No.590664

ゼロの使い魔 ~しんりゅう(神竜)となった男~ 第十七話「翌朝、そして依頼」

光闇雪さん

死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。

第十七話、始まります。

2013-06-24 00:59:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6752   閲覧ユーザー数:6462

朝露に濡れた感触と馬の鳴き声で目を覚ました。

薄目を開けて視線を向けると、朝もやの中に人影があった。

 

(あれはルイズ達か? ・・・・・・ああ。そう言えばアンリ嬢の依頼でアルビオンへと向かうんだったっけ・・・・・・)

 

(あか)のゼロ魔談議に出てくる話のアルビオン編を思い出した。

『アンリ嬢の依頼により、アルビオンへと向かうことになったルイズと才人、ついでにギーシュ』で始まるアルビオン編は、何回も、何十回も、何百回も訊かされたため――正直、途中から聞き流していたが――この後の顛末も同時に理解できた。

 

(う~ん。正直、ウェールズがどうなろうと知ったこっちゃないんだんだが・・・・・・、ギーシュが一緒についていくらしいし、そうなるとうちの素直じゃない主様に頼まれる気がしないでもないワケで、更に言えば昨日の事件のようなことが起きるかもしれんし・・・・・・、いや、だが―――)

 

あれこれと考えた末、俺は後についていくことはせず、アンリ嬢が城に帰るまで隠れていることにした。

俺がついていくことで昨日のような原作とは違うことが起きる確率が高くなる気がしたからだ。

 

ただ、素直じゃない心配性のモンモンに、ギーシュのことがバレると頼まれてしまう可能性があるので、否応なしに巻き込まれてしまう気もしないでもない。

まぁ、それはそれで諦めがつくというものなんだが・・・・・・。

 

「はぁ~。一眠りしておくか・・・・・・」

 

欠伸をしながら呟いた俺は、“レムオル”の呪文を重ねがけして眠りについた。

ルイズ達がいた場所から馬の蹄の音が聞こえてきたのは、その直後だった。

 

 

**********

 

アンリエッタは出発するルイズ達一行を学院長室の窓から見つめていた。

目を閉じ、手を組んで祈る。

 

「彼女たちに、加護をお与えください。始祖ブリミルよ・・・・・・」

 

その隣では、オスマンが鼻毛を抜いている。

アンリエッタは、振り向いてオスマンを見つめた。

 

「見送らないのですか? オールド・オスマン」

「ほほ、姫、見てのとおり、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」

 

アンリエッタは首を振った。

その時、扉がどんどんと叩かれた。

『入りなさい』とオスマンが呟くと、慌てた様子のコルベールが飛び込んできた。

 

「いいいい、一大事ですぞ! オールド・オスマン!」

「君はいつでも一大事ではないか。どうも君はあわてんぼでいかん」

「慌てますよ! 昨日の件の処理がまだ終わっていないというのに、また厄介なことが起きたのですぞ! 城からの知らせです! なんと! チェルノボーグの牢獄から、フーケが脱獄したそうです!」

「ふむ・・・・・・」

 

オスマンは、口ひげを(ひね)りながらうなった。

 

「門番の話では、さる貴族を名乗る怪しい人物に“風”の魔法で気絶させられたそうです! 魔法衛士隊が、王女のお供で出払っている隙に、何者かが脱獄の手引きをしたのですぞ! つまり、城下に裏切り者がいるということです! これが大事でなくてなんなのですか!」

 

アンリエッタの顔が蒼白になる。

しかし、オスマンはいつもの声色で、扉を指差しながらコルベールに退室を促した。

 

「分かった分かった。その件については、あとで訊こうではないか」

 

コルベールが渋々退室すると、アンリエッタは机に手をついて、ため息をついた。

 

「城下に裏切り者が! 間違いありません。アルビオン貴族の暗躍ですわ!」

「そうかもしれませんな。あいだっ!」

 

オスマンは肩に乗ってきたモートソグニルに白髪を一本抜きとられながら言った。

その様子を、アンリエッタは呆れ顔で見つめた。

 

「トリステインの未来がかかっているのですよ。なぜ、そのような余裕の態度を・・・・・・」

「すでに杖は振られたのですぞ。我々にできることは、待つことだけ。違いますかな?」

 

モートソグニルを肩から机に移したオスマンは、態度を崩さずにアンリエッタに告げる。

そして白髪を(くわ)えたまま穴にひっこむモートソグニルを見つめたまま呟いた。

 

「なぁに、あの者(・・・・・・)ならば、道中どんな困難があろうとも、守ってくれますじゃろ」

「彼とは? あのギーシュが? それとも、ワルド子爵が?」

 

しまったという顔をしたオスマンだったが、アンリエッタに向き直った時には、もとの表情に戻って首を振った。

 

「ならば、あのルイズの使い魔の少年が? まさか! 彼はただの平民ではありませんか!」

「姫は、始祖ブリミルの伝説をご存知かな?」

「通り一遍(いっぺん)のことなら知っていますが・・・・・・」

 

オスマンはわざとらしくにっこりと笑った。

 

「では“ガンダールヴ”のくだりはご存知か?」

「始祖ブリミルが用いた、最強の使い魔のこと? まさか彼が?」

 

オスマンは内心にやりと笑うと、アンリエッタの考えを否定した。

 

「いえ、そうではないのです。彼は“ガンダールヴ”並みに使えると、そういうことですな。ただ、彼は異世界から来た少年なのです」

「異世界?」

「そうですじゃ。ハルゲニアではない、どこか。“ここ”ではない、どこか。そこからやってきた彼ならばやってくれると、この老いぼれは信じておりますでな。余裕の態度もその所為(せい)なのですじゃ。それに昨日の件の処理もしなければなりませんのでの。彼らに任せるほかありますまい」

「そうですね・・・・・・」

 

アンリエッタは、遠くを見るような目になった。

その少年の唇の感触が、自分のそれに残っている。

アンリエッタは、唇を指でなぞって目をつむると微笑んだ。

 

「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」

(ふぅ。うまく誤魔化(ごまか)せたかはともかく、とりあえずは良かったわい・・・・・・。じゃが、これであの者(・・・・・・)が表舞台にたつことになってしまう可能性がある。本当は隠し通したかったのじゃが、今はそう言ってられない状況じゃ。さて、この決断がトリステイン王国にとって正となるか負となるか・・・・・・)

 

アンリエッタの後ろ姿を見守りつつ、オスマンは、今、身を隠しているであろうある者のことを考えていた。

そして己の行動が、この先のトリステイン王国の未来、ないしはハルゲニアの未来の平穏につながることを口ひげを擦りながら祈るのだった。

 

 

**********

 

「ねぇ、シェン。ギーシュがどこいったのか知りませんか?」

≪知らないな≫

「そうですか・・・・・・。あ、私は別にギーシュを探しているわけじゃありませんよ。ちょ、ちょっと気になっただけなんですから」

 

二度寝を開始してから三時間ぐらいが経った。

この一時間前ぐらいから、俺は眠りながらもモンモンの相手をしていた。

寝床である木の周りをぐるぐる回っていたモンモンを見兼ねて声をかけてしまったのだが、この調子で同じ質問を繰り返している。

正直、もう訊き飽きてしまった。

 

「ねぇ、シェン。ギーシュが(主)な、なんですか?」

≪その質問は、今ので六十五回目だ。(う・・・・・・っ)用があるのだろう? いい加減話を進めてくれぬか?≫

 

俺は薄目を開け、はたから木陰で休んでいるように見えるように座っているモンモンを確認した。

そして同じ質問をもう一回繰り返そうとした時、途中で遮ってその先を促した。

モンモンは数秒、黙り込んでいたが、意を決したのか用件を話しだした。

 

「ギ、ギーシュが今何をしているのか探ってきてほしいんです。べ、べべ別にギーシュが他の女と仲良くしてたらギッタンギッタンにしてやるとは思っていませんよ。た、ただ昨日優しくしてくれたお礼を言いたかったのに、どこを探してもいないから・・・・・・、また悪い癖が出たのかと思って。ギーシュったら、私が好きだと言っておきながら―――」

 

用件ではなく愚痴(ぐち)になってきたモンモンの話を聞き流しながら、俺はこれからの行動を考えていく。

 

(ギーシュの居場所は分からないが、向かっている場所は分かる。ここでモンモンにそれを伝えると、百パーセント理由を訊かれる。理由は分からないと(とぼ)ければいいが、モンモンのことだからギーシュの監視を頼むのは間違いない。正直、面倒だ。ここは探すふりをして、見つからなかった報告するのが無難か・・・・・・、いや、それだと――)

「旦那!! 探しやしたぜ!」

「ん?」

 

その時、俺を呼ぶ声が訊こえた。

視線を向けると、一枚の手紙のようなものを咥えた(ねずみ)がいた。

 

「(違う方向を向いているのは無視。えっと、こいつは確か・・・・・・)じじぃの使い魔が何の用だ?」

「はっ! はい! 主人から手紙を預かっておりやす」

「手紙? 〔ドラゴラム〕」

 

俺は“ドラゴラム”の呪文を唱えて人になると、器用に(しゃべ)る鼠から手紙を受け取った。

その手紙を広げると、こう書かれてあった。

 

≪≪フーケが何者かの手を借りて脱獄したとの報告あり。ミス・ヴァリエールとその使い魔サイト、及びミスター・グラモンを守ってもらえぬだろうか。心からお願い申し上げる。 オスマン≫≫

 

(この世界の字を当たり前に読めることについては、今は置いておくとして・・・・・・、あの老いぼれじじぃ。貴族どもには利用されたくないと思っているのに、ここぞとばかりに俺を利用するつもりとは、良い度胸だ。だがまぁ、ここで断るという選択肢がない。ちっ。正直、面倒だが、ここはじじぃの言う事を訊いといてやる)

 

俺は手紙を握りつぶして空に放り投げる。そして“メラ”の呪文で燃やすと、驚いているモートソグニルに向き直った。

 

「おい、鼠。じじぃに伝えろ。三人ないしは六人だけは(・・・・・・)守ってやるとな」

「へ、へい! 分かりやした!」

 

モートソグニルは返事をすると、一目散に本塔の手前の穴に入っていった。

 

≪主。盛り上がってるとこ申し訳ないが、ギーシュとやらの居場所が分かったぞ≫

「あなたを殺して、私も・・・・・・え!? それは本当ですか!?」

 

ドラゴラムを解除して神竜に戻った俺は、愚痴をエスカレートさせてヤンデレ化一歩手前まで来ていたモンモンを正気に戻した。

そして我に返った彼女にギーシュの居場所を訊かれたが、それには答えず、ギーシュを監視してこようと伝えた。

 

「本当ですか・・・・・・!? じゃ、じゃお願いし・・・・・・あっ」

≪ふっ。では行ってくる≫

「わ、私は別にギーシュのことなんかなんとも思っていませんよ。ただ、気になっただ――」

 

俺は慌てて言い訳をするモンモンに笑いつつ、空へと飛びあがってアルビオンへと向かった。


 
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