「虹に触れたい」
僕は、もう絵が描けないんだ。
知っているかい?
絵はね、もともとキャンバスのなかに埋まっているんだ。
僕は、ただ白いキャンバスからほこりを払うように筆を置いていく。
キャンバスに隠された色を見つけ出そうとするのさ。
僕の絵の描き方。
ただ、それだけなんだよ。
知ってしまったんだ。
絵はね、色だけでなく、構図、形、質感、技法--様々なことが大切なんだって。
だから、人に習って一生懸命正しい絵の描き方を勉強したんだ。
誰だって上手くなりたいと思うよね。
だから、勉強したんだ。
でもね。
僕は世界にあふれた色が見えなくなったんだ。
どんなにモチーフを見ても、現実感がないんだ。
それだけじゃない。
話しかけられてもその声は遠くて、人が風景の一部としてしか認識できなくなった。
その風景もあやふやで、目に飛び込んでくる色が上手く把握できないのさ。
悲しかった。
理由は?
自分がないことに気がついてしまったから。
絵を理解し出して、僕の絵はただ憧れの有名な絵描きの下手くそな模写に過ぎないことに気づいてしまったんだ。
僕の描きたい絵がなんなのか。
それがわからなくて。
ああ。
違うよ。
僕の描きたいものはわかっているんだ。
でもなぜ描けなくなったのかがわからない。
描けないことが怖くなって、本当に描けなくなってしまったんだ。
ああ。
描けない。描けない。描けない。
キャンバスに埋もれていたあの絵。
その見つけ方がわからなくなって、全てに現実感がなくなってしまって、見つけ方を忘れてしまった。
子どもの頃は、純粋に描くことが楽しかった。
画用紙に描けば、虹にだって触れられた。
色が奏でるこの世界。
ただその色を感じることが、僕が生きている喜びにかわる。
生きている喜びにかわるんだ。
だから、学んだ全てを放り出して。
捨てて。捨てて。捨てて。
僕の世界を救うために。
僕は虹に触れにいく。
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「僕は、もう絵が描けないんだ」
詩です。