No.57059

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:28

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!…のはずだったんですが、なぜか2月8日は繋がらなかったんで今夜です。

フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その28。

2009-02-09 23:07:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:833   閲覧ユーザー数:793

「逆らうな、嬢ちゃん。お前さんはこのベレッタの弾丸でも平気らしいが、こっちの男どもはそういうワケにはいかんのだろう?」

「うう」

「ミョンシク、調べろ」リーダーはほづみに銃口をピタリと向けたまま命じる。

「アラッソ(解りました)」

 ミョンシクと呼ばれた男は、方をわしづかみにして夕美を自分の方に向き直らせると、しゃがみこんで定石どうりに足もとからバタバタと両手ではたくようにして夕美の身体を調べはじめた。

 

 

「い、痛い、痛いやんか!バチバチ叩かんといてっっっ!きゃっ!」

 最後に背中と胸を同時にはたかれて検査が終わる。

「何も持ってませんね。薄い板状の装置さえつけてない……おまけにあるべき胸さえもありませんよ」へへへ、とミョンシクはリーダーに振り返って笑った。

「なっっっっっっ…っっっんだとおおおおおおおおおぅぅぅっっ。」と、夕美が赤くなって目を見開きにらみ付けるのと、ミョンシクが飛ばされてリーダーの横を通過し、上半身を壁にめりこませるのが同時だった。

「───あれ?」

 まるでサイレント映画時代のギャグシーンのようだった。ミョンシクは壁から下半身だけをだらりと出してもう気を失っていた。

 木造建築でよかった、とほづみは思った。鉄筋コンクリートだったらミョンシクとやらは即死だ。板壁をぶち破った程度だから悪くても骨折程度だろう。

 こんな連中がどうなってもかまわないが、こんなことで夕美に罪を着せたくない。それに、(やっぱり…)ほづみは自分の予想が的中したと確信した。(夕美ちゃんは安定化前の薬を飲んだんだ。それじゃあ)

「逆らうな、と言ったはずだ」ほづみに向けている銃口をすっ、と下げる。「聞き分けのない娘は嫌いだ」

 夕美に対して真横を向いているベレッタの引き金。リーダーの指先にグッと力が掛かるのが見えた。

(あかんっっ)夕美の声は出なかった。全身のアドレナリンが沸騰したような気がし、引き金を引くリーダーの動きがスローモーションのように見える。

 パン!!

 ほづみは、音と同時に自分の脚へ向けて発射された弾丸が目の前の空中に急に赤い色で出現し、そのまままるでバトミントンのシャトルのように速度を失って膝頭数センチ前でピタリと止まるのを見た。まだ、その場でクルクルと回転し、熱を放ってはいたが。

 

 夕美はと見ると、さっきと同じ位置で呆然としている。とっさのことでよく上手く力が出たものだ。二度目にしては、3メートル以上離れていてもちゃんとフィールドをコントロールできたのも奇跡に近い。

 リーダーは拳銃を構えていたが、もう効果がないことは分っている。まだ冷静さは残っていたが、事実上彼の中では任務遂行のためにどうすればいいのか迷いが生じていた。さもなくば退却という選択肢も脳裏に浮かんだ。これでは既存の作戦行動ではどうしようもない。

 それを見越してほづみは「あきらめたら?これ以上彼女を刺激するとホントにヤバイよ。」と持ちかけた。

 データ不足だ。上もこれは想定していたかどうか。報告の義務も生じた。

 コイツのいう通りだ。手に負えない。これ以上時間をかけたらさすがに発砲の音を聞きつけて警察がやってくる可能性もある。

 撤退やむなし、とリーダーの決意が固まった時、夕美の背後から二人の男がとびかかった。激臭で気絶していたはずの男たちだった。どうやら風向きが変わったのか、それともニオイに慣れたのか、気を取り直して二人して戻ってきたのである。

「クマンドゥマ!!」───やめろ、とリーダーが叫んだが遅かった。

 異様な経過を何も知らない二人は夕美の頭といい身体といい、おかまいなしに掴みかかった。

「きゃああああああああ!」

 悲鳴と同時に二人の男はもちろんのこと、夕美の周りにあった家具や小物が爆風にさらされたかのようにいっせいに弾き飛ぶ。

「あああああっ。」

 ふっとばされた男たちが掴んだままだったらしく、夕美が着ていたパジャマは無惨に裂かれ、あわれ、下着だけの姿になってしまった。

「あ。あ あ あ あ」動揺し、両手で胸をかばいながらしゃがみこむ夕美。

 そして飛ばされた家具類で無茶苦茶になりながら耕介やほづみが見たものは、青白い光に包まれ始める夕美の身体だった。しかも、光は見る見る強くなり、残されたキャミソールやショーツも水に溶ける泡のように光の中で蒸発しはじめたことまでは気づいていなかった。

「夕美!!はんあかん、落ち着け!」耕介が叫ぶが、まばゆくなるばかりの光に近づくことなど論外で、どうしようもない。

「ゆ、夕美ちゃんっっ!! 先生、あれは」

「わああ。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!に、逃げるんや、ほづみ君」

「ゑっ。逃げる!?ど、どこへ」

「そ、外、とにかく外。あ、あんたもここにおったらアカン」

 よりによって耕介はリーダーにも逃げるように勧める。「死ぬかも知れへんで」

 さすがに冷静だったリーダーもあまりのことに目が点になっている。

「そんな、夕美ちゃんは!? 夕美ちゃん!…あっ。」

 

 

 青い光の中で膝を抱えてうずくまる夕美は、いまや一糸まとわぬ姿になっていた。だがそれだけではなかった。光はさらに強くなり、ついに周りのものもその中へ溶けるようにして消え始めていた。

「これも…サイコ…バリアなのか。こんな強力な…素人なのに」

 

「ゆ、ゆみさんっっっ!?───あああああああっ」

 騒ぎの異様さに居ても立ってもいられなくなった亜郎が飛び込んできたのだ。

 ちら、と亜郎の方を見た夕美の目には涙があったように思えたが、眩しくなってくる光のせいでそれが亜郎の気のせいかどうかは定かではない。

 ただ、呆然と立ちつくす亜郎はいま、心から感動していた。美しい。まるで妖精、いや、女神の誕生とはこうしたものだったのか、と。

 

 部屋の中のすべてを呑み込みゆくまばゆい光の中で、その女神はのたもうた。

「見〜〜〜〜〜〜た〜〜〜〜〜〜〜〜なぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜…」

 

 きゃ〜〜〜〜〜。

 初夏の夜空にコダマしたのは、いい歳をした哀れな男たちの悲鳴だった。

 

〈ACT:29へ続く〉

 

 

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