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開け放たれた障子の先には
小さな庭とブロック塀を隔てて
ぶ厚い黒雲に覆われた空が広がっていた。
縁側にはグラスに注がれたビールが一つ。
遺影と隣り合わせて置いてある。
「雨が来るなぁ…」
耳の奥で祖父の声が聴こえた。
天気予報が大雨雷注意報を告げていた。
祖父は雷が好きだった。
今日みたいな天気の日には
決まって縁側に腰をかけてビールをちびちびと飲みながら
ずっと外を眺めているのだった。
目を細めてグラスの淵に溜まった泡に
やうやうしく口をつける仕草が好きで
私はいつも祖父の隣に座ってそれを眺めていた。
「雷の日は良いねぇ。お天道様が大声で歌っているんだ。
泣いて歌って元気だって教えてくれているんだよ。」
そんな話を聴いていたせいか
私は雷が恐いものではなく親しいものだと感じるようになった。
今となっては、そこには祖父の面影も宿っているのだから
尚更そんなふうに感じるのかも知れない。
遠くの空で一閃の稲妻が駆けて雷鳴が轟いた。
ぶ厚い雲の上で笑っている祖父の顔が見える気がした。
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梅雨の頃に考えました