仕込んで任せてきたので、後顧の憂いもない。
「ぜはーっ、ごほがはっがはっ!」
「さっきからうるせぇぞ、波才ぃっ!」
「べぶちっ!?」
咽た波才に、馬上から適当に物を投げる。鼻の下に当たった。
「うわ、痛そぉ…」
「暴力はダメですよ、一刀さん……」
隣で馬に揺られる詠たん達がそれぞれの感想を漏らす。
「だ、だって、なんでアタイだけ馬じゃないんすか!? 余ってんじゃないすかぁ!」
鼻と口を押さえながら叫ぶ波才。手を離したことで、荷車がゴトッと音を立てて傾いた。
「そりゃアレだ」
「あれ?」
涙目のはっちゃん。加虐心が余計にそそられる。
「そそられないでくらさいっ!」
呂律が回っていない。サド侯爵が目覚めそうだ。
「出オチってやつだな」
「あぅ…」
そんな訳で、場所を移すぜ。
――――長沙。
そんなこんなで第二の故郷へと帰還。何もかもが、みな懐かしい。
「何言ってんすか?」
「なんとなく」
「?」
首を傾げる波才の横で、月ちゃん達も疑問符を浮かべていた。
それはいいとして。
「さて、先に城に行くべきか、店に行くべきか、だが……」
俺としては一刻も早く妹たちに会いたいのだが、店にも城にも妹たちがいる。どちらから先に行こうか迷っちまうな。
「店にしたら?」
そんな事を考えていれば、詠たんが口を開く。
「なんで?」
「食事処の店員が城に行くのは無理でも、城の人間が食事をしに行く事は可能でしょ。少しでも可能性のある方にしてみれば?」
「なるほど。一理ある」
流石は詠たん。軍師なだけある。
「ご褒美に撫で撫でしてやろう」
「別に褒美なんていらないわよ」
憎まれ口を叩きつつも、俺の手を享受する詠たん。
「デレてきたっすね」
「詠ちゃんも素直になったんだね」
「ツン:デレ比はだいたい3:7といったところなのです」
「ん…素直がいちばん……」
「そこっ! 変なこと言わないっ!」
顔を真っ赤にして反論するも、俺の手を振りほどこうとはしない。
「可愛いなぁ、もぅ」
「ふんっ!」
やっぱ詠たんは可愛いなぁ。
そんな訳で、俺たちは『焼鳥・北郷』へとやって来た。
「「「「「…………」」」」」
そして、言葉を失う。
「え…なに、コレ……」
俺の口から出てきた言葉も、この程度だ。
「……ねぇ、一刀」
「………………なに?」
詠たんが話し掛けてきた。その声も、若干震えている。
「なに、この店?」
「……俺にもわかんない」
そう、俺にもわからない。ここにあるべきはずの居酒屋はなりを潜め、『居酒屋』とは形容もできない建物が聳えていた。
「ねね…なんて、読む?」
字が苦手な恋たんが、ねねたんに問いかける。ねねたんも目を丸く見開いたまま、答えた。
「『
「……?」
可愛らしく首を傾げる恋たん。俺だってそんな風に現実逃避したいよ。
「マジで……なに、コレ?」
果たしてそこにあったのは、ねねたんが答えた通り、『侍女喫茶・
「へぅ…『北郷』と書かれているってことは、一刀さんのお店なんですよ、ね?」
「そうだと思う。場所も間違っちゃないし……」
月たんも、初めて見るタイプの店に戸惑いを隠せないでいた。
「と、とりあえず入ってみれば分かるんじゃない? アンタの妹がいるかどうか」
「お、おぅ。そうだな……」
詠たんに促され、俺は扉に手を掛けた。
ガラッ。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
出迎えたのは、スミレ色をした髪の、眼鏡少女。営業用のスマイルはいつもの通りだが、その服装が違った。
「今日はお帰りになるのが早いんですね」
どうやって考え出したのか、黒を基調とし、白エプロンで暗さを隠したミニスカメイド服。無駄にフリフリしていて、胸元の紅いリボンがアクセントとなり、人和の大人しさを隠すだけでなく、可愛らしさを全面に押し出した仕上がりになっている。
「連絡がなかったから、まだ何も準備してない――――」
そこで、ようやく彼女も開店前の来客が俺だという事に気づいたらしい。
「にい、さん…?」
「あ、あぁ……」
驚きに目を見開いた人和と同様に眼を見開いたままの俺。ただし、その驚きの理由は異なる。
そんな俺を他所に、人和は振り返り声を荒げた。
「姉さん達! 兄さんが帰ってきたわよ!」
「えっ、お兄ちゃん!?」
「アニキが帰ってきたの!?」
「天和…地和……」
三女の呼び声に、厨房から天和、奥の扉から地和が飛び出してきた。服装は言わずもがな――細かい違いはあるものの――三女と同じである。
「おにーちゃーーーーんっ!」
「アニキーーーっ!」
「兄さんっ!」
抱き着いてくる妹達を抱き締めながら、俺の頭は混乱に満ちていた。
何故、妹たちがメイド服なんかを着ている?
何故、居酒屋から喫茶店に変わっている?
何故、こんな水商売みたいな店になっている?
何故――――。
そして、出て来た言葉が。
「妹たちが……」
「お兄ちゃん?」
「アニキ?」
「どうしたの、兄さん?」
相変わらずの可愛らしい瞳で見上げてくる妹たちに目もくれず。
「妹たちが、グレちまったぁぁあああああああああああああああっ!!」
俺は現実から逃避するために駆け出すのだった。
あとがき
そんなこんなで、#48。
ようやく長沙まで帰ってきた一刀くん。
妹たちに何があったのか。
新たな妹の出現に、旧妹sはどうするのか。
そんなこんなでまた次回。
バイバイ。
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おひさです。
10話ずつ章立てしていると、後半になるほど文字数が減っていく現実。
いや、20代まではそんなことなかったんすけどね?
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