episode177 疑惑
それから二日を有してネェル・アーガマは秘密ドッグに到着すると、補給と整備を開始する。
「では、これより作戦会議を行う」
と、アーロンはメンバーの前に立つと、スクリーンを指してモニターを映させる。
場所は秘密ドッグ内にある大広間で、そこで作戦会議を行っている。
「次の目的地は大西洋。通称『魔の三角海域』と呼ばれる海域だ」
モニターにその海域とその周辺の地図が表示される。
「今尚恐れられている海域・・・」
セシリアは地図を凝視して息を呑む。
「そうなると、やはり海での戦闘が主になるのか」
ラウラがボソッと呟く。
「それに加えて水中戦にもなる。今までの戦闘より戦いにくい環境となるだろう」
そもそもISは水中で活動を想定された構造ではなく、真空状態と言う点なら恐らく似ているのだろうが、どちらにしても水中での活動は想定されていない。
何より酸素供給の問題もある。
「・・・・」
隼人は顎に手を当てて考える。
「そこで、今回の戦闘には二つのチームに分かれてもらう」
「と、言うと?」
と、輝春が怪訝な表情で聞き返す。
「恐らくバインドの襲撃が海上と水中で想定される」
「だから、海中を調査するチームとネェル・アーガマの護衛するチームに分かれると」
「そういう事だ。既にチームは決めている」
アーロンは指をパチンと鳴らすとフェイが前に出ると手にしているタブレット端末を見る。
「各チームの振り分けはそれぞれの機体の適応環境から分けさせてもらいました」
「水中で行動できる者と出来ない者で分けているのか」
「その通りだ」
「で、その構成は?」
「まず海中を調査するメンバーは・・・神風隼人、織斑一夏、シャルロット・D・神風、ラウラ・ボーデヴィッヒ、織斑輝春、シノン、ユニコーン、バンシィ・・・それとマスターになります」
「ふむ」
確かにこのメンバーの機体なら水中でも問題はほとんど無いはず。しかし問題は――――
「・・・それにしても、数が少ないな」
未知の海底調査となれば、人数が少ないようにも思える。
「その点に心配は無い。束が今回水中調査組みに水中戦を想定した無人機が用意されている」
「無人機の護衛か」
「あぁ。それも最新鋭の機体だ」
「さすが篠ノ之博士だ。用意周到だな」
ラウラは少し驚き気味に言葉を漏らす。
「次にネェル・アーガマの護衛には篠ノ之箒、セシリア・オルコット、更識姉妹、神風颯、織斑千冬、エリーナ・ハルトマン、リインフォース、ツヴァイ、マドカ、そして私とフィアとなります」
「逆に護衛が多いな。まぁ、仕方が無いか」
護衛組みの大半は水中戦が行えない機体ばかりだ。無理に行っても恐らく足手まといになるだけ。
「またわたくし達は上で護衛ですか・・・」
セシリアは表情を曇らせてガッカリする。
Gシステム78では何も出来なかったのが彼女のプライドに少し障っていたようだ。
「別に何もしないわけじゃないんだ、セシリア」
「で、ですが・・・」
それでも少し納得が行かない様子だった。
「・・・それにな、水中ではビームの効力は減衰する。ビーム主体の機体だと不向きになる」
「・・・・」
「でも、それだとラウラや織斑戦術教官はどうなんや?二人の機体だってビーム兵器主体やけど?」
と、エリーナが疑問味のある声で隼人に聞き返す。
「多少火力が高ければ水中でもビームは通じる。まぁその際は通常より少し近付かないといけないだろうが」
「なるほどなぁ」
「ふむ」と顎に手を当てる。
「では、補給が済み次第大西洋に向かう。それまでは何かをして暇を潰せ」
そうして作戦会議はお開きとなって、全員大広間から出る。
「ただいま、ヴィヴィオ」
「あ・・・」
隼人がネェル・アーガマ内の自室に入ると、テーブルの上で積み木で遊んでいたヴィヴィオが隼人に気付き、すぐにイスから降りて隼人の元に駆け寄ると抱きつく。
「ちゃんと大人しくしていたようだな」
「うん」
ヴィヴィオは顔を上げて隼人の顔を見上げる。
「いい子だ」
隼人が頭を撫でてやると、ヴィヴィオは笑顔を浮かべる。
そのまま隼人はヴィヴィオと一緒に積み木で遊んでやる。
「それで、話とはなんだ、束?」
千冬は束に呼ばれてネェル・アーガマのラボに来ていた。
「う、うん。ちょっと・・・相談事があって」
「ほぅ。お前が相談事とは珍しいな」
千冬は腕を組む。
「実は・・・信じ難い事実が分かっちゃって・・・」
束の顔には冷や汗が出ており、表情が引きつっていた。
(あの束がこの状態だと、ろくでもない事が分かったのか)
千冬も少し不安を覚えていた。
「ヴィヴィオちゃんを保護してからずっとバイタルや最初に採取した細胞や血液を調べていたんだよね」
「確か細胞が異常に変化していると言っていたな」
「うん。その時点で凄いのは凄いんだけど・・・それ以前にありえない事が分かって」
「・・・・」
千冬は目を細める。
あの束がありえないと言っているのだ。
「で、お前がありえないと言う事実と言うのは?」
「・・・試しに遺伝子データをメンバーの遺伝子データを比べてみたんだよね。その時は本当に暇つぶし程度でやっていたんだよ・・・なのに――――」
と、束の表情が暗くなる。
「・・・・」
「はっくんとヴィヴィオちゃんの遺伝子データに・・・共通点が見つかったの」
「隼人とヴィヴィオに、だと?」
千冬は少し驚きを隠せられなかった。
「うん。この共通点って言うのは、ただ単に颯ちゃんやシノンの様にはっくんの遺伝子データで作られたクローンじゃない。他の遺伝子が存在する・・・複合体」
「どういう事だ?」
「つまりこの遺伝子配列パターンは・・・親子で見られるパターンなの」
「なん、だと?」
千冬の表情が固くなる。
「・・・あの二人は・・・親子とでも言いたいのか?」
驚きを隠せず声が少し震えていた。
「あくまで推論だよ。でも、この遺伝子の共通点は親と子で現れるケースになるから――――」
「可能性は否定できない。むしろ確定されていると」
「そういう事」
束はゆっくりと縦に頷く。
「そうなれば、もう片方の・・・母親に当たる遺伝子は誰のものに」
「一応調べてみたけど、該当するデータが一切見つかってない」
と、首を横に振る。
「では、あの二人が親子だって言う確証にならないぞ」
「それは分かっているよ。でも、あの二人の遺伝子に共通点がある。これだけは事実だから」
「・・・・」
「もしかしたら見間違いだって言う事もあるから、一から見直すつもりだよ」
「その方がいいだろう。早とちりと言う事もあるからな」
「・・・できるなら、そうであって欲しいけどね」
「ははは・・・」と束は少し枯れた声で笑う。
「・・・・」
「正直言うと・・・調べなければ良かったと思う」
「かもしれんな」
その場の空気が重々しく流れる。
「これが水中戦仕様の無人機か」
ラウラはネェル・アーガマに搬入される無人機を腕を組んで見つめていた。
全身角ばったラインの装甲を持つ形状で、黄色いツインアイに四本の角があると、ガンダムの顔であった。色はくすんだ青一色で、背中には上半身を覆いそうなユニットが背負われ、そのユニットの両側に繋がれたアームに曲面の表面を持つシールドが接続されていた。
「コードネームは『フォビドゥン・ヴォーテクス』」
と、後ろからフィアがタブレット型端末を持って近付いて来て、ラウラは後ろに振り返ってフィアを見る。
「束様が開発した水中戦を想定した無人稼動機です」
「ほぅ」
「もちろん装備の大半は水中戦を想定した装備で固め、機動力も従来の水中兵器を上回ります。更にビームを湾曲させるシールドを持ちます」
「そこまで凄いものとはな。さすがは篠ノ之博士だ」
「後は各機体に追加装備する対潜装備ですね」
「魚雷とマリンモーターと言った所か」
「その通りです」
「ふむ」
「それに加えてソナーセンサーなどの装備も一部の機体に施されます」
タブレット端末の画面を見ながら搬入物資の内容を言う。
「用意が本当にいいものだな。所で、お前達双子のISには対潜装備は無いのか?」
「いいえ。姉さんと私の機体はあまり水中戦を想定されてないので、付いて行くにしても足手まといになるだけなので」
「そうか」
「なので、今回はマスターが自ら向かうとの事です」
「アーロンが自らか。珍しいな」
「えぇ。なにせ、あの海域の事を一番恐れているのは・・・マスターなのですから」
「なに?」
ラウラは怪訝な表情を浮かべる。
「どういう事だ?」
「私達にも詳しくは聞かされておりません。数年前にマスターが瀕死の重傷を負った場所であるとは聞いています」
「瀕死の重傷を負った場所・・・」
ラウラは顎に手を当てて考える。
「その理由はマスターと束様にしか知らないかと」
「・・・・」
場所は変わって秘密ドッグ内にある訓練場。
「・・・・」
セシリアはブルー・ティアーズを身に纏い、激しく動き回る仮想標的に狙いを付けると引き金を引き、スターライトMK-Ⅳの下部銃口よりレーザーを放って仮想標的の中央の右下を撃ち抜く。
「さすがに隼人さんには及びませんわね」
表情が暗くなり、ため息を付くとスターライトMK-Ⅳを下ろす。
「隼人はあれよりもっと速い標的を撃ち落とすからなぁ。ほんまに化け物染みてるよ」
と、隣にサバーニャを身に纏ったエリーナが立っていた。
そのまま右手に持つGNスナイパーライフルⅢを上に上げて左手を銃身に添えると額のパーツを上に上げてスナイパーセンサーを出すと、引き金を引いてビームを放つが、激しく動き回る仮想標的の中央より少し右に命中する。
「エリーナさんも・・・利き目を失っているのにそこまで正確な射撃を行えるのですから、凄いですよ」
「まぁ、練習の賜物や。あの戦いの後猛練習したからな」
「やっぱり最初は全く?」
「せやな。利き目で見ていた癖があって中々直らなかったけど、ようやく以前に近い状態までに命中度を上げれたんや」
全身装甲で表情は見えないが、苦笑いを浮かべいるはず。
「そうですか。やっぱりエリーナさんも隼人さんも凄いですわね」
と、表情が暗くなる。
「セシリアも凄いと思うけどなぁ?」
「いいえ。わたくしなんか・・・ストライクフリーダムの性能に頼ってばかりです。自分の力量はそこが知れています」
「そこが知れてるねぇ」
エリーナはサバーニャの頭を左手で掻く。
「ほんなら、一戦交えへんか?」
「え?」
セシリアは驚いたようにエリーナを見る。
「うちはセシリアが弱いとは思ってない。むしろ強いと思ってる」
「しかし・・・わたくしは――――」
「あのなぁ、そうやって自分の事を低く見てしまうから、自身が湧かないんや。もうちっと自信つけたらどうや?」
「・・・わたくしはそんな性格だったから、あそこから強くなれなかったのです」
「・・・・?」
エリーナは片眉を上げる。
「エリーナさんは知らないですよね。入学した時はわたくしは今より自意識過剰な所があったんですよ」
「ふむ」
セシリアの話に耳を傾ける。
「自分は誰よりも優れている。ですから当初は隼人さんでも見下していました」
「今見ればある意味凄いで?」
「そ、そうですね。今思えばその時のわたくしが恥ずかしいです」
セシリアは少し顔を赤くして俯く。
「それで、隼人にどやされたって所か?」
「え、えぇ」
「やっぱりなぁ」とエリーナは呟く。
「それでええやんか。隼人のお陰で悪い方向に行かなかったんやろ?」
「まぁ・・・そうですね」
「でも、逆に自分の力に自信が付けれなくなって、少し後ろめいた考えになってしまったって言うのもあれやな」
「・・・・」
「それじゃぁ矛盾しとるなぁ。まぁ自意識過剰よりいい方かも知れへんけど、こっちもこっちであんまり良くないで」
「それは・・・そうですけど」
「だったら、自分の力を信じて戦ってみなよ」
「エリーナさん・・・」
「どうや?やるか?」
と、エリーナは左手にGNビームピストルⅢを展開する。
「分かりましたわ。その決闘を受けますわ!」
セシリアはPICで機体を浮かすとスターライトMK-Ⅳを構える。
「Gモードは使わへんのか?」
エリーナが聞き返すと、セシリアは不敵な笑みを浮かべる。
「Gモードに頼らず自らの技量とブルーティアーズでどこまでやれるか、試してみたいと思いまして」
「なるほど。ほんなら、手加減は出来へんな」
全身装甲で表情は見えないが、エリーナも口角を上げていた。
「全力でお相手いたしますわ!」
そして両者は同時に横に飛び出すと、自身の武器を向けて同時に引き金を引く。
「・・・・」
アーロンはネェル・アーガマの艦長室で大西洋周辺の地図をタブレット型端末のモニターで見ると、テーブルに置くとイスの背もたれにもたれかかる。
「魔の三角海域、か」
ボソッと呟くと、脳裏にある光景が再生される。
「・・・・」
数年前にアーロンに突然襲い掛かり、瀕死の重傷を負わせたアンノウンの姿を――――
「・・・・」
アーロンは目を瞑って息を深くゆっくりと吐く。
(まだやつがそこに居るとすれば・・・・・・気を引き締めなければな)
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