EP17 結城家当主
和人Side
居間に入るとそこには師匠と1人の老人男性が座っていた。
お客さんだと思い、俺は師匠に促される形で彼の隣に座った。
「千里さん、彼が会わせたい者です」
「ほぅ……良い眼をしているな」
どうやら師匠がこの人に俺を引き合わせようとしたのか、しかし名を名乗らないのも失礼かもしれない。
こういう時は俺から名乗ろう。
「はじめまして、桐ヶ谷和人といいます」
「っ!? なんと……キミが桐ヶ谷君だったのか…」
「俺の事を、ご存知で?」
驚いた様子を見せた男性はそのまま俺を見定めるかのような視線を向け、
俺はそれに応える為に『覇気』を展開し、『覇王』と化す。
「まさか、これほどとは…」
「『覇王』に至ったのですね…」
さらに男性は驚愕と畏敬の表情を浮かべ、師匠でさえも珍しく驚きの表情と感慨深そうな様子を見せた。
「和人、もう治めなさい」
師匠の納得したような満足気な表情と共にそう言われたので、俺も少しばかり照れる。
やはり師事を受けている人に褒められているというのは嬉しいものだ。
男性は居住まいを正すと口を開いた。
「失礼、名を名乗っていなかったな…。儂は結城千里、キミが交際している結城明日奈の祖父じゃ。
キミのことは彰三と京子君、明日奈から聞いておる」
なっ、明日奈の御祖父さんだと!? なんでそんな人が師匠に会いに!?
「まさか八雲君が言っておった少年がキミだとは……海童殿からも八雲君のところの者が良い逸材だと聞いたが、
こういう事じゃったのか…」
「しかしながら、和人の実力は本物ですよ。
『神霆流』の師範代にして、私に次ぐ実力を持っています。
加えて頭脳明晰と言えます、中学1,2年ともに全国模試で1位を取っていますし、
理数系ならば大学レベルのものについていけますから」
ちょっと師匠、なに人の経歴を勝手にばらしているんですか。
それに所詮は過去の栄光というやつだと思うんだが…。
「資質よし、器量よし、頭脳よし、実力よし、なにより人格もよし、か…。
よかろう、キミと明日奈との交際を正式に認めよう」
「えっ!? ほ、本当ですか!?」
千里氏の言葉に俺は自分の耳を疑った。
いや、確かにこれで明日奈との間にある障害がほぼ無くなったと言っても過言じゃないのだが、いきなりの事で驚くしかない…。
「これでも結城の当主、人を見る目はある…。
今日の午前中に家に来た明日奈は前よりも凛々しく、強くなっておった。
儂に対して何も言えなかったあの娘が心に決めた人がいると、
真正面から儂に言い切ってのぉ……あれほどの成長を見ることが出来たのは、キミのお陰ということじゃな」
「いえ、そんな…」
明日奈の成長、しかしそれは俺自身も同じである。
彼女が側に居てくれて、俺を成長させてくれたからこそ、『覇王』へと到ることが出来た。
彼女が居てこその俺という存在だ。
「良い弟子を持っておるの、八雲君…」
「恐縮です。まぁ、まだまだ未熟者ですよ」
「分かっていますよ、師匠…」
千里氏の褒め言葉に対して師匠は辛口な評価をしたが、俺はそれを理解している。
まだまだ成長の途中だ、大切な人や仲間を守り守られることで、強さというのは分かる。
今はみんなで強くなることが大切だ。
「己が未熟だと理解しているのならば、キミはさらに高みへと上るのだろうな…」
さらに評価してくれる千里氏。俺も明日奈やみんなと共にそう在る事が出来ればなと思う。
「そういえば、桐ヶ谷君には謝罪と感謝をせねばならないな。
此度の一件、儂の息子の部下がキミにした事を、大変申し訳なく思う。
加えて、明日奈を助けてくれたこと、朝霧財閥への口添え、誠に感謝する……ありがとう」
「その、頭を上げてください。彰三さんにも言いましたが、俺はただ明日奈を助けたかっただけですから…」
彰三さんの時のように、千里氏も頭を下げてきたので今回はさすがに驚愕した。
「それでも、当主として礼儀に値するからの…」
「……分かりました。ご配慮のほど、ありがとうございます」
俺がそう返すことで、彼はようやく頭を上げてくれた。正直ホッとしたというのは秘密である。
そしてしばらくの間、俺も交えて明日奈のことを少しばかり話す(真面目な内容)ことになった。
話しが一時進んだ頃、千里氏が時計を見たことでこの時間は終わりを迎えた。
気が付けば午後の3時前、修行の時間もとうに過ぎていた。
「さて、そろそろお暇するとしよう」
「あまり御持て成しもできず、申し訳ないです」
「いやいや。こちらこそ、いきなり訪ねてきてすまなかったね」
千里氏は立ち上がるとそう言った。師匠と挨拶を交わし、玄関へと向かう。
俺も見送る為にそのまま続く。
「桐ヶ谷君……いや、和人君。これからも明日奈のことをよろしく頼む。
あの娘は何分、まだ儂のことを怖がっておる。
儂では分からぬことも多く、両親との溝も無くなったが、やはりキミの事を一番に信頼しておるだろう…。
明日奈を守ってやっておくれ」
「はい、必ず……彼女と共に…」
彼の俺への信頼を裏切らない為に、全力の意志で答えた。
「うむ……それではの。八雲君、和人君」
「「さようなら」」
こうして、俺と千里氏との対面は終わりを迎えた。なんか、疲れたというか、ホッとしたというか…。
「良かったですね、和人」
「はい……それと、ありがとうございます、師匠。俺を千里さんに会わせていただいて…」
もしかしたら師匠が千里氏を招いたのではないかと考え、そう言ったが、彼は首を横に振って否定した。
「今日、千里氏が訪ねてきたのは本当に偶然でした。
私がやったのは、葵さんに貴方を連れて来てもらっただけですよ」
「それでもですよ。いつも、助けてもらってばかりです」
師匠は偶然だと、大した事はしていないと言うが、それでも俺にとっては大きな助けとなったのだ。
本当に頭が上がらない…。
「師が弟子を助けるのは当たり前ですよ……さて、遅くなりましたが修行に行きましょう。
先にも言いましたが、今回は貴方の体力に合わせた体力作りを行いますよ」
「はい!」
俺は九葉と燐を呼びに行き、師匠と4人で修行へと向かった。
この会っていない2年間で九葉も燐もやはり成長しており、強くなっていた。
しかしそれは俺も同じであり、肉体的には劣った状態だが感覚系に関しては強化されている。
俺が全盛期の力に戻ったらまた勝負をしようと2人に言ったら、「全力でお断りします!」と言われた。
悪いが、それは無理だ(黒笑)
修行は無理のないものだったので、ぶっ倒れることはなかったが、やはり疲れた。
夕方、各自が風呂に入ったあとで夕食となり、そのあとは談笑したり、師匠とは囲碁とチェスをしたり、
葵さんと燐に明日奈の事を中心に聞かれたり、九葉とはゲームなどをして過ごし、眠りについた。
なお俺は九葉の部屋で眠った。
翌日、午前5時に起きた俺達(時井家全員)
葵さんと燐は朝食の準備を始め、師匠と九葉と俺は朝の鍛練を行った。
庭で素振りと筋トレ、そして簡単な見切り稽古である。
それらを終えて朝食を取り、またもや時井家のみんなと時間を過ごした。
そして10時、俺は自宅へと帰ることになり、師匠の車で奈良駅へと向かった。
「お世話になりました」
俺はそう告げて、みんなに頭を下げた。
「それでは、次は夏の修行で会いましょう。覚悟しておいてくださいね」
「和人さん。オレ、夏までに強くなってやるから!」
「またね、和人兄♪」
「元気でね~、和人君~」
みんなの言葉に頷き、俺はやってきた電車に乗り込み、そして帰宅の途についた。
電車で京都駅に向かい、そこから新幹線で東京駅、そこから自宅へは電車とバスで移動し、俺は家へと辿り着いた。
「キリトく~ん♪」
「明日奈♪」
奈良から帰ってきた翌日、俺は3日ぶりに明日奈と会い、人の居ない公園で抱き締めあってからキスをした。
「えへへ~、キリトくんの匂いだ~///♪」
「明日奈、温かい」
傍から見ればイチャついているバカップルだろうけど、そんなものは関係無い!
しかし、離れていたにしては明日奈は凄くご機嫌だな。
「明日奈、なにかいいことでもあったか?」
「えっとね、御祖父様がね、和人君に興味があるみたいでね、どんな人なんだって聞いてくれたの///♪
御祖父様のこと、まだ苦手だけど…凄く嬉しかったんだ///♪」
「そうか、それは嬉しいな」
ま、俺はそのことを知っているようなものだけど、それは内緒だと千里さんとの約束だ。
明日奈が知ったら驚くか、拗ねるか…どちらにしても楽しみだな。
「それじゃあ明日奈、今日もデートに行こうか?」
「は~い///♪」
俺達は腕を組んで、街に向かって歩みを進めた。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
千里氏登場、ここで和人が認められたのですよw
次回で一度「After」を区切らせます。
もうそろそろで「After」の後編に入らせますのでね。
今度は「新生アインクラッド編」と「夏修行編」、「公輝・雫過去編」になります。
それではまた~・・・。
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EP17です。
今回で奈良県での話しは終わりですよ~。
どうぞ・・・。