夜中に空が赤く染まっていた。
別に地球の終わりが訪れた訳ではない。僕の名前を語る必要はない。
生きる価値なんて奪われた。家は焼けた。幼い僕には隕石か何かだと思った。
お母さんが、お父さんが消えた。その言葉通り消えた。
僕はただ只管、弟を背負って逃げた。可愛い、愛嬌のある弟だ。
何時も僕の指を握ってくる弟。そんな弟と二人きり。僕は泣かなかった。
お父さんに「弟の前では泣いてはいけないよ」と優しく言われていたからだ。
逃げ惑う人達と一緒に夜を明かした。とても疲れた。
軍隊の人が子供だけで生き残るのは奇跡だと言ってくれた。
奇跡も何も、僕にはわからない。逆に僕からしたらこんな焼け野原こそ奇跡だ。
只管に歩く。お母さんが「もし何かあったら町屋のおばあちゃんの所に行きなさい」
と言われたので、道行く優しそうな人に道を聞いて回った。
お昼時。とてもお腹が空いた。弟も泣き始めてしまった。あまり泣かない強い弟。
いけないとは分かっていたけど、知らない人の家の井戸水を飲んだ。弟にも飲ませてあげた。
少し疲れたから僕は休憩した。夜が赤く染まってから、一睡もしていない。僕は小さい弟を抱きかかえて地面で寝た。寝心地は悪かったけど、ぐっすり寝れた。
僕は弟の泣き声で目を覚ます。
いくらあやしても泣きやむ様子は無かった。
きっとお腹が空いているのだろうと思って、急いでお婆ちゃんの家を目指した。
途中、僕と同じような男の子と出会った。その子は妹を連れていた。
「何処へ向かうの?」僕は聞いた。
「上野へ」と男の子が指を指して言った。その男の子もお父さんとお母さんが消えてしまったらしい。その話をしている途中、男の子は泣いてしまった。僕は妹の前で泣いてはいけない、と教えてあげた。その子の妹は僕の弟より大きいらしく、手をつないで歩いていた。
お互い励ましあって、それぞれの目的地を目指した。
夜になってしまった。夜ご飯がない夜はなれているから僕は大丈夫。けれど弟はずっと泣いていた。男の子とお話しているときは泣いていなかったのに。僕はあまり寝付けなかった。
朝も弟は泣いていた。その泣き声でまた目を覚ました。
そしてまた歩き出す。町屋のお婆ちゃん家までもう少しだ。するとようやく弟が泣きやんでくれた。僕は一所懸命足を踏みしめた。可愛い弟の為に。
前の方から僕の名を呼ぶ声が聞こえる。やった。お婆ちゃんだ。
お婆ちゃんが駆け寄ってきた。手にはカンパンを持っていた。僕はそれを受け取るとすぐさま弟を背中からおろし口へ持って行ってあげた。おかしい。弟が口を開かない。どうして?
その時僕は弟が死んだと理解した。そして弟の前で、初めて涙を流した。
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聞いた話を空想して書きました。