ここは、揚州から荊州へと入ろうかという辺りのとある森。辺りはすでに暗くなり、
森特有の人気のない不気味な静けさがこの場を支配している。
普段ならそのはずであった。
しかし・・・
張遼「おらおらおらおらーーーー!!!そんなもんかいな!!もっと気合いれてかかってこんかい!!」
張遼が飛龍偃月刀を振るうごとに何人もの山賊が吹き飛ばされていく。
山賊3「ひいっ!」
山賊4「こいつ、マジパネェ!!」
張遼「まじぱねってなんやコラァァッ!!」
山賊4「ぎゃああ!!!」
意味不明な単語を発した山賊4に逆ギレした張遼は、飛龍偃月刀を力いっぱい水平に叩き込み、山賊4をホームラン。
飛ばされた山賊4は、無様に木の枝最上部に引っかかってしまっていた。
そして、不甲斐ない部下たちを見た山賊頭は怒りをさらに爆発させている。
山賊頭「なにしてんじゃいおめぇら!!相手はたったの二人じゃぞい!!さっさとたたんじまわんかい!!!」
張遼「おい!そこの筋肉ダルマ!その筋肉は飾りかいな!?しゃべってばっかおらんとかかってこんかい!!」
山賊頭「なんじゃと!?オレのこの筋肉を馬鹿にするんか!?こう見えて、結構女に評判ええんやぞ!?」
張遼に自慢の肉体を馬鹿にされた山賊頭は、鬼のような形相で怒り狂い、
自身の肉体美を見せつけるかのごとくポーズをとっている。
そんな山賊頭の様子を白い目でボーっと冷視している張遼は、投げやりに言い返した。
張遼「あー、そんなん世辞に決まっとるやろ、ていうか見せびらかすなや。つうか近づかんとって。生理的に受け付けられへん」
山賊頭「おんどれ、言わせてお―――」
張遼「せやから近づくな言うとるやろがああああ!!!!」
山賊頭「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」
張遼にさらに馬鹿にされて完全にキレてしまった山賊頭が、張遼に近づこうとしたその刹那、
逆ギレした張遼が飛龍偃月刀で山賊頭の顔面をこれでもかと言うほど執拗に殴打した。
そして、張遼のすぐそばにいた高順は、同様に白い目をしながら一部始終を冷視しており、次のようにつぶやいた。
高順「・・・霞、私の出番が・・・」
【揚州‐荊州付近、とある森】
呂布一行は、揚州を抜けて荊州へと差し掛かっているところであった。
日もだいぶ落ちてきて、そろそろ今晩野宿をする場所を探したほうがよさそうな頃合いである。
陳宮「どうやら、今日は村らしい村にたどり着けそうにないので、この辺りで野宿するです」
張遼「向こうの方に洞穴っぽいのがあってんけどどやろか?」
木々が乱立する森の中、すぐに張遼は野宿の場所を提案した。しかし陳宮は張遼の意見に難色を示した。
陳宮「むむむ~洞穴ですか・・・クマとかがいるのではないですか?」
どうやら、以前クマに襲われたのが軽くトラウマになっているらしい。しかし、他の三人は特に気にした様子はない。
北郷「でも、なんか空模様も怪しいしな。もしかしたら一雨来るかも」
高順「でしたら、今夜はそこで野宿しましょう」
呂布「・・・(コクッ)」
結果、多数決で張遼の見つけた洞穴で野宿することになったのだが、それでも陳宮はまだぐずっている。
陳宮「で、ですが~」
張遼「なんやねね、怖いんか?」
陳宮「何を言うですか!恋殿がいるのに怖いものなどないですぞ!いいです!その洞穴で野宿するです!」
結局、張遼の挑発に乗る形で、洞穴で野宿することになり、五人全員で洞穴へ向かった。
しかし、洞穴に近づいてみると、先客がいることに気が付いた。
山賊1「なんだなんだ?誰だテメェら?」
どうやら、その洞穴は山賊のアジトのようだった。洞穴の中から、いかにも山賊風の髭面のマッチョが出てきた。
陳宮「霞ーーー!やっぱり何かいたですーーー!」
陳宮はぎゃあぎゃあ騒ぎながら呂布の後ろに隠れた。
張遼「まあまあそんな騒がんと、話せばわかるって」
一方陳宮とは対照的に、非常に落ち着いた様子で張遼は山賊に軽い調子で語りかけた。
張遼「なあなあおっちゃん、ウチらちょっと野宿したいんやけどな、なんや雨降りそうやろ?せやから今晩この穴貸してほしいんやわ」
すると、洞穴の奥から山賊のリーダーと思しき、ボディビルダー顔負けの肉体を持った、山の如き巨体をほこる男が出てきた。
山賊頭「なんじゃい!?どないしたんじゃ!?」
山賊1「へえ、なんか女4人と野郎1人が今晩穴を貸せって言ってるんでさ」
山賊1の言葉を聞いた山賊頭は、眉間に青筋を浮かべ怒り狂っている。
山賊頭「なんじゃと!?山賊からもの借りようたぁ舐めくさりよってからに!テメェら!こいつらいっぺんシメんぞ!野郎は始末して、
女は今晩のオカズじゃ!」
山賊たち「合点だ!」
すると、山賊頭の号令と共に、洞穴の中から大量の山賊がわらわらと出てきた。その数約100人強。
張遼「なんやアンタら、ウチらとやるんかいな?」
高順「まったく、大人数で群れれば強くなるという訳でもありませんのに」
呂布「・・・ねね、北郷、下がれ」
陳宮「了解なのです!」
北郷「わかった」
しかし、張遼、高順、呂布はその数の不利をまったく意に介さず、戦闘態勢に入ろうとし、
呂布の指示を受けた陳宮と北郷は後ろに下がった。
しかしその時、後ろから近付いていた別の山賊の存在に誰も気づいていなかった。
山賊2「誰だお前ら?俺たちん家の前で何してやがる?」
その山賊は、巨大な猪を抱えて立っていた。そして陳宮と北郷は、その男の後ろに控えていた別の山賊たちに捕まってしまった。
張遼「ちっ、まだ仲間がおったんかいな」
高順「元々いたのと合わせて150って所ですか。結構な数の団ですね」
呂布「・・・」
山賊頭「おお、おめぇら戻って来よったか」
山賊2「かしらぁ!今夜のメシ取って来やしたぁ!ですが何ですかいこいつら?」
山賊2は猪を高らかに見せびらかして、自身の手柄を主張している。
巨大な猪を軽々と持ち上げていることから、かなりの怪力の持ち主であることが窺われた。
山賊頭「なんやオレらの家貸せっちゅうふざけた奴らじゃ」
山賊2「そいつはいけねぇなぁ、いけねぇよ。で、シメやすか?」
山賊頭「ああ、久しぶりの女じゃ。最近は、オレらがあまりに有名になりよってからに、人っ子一人近づかんようになってもうた。
今夜は御馳走じゃ!」
おおおおお!!と呂布たちの前後から怒声が響き渡った。
気づけば大量の山賊に挟まれ、さらに人質まで取られているという最悪な状況となってしまっていた。
しかし、それでも呂布たちは取り乱すそぶりは一切見せない。
高順「どうやら、この辺では有名な山賊団のようですね」
張遼「せやけど、そんなんウチらの敵やないわ」
高順「まあ、そうですけどね」
呂布「・・・一度だけ言う・・・死にたくなかったら、ねねと北郷を放せ」
そういうと、呂布は方天画戟を山賊2に突きつけた。
山賊2「はあ!?舐めやがって!御大層な得物持っとるようやが、お前そんなでっかい乳ぶら下げといて、まともに戦えるんか?」
呂布「・・・・・・」
改めて呂布の顔を見た北郷は、いつもと同じように見えてるが、実際明らかな怒りのオーラを放っているのを感じた。
他の三人も気づいているようである。
張遼「待ちや恋、殺すなや。生け捕りにして役人に突き出して路銀稼ぎや」
呂布「・・・(コクッ)」
呂布の殺気を感じ取った張遼の制止に、呂布が無言でうなずいて答えた。しかしその眼光は未だ鋭いままである。
張遼「ほんなら、ウチとななでこっちやっとくから、恋はねねと北郷のこと、頼んだで」
呂布「・・・(コクッ)」
山賊2「何言っとるんや!こっちには人質が――――ぁ?」
山賊2は何が起こったか全く理解できなかった。
ただわかることは、いつの間にか人質が解放されていて、自身の首に方画天戟が突きつけられているということだけだった。
呂布は、山賊2がしゃべり終わる前に、陳宮と北郷を拘束していた山賊二人の首の後ろを方天画戟で強打、
無力化すると同時に陳宮と北郷を片腕で抱え、もう片方の手で山賊2の首元に方天画戟を突きつけたのだった。
まさに電光石火。一瞬の出来事だった。
北郷「す、すげぇ・・・」
陳宮「当然の結果なのです!」
そして張遼と高順の方を見てみると、100人ほどいた山賊は、みんな張遼によって撃破されていた。
山賊頭にいたっては、顔面の原型を留めておらず、まるで別人のようである。
山賊頭「つ・・つえぇ・・・」
張遼「はーはっはっは!なんやもう終わりかいな!?根性のないやっちゃな!」
久しぶりに暴れられたからか、張遼はご機嫌である。一方対照的に、高順はいつも以上にテンションが低い。
高順「私の出る幕はありませんでしたね・・・」
張遼「おお、すまんすまん!あまりに弱すぎて」
張遼は出番がなくしょぼんとしている高順の背中をバンバン叩いていた。
北郷(本当に恐ろしく強いな、この人たちは・・・オレなんか完全に足手まといのはずなのに、
足手まといにすらならないほど圧倒的だなんて・・・)
その後、山賊約150名全員を拘束し、その日は当初の予定通り、洞穴の中で一夜を過ごした。
【揚州‐荊州付近、とある街】
夜が明けて、近くに街があるという情報を山賊から脅し―――もとい聞き出した呂布たちは、
総勢150名ほどいる山賊を連れてその街に向かった。
街に入ると、呂布たちに縛られた山賊たちがぞろぞろ歩いている、という異様な光景に、人々から何事かとじろじろ見られたが、
慣れているのか、呂布たちはそのようなことはお構いなしのようである。
そして、歩いている最中、誰が山賊を役人のところまで連れて行くかと言う話になった。
呂布「・・・今日は恋が連れて行く」
張遼「珍しいやんか、恋が自分から連れて行くって言うなんて」
呂布「・・・・・・」
呂布は何も言わず山賊2を見た。
山賊2「ひぃ、おっかねぇ」
どうやら、まだ昨日のことを怒っているようである。呂布はじっと山賊2を見つめ続けていた。
表情は読みにくいが、恐らく睨みつけているという表現が正しいのだろう。
高順「恋様、私もお供します」
陳宮「むむ、抜け駆けは許さないですぞなな!恋殿、ねねがお供しますぞ!」
その後、どちらが行くか相当もめていたが、北郷の提案で、結局二人とも呂布についていくということで落ち着いた。
陳宮「それでは行ってくるです。今日はもうこの街から出るつもりはないので、霞と一刀殿は先にそこの宿に入っといてくださいです」
張遼「了解や」
北郷「わかった」
そうして、張遼と北郷と別れ、呂布と陳宮と高順は、山賊たちをぞろぞろ連れてその場を離れた。
【揚州‐荊州付近、とある街宿】
三人と別れた後、張遼は北郷と宿の部屋に入るや否や、部屋を出て行ってしまった。
北郷はどうしたんだろう、と思っていたが、5分ほどで戻ってきた。
手に持っているのは何かの壺。張遼の顔を見ると、かなりテンションが上がっているようであった。
張遼「いやー、最近ご無沙汰やったからなぁ♪北郷、ちょっと付き合ってくれんか?」
北郷は理解できないまま、張遼に促されるように杯を持たされた。
北郷「もしかして酒盛り?」
張遼「せや!ウチはお酒大好きやねん♪」
なぜか、張遼の頭から猫耳が生えた、ような気がした。北郷は目をこすって再び見ると、やはり何もなかった。
北郷「ははは・・・お酒ね・・・」
張遼「なんや北郷、まさか天の人間ともあろうものが、酒も飲めへんとか言うんちゃうやろな?」
飲めないも何も、日本じゃなあ、と思いつつも、相手は張遼とはいえ、女の子に舐められては、
となけなしのプライドが北郷を突き動かした。
北郷「へ?いや、別に!飲めるに決まってるだろ!?オレなんか3歳の頃にはすでに水みたいに飲んでたからな!
もうどんと来いだから、本当に!」
まあ、この場合の酒とは、当然甘酒なわけだが、張遼がこの手の言い訳を知っているはずもない。
張遼「3歳て、ほんまかいな!?さすがは天の御遣い!うちら凡人とは出来が違うな!ささ、飲みや飲みや!」
そういうと、張遼は北郷の杯になみなみと茶色い液体を注ぎ込んだ。
北郷(たしか、中国には飲酒年齢の法律がなかったんだったっけ?・・・ええい、ままよ!)
北郷は一瞬ためらったが、覚悟を決めて一気に飲み干した。
張遼「おお!ええ飲みっぷりや!よっ!男前!で、どや?」
北郷「っくぅ、深い香りに酸味と苦みが程よく、そしてのどに余韻として残る旨みが癖になりそうな後味を醸し出している・・・
ていうか結構きついな、これ何てお酒?」
張遼「なんや、ごちゃごちゃ解説してるくせに、アンタまさか老酒飲んだことないんかいな!?そりゃもぐりやで!」
北郷(老酒・・・確か中国のお酒だっけ?まさかこんなとこで出会えるとは・・・ああ、そういえばここは中国か・・・)
と老酒を一気飲みしてしまったせいですでに頭がクラクラの北郷は、そんなことをぼんやりと思っていた。
北郷「まあ、オレの国の酒といえば日本酒だからな」
張遼「にほんしゅ?それが天の国の酒かいな?美味いんか?」
張遼は聞いたことのない酒に興味津々である。今度は一瞬だが確実に猫耳が見えた、ような気がした。
張遼は目を輝かせ、身を乗り出して北郷に問いかけた。
北郷「オレの親父とかは美味そうに飲んでたから美味いんじゃないかな」
張遼「そうか~天の国の酒か~天にも昇る美味しさなんやろな~♪」
張遼は、はあ~と甘いため息をつきながらうっとりとした表情を浮かべていた。どのような想像がなされているのかは、知る由もない。
北郷「じゃあ、張遼さんにも注ぐよ」
張遼「またや。言うたやろ、よそよそしいから “さん” つけて呼ぶの止めいて。確かに真名は預けてへんけど、
これから一緒にやっていく仲間やろ」
北郷は張遼のことを「張遼さん」と呼んでいたが、仲間になった当初から張遼はその呼び方をやめるように再三北郷に訴えていた、
しかし、会って間もない女性を、まして自身と同い年か、むしろ年上に見える張遼を呼び捨てで呼ぶのに抵抗があり、
北郷は未だに慣れていない。
北郷「ごめんごめん、じゃあ張遼、注ぐよ」
張遼「おお、おおきに~♪おーとっとっと♪」
北郷は、まだお酒を注ぐのに慣れていないため、張遼の杯があふれそうになる。
北郷(こぼれそうになったら「おーとっとっと」っていうのは万国共通なのかな・・・)
張遼「ゴクゴクゴク、ぷはー♪これやこれ♪やっぱこれ飲まんと始まらへんわ♪」
見ているこちらまでもが気持ちよくなるほどのいい飲みっぷりである。
北郷「張遼はお酒が本当に好きなんだな」
張遼「せや!一人で壺を空にしてもええくらいや!まあ、普段はねねやななに飲みすぎやって止められてしまうんやけど、
今は二人とも山賊連れに行ってるし、今の内に思いっきり飲んだるわ!北郷、最後まで付き合ってもらうで!」
北郷の肩をばしばし叩き、張遼はニッと気持ちのいい笑顔を向けた。
北郷「ははは・・・」
これは真剣にリバースすることを覚悟しないといけないかもしれない、そう思わずにはいられない北郷であった。
【第七回 在野フェイズ:張遼①・山賊と酒盛りと剣術と(前編) 終】
あとがき
第七回終了しましたがいかがだったでしょうか?
霞といえば戦い、酒というわけでこんな感じになりました。
実は某プレイ動画で初めて恋姫を見たのが霞の拠点フェイズでして、
stsにとって、霞というキャラクターはとても思い出深いキャラだったりします。
一刀君にデレる霞がホントに可愛らしかったのは今でも忘れられません。
いずれ自分でプレイしたいものです、、、
もう前編だけで拠点フェイズとして成立しているのでは、とも思う訳ですが、
どうしても初期段階で描写しておきたかった話があったので、
結果、今回も一話にまとまらず前後編になってしまいますが、
次回も温かい目で見ていただければ幸いです。
それではまた次回お会いしましょう!
老酒とか飲んだことないなぁ、、、笑
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お久しぶりです。どうやら8の付く日が投稿日として定着しそうです。
週一ペースに戻せるのは涼しくなった頃からでしょうか、、、汗
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