第12弾 邂逅
キリトSide
転送されて戻ってきた場所は、転送前と同じテーブル席だった。
他に誰か戻っていないか周囲を見回すが、まだ誰も戻ってきていない。
とりあえずテーブル席の椅子に座り、3分程休憩していたその時、すぐそばに誰かが転送されてきた。
「ふぅ~、あれ? キリトくん」
「おつかれ、アスナ。ここに来たってことは、勝ったみたいだな」
「うん、なんとか。キリトくんもさすがだね、早く戻ってきたみたいだし」
俺は椅子から立ち上り、労うようにアスナの頭を優しく撫でる。
嬉しそうに表情を緩めた彼女だったが、すぐにムッとした顔になった。
「なんだか、子供扱いされてる気がするんだけど…」
「気のせいだ。それとも、ここでキスの1つでもしてほしいか?」
「えっ、遠慮、します…//////」
不満げなアスナに意地悪く言ってみれば、さすがの彼女も恥ずかしいのか小さな声と紅く染まった頬で返答した。
最後にもう一度頭を撫でてから、彼女の手を引く。
「次の戦闘が始まるまで、他の試合でも見ておこう。ハジメやシノンも応援しないとな」
「そうだね、他の参加者の戦い方も見ておかなくちゃね」
俺達は天上のマルチモニタに映されている戦闘の様子を見る為に、モニタを見やすい場所へと移動した。
モニタを見て他の戦闘と共にシノンの戦闘の様子を発見した。
どうやら彼女は狙撃手らしく、一際大きなライフルを構えて戦闘を行っていた。
俺もアスナも彼女の戦いに集中している、シノンは強い。
彼女が『死銃』であると決まった訳ではないが、それでも戦いを勝ち抜き、
なおかつ『死銃』であった時は戦わねばならないから…。
「シノン、凄いね…」
「そうだな…」
アスナが感嘆の息を漏らしながら呟いたので同意し、一応他の試合も見ておこうと思った瞬間…!
―――ゾクッ!
「っ!……なん、だ…?」
やけに濃厚な殺意と謂い様もない感覚が俺を襲った。
キリトSide Out
ハジメSide
バトルフィールドから戻ってきた私は、転送前と同じテーブル席付近にいる。
キリトやアスナの姿が見当たらず、まだ戦闘を続けているかと思ったが…それはないと考えた。
あの2人は剣士だ、勝利したのならばかなりの早さで決着していてもおかしくはない。
ならば次の戦闘に行ったか、或いはどこかで休憩しているのかもしれない。
折角のなのでマルチモニタに映されている戦闘の様子でも見ようかと思った……その時だった。
―――ゾクッ!
一際濃厚な殺意と嫌な感覚が意識の中を駆け抜けた。
それに従うようにすぐさま四方を確認し、何処から感じたものかを探り、発生源を見つけた。
全身をボロボロに千切れかかったダークグレーのマントで覆い、
目深に下ろしたフードの中は漆黒に染まり、僅かに光る赤い眼のみ。
こちらに向けて歩いてくる、間違いなくコイツが先程の感覚の発生源だ。
「おまえ、本物、か?」
私の目の前にまで近づき、そう一言放った。
赤い眼が見えたフードの中の漆黒、そこには顔全体を覆う黒いゴーグルがあり、そのレンズが赤く光っているようだ。
だがそのゴーグル…いや、ほとんどマスクと言っても過言ではないそれは不気味とし謂い様がない。
それに声を聴いて分かったが、何かしらのボイス・エフェクターを使用しているようだ。
「……それは、どういう意味だ? お前こそ、誰なんだ?」
警戒を解かずに聞き返す。しかしコイツは名を名乗るでもなく、倍音の混ざる不快な声で話しを続けてきた。
「試合を、見たぞ。剣を、使ったな」
「……確かに使ったが、別に違反ではないだろ…」
アミュスフィアは感情を正直に再現するが、別段動揺などするはずもない。
いままで、幾人もの敵と戦ってきた…殺意に流されるようでは『嘆きの狩人』は務まらない。
灰色マントは私の顔に自身の顔を近づける。
「もう一度、訊く。お前は、本物、か?」
私は、自身の脳裏にある感覚が過ぎったのを感じた。私は……この者に遭った事がある!
GGOに来て会ったのはアバター・バイヤーの男、装備を渡してくれたTOKKOU、案内をしてくれたシノン、
彼女の友人であるシュピーゲル、だがこの4人ではない事は間違いない。
ならばALOか、それとも現実世界か…正直、恨みを買っている節がありすぎて何も言えないが…。
もう1つ、可能性はある……だがそれは一番考えたくないものだ。
そこで灰色マントは右手でメニューをだし、トーナメント表を表示し、Fブロックをアップさせた。
そこには左に『餓丸』、右に『Hazime』という私の名前、そこに自身の指をなぞらえてからこう言った。
「この、名前、さらに、あの、剣捌き……、お前、本物、なのか?」
ああ、間違いない、この言葉で分かった……奴は、『
私のキャラクターネームである『Hazime』の出自を知り、餓丸を倒すのに使った銃剣による
弾丸斬りという剣捌き、それらを見て『本物』かと訊くという事は紛れもなく生還者である証。
別に生還者だからといってGGOをしてはいけないという事もない為、焦りはない。
むしろ心は冷静さを辿る一方、自分でも分かる……コイツは、旧交を温めるような相手ではないからだ。
故に、心は常に臨戦態勢を取っている。そして灰色マントがトーナメント表を消す為に腕を動かした瞬間、
ある1つの箇所に刻まれた
「質問の、意味が、解らないか?」
そう、だからこそ、このままではいけない…。
「ああ、解らないな。本物って、どんな意味なんだ?
というか、お前こそ誰なんだよ? 俺はお前に覚えがないんだけど…」
「………」
私の口調、雰囲気の変化に驚いているのか、はたまた訝しんでいるのか、或いは両方か。
どのみち困惑しているのは間違いないが、それはそうだろうな。なんせ、これが本来の
「っで? まだなんか聞くのか?」
「………いや、もう、いい…。だが、名前を、騙った、偽物か……、本物、ならば…」
言葉を言い終わらない内に身を翻し、しかし確かな声で言い放った。
「……いつか、殺す…」
「おもしれぇ。お前も大会参加者なら、本大会で倒してやるよ」
「………ふっ」
最後に鼻で笑い、そのままこの場から去っていった。音も無なく遠ざかっていってから、消滅した…まるで、
「……ふぅ~、自分で考えておいて難だが、幽霊とは的を得ているな。ラフコフの残党…」
奴の腕に刻まれていたもの、それはSAO史上最悪の
『
かのギルドの討伐戦においてはキリトだけでなく、アスナ、さらには黒衣衆も参戦した。
キリトは2名、私とハクヤとヴァルは1名ずつ殺し、狩人として何人もの命も奪った。
あの様はまさに亡霊、俺達が殺した奴らの残留思念がシステム的なものを通して現れたか?
などとも考えてみるが、やはり残党だろう。
「……奴が、『死銃』なのだろうな…」
あの感覚、それは間違いないはず。
問題は奴があのままの姿で戦場に現れるかどうかであり、まずそれはありえないだろう。
キリトが立ち会っていれば看破出来たと思うが、奴のあの様子を見るに、
キリトとアスナにはまだ気付いていないとみえる。
出来るだけアスナの存在は隠しておきたい、キリトもそう考えるだろうな。
「……それにしても、あの口調は……まさかとは、思いたいが…」
PoHではない、奴の口調はマシンガンのように激しく扇動的だった。
ジョニー・ブラックでもない、奴は子供のように無邪気な口調かつ残忍だった。
ならば、あと1人の幹部……SAOクリアまでの間、討伐戦から牢獄へと捕らえられていた男…。
「……『赤眼のザザ』…」
奴の可能性が一番高い。勿論、残党の奴らが幹部を語っている可能性もある。
最悪、奴らと再び相まみえる事を考えておかないといけないな…。
「ハジメ、どうかしたの?」
「……ん、シノンか。なに、少し考え事をしていた…」
戦闘を終えたのだろうシノンがこちらに歩み寄ってきた。
シュピーゲルも共に居り、私が一礼すると慌てたように礼を返してきた。
「……お互い、1回戦は突破出来たな」
「私よりも早かったくせによく言うわね…」
「……まぁ、運が良かったというところだ」
そんな風に会話をしていると、私の身体を光が包み始めた。どうやら2回戦が始まるようだ。
「……ではまた」
「ええ」
短く言葉を交わし、私は新たなバトルフィールドへと転送された。
ハジメSide Out
To be continued……
後書きです。
ついに奴と邂逅する事になりました、しかもキリトではなくハジメが、です。
まぁ因縁の相手ですかね(苦笑)
しかもハジメ、『赤眼のザザ』であることを予測していますw
原作のキリトやアスナは本能的に、幹部連中の事を記憶の片隅に忘れようとしていましたが、
この小説ではキリトもハジメも忘れようとするどころか、覚えていようとしていますからね。
正体を看破したわけではありませんが、こうだろうと考えているということです。
次回は早くもEブロック決勝戦、キリトVSアスナになります。
それでは・・・。
あ、それと最後に1つだけ・・・明日は用事があって投稿できないかもしれませんのでご了承ください。
あくまで「かも」なので、もしかしたら夜に投稿するかもしれませんがw
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第12弾です。
ついに奴との接触、果たしてどうなるか・・・。
どうぞ・・・。