No.560426

魔法少女リリカルなのは -九番目の熾天使-

第二十六話『襲撃』

2013-03-29 14:20:15 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:13072   閲覧ユーザー数:5348

 

 

 

 

 三ヶ月後、ミッドのとある場所十人前後の人が険しい表情で各種装備を点検していた。

 

 その中で指示を出していた男の顔が特に険しかった。

 

「ゼスト隊長、装備の点検が終了しました」

 

「……そうか」

 

 その男の名前はゼスト・グランガイツ。この部隊の隊長であり、優秀な魔導師でもある。

 

 そして準備が整うと号令を出した。

 

「それではこれより作戦を開始する!」

 

 次々と突入する隊員達。先頭を切るのは勿論ゼストだ。その次にはゼストの信頼が厚い副隊長だった。

 

 突入してから十分後、ゼスト達は分かれ道に行き当たった。

 

「ゼスト隊長、どうしますか?」

 

「ここから二手に別れる。クイントとメガーヌは5人を連れて行け。俺は残りを連れてもう一方の道を行く」

 

「分かりました。聞いたわね、メガーヌ?」

 

「勿論よ。それじゃ行きましょう。隊長もお気を付けて」

 

「ああ」

 

 メガーヌとクイントは五人の隊員を連れて行き、ゼストは残りの六人を引き連れて進む。

 

 しかし、このまま順調に進むかと思った矢先の事だった。

 

 ヒュンッ! ドカァン!!

 

「ぐあっ!?」

 

 何かが飛来したかと思うと突然近くで爆発が起こり、隊員の一人が悲鳴を上げて倒れた。しかしながらゼストは慌てること無く冷静に辺りを見渡す。その隙に別の隊員が負傷した隊員に治癒魔法を掛けている。

 

 そして前方に人型の影が見えた。

 

「止まれ、侵入者。此処より先には一歩も進ません」

 

 その影がゆっくりと歩きながら警告してきた。そしてその影の姿があらわになるとゼストをふくめた隊員達が驚く。

 

 現れたのは十歳前後の銀髪少女だったのだ。その少女が今し方爆発を起こした張本人だとは信じがたかった。

 

 その少女の名前はチンク。ジェイル・スカリエッティの五番目の娘だ。

 

「君は……」

 

 ゼストが問おうとするがチンクはそれを無視して告げる。

 

「此処の場所を知られてしまった以上、お前達にはここで死んでもらうぞ」

 

 その言葉に全員が身構える。そして戦闘が始まった。

 

 七対一でチンクの方が数的に不利だが、それをものともせずにチンクは戦う。

 

 個々の戦闘力ではチンクが上だった。一人、また一人と隊員が倒れ、今ではゼストだけになってしまった。かく言うゼストも負傷し、肩で息をしていた。勿論、チンクも疲弊している。

 

 相対する二人。周りには隊員の死体が残るだけで静寂が辺りを包む。そして少しの逡巡の後、二人は同時に掛けだした。

 

 ゼストは大きな槍で、チンクは小振りのナイフで。

 

 一閃。

 

 互いが交差し、時が止まったかのように動かなかったが、それも僅かな間だった。ドサッという音を立てて一人が倒れ伏した。

 

「ぐっ……! よもや……これ…ほどとは……」

 

 倒れ伏したのはゼストだった。もう魔力も殆ど残っておらず幾つも付いた傷口から血が流れ続けている。

 このまま放っておけば確実に死に至る程の出血だ。

 

 チンクはそれを悟ったのか振り返らずに洞窟の奥へツカツカと歩いて行く。

 

 だがチンクは油断していた。手負いの相手だからこそ油断してはいけないのに。

 

「……ぐ……お……」

 

 倒れていたゼストは動かない体に鞭を打ってゆっくりと起こす。目の前には無防備な姿をさらしているチンク。

 

 チンクはまだゼストに気づいていない。そしてゼストはなけなしの魔力を込めてチンクに向かって撃った。当然、殺傷設定だ。

 

「っ!」

 

 チンクが異変に気づいて振り返る。しかしその時には既に遅く、ゼストが放った魔力弾がチンクの右目に直撃した。

 

「あぁああああ!!」

 

 右目を押さえて絶叫し藻掻き苦しむチンク。その姿をゼストは確認し、意識を手放した。

 

 

 時は少し戻ってクイント達が進む通路の先。

 

『敵部隊、二手に別れたぞ。チンクの方に七、そっちには五人が向かっている』

 

 広間のように開けた場所で俺はセレンの報告を聞く。

 

「思ったより少ないな」

 

『ああ。だが油断するなよ? 戦場において油断ほど恐ろしい物は無い。ま、余計なお世話だとは思うがな』

 

 ああ、俺には無縁だ。

 

「様子見することはあっても油断はしないさ」

 

『ほぅ……アマギという奴との戦いで不意打ちを受けたのにか?』

 

 なっ! 何でそれを知っているんだ!?

 

『くくく、何故と訊きたそうだな? 理由は簡単だ。ルシフェルから戦闘データを送って貰ったのだよ、つい先ほどな』

 

 まさかの相棒に裏切られた!?

 

【セレンが記録を開示しろと要求してきましたのでデータを送りました。特に問題は無いと判断しましたが?】

 

 大問題だ!

 

『まあ今はいい。だが、後で説教だ。覚悟しておけよ?』

 

「…………はい」

 

 鬱だ……もの凄く鬱だ。セレンのお説教はハンパない。足が壊死するんじゃないかってくらいに正座をさせられた上に罵詈雑言を浴びせられるんだから……。序でに言うと俺はそっちの趣味は無い! 断じて無いからな!

 

【接敵まであと十秒です】

 

『来たな。ミッション開始だ!』

 

 落ち込んでも仕方ない。さっさと終わらせよう。

 

「各自、警戒を怠るな」

 

「「はっ!」」

 

 さて、お客さんが来たようだ。

 

「何だアレは!?」

 

 俺の姿を確認し、警戒する女二人と男三人。ま、一度は警告を出しておこう。

 

「警告する。直ちに引き返せ。さもなくば殺す」

 

「喋った!? 機械じゃないの?」

 

「メガーヌ、気をつけて! こいつ、かなりヤバイよ!」

 

 俺はこの部隊の隊長各であろう女に注意を向けた。

 

 鍛え上げられた体、敵を射貫かんとする目つき、恐らく相当な手練れだ。魔力はそんなに高く無いが積み上げられた経験は高町達に匹敵するんじゃないだろうか?

 

 取りあえず俺はいつでも動けるようにホバリング状態にしておく。

 

「ちょっ! あの背中にあるのって推進エンジン!?」

 

 メガーヌと呼ばれた女が驚いた。

 

「漆黒のボディーに深紅のカメラアイ。それと角のようなものに背中の大型ブースター……まさか、あなたはっ!?」

 

 もう一方の蒼髪の女が警戒をより一層強くする。

 

 っていうか俺を知っているのか? となると……管理局に指名手配でもされたのか?

 

「クイント、どうしたの?」

 

 どうやら蒼髪の女はクイントと言うらしい。

 

「メガーヌ、こいつS級広域犯罪者、篠崎煉よ!」

 

「なっ! あの八神はやての家族を手に掛けたっていう極悪犯罪者の!?」

 

 極悪犯罪者って……いや、否定はしないが。

 

 そうか……俺は指名手配されていたのか。まあ普通に考えると当然か。恐らくクロノが八神(・・)に協力したのだろう。あいつは正義感が人一倍強いからな。

 

「そうだ。貴様等との力の差は歴然だ。大人しく引き下がるなら見逃すが、先に進むというのなら容赦はしない」

 

「くっ! だからと言って引き下がる訳にはいかないわ!」

 

「そうよ! 貴方達がやっていることは何があろうと許せない!」

 

 俺達がやっていること……十中八九ジェイルの戦闘機人の研究だろう。あいつも自分で犯罪って言ってたからな。

 

 だが俺には関係の無い事だ。倫理的に反していようが俺は気にしていないからな。

 

 さて、引く気が無いとみた。ならば仕方ない。

 

「このっ!!」

 

「はあっ!!」

 

 そして戦闘が始まる。メガーヌと呼ばれた女は中距離魔法で、クイントは魔法を駆使したインファイトで攻めてきた。

 

 さすがはベテランの魔導師だ。連携が整っている。しかし、それでも俺には及ばない。

 

【ゼロシフト、レディ】

 

 ベクタートラップで空間を圧縮、そして復元する力の反動で亜高速移動して二人の背後に回る俺。

 

「き、消えた? きゃっ!?」

 

「メガーヌ!?」

 

 メガーヌを蹴り飛ばしてダウンさせた。咄嗟に防御魔法も使用したみたいだが強度が足りなかったみたいだ。

 

「い、いつの間に……!」

 

 あまりの異常な速度に驚くクイント。しかしそれは仕方の無い事だ。だって、目視が不可能なのだから。

 

「きゃあっ!」

 

 そして再びゼロシフトで真横に回り同じく蹴り飛ばした。それでクイントは壁に叩きつけられて気絶した。

 

 呆気ない……実に呆気ない。この程度では刺激が足りん。だが、それを求めるのは酷なことか。

 

 今はまだ良い。もうしばらく待とう。何れ彼女達が俺を捕まえにくるのだから。彼女達に期待するとしよう。

 

『周辺に敵反応無し。ミッション完了だ。やれやれ、お前も随分甘くなったものだな』

 

 セレンが少し笑みを浮かべて言った。

 

「そう……だな」

 

 彼女が甘いと言った理由。それはこの二人を俺が殺さなかった事だ。セレンと共に行動していたときの俺ならば容赦なく殺しただろう。しかし、俺は殺さなかった。

 

 何故か。それは自分でもよく分からない。ただ、何となく嫌だったから……。

 

 まあそれに、彼女達にも何らかの利用価値があるかもしれない。今はそれで納得しよう。

 

『そうか。まあ、そういう事にしておこう』

 

 さて、これで俺の方は片が付いた。序でにチンクの様子でも見に行こう。

 

 そうして俺はチンクの場所へ向かった。

 

 後の話だが、俺が着いたときには右目を負傷していた。本人曰く「自分の油断が招いた失態だ」と言っていた。

 

 兎に角俺はチンクをジェイルの所まで運ぼうとして抱き上げると羞恥心により酷く狼狽していた。

 

 少し可愛かったな。

 

 

 

 

 

 現在俺は捕らえた二人の面倒を見ている。と言っても監禁状態の二人と話しているだけなんだが。

 

「よくもゼスト隊長を!」

 

 そう言って今にも襲いかかってきそうなクイント。だが彼女達のデバイスは没収しているので無力に等しい。

 

「それはお前達がいきなり襲いかかってきたからだろう? 俺達はちゃんと忠告したぞ」

 

「それは貴方達が犯罪者だからでしょ!」

 

 ああ……確かに。そう言われても仕方が無いか。俺もジェイルも犯罪者だからな。

 

 だが、それはお前達の組織だって同じ事だ。

 

「人の事が言えるのか管理局? お前等の上層部のおかげでどれだけの罪のない人が苦しみ死んでいったと思う? 今この時もそうなっているのに。しかも女子供まで手を出しやがってよくもまあ管理局は正義を語れるものだ」

 

 そう。この二年間、俺だってだらだら過ごしていたわけじゃない。ジェイルの協力の下で各管理外世界や管理世界等で行われている違法研究所を潰してきた。俺は悪であっても邪ではない。ま、端から見るとあまり変わらないかもしれんが。

 

「そ、それは……」

 

 クイントが口ごもる。どうやら自覚はあるらしい。だから此処でバラしてしまおう。どの道このまま生きて帰すわけにはいかないのだから。

 

「更に言えばジェイル・スカリエッティはお前等の組織の頂点、最高評議会が作り上げて違法研究を強要しているんだぞ?」

 

「「なっ!?」」

 

 この事は2人共知らなかったらしい。当然だろうな。

 

「それでも俺達を非難するか? 非難する権利があるのか? お前達自身が善行を行っていても組織が外道をしてるんじゃ説得力が無いな」

 

「「……」」

 

 最早黙ってしまう二人。少し言い過ぎただろうか?

 

「ま、何だかんだ言って俺も犯罪者なのは否定はしない。だが後悔はしていない」

 

「……理由を聞いても?」

 

 口を開いたのはメガーヌだった。

 

「話す気は無い」

 

 勿論それを教えてやる義理も無い。言ったところで彼女達には理解出来ないだろう。

 

「……それで、私達をどうするつもり?」

 

 次に訊いてきたのはクイントだ。俺の言葉が効いたせいか彼女は若干暗かった。でも絶望しているわけではない。

 

「どうもしないさ」

 

「「……え?」」

 

「どうもしないと言ったのだ。その必要性が無い。流石に逃がす訳にはいかないがな。だが今殺すのも忍びない」

 

 折角拾った命を無碍に扱うこともないだろう。なら、仲間にするなり軟禁するなりしてここにいてもらおう。

 

「ここにいたのかレン」

 

「捜したぞ」

 

 そして俺が言った後すぐにセレンとチンクが入ってきた。

 

「ああ、どうしたんだセレン、チンク?」

 

「なに、お前が部屋にいなかったんでな。捕虜の尋問序でに捜そうと思っただけだ」

 

 ああ、ついでなんですね。っていうか尋問とか言うな。二人が警戒しているじゃないか。

 

「尋問はもう終わった。有力な情報は得られなかったがまあ良しとしよう」

 

「そうか。で、この二人はどうするんだ? 殺すのか?」

 

 セレンがそう言って鋭い眼光で二人を見やった。その瞬間ビクッと方を振るわせる二人。セレンって怖いからなぁ……その反応は仕方が無い。伊達にリンクスじゃないからな。

 

「殺さねぇよ。っていうか分かっていて訊いただろ? 見ろ、二人が警戒してるじゃないか」

 

 俺が方を竦めていると彼女は意地悪な笑みを浮かべていた。

 

「ああ、すまん。つい意地悪をしたくなるのが私の癖でね」

 

 このドS女め。

 

「直す気がさらさら無いくせに」

 

 さらにタチが悪いことに自覚していて直す気が皆無ということだ。

 

「よく分かっているじゃないか。流石は私の男だ」

 

「誤解を招くような事を言うな」

 

「別に私は誤解されても構わんが」

 

「……はぁ」

 

 そしていつものように軽口を言ってくる。まったく、こっちをからかうのもいい加減にしてほしい。俺だって男なんだから勘違いしてしまう。

 

「…………溜息は私が吐きたいんだが(ボソッ)」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「いや」

 

 ふむ、気のせいか?

 

「あの……貴方達、本当に子供なの?」

 

「もう何が何だか……」

 

 ああ、そういえば俺達の見た目は子供だったな。精神は違うけど。

 

「見ての通り子供だ。少しひ捻くれているがな」 

 

「「捻くれ過ぎよ!!」」

 

「私もそう思うぞ2人共」

 

 二人が綺麗にハモって言ってきて、チンクもそれに同意する。ってかチンク、お前も人の事言えないぞ?

 

「兎に角、だ。残念ながら二人はここから帰さない。だけど不自由な生活はさせないつもりだから安心してくれ。ま、やっていることは犯罪に違いないがな」

 

「待って!」

 

 そう言って部屋から出ようとするとクイントが呼び止めてきた。

 

「一つだけ訊かせて頂戴」

 

「ああ、いいぞ」

 

「あなた…………どうしてそんなに辛そうな顔をしているの?」

 

「……え?」

 

 クイントの言葉に俺は訳が分からなかった。言っている意味が理解出来なかったんだ。

 

 セレンとチンクは口を挟まずに俺を見ている。

 

「とっても苦しそうよ、あなた」

 

「…………気のせいだ」

 

 俺はそう言って逃げるように部屋を出た。

 

 辛そう? 苦しそう? 当然だ。あんなことをしておいて苦しくない訳が無い。

 

「……レン」

 

 セレンが声を掛ける。

 

「レン、お前はまた自分を犠牲にするのか?」

 

「…………」

 

「……?」

 

 その問いに俺は答えない。チンクは訳が分からないといった顔をしているが空気を読んで口を挟まなかった。

 

 無言を肯定と受け取るやセレンは方を竦めた。

 

「……やれやれ。不器用だな、お前は。ま、そういう所が気に入っているんだが」

 

「ああ、自分でも分かっている。だけど、もう決めたことだ」

 

「分かっているさ。それに私も決めている。お前と共に歩むとな」

 

「っ!?」

 

 何故か驚いているチンク。

 

「ああ、ありがとうセレン」

 

 セレンは言葉はキツイが本当は優しくて面倒見がいい。彼女の言葉に何度助けられたか。

 

 そしてセレンはチンクの方へ向いて意地悪い笑みを浮かべた。

 

「どうしたチンク? 何をそんなに驚いている?」

 

「い、いや……別に……」

 

「そうか、ふふっ」

 

 今度はチンクがその場を逃げるように廊下を走っていった。

 

 それをセレンは愉快そうに見ていた。一体何だったんだろう?

 

 

 

 

 


 

 
 
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