その宮殿から虹が真上に伸びて、空を突き刺す。半端な覚悟では、そこへ
近づくことさえ、ままならない。
聖地ボウレインにある、スターレイン宮殿
門の所にはドラゴンが寝ている。
その横を赤の鎧を纏った、一人の青年騎士が通る。
宮殿内は世界各地で起こる争い事などの処理に追われて、忙しそうだ。
案内係りに促されて、会議室に向かう。扉が開くと、中に二人の騎士がいた。
青の鎧を纏った青年騎士は少し驚いた表情になるが、すぐにいつもの冷静な顔つきに戻った。
「オーッス、ハヤブサ。オレがここへ来てびっくりしたか?」
「少しは、十騎士としての自覚がでてきたのか……」
「ちゃうちゃう、うちの可愛い魔法少女が間違えて手紙を受け取っちゃったんだよ、
仕方なく来ただけ」
「仕方なくって……」
少し離れたところにいるリザードマンが厳しい目線をブラッドに向ける。
「久しぶりですね、ガーゲさん……私に向けている殺気をどうにかしてもらえると……」
苦笑しながら言う。
「久しぶりに来てみれば若造が二人だけか十騎士なんて名前だけの飾りか」
そこへドアが開き、女性が入って来た。
「十騎士は名誉ある勲章です、近頃の騎士達が、たるみすぎなんです」
世界政府幹部の一人、キムディール。
桜色の髪、プルンとした唇、くっきりとした ボン!キュ!ボン!のスリーサイズ。
「わわわ、私の永遠のアイドル、キムディールさん、ご無沙汰してました」
ブラッドは、駆け足でキムディールに寄っていくところを、ハヤブサが首根っこを捕まえて阻止した。
「ぐえぇえ……お、おい息ができなくて死ぬところだったぞ」
「じゃあ、今回は七名が欠席ね、では会議を始めるわね。まず、一つ目は最近の反乱軍の
動きが活発化してきている事なんだけど、もしもの時は十騎士にも指令がいくので、その時は
我々の命令に従って下さい」
「二つ目は、十年前に起こったエメラルドシティの嘆きは知っているわね?」
「エメラルドシティの嘆きなんて大層な名を付けるんじゃねぇよ、ただ魔石が暴走して
街一つ壊滅させただけじゃねぇか」
「ええ、そうね、だけどガーゲ……あなたも含めて、この暴走を止めることはできなかった、
この事件を解決させたのは魔女ドロシーだったというのは有名な話だけど、実はもう一人いた
のではないかと、その当時まだ四、五歳の幼い女の子が」
「冗談だろ、んなガキになにが出来たっていうんだ」
「その女の子は魔石の力を封じる能力があるのかもしれないと、だとすれば我々が保護する
必要がでてきます」
静かな口調でハヤブサが
「もし反乱軍に、その能力が渡ったら、こちらは魔石の力を止める術がなくなるという事ですか?」
「ええ、その通り。で、今その女の子がどこにいるかと、ブラッド、あなたの国に居るとの
情報が入っています。名はオリンズ」
三人の視線を受け止めながら
「キムディールさん、オリンズは私達の仲間です。いくら世界政府だろうと、彼女を預ける
訳にはいきません。それでもと言うなら、剣を交える覚悟がこっちにはある」
ブラッドは真面目に答えた。
「ふふふ、あなたの国に居るのなら、まだ政府は動かない。とりあえず様子をみます。
もし反乱軍に、その能力が渡りそうになったら全力で政府が介入し保護します」
この後、ちまちました事件の話などで会議は終わる。
ブラッドとハヤブサが揃って部屋を出た。廊下の壁によりかかって二人をちらっと見るキムディール。
(あなたたち、私に隠し事はない?)
これは、キムディールの特殊能力テレパシー。
二人は、揃って左右に首を振る。
(そう。何かあったら、ちゃんと報告するのよ。うちのトップは正義を盾にして悪人よりも
酷い事をすることもあるけど、私のことは信用してネ)
今度は揃って上下に首を動かす。
「それじゃ、また会いましょう」
コツコツと足音が廊下に響いた。
ボクは角の部屋に決めた。
長い間、誰も使っていなかったみたく、部屋の空気はよどんでいた。
ドアを開けっ放しにして、夢中になって掃除をした。
タッタッタ!と足音が近づいてくる。
「オーダー、オーダー。」
「うん?何?」
ボクは振り返らずに返事をした。
「明日もお休みでしょ、ワンロックとタマさんとウオッカ、み~んなで近くの草原へ遊びに行こうよ」
楽しそうな空気がボクの背中を包んだ。
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剣と魔法のファンタジー小説です。
続きものです。