No.572236

とある 男と女のゲーム

ポッキーの日あたりに書いたものをもう一つ掲載



過去作リンク集

続きを表示

2013-05-02 23:29:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4957   閲覧ユーザー数:4898

とある 男と女のゲーム

 

「あ……っ」

 御坂美琴の初めてのキスは唐突に訪れた。

 しかも、ゲームの最中に不意を突かれる形だった。

「う……ぷ……うっ」

 キスをした少年上条当麻は荒々しく唇を押し付けながら無我夢中で美琴の唇を味わっている。

 美琴は両腕を当麻に抑えられてしまっており身動きが取れない。

 当麻の右腕に体を掴まれてしまっていることで能力も発動できない。

 美琴は当麻の望むままに唇を蹂躙され続けた。

「ぷは……ぁっ」

 美琴が唇を解放されたのは実に30秒以上時間が経ってからのことだった。

 荒い呼吸を繰り返しながら体の中に新鮮な酸素を取り込む。

 そして当麻に向かって抗議の口を開いた。

「あっ、アンタねえっ! 女の子の大切な唇をこんなかた……っ!?」

 美琴は最後まで文句を言えなかった。

「あっ!?」

 再び当麻に唇を塞がれたから。

 しかも今度は口を開けたタイミングでキスを許し、少年の舌の侵入を許してしまった。

 他人の舌を口内に許すという初めての体験に頭が真っ白になる。

 しかも、その舌のねっとりとした感覚がなおさらに思考を奪い取っていく。

 当麻に2度3度と重ねてキスをされ、美琴は全くの思考停止状態に陥っていた。

 盛んにキスを求める当麻を夢心地に見ていた。

 

 

 

「きゃっ」

 気が付けば美琴はベッドの上に押し倒されていた。

 そこで改めて気付いた。

 ここが当麻の部屋で、自分がいるのが彼のベッドの上であることを。

 自分が今どれだけ危険なシチュエーションにいるのかを。

「あっ、アンタ、本気なの?」

 自分の上に覆いかぶさっている少年を見て、恐怖を感じながらも毅然と言って返す。

 この状況で当麻が何を狙っているのか分からないほどに美琴は子供ではなかった。

「俺は、お前が欲しい」

 美琴の身体を押さえ付けながら当麻は普段よりも低い鋭く重い声で端的に願望を表明した。

「ダメに決まってるでしょ!」

 美琴は目に力を入れながら拒絶の意図を明言する。

 この状態から美琴に抵抗できるのは言葉のみ。

 でも、心まで屈するわけにはいかなかった。

 大好きな少年だからこそ、こんな流れでしかも強引に体を奪われてしまうなんて許せる筈がなかった。

 

「美琴……」

 少年が自分の名前を読んだ。

 いつもはビリビリ中学生とか御坂と呼ぶ当麻が。

「なっ、何よ?」

 その変化に美琴は戸惑いながら呼応した。

 少年は顔を近付けて美琴を覗き込んだ。

「俺、美琴のことが好きだ」

 突然の愛の告白。

 その言葉は美琴から再び思考能力を奪い取っていった。

「こ、この状況で何を自分勝手なことを言っているのよ……」

 当麻から目を逸らしながら答える。

 こんな状況でなければ嬉しかったに違いない告白。

 嬉しさのあまり泣いていたに違いない告白。

 けれど、ベッドの上で当麻に馬乗りにされている現状では素直に受け取ることができなかった。

 告白を受け入れるということは即ち、この先の行為を受け入れるということと同義に違いなかったから。

 それを受け入れるには14歳の少女はまだ心の準備ができていなかった。

 

 

 

「どうせ私の体が目当てで好きって言っているだけなんでしょ? そんな告白、受け入れられるわけがないわよ」

 美琴は小声で、だがきっぱりとした口調で当麻を拒絶する。

 だが、当麻はそれでも怯まない。

「俺は前から美琴のことが好きだったんだよ」

「嘘よっ!」

 強い声で否定する。

 当麻の過去の言動に、自分を恋愛対象として捉えているものを確認できなかった。

 何ヶ月も前から当麻のことが好きだったから分かってしまう。

 信頼はされていても気になる異性として見られていなかったことは。

「本当だって」

「じゃあ、いつから私のことが好きだったのよ?」

 強い瞳で少年を睨む。

「自分の気持ちに気付いたのは最近。でも、気付いてから過去のことを思い出してみると、俺はお前にずっと寄りかかっていたんだなって。お前のこと、ずっと頼りにしてたって」

 当麻が柔和な笑みを浮かべる。

 その顔を見て美琴は当麻のことを許してしまおうかなという気が一瞬起きる。

 でも、そんな安易に許せる問題では決してなかった。

 

「なら……どうしてこんな無理やり力尽くなことをするのよ? 私が好きなら、ちゃんと告ってから、手順を踏んでこうなれば良いじゃないのよ」

 不満を隠さない瞳で当麻を睨む。

「俺は誰にもお前のことを渡したくないんだよ。美琴は俺だけのものにしたい」

 当麻の言葉にドキッとする。

 でも、そんな一方的な言い分に乗ったりはしない。

「私は別に、誰か他の男と付き合う予定もその意思もないんだけど?」

 ずっと当麻だけを見てきた。他の男と付き合うはずがない。

「お前は、自分が男達からどれだけ人気があるのか理解してないのか?」

「仮にそうだとしても、それがアンタが私を押し倒して良い理由にはならないでしょ?」

 睨み合う美琴と当麻。

「分かったらそこを退いてよ」

 上半身を起こそうとする。

 だが、当麻に両腕を抑えられて再びベッドに押し倒されてしまった。

 

 

 

「どういうつもり?」

 鋭い視線で当麻を睨む。

「俺はお前が欲しいと言ったはずだが?」

 当麻もまた戦闘中にしか見せない鋭い視線で美琴を見ている。

「なら……勝手にこの体を奪えば良いじゃないの。どうせ私には抵抗できないんだし」

 能力が無効化される以上、美琴に当麻から逃れられる手段はない。

「もっとも、アンタに私の人生を背負う覚悟があるって言うのならね」

「どういうことだ?」

 美琴は瞳を細めた。

「私は学園都市に7人しかいないレベル5よ。私に手を出したことがバレたら……アンタ、この都市の暗部に狙われるわよ。消されるかも知れないのよ」

 当麻は黙って美琴を見ている。

「そうならない為の方法はただ一つ。アンタは私の彼氏として、夫として関係を公にして振舞っていくしかない。学園都市と正面切って渡り合うしかない」

 美琴は更に瞳を細めた。

「抵抗できない女の体を無理やり奪おうとするようなアンタにそんな生き方ができるかしら?」

 美琴は当麻を凝視している。

 

「なんだ。そんなことか」

 当麻は軽く息を吐き出した。

 そして少年は答えを口にする代わりに美琴の唇を自分の唇で塞いだ。

「うっ!?」

 今日5度目となるキスに美琴の思考は再び痺れていく。

「なっ、何をするのよっ! アンタ、私に気軽にキスし過ぎだっての!」

「前に言わなかったか?」

 唇を離した当麻はとても優しい表情で美琴を見ている。

「俺は御坂美琴とその周囲の世界を守るって」

「そ、それは私じゃなくて海原に言った誓いでしょうが……」

 美琴の顔が真っ赤に染まり上がる。

 夏休み最終日のあの風景。

 今思い出しても恥ずかしさと嬉しさで心がいっぱいになる。

「で、でもだったら、当麻が今やっていることは矛盾しているでしょうが。私を傷つけてる」

「そ、それは……」

 当麻の表情に迷いが浮かび出る。

「だから、ちゃんと告白して手順を踏んでよ。そうしたら私だって……」

 美琴は再び上半身を起こしにかかる。

 今度は当麻からの抵抗はなかった。

 

 

 

 美琴は上半身を起こしてベッドに座り直し当麻と向かい合う。

「わっ、私のことが本当に好きだって言うのなら、もう1回告白してみせなさいよ」

 当麻に八つ当たり気味に強い声を出す。

 恥ずかしさの裏返しだった。

「おっ、俺は」

 当麻が両肩を掴んできた。

「俺は……美琴のことが、好きだ」

 美琴はギュッと唇を噛み締めた。

 体の中を激しい熱が渦巻きながら駆け巡っていく。

 全身が瞬時に熱くなる。

「アンタ、私の一生を背負えるの?」

「元からそのつもりだ」

 当麻の答えに躊躇はなかった。

「私、ワガママよ」

「それはよく知ってるよ」

「そこは否定しなさいよ」

 ムッとしながら当麻を見る。

 格好良く決めようと思ったのに、出鼻をくじかれてしまった。

 

「私、嫉妬深いんだからね」

 改めて言い直す。

「アンタが他の女の子とちょっとでも仲良くしていたらすぐヤキモチ焼くわよ」

「浮気なんかしねえよ」

「浮気じゃなくても、彼氏が他の女と仲良くしていたら女性はみんな嫌なもんなの」

 当麻に釘を刺しておく。

「それから、私は甘えん坊なんだからね」

「それも、何となく想像はつく」

「だからそこも否定しなさいよ」

 美琴がムッとしてみせる。

「毎日メールか電話してくれなかったら……超電磁砲なんだから」

「それは甘えるじゃなくてヤンデレだ」

 当麻が若干引く。

「とにかく、毎日連絡してくれるんでしょうね?」

「それぐらいするに決まっているだろ。時間がある時は美琴と過ごすことを最優先する」

「そんなこと言って、私のことなんか放っておいて世界の危機を救いに出ちゃうんじゃないの?」

「それは……」

 当麻が言いよどんだ。

「まっ、それに関しては私も一緒に戦場を駆け巡ることで許してあげるわ」

「でも、それじゃあ美琴にまで危険が」

「私は待つ女じゃないから……それで良いの。一緒に戦いのよ」

 当麻をジッと見つめる。

 

「当麻は、私に好きだって言ったわよね?」

「ああ。俺は美琴が好きだ」

 2度も告白したからか、当麻は迷いを振り切って堂々と自分の想いを告げている。

「当麻に先に告白してもらったんだし……もう意地を張る必要もないわよね」

 美琴は視線を下げながら小さく呟いた。

 それから再び少年の顔を見つめ込む。

「私、当麻にずっと言ってこなかったことがあるのよ」

 語りかけながら美琴は笑った。

「私もずっと、ずっと当麻のことが…………好き、だったの」

 美琴はやっと自分の想いを伝えられたことに安堵した。

 長い間胸の中で溜まっていたモヤモヤがようやくなくなった。

 興奮とは違う。清流のような透き通った心境だった。

 

 

 

「美琴っ」

 当麻が正面から抱きしめてきた。

 とても熱い抱擁。

 美琴は体が蕩けてしまいそうな感覚を味わっていた。

 そんな感覚をより深く味わいたくて、美琴は自身の腕を当麻の腰に回した。

 そして、甘えるように囁いた。

「私のこと……一生大事にしてよね」

「ああっ」

 当麻は力強く頷き、美琴と唇を重ねた。

 今までと違う、心の奥底から温まるキスだった。

 

「その、美琴……っ」

 当麻が固く抱きしめたまま美琴に尋ねる。

 その顔は赤く染まっている。けれど、その瞳は興奮を隠しきれていない。

 それで当麻が何を望んでいるのか美琴にも分かった。

「私たち、恋人同士なのよね?」

「少なくとも俺はそう思ってる」

「なら、カップル成立ね」

 美琴は当麻に微笑んだ。

「私は、貴方の望みに応えたい。だって私は……貴方の彼女なのだから」

 美琴は頬を赤らめてちょっと照れた。

「そ、それって」

「はっ、初めてなんだから……優しくしてくれないと嫌なんだからね」

 美琴は自分が信じられないぐらいに大胆なことを言っているのを感じ取っていた。

 でも、そんなことを言える自分を嬉しいと思った。

 当麻と恋人同士になれたからこそ言える一言だったのだから。

「美琴……っ」

「当麻……っ」

 再び重ねられる恋人同士の唇。

 そして当麻はゆっくりと美琴の体をベッドの上へと倒していった。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

「ほらぁ~麻琴ちゃ~ん。パパが会社にお出かけしまちゅから、ママとお見送りしましょうねぇ~♪ 当麻パパぁ。行ってらっしゃいのキスを忘れちゃダメでちゅよぉ~♪ ぐっへっへっへっへ」

 

「御坂さんはファミレスで昼寝しながら何を恥ずかしい寝言をほざいているんでしょうかね? ていうか、あんだけツンツンしながら引っ張っておいて、押し倒されたらいきなり子持ちのデレデレ夫婦って。レベル5の思考回路ってよく分かんないよ、初春~」

 

「わたしは御坂さんを男変換して、男同士の禁断の愛設定して楽しんで寝言を聞かせてもらいましたから。BL世界では男同士で子供ができるのも普通ですし♪」

 

「類人猿……殺スッ!!」

 

 了

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
3
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択