No.587528 超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第十六話ME-GAさん 2013-06-15 17:14:03 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2353 閲覧ユーザー数:2185 |
あちらこちらにこれ見よがしに立てられている煙突の数々。
バラボラ型の恐らく太陽光発電のパネルと思しきものが幾つも間隔を開けて立てられている。
流石は工業大国、とでも言うべきか。
ラグーンシティの街並みとは比にもならないほどに工場やら何やらが建築されているラステイションの中央部はどこかゴテゴテしい印象も与えられた。
故に、あまり女の子が食いつきそうなイメージではないのだが少年、キラの傍らにいる少女、ネプギアは瞳を爛々と輝かせてその景色を見回していた。
「嗚呼……夢の街ラステイション……! 今なら私幸福で死ねる!」
「死ぬな」
他の大陸の女神(候補生)が他の大陸に憧れるのはどうかと思うのだがキラは突っ込んだら負けな気がしたので敢えてそれに関してはコメントは控えた。
さて、まあラステイションの中央に到着したはよいがぶっちゃけたところ、この2人にも何をしたらいいのかはよく分からなかった。
どうしたものか、と後頭部を掻きながらキラが嘆息してスッと周囲を見回す。
その途中で、キラはピタリと視線を一点に射止めた。
視界の端でネプギアがきゃあきゃあと機械仕掛けの街並みに歓喜していたが、その事ではない。ただ一点、どうも不可解な空間――いや不可解な群衆が我が物顔で大きめの通りを横断してきていたのだ。
「……?」
眉を寄せてキラはその一団を凝視した。
それは、真っ黒なスーツとサングラスを身に纏い機能的な外見にセッティングされた、言うなればSPのような、どこか無機質な印象を周囲に撒き散らしている女性達の集団だった。
そういえば以前に見たことがある、とキラは口元に手を当ててそれを見る。どこだったかと記憶を探っている間にもズンズンと彼女たちの集団はキラ達に向けて距離を縮めてきていた。
通行の邪魔かとキラがスッとネプギアを促して道の端に寄るが、まるでその女性達は二人を追いかけるようにその軌道を変更してきた。
「キラ、あの人達何かな?」
「……分からん」
ネプギアは不思議そうな表情を向けてそう問うてきたが、頬に冷や汗を垂らしてキラは有耶無耶にそう答えた。
そんなやりとりをしている間に二人と彼女らの距離は4、5m程になっていた。
ふと、キラはその妙な靄が晴れたような――キラの脳味噌に幾つもの弦が張り巡らされていたとしよう。だとすればその弦がいきなり弾かれたような感覚に陥った。
見覚えがあったのはほんの数日前。
プラネテューヌでネプギアと共に初クエストに発った日の午後にプラネテューヌの教会にいた教会お抱えのSpの女性達と外見があまりに酷似していた。
――だとすれば、教会関連だろうか。
しかし、キラはそれは無いかと首を振る。何故なら、いまこの状況の中でネプギアや自分の正体を知っている者は誰もいないはずなのである。
それもそのはず、ネプギアはこの姿ならどこにでもいる至って普通の少女だ。これだけで女神だと判別できるはずもない。
だとすれば、何だろうか。そんなことを思いながら女性達を一睨みする。
ピタリと女性達がちょうど二人の1m程手前で立ち止まった。
正面に立っている女性がやや後方にいるもう一人の女性と何やらボソボソと会話をしている。
それからスッとその一団が割け、その中心にいた『少女』が颯爽とその集団から抜け出て二人の前に立つ。
それからフッと柔らかな笑みを浮かべて右手をスッと差し出した。
「やぁ……初めまして、だろうね」
恐らく少女だろう。
黒い燕尾服のような、それでいてスーツのようなどっちともつかない衣装に短パンを拵えて、切りそろえられたショートカットがどうにも少年ぽさを醸し出していた。
そんな少女が、呆然とするキラとネプギアを差し置いて淡々と話を続ける。
「自己紹介がまだだったね。僕はこのラステイションの教祖をやっている『神宮寺ケイ』だ」
ハッとなってキラは姿勢を整えてから口を開く。
「えっと、俺はキラと言います。実は――」
「大体のことは分かっているよ。長話はくつろぎながらでもしようか?」
ケイはフッと小さく微笑むと周囲の女性達に何事かを指示した後に颯爽と踵を帰して、恐らく教会に向かうのだろう。灰色の建造物を背景にスタスタと先行していってしまう。
どうにも腑に落ちない感じになっていたキラが嘆息してネプギアに声を掛ける。
「……どう思う?」
「……悪い人じゃないとは思うんだけど」
ネプギアは苦笑して、キラの言葉にそう返す。
直後、ザッと二人の周りを先程のSPの女性達が囲う。
何事だとキラとネプギアが揃って眉をしかめるといきなりその女性達が御神輿よろしく二人の身体を担ぎ上げた。
もちろん、街中でそんなことをしているわけで二人は注目の的であったが。
「な――ッ!?」
「ちょ、ちょ――!」
ロクに状況を分析できることもなく二人はSP達の手によって強制的に連行されていくことになるのである。
「ま、前にもあったぞこんなこと―――――――ッ!!」
キラの言葉はラステイションの空に霧散していくわけではあったが。
☆ ☆ ☆
「お楽しみ頂けたかな?」
「ええ、まったく……」
キラは肩で息をしながら皮肉めいた口調で、涼しい顔をして椅子に腰掛けているケイにそう言い放った。
そんな様子をクスクスと面白いものを見るように(実際のところ第三者であれば結構面白い状況ではあると思うのだが)ケイは小さく笑みを零してからニヤリと笑った。
「まあ、プラネテューヌの女神候補生とその従者のお出迎えとしては少々こぢんまりとしてしまってはいたと思うけどね」
「……私の正体のことはご存知なんですか?」
ネプギアが小さく首を傾げる。
ケイは小さく首を縦に振ってから自分の正面の椅子に腰掛けるように促した。
二人は互いに見合った後、そっとその椅子に腰を落とした。
「まあ、とある筋でごく最近に入れた情報だったからね。準備の方も間に合わなかったんだよ」
ヤバイ筋じゃないだろうな、とキラは半眼になってケイを見る。
旅に出る直前にイストワールやアイエフから各国の現状や教祖達のことについて幾つかの情報を得ていたキラであったがこの神宮寺ケイという少女、聞いた話では随分なビジネス精神を持っているとのことらしかった。
それならばそういった類の筋と幾つかの関わりがあってもおかしくはないだろうと思うのだが口に出せるような場面ではない。
「では、私達についての情報も幾つかは入手していると言うことでしょうか?」
「まあね、君達がこうしてプラネテューヌを出て何をしようとしているのかということくらいは概ね把握しているよ」
余裕のような、まるでその質問をすること自体を分かっていたとでも言う風にケイはそう答えた。
足を組んで机上に両手を絡ませてその上に顎を乗せる形になってケイは不敵に笑う。
その様子に、まるで心の芯まで見透かされてしまうのではないかという観念に駆られながらもキラは発言する。
「それならば話は早いです。神宮寺さん、俺達にラステイションのゲイムキャラの居場所を教えてくれませんか?」
キラの質問に、しかしケイは笑みを含んだ表情を険しくさせて吐息するような小さな声を漏らした。
「……答えはNOだね」
「「えぇッ!?」」
ケイの言葉に二人は驚愕した。
一瞬、呆気にとられて絶句する。それからネプギアがおずおずと小さな声でそれに対しての言葉を吐く。
「えっと……、どうしてですか?」
「ギブアンドテイク、って知っているかい?」
「……情報を得たいのならそれ相応のものを差し出せってことですか?」
キラの言葉にケイはニッコリと微笑んでから拍手をする。
「正解。等価交換とも言えるね」
「オレ達に貴女が満足するような情報はないと思いますが?」
「別に情報に対して情報を差し出さなければならないというルールはないよ。とにかくこちらに利益の出ることであれば相応の情報を渡そうじゃないか」
それに、とケイは言葉を付け加える。
「ネプギアさんにはギョウカイ墓場で見た情報がある。僕はそれも聞きたいと思っているんだけど……どうかな?」
急な話を振られたこと、そして自身のトラウマである『ギョウカイ墓場』でのことを問われたことに対してネプギアの身体が大きく跳ね上がった。
「その……えと……」
「ギブアンドテイク、ですよ」
キラが頬杖を突いてから皮肉っぽくそう言った。
少し面食らったような表情になってからケイがクスリと小さく笑みを零す。
「そうだね、ではこちらから条件を指定しよう。君達には『宝玉』と『血昌』と呼ばれる素材を収集して欲しいんだ」
「待ってくださいよ……それってどっちもレアもの素材じゃないですか?」
「君達が欲している情報の価値に値を付けるとすればこの程度じゃないのかな? まだ異論があるのならこの交渉は無かったことにしてもいいけれど」
その、情のいっさいも見受けられないケイの態度にキラとネプギアはグッと言葉を詰まらせる。
およそ、守護女神の変わりのその土地を守護する者達の在処など闇雲に探し出せるものではない。やはり教祖の力を仰ぐのが一番ではあるのだろうが……。
キラはくしゃくしゃと頭を掻きむしってからチラと傍らのネプギアに視線を向けてから口を開いた。
「どう思う?」
「ん……、やっぱりケイさんに居場所を聞くのが確実だとは思うんだよね……」
「だよな……」
キラは嘆息して肩をすくめる。
それからニヤニヤと笑みを浮かべるケイの方に視線を戻してからやや呆れ気味に口を開く。
「分かりました……。その条件、呑みます」
「君達ならそう言ってくれると思っていたよ。……不安なら証書でも作っておくかい?」
「いえ……お互いに知りたい情報があるのは確かですから、それを破談させるようなことは貴女はしないのでは?」
「それもそうだね。期限はどうこう言うつもりはないから、ゆったりとこの事案に取り組んで貰って結構だよ」
果たして本当なのだろうか、キラは怪訝な表情でケイを見るがいまいち真の表情が読み取れないと眉をひそめる。
面倒な女性だなとキラが再び大きな溜息を吐いてからゆっくりと椅子から腰を持ち上げた。
それに続くようにネプギアも腰を上げて軽くケイに対して会釈してから教会の扉を押し開けて去って行った。
「こんな感じで、よかったのかな?」
含み笑いを浮かべながら、視線だけを背後のカーテンで仕切られた空間に向かってケイは言葉を放った。
「……」
その人物は、その問いには言葉を発することなくただ無言で小さく首肯をするのみであった。
それからくるんと椅子を回転させてケイは続ける。
「しかし、いくら何でもこの条件は厳しすぎたんじゃないのかな? どう考えても彼女たちが求める情報とは不釣り合いだよ?」
やはりこの辺りもビジネス精神というか、そこら辺はやはりしっかりとした商人であることが伺えたのではあるのだがしかしケイは肩をすくめてその人物に問い掛ける。
「そこまでして、あの二人にゲイムキャラの居場所を知られたくないのかな?」
ケイの問いに、人物は小さく首を横に振る。
「なら、いったいどうしてだい?」
暫く、そんな無言の時間が流れる。
それから、人物はカシャンと小さな金属音を発生させて身体の向きを変えてから唇を上下させた。
「女神を救出させるわけにはいかないからな」
不可解な言葉に、ケイは眉を寄せてからフッと吐息してから唇を動かす。
「どうしてだい?」
やはり、教祖か。守護女神を救出させるわけにはいかないなどというアンチじみた言葉には敏感らしかった。
「知らなくても、いいことだ――」
闇色のコートの隙間から零れる、神秘的な銀髪が窓から覗く日光を淡く弾いてふわりと揺れていた。
☆ ☆ ☆
「どーっすっかなー……」
キラは深い溜息を吐きつつ、後頭部をくしゃくしゃと掻いて行き詰まったようにそう愚痴を零した。
教会を出て暫く先を行ったホテル、その一室でキラはソファに腰を落としてからそんな言葉を呟いていた。
無論、この言葉には様々な意味が含まれていることは明確である。
一つは、先程教会で教祖であるケイに出されたゲイムキャラとの対面のための素材である『宝玉』と『血昌』を探し出すこと。
この二つの素材、レア中のレア素材でキラとしてもお目に掛かったことはなく、せいぜい小耳に挟んだことのある程度のものだ。これを探すとなると相当な時間がいる。
そしてもう一つは……。
「ん?」
キラが半ば呆れ気味に視線を送る。
それを向けられた少女はきょとんとした表情と共にその顔をこくんと傾かせて、まるでどこにおかしな状況があるのだと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。
「な・ん・で! 俺とお前で同室なんだよ!!」
バン、と目の前のテーブルに両手をついてから叫んだ。
そう、ネプギアとキラは現在、このホテルの一室に二人仲良く滞在することになったわけである。もちろんながらそれがキラの悩みの種のもう一つであるのだが。
「だって、イースンさんから貰った金子も少ないし」
「ぐ……」
そう言われるとキラは言葉を詰まらせる。
別にイストワールから貰った軍資金も少ないわけではなく、寧ろ二人で旅をするにはあまりに膨大すぎる金額だ。
しかし何事も無限ではなく、それこそ金は有限だ。だからこそ限られた範囲で少しでも節約していかなければならないことは重々承知の上だったのだがそれでも何か腑に落ちないものを感じてキラは口を開く。
「だからって年頃の男女が同部屋っつーのもさぁ……」
「でもプラネテューヌでだって私はキラの家にいたし」
「……」
そう言われると返す言葉もなかった。
先程よりも大きく更に深い溜息を吐いてどっかりとキラはソファにもう一度腰を落とす。
お会いしたことは一度たりとも無いが、この娘の姉であるパープルハートは失礼ではあるが随分と常識を逸脱した御方らしい。この娘の教育を間違えていやしないかと少しばかり自分の国の行く末が心配になったキラではあるが、ともかくそんな些細な問題は後回しだと首をフルフルと振った。
それからコンコンとテーブルを叩いてネプギアの顔をこちらに向けさせる。スッと自分の目の前にソファを指して座るように促す。
彼女が腰掛けるのを見届けてからキラは重々しく口を開いた。
「んで、これからの方針はどうする?」
「んー、どうしようかなぁ……」
ネプギアは顎に手をやってから思案顔になる。
しかし、当然の如くネプギアもキラと同時にこの街に来たばかりで事情などはまるで知らないのだ。こんなことを聞くのもおかしい話かとキラはフッと盛大な溜息を吐いてからソファに体重を預ける。
「ともかくはギルドでクエストをこなしつつ、宝玉と血昌の情報を集めていくくらいしかできない、か……」
半ば諦めムードでキラはそう言った。
それに同意するようにネプギアもこくこくと首を縦に振っていた。
それから、更に数時間後。
旅の疲れや、ようやく立派なホテルに宿泊することが出来たという安心感があるせいか、二人の疲労はマックスまで滲み出ていた。
高級レストランで出されるような涎の零れる料理の数々を腹一杯に堪能した後にキラはバフッとベッドに倒れるように寝転がった。
「ハァ……疲れたな」
知らずの内にキラの口からそんな言葉が漏れる。
現在、どういうワケかその一室はキラ一人だけの空間に成り上がっている。ネプギアは一体どこに行ったのだろうかと一瞬思考したキラであったが、女性にも色々と事情はあるだろうし、それに常に一緒にいなければならないという決まりもない。きっと一人になりたいのだろうと結論づけてキラはあまり深くは追求しなかった。
天井の模様を何気なく眺めながら、キラはふと眉をしかめる。
「なんだ、この臭い……」
汗くさいというか、何というかとにかく不快感を煽る臭いがキラの鼻孔を突いた。
そしてそれはごくごく身近から発せられていることに気付くのにも時間は掛からなかった。
そっと、自分の身に纏っているコートを鼻に近づけて臭いを嗅いでみる。
「くさ……」
キラはより一層に眉をしかめた。
そう言えばここ数日、ロクに洗濯もしていなかったと今更ながらに思い出したのである。
流石にコレではみっともないし、周囲に迷惑が掛かる。
「洗っておくか……。あ、ついでに風呂でも入るか」
確か部屋に洗濯機も風呂も備え付けてあったはず、とキラはベッドから身を起こして荷物の中から適当に着替えを取り出してからバスルームの方へと向かう。
特に気にすることもなく、キラはバスルームの扉を押し開ける。
目の前に配置されている洗濯機にコートを放り込んでからスイッチを入れる。その脇の扉のノブに手を掛けてぐるっと回して入室する。
シャツに手を掛けてバッと豪快に脱ぐ。それから脱衣籠にそれを放り込もうと視線を移したときにハタと気付いた。
「これ……服?」
キラの服とはまた別の、これは恐らく女物だろうか。とにかくそれが脱衣籠の中に先に放り込まれていた。
眉を寄せてそれをつまみ上げる。
どこかで見たことのある衣装だとキラは暫くそれを眺める。それからまたスッと脱衣籠に視線を戻すとそこには幾つかの装飾が置かれていた。
黄色のスカーフ、白いホルダー、ピンクと白のニーソックス。
はて、どこか身近で見たことがある気がするとキラが唸る。そしてそれと同時に背後のバスルームで水の弾ける音が聞こえた。
「……!」
ここでキラはようやく事態に気が付いた。
そして、キラが振り向くとのバスルームと脱衣所を隔てる扉が開けられたのはほとんど同時のことであった。
「……ッ!」
「………………きら?」
たった一人で入浴していたのだ。もちろんその姿を隠すものなど存在するはずもない。
幼さを残しながら、一歩大人の女性へと階段を上っている途中である彼女のその発展途上の身体がキラの瞳に鮮明に映し出されたのである。
どうして、ネプギアの姿が見えなかったのか。
それはキラよりも一足先に部屋へと戻り、そして入浴をしていたからである。
暫く、無言の時が続いた。お互いに微動だにすることもなく。
そして、ピクと彼女の肩が小さく動いた。
その瞬間にキラは何かの糸が切れたようにバッと身体ごと背後に向き直って頭を覆うようにしてその場に蹲った。
「すすすっすすすす、スマン! 別に覗こうとかそんな意志があったワケじゃないんだッ!」
必死に弁明するもまあ、拳の一つ程度でも飛んできそうなものだったがキラはゆっくりと閉じていた瞳を開く。
「ね、ネプギアさん……?」
恐る恐る背後に向けて言葉を放ってみる。
直後、キラの視界の右端に淡い肌色の足が映っていた。
「ッ!!」
バッとすぐに俯く。何となく少しでも彼女の身体を視界に入れるのは悪いような気がしてしまって見ることが出来ない。
そんなキラの頭上から声が掛かる。
「ご、ゴメンね! 先に言っておけばよかったね!」
急いで着替えを持って出て行こうとするネプギア。
少しドアを開いた状態で、俯いたままのキラに視線を向けているのであろうネプギアが優しげな口調で言った。
「あ、あの……気にしてないから」
「お、おう……」
とは言うものの、やはり女の子の身体を見てしまったという背徳感があるためか暫くキラはその場に蹲ったまま、そう返事をした。
その一方で、へなへなと壁に背を持たれてネプギアは全裸のまま床に座り込んだ。
彼女自身でも、顔が真っ赤に染まっていると言うことは十分に理解できた。しかし、それには羞恥の色は薄かった。
どちらかと言えば――それは。
「嫌じゃ、なかったよ……」
ネプギアは届くことのない声で、扉を隔てた向こう側にいる少年へとその言葉を投げかけた。
*
「ぅうん……」
キラは呻いて、ごろんとベッドの上で寝返りを打った。
直後、ふにっと柔らかなものが自分の腕を通した感触に伝わるのが分かった。
なんだろうか、と思いながらそれをまさぐる。
布団特有の柔らかさではない。どこか水分を含んでいるようなしっとり感がある。すべすべとしていて暖かい。
それでもまだその正体が分からない。ふにふにと触り続けてみる。
どうやら縦に長いようだ。手を動かしてみると所々に布の感触がある。
上の方に手を動かしてみるとそこには山のような大きな膨らみがある。
流石におかしい、と思ったのかキラがゆっくりと瞳を開くと最初に見えたのは肌色の何か。
ガバッと身体を起こして真相を確かめる。
そこには――。
「にゅ……」
と、可愛らしい声が発せられた。
小さく唇が上下している。
そしてその美しい美貌が、無防備にもベッドの上に投げ出されていた。
そう、キラのベッドの上に。
「ネプ、ギア……?」
ピシッとキラの身体に亀裂が走ったような感じがした。
なぜ、どうして――なんて疑問が真っ先に浮かぶ。
おかしい、明らかにおかしい。
何故ならこの部屋にはベッドが二つあるのだから。そして何より昨日の夜もこうしてお互いのベッドで寝ていたはずなのだから。
だから、これは明らかに異常事態だ。
が、そんな思考が追いつかなくなっている状態、キラはベッドの上にネプギアに視線を落としたまま完全に硬直してしまっていた。
「ふにゃ……」
そして、ネプギアが寝惚け眼を擦りながらゆったりとその大きな瞳を開いた。
数回、瞳をぱちくりと開閉させた後に目の前で固まっているキラと自分の身体と周囲を何度か確認してからゆっくりと身体を起こした。
それから乱れている自分の衣服を見てからみるみると頬を朱に染めていく。
そしてそれと同時にキラが後退ってベッドから転倒、後頭部を痛打したのであった。
「き、きらってば大胆……!」
「ち、違う! 断じて誤解だぁ!!」
後頭部を押さえながらキラは弁明した。
――が、次の瞬間にその思考は記憶の彼方へと吹き飛んでいくことになるのである。
パリン、と大きな音を立ててキラ達の上部にあった大窓が粉々に砕かれた。
いや、それだけではない。その大窓を砕いて『一人の少女』が部屋の中に転がり込んできたのである。
そしてそれに次いで外からけたたましい銃撃音が響き、ガラスを撃ち破って壁におびただしい量の銃痕を刻んでいく。
まるで映画の中のような光景である。
「チッ!」
少女は忌々しく舌打ちを零すとおもむろに腰のポーチから手榴弾を取り出してピンを口にくわえてそれを引き抜き、窓から外に投げ捨てた。
「あんた達、直ぐに伏せなさい!」
「え……えぇ!?」
キラが眉を寄せてそう聞き返す。
しかし、少女はそれには二度と答えることはなく半ば強引にキラとネプギアの頭を押さえて無理矢理に伏せさせた。
その直後、外からとてつもない爆発音が耳を襲う。
キラはそろそろと顔を上げてから頬に冷や汗を垂らした。
「な、何だってんだよいきなり……」
「あんた達、40秒で支度しなさい」
「え、え?」
少女はバッと右手を振り下ろしてから強引にそう命じる。
無論、ネプギアもキラもそれに対しては呆気にとられまくりだ。
「な、意味わかんねぇ! いきなり飛びこんできて何言ってんだ?」
「二度も同じ事を言うのは嫌いなの! さっさと準備する!」
眉を寄せてキラとネプギアは互いに見合う。
少女の剣幕はちょっとやそっとじゃ収まりそうにないと思ったのか急いで着替えに手を伸ばして武装を確認する。
「ふぅん……ま、様にはなっているわね」
少女は満足そうに頷く。
しかし、キラにとっては腑に落ちないことだらけだ。腕を組んで少女に向かって声を掛ける。
「なあ、アンタは一体何なんだ? いきなり俺達を巻き込んでおいて……」
「ん? まあ説明は走りながらでもできるわ、行きましょう」
左手で指示して少女は乱暴に扉を蹴って開け放つ。
どうにも納得しがたいものを感じながらも二人は少女の後を追って走る。
「ね、ねえ、貴女は何をしていたの?」
「ん、アイツらは犯罪組織の一員よ。目障りな私に喧嘩をふっかけてきたってワケ」
「いやいや、喧嘩ってレベルじゃねーぞ!? ほとんど抗争みたいになってたじゃねーか!!」
キラのツッコミに少女は眉をしかめてからむすっとした声で答える。
「仕方ないでしょ! こっちが応戦してたらあっちもどんどんレベル上げていくんだから!」
そんな言い合いを繰り広げながら、ホテルのエントランスに辿り着く。
外の騒ぎを知ってか、宿泊者達が不安げな表情で集まっていた。
そんな横を駆け抜けて少女はドアを蹴り開ける。
日柄もよい。覗く朝日がキラの瞳を突く。
そんな日光を遮りながらキラは切羽詰まったような声で少女に問い掛けた。
「で、お前は一体誰なんだ!?」
少女はくるっと身体の向きを変える。
それから両腕を腰に当てて仁王立ちになってから瞳を強く光らせて答えた。
「私は、『ユニ』よ!!」
彼女の黒いツインテールが風に靡いていた。
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脚本家ドンナハンダンダノヴァ