ギルドの人間は基本的に社会不適合者が多い。力を持て余したヤツらが居場所を求めて集まるからだ。中には生粋の強者もいる。俺は前者に当てはまるが、師匠に会えたことで力への下らない執着から抜け出すことができた、と思いたい。というか、師匠自体が人間とは思えないバケモノだ。アレを感じてしまったら、それまでの自分がどれだけ小さい存在だったか分かる。
力が欲しくないとは言わないが、それはあくまで己を高めるためのモノだ。
「エリシル、同じモノをダブルで」
「はいはい」
カウンターに座る俺の後ろを通りかかったエリシルに声を掛けた。彼女は俺がここに初めて来た頃には、既に給仕として働いていた。30を過ぎてはい るが、その柔らかい物腰と、記憶にすら無い母の姿を意識させる雰囲気は、荒んだギルドの連中にも一種の清涼剤として受け入れられていた。ここヴァルハラは、この町で最も大きな酒場であると同時に、ギルドの連中の溜まり場でもある。訪れる人間のほとんどがギルドメンバーであることを考えれば、この店にとってギルド自体が生命線だともいえるだろう。
かく言う俺も自身のレベルが50を超えた頃から通っている。その頃はまだ上級の吸血鬼はおろか、中級の吸血鬼相手にすら戦えるほどの力は無かったため、気の合ったメンバーとパーティを組んで狩りを繰り返していた。若気の至りだな。
その頃のメンバーはもう、俺を除いて皆天に召されたらしい。殺し合うことでしか生きることのできない人種だ。それを覚悟してのことでもある。が、やはり寂しさを感じることがある。
生き急いでいた俺を、言葉は無くとも受け入れてくれたエリシルには頭が上がらない。
「ほら、ローゼスブラックだよ」
「ありがとよ。なぁ、エリシル」
「何さ?」
「最近ギルドの方で焦臭い動きがある。気をつけてくれ」
「ふーん。あんたがそんな弱気なんて珍しいじゃないか」
「違う。俺はあんたを」
「はいはい。君子危うきに近寄らずってね」
茶化すように言ったエリシルは、他の客の声に答えて遠ざかっていった。
「なぁ、マスター」
「何だ」
「あんたが護ってやれよ」
「彼女とてギルドメンバーの一人だ。その程度の覚悟はしている」
「覚悟の有無じゃねぇんだよ。俺があいつに」
「彼女はそこまで弱くない。お前は彼女の何を見てきた」
言われて、言葉が喉で止まった。
確かに彼女は強い。今では俺の方が遙かにレベルを上げているが、それでも120を超えた力は、並大抵の吸血鬼には負けないし、そこらのクズ共にどうにかできるモノじゃない。
「確かにそうだ。だがな、感情と理性は別物だろ」
若いな、と言いたげに鼻で笑った。
てめぇが老衰していってるだけだろうが。
感情に任せてローゼスを一気に煽り、グラスを置いた。僅かに後悔が過ぎるが、もう知らん。
「置いておく」
カウンターに、財布から1万を放ってマスターに背を向けた。
「足らんぞ、3千」
空気読んでくれ。
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若気の射たり。