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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第五十五話 看病しました

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-03-11 23:54:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:34035   閲覧ユーザー数:30657

 「ふう…まさかいきなり雨が降ってくるとは思わなかったな」

 

 今日は俺が『買い物をする』と受け持ち、シュテルから頼まれた物を買うために商店街をうろついていた。ちなみに学校帰りですぐに商店街へ来たため、俺は制服姿である。

 しかし買い物の最中、突然空が曇りだし、『まさか…』と思っていた途端に雨が降ってきたので驚いた。しかもどしゃ降り。

 

 「何が降水確率0%なんだか…ハア~」

 

 今朝の天気予報を思い出し、思わず呟いて溜め息を吐く。天気マークも太陽しか無かったというのに…。

 まあ、宝物庫には傘も収納してあるので俺が雨に打たれる事は無かったりする訳だが。

 しばらく商店街で肉屋、八百屋、魚屋と順番にうろつき、

 

 「まあ、後は翠屋でシュークリームでも買って帰るか」

 

 買い物を終えた俺は最後に翠屋に寄る事を決め、商店街を後にした。

 しかし俺以外に傘を差している人が見当たらないという事は皆、折り畳み傘や合羽を持っていないんだな。頭の上にカバンを掲げたりしながら走ってる人が先程からよく視界に入る。

 そんなどしゃ降りの中、歩いていると不意に見知った人物が目に映る。

 フェイトだった。

 フェイトも傘を持っていない様で、雨宿りしながら空を見上げ、雨が止むのを待っている。俺が近付いているのには気付かない。

 

 「ようフェイト」

 

 「えっ!?」(ビクッ!)

 

 突然自分の名前を呼ばれて驚いたのか一瞬身体を震わせ、コッチを向く。

 

 「びっくりさせたか?悪いな」

 

 「勇紀?ううん、気にしてないからいいよ」

 

 「そうか…。その様子を見ると雨宿りだろ?」

 

 「うん。いきなり降ってくるとは思わなかったから。服も結構雨で濡れちゃったし」

 

 確かにフェイトの制服は雨に打たれたせいでビショビショになっており制服の上からうっすらと下着が見えている。

 

 「あー…フェイト。もう少し身を隠す様にした方がいいぞ//」

 

 「えっ?」

 

 『どうして?』と言った感じで聞き返してくる。…自分の今の状況に気付いてないのか?

 

 「その…服が濡れて、な。透けてるんだよ//」

 

 視線を逸らしつつ俺は指摘する。

 

 「透けてるって………えええっ!!?////」

 

 今自分の状態に気付いたのか慌てて振り返り、俺の方に背中を向ける。でも背中の方も服が透け、フェイトの肌が若干見えるので俺もフェイトの方に背を向け、視界に入らない様にする。

 

 「えっと…見た……よね?////」

 

 「………すまん//」

 

 すぐに視線を逸らしたとはいえ、見たのは事実だから正直に謝る。

 

 「ううん、勇紀は悪くないよ。それに…恥ずかしいけどゆ、勇紀になら見られても…////」(ボソッ)

 

 後半の方はよく聞こえなかったけどどうやら怒ったりはしていない様だ。とりあえずホッとした。

 

 「それよりこの雨だけど…まだ止みそうにないな」

 

 「…そうだね。どうしよう?」

 

 「アリシア、プレシアさん、リニスさん、アルフさんの誰かに連絡して迎えに来て貰うのは?」

 

 「姉さんも母さん達も今日は本局に行ってるから帰って来るのは夜になるんだ」

 

 何てタイミングの悪い…。

 ならフェイトはこのまま雨が止むまで待ち続けないといけない事になる。

 

 「なら俺が送ってくよ」

 

 「えっ!?」

 

 突然視線を感じた。

 おそらく俺の言葉に反応したフェイトが顔だけコチラに向けたのか、もしくは振り返って俺の方を見ているのだろう。

 

 「雨がいつ止むかなんて分からないし、このままだとフェイトが風邪を引きかねないだろ?」

 

 「で、でも悪いよ!勇紀、今から帰るんじゃないの?」

 

 「それはそうだけどな。買い物終わったし」

 

 「だったら私の事は良いから」

 

 「いや、流石に今のフェイトは見捨てられんし。それに翠屋にシュークリーム買いに行く予定もあるから丁度フェイトの家の近く通るんだよ。だからついでになるんだけど送らせてくれ」

 

 「で、でも…」

 

 「うーん。このままじゃ埒があかないな…よし!」

 

 俺はフェイトの方を向かず、手を伸ばしてフェイトの腕を掴む。

 

 「ゆ、勇紀!?//」

 

 「文句なら後で聞いてやるから、ほら」

 

 多少強引にだがフェイトの腕を引っ張って傘の中に入れる。

 俺が差している傘は小学生二人ぐらいなら充分入れる大きさなので問題は無い。

 

 「このまま俺が家まで送ります!これ決定事項だからな!」

 

 「………本当にいいの?迷惑じゃない?」

 

 「迷惑だと思うならこんな事言わんし、そもそも困ってる友達は放っておけん」

 

 「…ありがとう」

 

 お礼を言って俺と帰る事を決意した。

 ただ人目につかない様にしないといけないな。

 軽く認識阻害を掛けておいたので一般の人にはフェイトが濡れていない様に見えてる筈だ。

 後、周囲に人がいない事を確認して宝物庫からバスタオルを取り出し、同時に買い物袋を収納する。

 バスタオルをフェイトに渡し、自分を拭く様に指示をして

 

 「もういいか?じゃあ、行くぞ」

 

 「うん」

 

 こうして俺はフェイトを送り、翠屋に行くため再び歩き始めた………。

 

 

 

 「へー。シュテル達、頑張ってるんだね」

 

 「短期メニューもあと1ヶ月程で終わるだろうから。そうしたらアイツ等も晴れて局員だ」

 

 ここ最近のシュテル達の様子を俺はフェイトに教えている。

 四人共、訓練校から帰って来た時には結構疲労が溜まってるからその時は家事全般を俺かメガーヌさんが行い、シュテル達は出来るだけ疲労を残さぬ様に家ではゆっくりとさせている。

 レヴィは食事中に舟を漕ぐ事もあるし、いつか風呂場で寝て溺れないかどうか心配で仕方が無い。

 もっとも一人で入らせる様な事はさせていないけど。

 基本はメガーヌさんに付き添って貰い、あまりにも疲れてる様ならその日は無理をせず、次の日の朝にでも入る様に言ってある。

 シュテル、ディアーチェ、ユーリの3人は次の日の朝に入浴しているがレヴィだけは帰宅した当日に入る。本人は『朝風呂はあまり好かないんだよね。朝入るのに時間を割くなら寝る方に時間を回すよ』と言っている。

 

 「…レヴィらしいね。姉さんも睡眠はたっぷりと取るタイプだし」

 

 フェイトも俺の話を聞いてクスクスと笑っている。

 

 「ま、最近は学校行くギリギリまで寝てる時もあるから家で朝食を食べる事が無くってなぁ」

 

 「朝ご飯食べなくて大丈夫なの?」

 

 「登校中に食べれるようにおにぎりやサンドイッチを作ってやってるからその辺は大丈夫」

 

 おにぎりやサンドイッチなら中の具材を変えるだけで良いからな。

 

 「ただ、毎朝起こすのには若干苦労する」

 

 ここ最近のアイツは中々起きてくれない。普通に布団引っ剥がしたり身体を揺すったりする程度じゃあすぐに起きない。耳元で目覚ましのアラームを大音量で流したりしない限りは。疲れてるから無理も無いんだろうけど。

 

 「何となく分かるかも。姉さんが私やなのはと短期メニューを受けてた時も同じ様な状況だったから」

 

 フェイトも当時のアリシアの様子を思い出しながら言葉にする。

 

 「それと寝言もよく言ってるな。『今日こそは勝ってやる~』って。一体誰に勝とうとしてるんだか…」

 

 「模擬戦か実技の担当教官じゃないかな?」

 

 ああ、それは有り得るな。

 

 「でも懐かしいな。私と姉さん、なのはでも当時には敵わなかった人がいたから」

 

 「へえ…本局の凄腕魔導師か?」

 

 真っ先に思い浮かぶのは転生者第一号の鳴海少将なんだが。

 

 「違うよ。第四陸士訓練校の学長を務めている『ファーン・コラード三佐』っていう人なんだ」

 

 ファーン・コラード三佐……コミック版で出てきたあの人か。

 

 「俺、陸の局員はまだそこまで詳しくないからなあ。訓練校にも行ってないし。その人そんなに強いのか?お前等が勝てなかったって事は少なくともAAAランクはあると見るが?」

 

 敢えてフェイトに聞いてみる。実際この世界で当人に会った事は無いし。

 

 「残念だけど私達よりランクは下のAA。けど一度も勝てなかったよ」

 

 「AAでお前等に勝つ…か。大したもんだ」

 

 「うん…そうだ。勇紀にも聞いてみたいんだけど?」

 

 「ん?」

 

 「『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない』って誰かから聞いた事無いかな?」

 

 出たな。例の問答が。

 

 「うーん…局員になる前も、なってからもそんな言葉は聞いた事無いな」

 

 思い出すフリをしながらフェイトに答える。

 

 「じゃあ問題だよ。今言った言葉の矛盾と意味をよく考えて答えを出してくれるかな?」

 

 既にその答え知ってるんだけどな。

 

 「一つ確認したいんだが、その問題の『強さ』っていうのはどちらも『同じ強さ』っていう事でいいのか?」

 

 「???どういう事?勇紀の聞きたい事が分からないんだけど?」

 

 「そうだな…レヴィとディアーチェで例えてみるか。例えばその強さが『近距離(クロスレンジ)』を示すと仮定したとすれば『自分(ディアーチェ)より近距離(クロスレンジ)が強い相手(レヴィ)に勝つためには、自分(ディアーチェ)の方が相手(レヴィ)より近距離(クロスレンジ)が強くないといけない』っていう解釈になるんだよ」

 

 近距離(クロスレンジ)が得意なレヴィに対して近距離(クロスレンジ)が苦手なディアーチェが無謀と分かってて挑む様なもんだ。なのにレヴィより強くないといけないとか…。

 

 「確かに言葉としては矛盾してるけどそれは多分不正解だろ?その『強さ』という言葉が『一つに絞られていない』という解釈で考えれば、その言葉の矛盾と意味にも答えられるけど」

 

 「……ちなみに絞られていない場合の答えはどうなるのかな?」

 

 「そりゃあ相手(レヴィ)は『近距離(クロスレンジ)』が自分(ディアーチェ)より強いって分かってるんだからそれ以外の戦い方、『中距離(ミドルレンジ)』か『遠距離(ロングレンジ)』、もしくは『罠を張ったり』『搦め手で挑んだり』するに決まってるだろ?相手(レヴィ)の土俵に上がらず自分(ディアーチェ)の得意分野で戦うのが基本なんだし。明確…というかもっと正確に近い言い方で言うなら『『総合力』で自分より強くても自分の『長所』『持ち味』を誰にも負けないぐらい鍛え上げて自信を持ち、最大限に活かせる環境や状況を作って挑むのが望ましい』………ってところかな」

 

 これなら近距離(クロスレンジ)が得意なレヴィを相手にしても遠距離(ロングレンジ)が得意なディアーチェが距離を取って戦い続ける限り、勝率はかなり高い。

 要は近付かせなければ良いんだからな。

 

 「…で、どうなんだ?」

 

 「…凄いね勇紀は。こんなすぐに答えに辿り着くなんて思ってもみなかった」

 

 …すいません、フェイトさん。予め答えを知っていたもんで自分の力で辿り着いた訳じゃないんですよ。

 

 「…そう言えばシュテル達も通ってるのが第四陸士訓練校だった様な…。ひょっとしてレヴィが寝言で言ってた勝ちたい相手って…」

 

 「多分コラード三佐の事だと思うよ」

 

 原作ではなのはとフェイトがこの問答を聞いたのって短期メニューの終了直前だった筈だけど、レヴィの寝言から察するにもうコラード三佐と模擬戦をやってるって事か?

 

 「じゃあ今の問答をシュテル達も聞いてる可能性があるか」

 

 「うん…勇紀、今の問答の答えはまだシュテル達に教えちゃ駄目だよ?」

 

 「分かってるって。自分で考えなきゃアイツ等のためにならん」

 

 「ならいいけど……あっ、私の家見えてきた」

 

 フェイトの視線の先には見覚えのあるマンションが。話し込んでいる間にもうここまで歩いてたのか。

 マンションの入り口前まで送ってやる。

 

 「今日はありがとうね勇紀」

 

 「気にするな。それより家に上がったらすぐに身体拭いて風呂にも入れよ」

 

 「うん。それとこのバスタオルだけど今度洗って返すね」

 

 「ん?別にいい。やるよ。タオルぐらいならまだ十分家にあるし」

 

 「駄目だよ。借りた物はちゃんと返さないと」

 

 ホントにタオルの一枚ぐらいいいんだけどな。

 フェイトも時々頑固だからなあ。

 

 「…じゃあ今度な」

 

 「うん。勇紀も気を付けて帰ってね」

 

 「おう、またな」

 

 視線をフェイトの方に向ける事無く挨拶する。

 向いたら服が透け透け状態のフェイトさんがいらっしゃるからな。

 俺は見送ってくれてるであろうフェイトの視線を背中に受けながら翠屋に向かって歩き出す………。

 

 

 

 次の日。

 午前7時過ぎに俺の携帯が唐突に鳴り出した。

 相手はアリシア。一体こんな朝から何の用だ?

 

 「もしもし?」

 

 『ふえーん勇紀ー!フェイトが、フェイトがー!!』

 

 「フェイトがどうしたんだよ?」

 

 電話越しのアリシアは泣きながら喋る。

 フェイトに何かあったみたいだけど、どうしたんだろうか?

 

 『フェイトが凄い熱を出して、うなされてるんだよー!!私もアルフもどうしたらいいのか分からなくてー!!』

 

 熱?風邪でも引いたのか?

 

 『フェイトがー、フェイトが死んじゃうよー!!』

 

 「落ち着けアリシア。プレシアさんかリニスさんはいないのか?」

 

 『母さんもリニスも昨日からまだ帰って来てないんだよー!!』

 

 それだけ二人の仕事が忙しいという事だろう。

 

 『どうしよー!?フェイトがー!フェイトがー!!』

 

 「だから落ち着けって。俺が今からソッチ行くからお前はプレシアさんとリニスさんに連絡入れとけ」

 

 「お願いー!早く来てー!!ふええーん!!」

 

 相当テンパってるな。

 電話を切って俺は制服にすぐさま着替え、ランドセルを背負う。

 キッチンには丁度、メガーヌさんが朝食を作り始めてるところだった。

 

 「おはようございますメガーヌさん!すいませんけど俺の朝食は抜きでお願いします!」

 

 「おはよう勇紀君。どうしたの?何か慌ててるみたいだけど?」

 

 「フェイトが風邪引いたらしくて。お母さんのプレシアさんがまだ帰って来てないみたいなので俺が少し様子見てきます」

 

 「そう…何か必要な物はある?」

 

 「大丈夫です。シュテル達には俺抜きで学校行く様に言っておいて下さい」

 

 「分かったわ。フェイトちゃんに『お大事に』と伝えておいて」

 

 「はい!それじゃ」

 

 俺は少し慌ただしく家を出る。

 自転車に乗ってフェイトの住むマンションまで全速力で漕ぐ。

 程無くしてフェイトのマンションに辿り着いた俺はそのままフェイトの住む部屋の前まで行って玄関のチャイムを鳴らす。

 直後ドタドタと足音が扉の向こうから聞こえてきてガチャリと音を立てて開いたかと思うとアリシアが俺の元に飛び込んできた。

 

 「勇紀ー。フェイトがー!フェイトがぁぁーーっ!!」

 

 ガチ泣きで涙声を発するアリシアを俺は宥める。

 

 「落ち着け。フェイトの様子はどうなんだ?」

 

 「うぐっ!ね、熱がざがらなぐで…息もあらぐで…」

 

 「そうか。とりあえず上がらせて貰っていいか?」

 

 「う゛ん…」

 

 そのまま部屋に上がらせて貰うとリビングにもアルフさんが落ち着きの無い様子でソワソワしていた。

 

 「アルフさん」

 

 「ゆ、勇紀かい!?良かった!実はフェイトが朝から熱を出していて…」

 

 「アリシアから電話で簡単に聞いてますから。プレシアさんとリニスさんに連絡は?」

 

 「二人に連絡はしたよ。すぐに帰ってくるとは言ってたけど」

 

 「じゃあ、あまり心配はしなくて済みそうですね。けどどうしてフェイトは風邪を引いたんです?」

 

 「アタシにも分かんないよ。昨日、家に帰って来た時はもうフェイトは寝てたし」

 

 「うーん…そうですか」

 

 「でも昨日、フェイトは晩ご飯も食べず風呂にも入らずにずっと寝てたみたいなんだよねぇ」

 

 「えっ!?風呂にもですか?」

 

 「そうなんだよ。風呂のお湯は沸いてたのに入った形跡は無かったんだよ」

 

 おかしいな。昨日ちゃんと『風呂には入れ』って言った筈なんだけど。

 というか身体が冷えたまま寝たのか?なら熱を出したってのも納得は出来るし。

 

 「とりあえずフェイトの様子見ていいですか?」

 

 「ああ、いいよ」

 

 アルフさんに案内されてフェイトの部屋に入る。アリシアはリビングで待っておくように言っておいた。

 泣き止みかけてはいるがフェイトの姿を見てまたガチ泣きするかもしれないからだ。

 部屋に入ってすぐにフェイトの姿を視界に収める。

 苦しそうな表情を浮かべており『ハアハア』と呼吸は荒く、額には汗をビッシリと掻いており頬も赤い。

 

 「(どう見ても風邪だな)」

 

 風邪薬は流石に宝物庫に入れた記憶は無いから買いに行かないと駄目か。

 

 「…シャマルさんに連絡してみるか」

 

 よく考えたらシャマルさん呼ぶのが一番だよな。治療のエキスパートだし。

 

 「アルフさん。シャマルさんに連絡取れます?」

 

 「シャマル?………ああっ!!そうか!!シャマルに連絡取れば良かったんだ!!」

 

 「シーッ!シーッ!」

 

 人差し指を口の前で立てて『静かに!』とポーズで示すとアルフさんは自分の両手で自分の口を押さえる。

 

 「もしシャマルさんが今日仕事無いなら診に来て貰った方がいいかと」(ボソボソ)

 

 「そうだね!ちょっと連絡してみるよ」(ボソボソ)

 

 アルフさんはフェイトを気遣って静かに部屋を出て行く。

 今、部屋に残っているのは俺とフェイトのみ。

 

 「……………………」

 

 「ハア…ハア…」

 

 よく見たらフェイトの熱を下げる様な対処をしていないのに気付く。

 

 「(とりあえず氷枕と冷えたタオルがいるな)《アリシア、聞こえてるか?》」

 

 「《グスッ…聞こえてるよ…》」

 

 「《氷枕とタオル、それと洗面器に水を入れて持ってきてくれ》」

 

 「《うん…分かった…》」

 

 念話で指示を飛ばし、俺は部屋の窓を開けて室内の換気を行う。

 

 「……ん………」

 

 フェイトの呻き声が聞こえたので振り返る。少しずつ目が開いてるところを見ると、目を覚ました様だ………。

 

 

 

 ~~フェイト視点~~

 

 何だろう?誰かが私の部屋にいる様な気配がする。

 ゆっくりと私は目を覚ます。

 

 「あれ…今、何時?」

 

 「7時半前だな」

 

 「え…勇……紀……?」

 

 「おはよう」

 

 「……………………」

 

 私は勇紀の方を見て

 

 「え……えええぇぇっっっ!?何で勇紀が、ゴホッゴホッ…」

 

 「落ち着けフェイト。無理したら身体に悪い」

 

 「身体に?…あれ?何だか……身体が…怠いよ?」

 

 それに頭が何だかグラグラする。

 

 「今のお前は熱を出してるからだ。とりあえず身体は起こそうとしなくていい。そのまま寝てろ」

 

 「熱?…そういえば……熱い様な…」

 

 その時部屋の中に姉さんが入ってくる。その手には洗面器とタオルがある。

 

 「フェイト!?良かった!!目を覚ましたんだ!!」

 

 「姉…さん……?」

 

 「心配…したんだよぅ。朝起きたらフェイト…ずっとうなされて苦しそうだったから…グスッ」

 

 姉さんは半泣きだ。

 

 「そうなんだ…ゴメンね。心配掛けて……」

 

 「ううん。それより大丈夫?」

 

 そう言って水に濡らしたタオルを私のおでこの上に置いてくれる。

 

 「あ…冷たくて、気持ち良い……」

 

 「ちょっと待っててね。いま氷枕も持ってくるから」

 

 パタパタと部屋を急ぎ足で出て行く姉さんを私と勇紀は見送る。

 

 「…で、だ。フェイト、昨日お前風呂に入らなかったのか?」

 

 「う、うん…」

 

 勇紀に言われると昨日の事を思い出す。

 

 「何で?」

 

 『入れない理由でもあったのか?』と勇紀に聞かれたけど…

 

 「あの…その……笑わないかな?」

 

 「???笑う様な理由なのか?」

 

 「…………////////」

 

 何だか自分の顔が真っ赤になってるのが分かるよ。

 

 「…笑わないから教えてくれ」

 

 「実は…昨日、家に帰ってすぐにお風呂の準備をしたんだけど部屋のベッドで横になると眠くなってきて…そのまま寝ちゃった…んだと思う//」

 

 「……それは笑うというより呆れるな」

 

 「ううう………////」

 

 顔半分を布団で隠し、勇紀から視線を逸らす。

 は、恥ずかしい…。

 

 「まあ、風呂に入る事無く爆睡したから風邪を引いたって事だな」

 

 「……うん////」

 

 勇紀の解釈に頷く。

 

 「しかし眠くなったって事は疲れが溜まってたとかそういうのが理由じゃないのか?」

 

 「…どうだろう?ここ最近は執務官の仕事で色んな管理世界を回ってたぐらいだけど」

 

 ここ一週間で8ヵ所は回ったかな?

 

 「…それ、どう考えても疲れが溜まってきてる理由になるぞ」

 

 「そうなのかな…?」

 

 「多分な」

 

 私が働き過ぎて『自分で気付かない内に疲労が溜まり始め、免疫力が低下してた所に雨で濡れたまま身体を温めずに寝たのが風邪の原因で間違い無い』って勇紀が言う。

 その通りだよね。お風呂の準備はちゃんとしたのに入る前に寝ちゃうなんて本末転倒もいい所だよ。思わず自己嫌悪しちゃう私。

 

 「まあ、良い機会だから今日はゆっくり休め。流石に熱が出てる状態だと学校に行くのも仕事するのも無理だ」

 

 「う……うん………」

 

 「学校には…アリシアに連絡して貰うか」

 

 「そうしてほしいかな。……ところでどうして勇紀は家にいるの?」

 

 私は気になっていた事を聞いてみる。

 勇紀も学校の制服を着ているので、学校に通うって事だよね。

 だったら何でここにいるんだろう?

 

 「アリシアから電話が掛かってきてな」

 

 私は勇紀からこの家にいる簡単な経緯を聞く。

 

 「うう…私、皆に迷惑掛けてるよね」(シュン)

 

 「だな。元気になったらまずは謝る事だ」

 

 「そうするよ」

 

 勇紀と話しながらふと視界に時計が入る。時刻は既に8時前になっていた。

 

 「フェイト、今はどんな状態だ?眠たいとかお腹空いたとか」

 

 「…少しお腹が空いてるかな」

 

 勇紀に聞かれたので正直に答える。

 考えてみたら昨日は晩ご飯食べてないし。

 

 「そうか。ならちょっと待っててくれ。雑炊でも作ってやるから」

 

 「そ…そんな、悪いよ。勇紀も学校ゴホッゴホッ…」

 

 「無理して喋るなって」

 

 「でも…」

 

 そこまで勇紀にして貰うのは気が引ける。

 

 「雑炊ぐらいすぐ作れるし、ここから学校までなら自転車使えば間に合うから」

 

 自転車通学は駄目らしいけど『学校の近くにコソッと停めておけばいい』って勇紀は言う。最悪の場合は拒絶観測(キャットボックス)使って飛んでいくらしいし。

 

 「それに後の事はアルフさんに任せるつもりだから」

 

 アルフは今シャマルさんに連絡を取りに行ったらしい。けどアルフは一向に部屋に来る気配がない。どうしたんだろう?姉さんもさっきから戻って来ないし。

 勇紀もその事に疑問を持ってるみたい。

 

 「二人共、どうしたんだろうね?」

 

 「少し俺が様子を見てくるよ。フェイトは横になってゆっくりしとけ」

 

 『ついでに雑炊も作ってくる』って言って。

 申し訳無い気持ちで一杯だ。

 …けど、勇紀が私の事を心配して来てくれて看病してくれるのが嬉しい。

 

 「(私の事は気にせず学校に行ってほしいけど…このまま私の看病をしてほしいとも思ってる)」

 

 好きな人に迷惑を掛けたく無いと思う自分。

 好きな人と少しでも一緒にいたいと思う自分。

 二つの思いが私の頭の中でグルグル渦巻いている。けど…

 

 「(やっぱり私のせいで勇紀に学校を休ませる訳にはいかないよね…)」

 

 雑炊を作ってくれたら学校に行ってもらおう。

 そう思い、しばらく勇紀が戻ってくるのを待つ。

 やがて戻って来た勇紀の手にはお盆があり、お盆の上には湯気をたてている食器がある。

 

 「冷蔵庫にある玉子とネギを勝手に使わせて貰ったけど良かったか?何なら帰りに新しい玉子とネギ買ってくるけど?」

 

 「多分、問題無いと思うよ。だから気にしないで」

 

 ホントは母さんかリニスに聞かないと分からないけど、せっかく勇紀が作ってくれた好意を無下にしたくないし。

 

 「そっか。フェイト、上半身を起こせるか」

 

 勇紀の言葉に私は『うん』と軽く頷いて、おでこの上に乗っているタオルをどけて上半身を起こす。

 

 「…じゃ、ちょっと失礼して」

 

 勇紀はベッドの空いてるスペースに腰を下ろす。

 私のすぐ側に腰掛け、お盆を置いて

 

 「ほいフェイト」

 

 「!!?」

 

 雑炊を掬ったレンゲを私の口元に持ってきてくれる。

 こ…これってアレだよね!?『はい、あ~ん』ってやつだよね!?

 

 「////////」

 

 「フェイト?」

 

 「ひゃいっ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げちゃった。

 

 「食べないのか?」

 

 「う、うん!食べるよ!食べるけど…」

 

 てっきり自分で掬って食べるつもりだったんだけどまさか勇紀から食べさせてくれるなんて…。

 

 「(あうあうあうあうあうあうあう~~~~~~っっっ!!!!!!!)////////」

 

 どど、どうしよう!?勇紀には今すぐにでも『私の事は気にせず学校に行って』って言おうとしたのに。

 で、でも勇紀が『あ~ん』してくれるチャンスなんてもう二度とないかもしれないし。

 

 「(うう…どうしたらいいんだろ?)////」

 

 「…ああ、そういう事か」

 

 「???」

 

 私が悩んでる間に勇紀が何か言ったかと思うと

 

 「フー…フー…」

 

 「!!!!!?」

 

 レンゲに掬っている雑炊に息を吹きかけ

 

 「出来立てで熱々だと食べられないよな」

 

 改めて少し冷ましてくれたレンゲを口元に寄せてくれる。

 

 「ほらフェイト、口開けて」

 

 「じ、自分で食べられるから…////」

 

 「そうか?でもフェイトには無理させたくないし…」

 

 勇紀が凄く嬉しい事を言ってくれる。

 こ…ここまで心配してくれるならす、少しは甘えてもい…良いよね?

 

 「や、やっぱり食べさせてくれないかな?思ったより腕に力が入らなくて…////」

 

 「そうなのか?じゃあさっき『自分で食べられる』って言ったのは…」

 

 「ゆ、勇紀に負担掛けて悪いなと思って…(恥ずかしいから断ったんだけど)////」

 

 「…ハア~。そんな事で負い目を感じるなよ。病人さんは素直に甘えなさい」

 

 「………はい////」

 

 「まあいいか。とにかく食べさせてやるから口開けて。あ~ん…」

 

 「あ、あ~ん…////」

 

 レンゲで掬った雑炊を食べさせてもらう。

 あ、凄く美味しい。

 

 「どうだ?塩が効きすぎたりしてないか?」

 

 勇紀が味付けについて聞いて来るので

 

 「そんな事無いよ。美味しいし、食べやすくて今の私には丁度良い」

 

 溶き卵もネギも雑炊の味に上手い事合わさっていて、何杯でもお腹の中に入りそう。

 勇紀はホントに料理が上手だなあ。雑炊は簡単な料理なんだろうけどここまで美味しく作られると、女として敗北感を感じてしまうよ。

 

 「良かった。じゃあ次な…フー…フー…あ~ん」

 

 「あ、あ~ん…////」

 

 『あ~ん』を続けてくれる勇紀。

 私は勇紀に甘え、料理を食べさせて貰える事に幸せを感じていた………。

 

 

 

 雑炊を食べ終えた後、私は再びベッドに横になり勇紀が私のおでこに水で濡らしたタオルを置いてくれる。

 

 「そう言えば勇紀。姉さんとアルフは?」

 

 さっきから姿を見ない二人について尋ねてみた。

 

 「あー…アルフさんは家にはいなかった。多分シャマルさんを直接呼びにいったんじゃないか?」

 

 あ、アルフ…。電話なり広域念話なり使おうよ。

 

 「で、アリシアは『冷凍庫に氷が無いから買ってくる』って書置きを机の上に置いてやがった。だからアルフさん同様に家にはいない」

 

 姉さんもいないんだ。

 じゃあ今この家には…

 

 「(ゆ、勇紀と二人きりなんだ…)////」

 

 そう理解した瞬間、緊張してしまう…が、

 

 「(あっ、でも勇紀は学校があるから…)」

 

 勇紀がいなくなったら一人になるんだと思うと寂しさが込み上げてくる。

 

 「フェイト、食器片付けるな」

 

 「えっ?あ、うん。ありがとう」

 

 勇紀がお盆と空になった食器をキッチンの方に持っていく。

 私は勇紀が部屋を出た後に『後、勇紀と一緒に居られる時間はどれぐらいだろう?』と思い時計を見ると

 

 「(8時32分かあ………8時32分?)」

 

 あれ?勇紀の学校も8時半までに登校しないと駄目なんだよね。じゃあ…

 

 「あ…ああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」

 

 思わず大声を上げちゃった。そのせいで

 

 「ゴホゴホゴホ……」

 

 咳き込んでしまう。

 

 ダダダダダダダッ

 

 「どうしたフェイト!?何があった!!?」

 

 勇紀が私の部屋に戻ってくる。

 

 「ゆ、勇紀!!時間!!時間ーーーーッ!!!!」

 

 時計を指差し『8時半過ぎてるよ!』と声にする。

 そういえば雑炊はゆっくり食べてたから…。

 私のせいで勇紀が遅刻する羽目になってしまった。

 

 「それならさっきシュテル達にメール送っといた。『一時間目は行けないから』って」

 

 「そ、そんな悪いよ。私のせいで…」

 

 「気にするなって。アルフさんがシャマルさん連れて来るかプレシアさん、リニスさんが帰ってきたら俺も学校行くし。アリシアにも広域念話で聞いたら『私もそうする』だってさ」

 

 「でも…私の事ならもう大丈夫だよ?」

 

 「まだ顔が赤くて若干息の荒い状態で言われても説得力無いんだが?」

 

 「う…」

 

 確かに勇紀の言う通り、ホントは少ししんどい。

 横になってても頭がグラグラする感じで焦点が少し合わないでいる。

 

 「勇紀!!氷買ってきたよ!!」

 

 そこへ姉さんが帰ってきて玄関から大声を上げる。

 そのまま私の部屋にやってきて手に持っているビニール袋から氷を取り出して私達に見せる。

 

 「これでいいよね?」

 

 「ああ、それじゃあ氷枕の準備頼む」

 

 「分かったよ!」

 

 姉さんはすぐに部屋から出て行き勇紀も『洗い物の続きしてくるな』と言って部屋を出る。

 そう言えば私が大声出したから勇紀は洗い物の最中に部屋へ駈け込んできたんだった。

 

 「(ふー…)」

 

 勇紀は『寝た方が良い』って言ってくれたんだけどこんな時に限って眠気がこない。

 目を瞑っても中々寝付けず、すぐに目を開けてしまう。

 

 「眠れないなあ…」

 

 どうしよう?

 

 「フェイト!氷枕出来たよ!!」

 

 そこへ飛び込んでくる姉さん。すぐに私の枕元にやってきて

 

 「少しだけ頭浮かせられる?」

 

 「…うん」

 

 頭を浮かせるとすぐに枕と氷枕を交換してくれる。

 後頭部もひんやりとして気持ち良い。

 

 「他に何かしてほしい事はある?お姉ちゃん、何でもやっちゃうよ?」

 

 「ありがとう姉さん。でも今は特にしてほしい事は無いよ」

 

 「そう?もし何かしてほしい事があったら呼んでね」

 

 『うん』と小さく頷くと姉さんは部屋を出て行く。

 それからは勇紀も姉さんも部屋に来る事はなく、一人でボーっと横になったまま天井を見上げている。

 

 「(うーん…)」

 

 眠れないとなると何だかヒマだなあ。

 

 「(それに汗でパジャマが濡れて…これ、着替えないと駄目だよね)」

 

 私は念話で姉さんを呼ぶ。姉さんはすぐに来てくれ私が着替えたい旨を伝えると手伝ってくれた。

 ただ…

 

 「シーツも若干湿ってるね」

 

 「…うん」

 

 それだけ汗を掻いていたのだと理解する。

 

 「とりあえず私の部屋のベッドに移動しよ」

 

 「そ、そんな悪いよ…」

 

 「駄目!このシーツは洗濯するからその間は私のベッドで寝かせます」

 

 姉さんは無理矢理私を布団から引っ張り出して部屋から出る。

 リビングには勇紀が座っていたけど私と姉さんの方を見て尋ねてくる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「フェイトを私の部屋で寝かせるんだよ。ベッドのシーツが汗で湿ってるんだ」

 

 「…なるほど。じゃあ、シーツの洗濯手伝おうか?」

 

 「そこまでして貰うのは悪いよ。それより勇紀。私の部屋の扉開けてくれない?すぐそこの扉の中が私の部屋だから」

 

 「了解」

 

 腰を上げた勇紀が扉を開け、私は部屋の中にある姉さんのベッドに寝かされる。

 

 「ゆっくり休んでねフェイト」

 

 部屋を出る姉さん。入れ替わりに勇紀が入ってくる。手に持っているのはさっき私の部屋にあった洗面器とタオル…それに氷枕。

 部屋の扉を開けてすぐに取りに行ってくれたんだ。

 私が頭を少し浮かせるとすぐに枕と氷枕を換えてくれ

 

 「タオルのせるぞ」

 

 「ん…」

 

 おでこにひんやりとした濡れタオルを置いてくれる。

 

 「じゃあ、ゆっくり休めよ」

 

 勇紀が部屋を出て行こうとするけど

 

 「あっ、待って…」

 

 私は勇紀の手を掴んで引き留める。

 

 「その…私が寝るまで一緒にいてくれないかな?一人だとどうにも眠れなくて…少し寂しくて…」

 

 「…つまり話し相手にでもなればいいのか?」

 

 「……うん」(コクリ)

 

 「分かった」

 

 私がベッドのスペースを少し空けるとそこに腰を下ろし、私の側に座って色々話してくれる。

 主に学校での出来事や家での出来事…後は今、勇紀の配属されてる部隊の事とか…

 

 「…じゃあ勇紀はもう昇格したんだ…おめでとう」

 

 「ありがとな」

 

 勇紀が笑顔でお礼を言ってくれる。

 私の好きな笑顔。…出来れば私だけにその笑顔を向けてほしい。

 

 「(自分の想いを伝えたら…勇紀は受け入れてくれるかな?)//」

 

 『告白しようかな?』という考えが頭をよぎるが、それが出来たら苦労しないよね。

 

 「(あ…れ……?)」

 

 そんな時に眠気がやってきた。

 

 「勇紀…あの…ね……」

 

 「ん?」

 

 「わた…し……」

 

 段々と目が閉じていく。

 

 「眠いのか?ならそのまま睡魔に身を委ねとけ」

 

 勇紀の声が聞こえると同時に私の頭に温かい何かが触れ、撫でる様に動いてる。

 

 「(…というか…撫でて……くれてる……)」

 

 これ、勇紀の手だ。

 温かくて心地良い。どんどん眠気が私を包む。

 

 「もうすぐプレシアさん達も帰って来てくれるだろうから安心しろ…な?」

 

 うん……。

 

 「お前が寝てもしばらくは隣にいてやるから」

 

 隣に…。

 

 「(勇紀……私は……これからもずっと……勇紀の隣に……いたいな……)//」

 

 そこまで思った瞬間、私の意識は暗闇の中に落ちていった………。

 

 

 

 ~~フェイト視点終了~~

 

 フェイトが寝静まってすぐに俺は部屋に防音結界を張った。

 

 「(静かに寝かせてやりたいからな)」

 

 フェイトの頭を撫で、その寝顔を眺めながらそう思う。

 まだフェイトの熱は下がらないものの、寝顔は安らかなモノで呼吸も落ち着いている。

 しばらく撫で、規則正しい寝息を聞いた後に俺は静かに腰を上げ、部屋を出る。と同時に…

 

 「勇紀!シャマルを連れて来たよ!!」

 

 「ハア…ハア…。わ、私そんなに体力無いんですけど?」

 

 「フェイト!!私のフェイトオオォォォッッッ!!!」

 

 「落ち着いて下さいプレシア!!」

 

 帰って来たアルフさんと息を切らしているシャマルさん。それに大声を出してフェイトを心配しているプレシアさんとプレシアさんを落ち着かせようとしているリニスさん。

 …皆、病人(フェイト)が寝てるのに声でか過ぎです。防音結界張っといて正解だったな。

 

 「ちょっと皆、声が大きいよ!!フェイトの体に障るじゃん!!」

 

 注意するのは良いけどお前も声デケーよアリシア。

 

 「すみませんシャマルさん。わざわざ呼び立てて。今日は仕事とか大丈夫ですか?」

 

 「ゼエ…ゼエ…だ、大丈夫よ。今日は午後から本局に顔を出すだけだから」

 

 息切れしながらも答えるシャマルさん。

 

 「それで勇紀君!!フェイトの容態はどうなの!?」

 

 「落ち着いて下さいプレシアさん。フェイトもようやく寝付いたトコですから。熱はあるものの深刻なモノじゃない筈ですから」

 

 それから息を整えたシャマルさんにフェイトの容態を話す。

 

 「…分かったわ。後は私が診ておくから勇紀君とアリシアちゃんは学校に通っても大丈夫よ」

 

 「「お願いします」」

 

 俺とアリシアは頭を下げ、二人揃って家を出る。

 

 「勇紀、今日はありがとね」

 

 家を出てすぐにアリシアに礼を言われる。

 

 「気にするな。それよりお前、学校に連絡したのか?」

 

 俺が見ていた限りではコイツ、連絡してなかった様な…。

 

 「あはは…忘れてた♪」

 

 やっぱりか。

 

 「…学校着いたらちゃんと理由言っておけよ」

 

 無断欠席なんてしたらなのは達が心配しまくるだろう。管理局の仕事がある日にはちゃんと休む連絡入れてるみたいだし。

 

 「そうするよ」

 

 俺は自転車を押し、アリシアと並ぶように歩く。

 

 「ねえ勇紀。私を聖祥まで送ってよ?」

 

 「…まさか自転車(コレ)でか?」

 

 「うん!」(コクリ)

 

 「…俺にとっては遠回りになるんだが…まあいいか」

 

 俺は自転車のサドルに跨り、アリシアは後ろのリヤキャリアに横向きで座り両手を俺の腰に回す。

 二人乗りは基本違法な上、この時間帯に小学生がうろついてるのもアレなので自転車周りに認識阻害を使用する。

 

 「じゃあ行くぞ。しっかりつかまってろよ?」

 

 「うん(勇紀に密着勇紀に密着♪)////」

 

 アリシアがギュッと強くしがみついたのを確認して俺はペダルを漕ぎ出す。

 

 「(帰りにもう一回フェイトの家に顔出すか。…後、腹減った。よく考えたら俺、何も食ってないじゃん)」

 

 そんな事を考えながら俺は聖祥に向けて自転車を進めるのだった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 前話(第五十四話)のdeltago様のコメントで、この作品のユーザーお気に入り登録者数が1000人超えた事を知りました。

 お気に入りに登録して下さっている読者の皆様、本当にありがとうございます。

 まさか自分がここまでお気に入り登録されるとは思っていませんでした。

 これからも出来るだけ自分の妄想を文字にしつつ、面白い作品を執筆出来たら良いなと思っていますので、どうか温かい目でこの作品を見守ってやってください。

 


 
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