No.557194 EDF3P 戦時記録映像 #1-2 「ビル街の戦い」2013-03-20 14:33:27 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:941 閲覧ユーザー数:912 |
「くるぞぉ……」
その叫び声と共に放置された車の窓から銃口が突き出し、合図と同時にいくつもの火線が群れの中に吸い込まれていく。
巨大生物はすでにビル街を我が物顔で這い回っていた。
その巨大な体躯からは想像できないほど軽快に壁を登っていく様はまるでトラックが垂直の壁を走り回っているようだ……と言って伝わるだろうか?
そんな巨大生物の群れに対抗するために春稀達はレンジャー6と合流していた。
「相手の頭数が多いなら」という安直過ぎる理由だが、これがなかなか上手く嵌ったらしく、順調に巨大生物を葬っている。
マガジン一本分を撃ち切った聡が口を開いた。
「隊長!このペースじゃ弾薬が心元無いぞ!」
「はぁ!? 腐るほど有っただろうが!」
「さっき置いた時に蟲どもがどっか持って行ったよチキショウ!」
「んだとぉ!? アサルトはよくてもロケランの弾あれしかないんだぞ!」
憎らしげに巨大生物を見る。
さっきまでは弾が有るからと強気に出れたが、無いと分かったいま、そうバカスカと撃ちまくる訳にはいかない。と、なると当然弾幕からロケット弾が消え、これまで上手く行っていた防衛線の維持が困難になってしまった。
「こちらストーム1!ダメです!我々だけでは持ち堪えられません!」
『こちら本部。了解した。すぐに応援を送る』
援軍が来るまでは持たせなければならない……それはかなり厳しい宣告だ。
「このまま維持しろ!応援が来るまででいい!」
精一杯弾幕を張って少しでも敵の進行を抑えようとするが、弾幕の厚さよりも巨大生物の量が多いのかジリジリと追い込まれていく。
それでも正面から迎え撃つ分には十分余力はある。そう、『正面から』迎え撃つ分には。
「っ!上だ!上から来るぞ!」
上を見上げると、ビルの頂上から駆け下りてきていた。
いつの間に!?
春稀が発したその叫び声は、彼のすぐ横を通った液体が叩き付けられる音に掻き消された。
途端にアスファルトが焦げる臭いが辺りに立ち込め始める。
視線を落した先には……
「舗装が溶けて……? まずい!後退しろ!」
その瞬間、滝のように液体が地面を叩き始めた。
「酸だ!酸の雨だぁ!」
「アーマーが溶ける!? 下がれ!下がれぇ!」
ポリバケツの中身を叩き付けたような酸が過剰表現でもなんでもなく雨のようにアスファルト張りの道路を打ち、煙を上げる。
「走れ!」
「おい!そっちもカメラ置いて逃げろ!」
悲鳴にも似た怒号が部隊を駆ける。
壊走。
そう表現するのに相応しい状態だ。
だが退路にもすでに巨大生物がちらほらと表れ始め、塞がれつつあった。
いつの間にか包囲網が完成し始めていたのだ。
今の春稀達に後ろに手を割くような余裕はない。大群に全戦力をぶつけなければあっと言う間に突破されてしまうほど圧倒的に不利なのだ。
徐々に追い詰められていく……この恐怖が隊員達の焦りを加速させていく。
「リロードすったあぁ!?」
「拾うな!死ぬぞ!」
「残弾0!取ってくれ!」
「てめぇで取って来い!」
「車体持たんぞ!あっちに移れ!」「上見て言えバカ!」
「うぁあ!酸食らった!」
春稀の顔にも移動してきた時に見せていた余裕はなくなり、指示も大雑把になっている。
そもそも状況が細かな指示を必要としないだけに仕方ないともいえるだろうが。
「本部!応援はまだですか!」
怒鳴り声をぶつけるストーム2リーダーに本部は『もうすぐ着く。粘れ!』としか返さない。
「もう持たんぞ!後ろなんとかなんないのか!?」
「手が足りなさ過ぎ『なら手を貸そうか?』」
その声が回線に流れるのと同時に春稀達の上を何かが通り越してゆき、巨大生物の群れを炎が襲った。
一目見ただけでわかる。グレネードランチャーだ。
放物線を描いて次々と飛び込む榴弾が巨大生物の進行を抑えている。
「今だ!突破しろ!」
部隊全体が反転し、浮足立っている巨大生物に春稀達ストーム1のロケットランチャーが唸りを挙げ、甲殻を削り取ると、
『こっちだ蟲ども!』
その向こう側から乾いた破裂音が鳴り響き、巨大生物の生命活動を止めていく。
そして向こうから走り寄る隊員達が表れた。
「なんとか間に合ったみたいだな。本部、応答願います。こちらレンジャー1。ストームチームとの合流に成功。戦闘を続行します」
『こちら本部。了解した。現在航空部隊が向かっている。極力足止めし、ビル街から離れよ』
「レンジャー1了解」「ストーム1了解。聞いたな!迎撃しながら下がるぞ!」
「つまり同じことやってりゃいいんだろ!? ストーム2了解!」
グレネードランチャーの砲火が入ったことで前衛に人が必要無くなり、後退スピードは飛躍的に上がった。
その分が回り込みに対応できるのが大きな要因の一つだろう。
そのまま広い場所まで出たところで回線に連絡が入った。
『こちら第335航空隊サンダーチーム。これより航空支援を行う。動くんじゃないぞ!』
轟音と共に数機のマルチロール機、〈EJ-24〉が姿を現すと、羽の白い棒のようなものが放たれ、白い線を引きながらビルの群れへと突っ込んだ。
爆炎と共に巨大生物の断末魔が鳴り響く。
『フィールド・ラン命中!敵生物の大半の消滅を確認しました』
『かわりにビル数本も吹っ飛んだけどな!』
『こんだけあるんだ。二十本くらい折れたってかまやしないだろ』
『こちら本部。サンダー2、サンダー3。聞こえてるぞ』
『おっと、まずいまずい……それじゃあ残りは地上部隊に任せて他の地域に行こうか』
飛び去るサンダーチームから目を離し、突入する。
折り重なるように倒れたのであろうビルの残骸が散らばり、潰れた巨大生物の死骸や看板の残骸がそこかしこに見受けられる。
「これ本当に残ってるやつなんていんのか?」
聡の呟きに「さぁな」とレンジャー1リーダーが答える。
「でもまさかあなたが来てくれるとは思いませんでしたよ。結城さん」
結城は薄く微笑みながら「仲間のピンチに駆け付けるのは当たり前だろ?」と返す。
回線に『こちら情報部』と言ってEDF情報解析部門部長の声が流れ始めた。
『敵生物の解析に一部ではありますが成功しました。これより各員のレーダーに反映します』
バイザーの端に写る円が一瞬消え、再度表示される。
そこには――
「待てよ……どこにこんなにいる!?」
レーダーには敵を表す赤い点が前方、それもすぐ目の前に広がっていた。
レーダーは自分を中心に約200m以内までを正確に表示できる。つまり前方200m以内に巨大生物が多数生存しているということだ。
だが春稀達の目の前には瓦礫の山以外に視界に入るものは……
「まさか……この下に……」
気付くのと同時に何かが削れる音が聞こえ始めた。
それも一か所からではない。すぐそばから、遥か遠くから、瓦礫に埋もれたあらゆる場所から聞こえ始めている。
「来るぞ!攻撃用意!」
瓦礫の山に向かって銃口を構える。
やっと取り戻した余裕は消え去り、今は緊張が部隊を包み始めた。
どこから表れる……
神経を尖らせ、僅かな変化も見逃さぬよう目を凝らす。
どんどん近付いてくる音に対して見える範囲に変化はない。
聴覚から伝わる危機と視覚から得られる安堵とが混ざり合い、脳内の一方では警鐘が鳴りながら、もう一方では酷く疲れた身体を休めるようにと喚いている。
出るなら早く出てきてくれ……
もはや疑い様も無いほど大きくなった掘削音の中で誰もがそんな思いを抱いた瞬間、
「あそこだ!撃て!撃てぇ!」
瓦礫の山の一角に穴が空き、巨大生物の頑強な顎が突き出すのを見て、ストーム2が攻撃を開始する。
「あっちからも出てきたぞ!」
別の瓦礫を押しのけて巨大生物が表れた。
あちらからも、こちらからも……
穴の数は次第に増えてゆき、狭い穴からその巨体が次々と解き放たれ始める。
瓦礫の山だったこの地は、僅か数分で再び巨大生物で溢れ返っていた。
「グレネード!手榴弾を!」
誰かの叫ぶ声に反応して春稀がピンを抜く。
「穴に叩き込むぞ!抑えろ!」
なおも溢れようとする黒い流れを無理矢理塞き止めさせると、レバーを握って放る。
絶妙なコントロールで巨体の隙間を通り抜けた手榴弾は転がりながら奥を目指し……
振動が彼らの足を襲った。
それと同時に幾つかの穴から巨大生物の代わりに煙が溢れ始める。
大元の所を潰せたのだろう。
誰かが投げ込んだのか、見える範囲の穴はほぼすべて煙が立ち込めていた。
だがレーダーを見ても、巨大生物の数は減るどころか埋め尽くさんばかりの数まで膨れ上がっている。
その勢いは止まるどころかむしろ加速し、もはや春稀達だけでどうこう出来る規模を越えている。
「もう無理だ!撤退しろ!」
春稀の声と同時に数人が手榴弾を投げ、少しでも時間を、あわよくば撃破数を稼ごうとする。
少しでも減れば……
そんな思いを込めてだが、残念ながら足を止めるだけで精一杯だったようだ。
『榴弾飛ばすぞ!当たるなよ!』
先に退避した結城達から連絡が入り、背後から風が追い抜き始める。
この援護が無ければ再びあの包囲状態になっていたのは明らかなのだから結城の判断と行動の速さに助けられたと言ってもいいだろう。
レンジャー1のいる小高い広場になんとか辿り着き振り返ると、ごっそりと抉れた路面、基礎部分が見えているビル、燃える街路樹、倒れ伏した電柱や街頭……
それこそ本当に数時間前まで人で賑わっていた街は瓦礫と死骸が散乱するただの廃墟へと変貌していた。
そこに人々が生活していた痕跡はなく、跡形もなく、ただただ死んだ街が続くのみで、なんの生産性も持たないその光景こそが自分達がこれから作り出していくのであろうものだと頭では理解できても、胸が痛む……
この痛みも、いずれは消えるのだろうか。
だがそれは……
「戻ろう……ここにいてもできることはない」
俊太の呟きに小さく頷くと、その光景に背を向けた……
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戦闘である以上、周辺に甚大な被害が出る事はどうしようも有りません。
ですが、全ての隊員がそれを受け入れ切れているわけではなく、中には躊躇ってしまう者もいます。
その事を責めるべきなのでしょうか?