高校から駅に戻るバスの中で、親友がこちらを向いて言った。
このまえ別れてしまった彼女と一緒に買った、ネズミの国のマスコット人形は、既に親友のバックから取り外されている。
「どんな質問にでも答えられる言葉が、一つあるよ。」
「へぇ、どんな言葉だよ?」
俺はいつも通りのたわいもない会話に耳を傾ける。
こういった時が一番楽しい。
「『わからない』だよ。」
「まあ確かにそうだな。だからどうなんっだて話だけど。」
俺は前髪をいじくる。
ちょっとしっくりと来ない。
「まあまあ、そう言わずに、ちょっと質問してみろよ。」
親友は手を上から下に何かを押さえつけるように振る。
「じゃあ、」
少し考える。
「おまえは何で彼女と別れたんだ?」
「わからない」
「まあそれはいいとして、いつ?」
「わからない」
「何て言って別れた?」
「わからない」
「加藤は清水のことが好きって本当か?」
「それは本当にわからない」
加藤はクラスのお調子者で、清水はどちらかというときれいな部類のおとなしい女子だ。
「何か嫌だな、そのわからないって言葉。」
俺は素直に感じたことを言った。
「まあな、人間は『わからない』事を嫌うんだ。」
親友は髪をいじくりながら言った。俺が髪をさわってるのを見て、自分も気になったらしい。
「だから人間は人間なんだよ。自分がわかってない事をわかっているようなふりをしていて、実際それがっとても怖いんだ。」
「へぇ。そうか。」
俺はすこしこいつに感動した。
「だってさあ、これ見てくれよ。理解できないだろ?」
親友はそう言うと、鞄からおもむろにエロ本を堂々と取り出した。
題名『売りを始めた女子高生』。
というかバス車内で人いっぱいいるんですけど。
「これ千二百円もするんだぜ、高すぎだろ。どう考えてもおかしいだろ。」
「ああ、わからないな。」
俺は言った。
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
バスの中で起こった出来事です。
五分小説です。
読みやすいように書いています。
読んでくださったらうれしいです。
続きを表示