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真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第一部 第06話

ogany666さん

私用により一週間ほど投稿が遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
次回は少し早めの二週間後(予定)となっておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
それでは、第6話をお楽しみください。

2013-03-08 19:58:07 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:9269   閲覧ユーザー数:6720

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳たちと再会してから約一ヶ月、俺は今までと同じように技術の試行錯誤、私兵の練兵をしつつ華琳たちと共に日々を過ごしている。

宴の日以来、華琳は俺の屋敷に通うようになり、春蘭たちもそれに付き添う形でこちらに来るようになった。

そして、今は何をしているかというと・・・・。

「てやああああああああああっ!」

春蘭から、もはや恒例となった試合を申し込まれて相手をしている。

渾身の気合を込め、己が出せる最高の一撃を後の魏武の大剣である春蘭が打ち込んでくる。

以前の彼女に追い回されるだけの俺なら震え上がって逃げ出していただろうが……。

「よっと、中々いい打ち込みだ。だけど外したときのことも考えないと、ね!」

今の俺はその一撃を刀でいなし、斬り返しをするほどになっている。

「グッ」

返しの刃が肩口に入り苦痛に顔を歪めながら膝をつく。

「勝負ありだ、姉者」

それを脇から見ていた秋蘭が勝負は決したと見て止めに入り、俺もそれに合わせて刀を納めた。

「くっ・・・・!もう一度だっ!もう一度私と勝負しろっ!」

「春蘭、今日はもうやめたほうがいい、息が上がって動きが鈍くなってきてる。それに、そんなに頭に血が昇った状態じゃあ俺には勝てないよ」

「うるさいうるさぁいっ!貴様にッ、勝つまで、私は、仕掛けるのをやめないッ!」

そう叫びながら春蘭は膝をついた体勢から立ち上がりざまに一歩踏み込み、俺の腹部目掛けて右斬上を入れようとする。

「やれやれ・・・・」

彼女が放った一太刀をかわしながら相手の死角になる形で鍛練用の刀を放り投げ、腰に下げている正宗に手を掛ける。

「でええええいっ!」

春蘭も初太刀を外した後、即座にこちらへと振り返り逆袈裟を放つ。

俺は振り下ろされる剣に合わせる形で正宗を構えて居合いを放った。

キイィィィィン・・・・・・・カラン

放った居合いは狙い通り相手の剣を捉えて二つに両断し、春蘭はその光景を目の当たりにしてただ唖然とするばかり。

「これで今日はもう俺を相手にする事は出来ないね、根を詰めすぎるのは良くないよ」

刀を鞘に納めながら春蘭にそう話しかけたが、俯いたまま返事が無く、もう一度声を掛けようとすると・・・。

ドサッ

その場にへたり込んでしまい。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

大声で泣き出してしまった。

「にゃぜにゃんだ~~~!なぜわらしは、かじゅとにかてらいのらぁぁぁぁ!わらしやかりんしゃまとひとちゅしかちわわにゃいのにいぃぃぃ!かじゅとのばかぁぁぁぁ!びいぃぃぃぃ!」

「一刀、流石にこれはやり過ぎだ。姉者が泣き出してしまったではないか!」

座り込んで大泣きする春蘭とそんな姉を見て黙っていられなかった秋蘭に詰め寄られて途方にくれてしまう。

「・・・・・・何をやっているの?」

そうこうしていると屋敷で母上と話していた華琳が中庭に来て、何がどうなっているのか解らず俺に問いかけてきた。

「いや、実はさ・・・・・賈詡賈詡鹿々(カクカクシカジカ)

俺は華琳に事のいきさつを説明すると、深くため息をつき春蘭をなだめに入った。

「・・・春蘭、泣き止んでこちらを向きなさい」

「ひっく・・・・かりんしゃまぁ?」

華琳が居る手前、何とか泣き止んで彼女のほうを向く春蘭。

それを確認した華琳は、春蘭の肩をそっと抱くと優しく頭を撫で始めた。

「春蘭、あなたの武勇はその辺の精兵と比べても劣るものではないわ。今は一刀に敵わなくてもいずれ勝てるように修練すればいいのよ。いつまでも一刀に遅れを取る気は無いのでしょう?」

「も、もちろんでしゅ!かりんしゃま!」

「ならばこんな所で泣いてなんていられないわよ、貴方が日々成長しているように一刀もまた成長しているのだから。ただ、今日はもうこのくらいにしておきなさい、無理をしてもいい結果など望めないわ」

「はい、華琳様!」

春蘭がようやく収まり一安心したのも束の間、華琳がこちらに近寄りいきなり俺に抱きついてきた。

「か、華琳様ぁ!!?」

「ちょ、ちょっと華琳」

「勝者にはこのくらいの褒美があったほうが励みになるでしょう?春蘭もして欲しければ頑張る事ね」

「は、はいっ!!!!!この夏候惇!華琳様に喜んでいただく為に、いつの日か必ず一刀を討ち取って御覧に入れましょう!!!!」

「ああ、姉者は可愛いなぁ・・・・」

後ろで姉妹揃って暴走する中、華琳が春蘭たちに聞こえないように耳元で囁く。

「あなたもあの娘の人となりが解ってきているでしょう。純粋で自尊心が高くて傷つきやすい娘なのだから気をつけなさい」

「・・・ああ、気をつけるよ」

「あらあら、随分と仲良くなったのですね、二人とも・・・」

「「!?」」

慌てて華琳から離れて声のほうへ意識を向けると、そこには鄒を連れて中庭まで様子を見に来た母上がニヤニヤと笑いながら俺たちを眺めていた。

「二人がそんなに親密な関係だとは知りませんでしたよ・・・・」

「ち、違います母上!俺たちはまだそういう関係では!」

「大丈夫です、何もいわなくても母親であるこのわたくしには分かっておりますよ。どうりで袁家からの良い縁談の話を「だが断る」と一言で突っぱねたわけです。既に想い人が居るのであれば仕方ありませんね」

少し前に袁家の当主から「娘が君を婿に欲しいとせがまれたのだがどうだ?」という縁談の話があり、人生一周してはいるが、今の俺の年齢では正直まだ結婚を考えるような時期でもないので断らせてもらったのだが、母上は今の事と一緒に考えて早合点し始めているらしい。

俺だけでは駄目だと思い華琳にフォローを求めるよう視線を送るが、俺を見て笑っているだけで一向に助け舟を出さない。

絶対に楽しんでるなこれ、自分の事でもあるんだから何とかしてくれ。

「一刀、今後あなたに縁談の話があったときは、息子にはもう心に決めた人が居るとわたくしのほうで断っておきますから安心しておきなさい」

「あの!ちょっと!母上!?」

俺の呼び止めも聞かずに母上は身重な体にもかかわらず軽快な足取りで中庭を後にしていった。

そんな母上の姿をただ呆然と見ていると、屋敷に戻らずにいた鄒が俺に話しかけてくる。

「鍛練お疲れ様です郷様。喉がお渇きでしょうと思い、皆様のお飲み物を用意させていただきました」

「あ、ああ。有難う、鄒・・・・」

俺は鄒から飲み物を受け取ると、今の話をそれとなく彼女にも聞いてみる。

「鄒・・・・・今のは」

「はい、分かっております郷様。今のは奥方様の早とちりであると言う事は」

その言葉を聴いて俺は大きく息をして安堵した。

「そうか、良かった。鄒にまで勘違いされたらどうしようと思ったよ」

「心配には及びません。天下を憂い、万民を想う郷様が色恋に現を抜かしている暇など無い事は重々承知しております」

「・・・・・へ?」

何か雲行きが怪しくなってきたぞ。

「郷様は天下泰平を想い、自らの手でそれをなす為に日夜研鑽を重ねて居られる大変聡明なお方。そんな郷様が色欲に堕ちて自分を見失うなど有ろう筈が御座いません」

「・・・・・」

鄒は鄒で俺の事を聖人君子か何かと勘違いしているらしい。

このまま行くと鄒の中で、俺は神か何かに持ち上げられそうで心配になってきたので、釘を刺しておこう。

「鄒、俺はそんな大層の者じゃないよ。目の前の人を助けるので精一杯だし、鄒や正宗、兵士たちが居なければまだ何も出来ないただの子供さ。だから君もそんな風に俺を持ち上げないで今までのように傍で俺を支えてくれ」

「郷様・・・・・・畏まりました。鄒は今の言葉を胸に刻み精進いたします。それでは、奥方様のお加減を見て参りますので失礼致します」

鄒はそう言い残して母上の後を追って屋敷の中へと帰っていく。

屋敷に戻る途中でまた泣いているのか、手拭を顔に当てていた。

「・・・・・なあ、一刀」

「なんだ?」

屋敷の中へ戻る鄒を見送っていると、春蘭が貰った飲み物を手にしながら真剣な顔をして俺に尋ねてきた。

「前々から思っていたのだが、韓白という侍女には冷たく当たって、何故あの韓鄒という侍女には優しいのだ?」

「え?」

「お前を見ていると、何故二人の侍女の扱いに違いがあるのか・・・・・と気になってな」

「ふむ・・・・。確かに一刀のあの二人に対する温度差は私も気になっていた。差し支えなければ教えてはくれないか?」

姉妹揃って「わたし、気になります」と言わんばかりの顔で俺に問いかけてきた。

あのショタコンと鄒の扱いの差ねぇ・・・・。

「まぁ、あの韓白に関してなんだけど・・・・。あいつは少し特殊な性癖を持っていて俺を見つけたら所構わず襲い掛かってくるんだよ。俺も物心つく前から付けねらわれて度々貞操の危機になったのを覚えている。それもあって奴に近づかれると反射的に拒否反応を起こしてしまうんだ」

「・・・確かにお前を見るときのあやつの眼は尋常ならざる物ではあるが・・・・」

「だが、それでは韓鄒のみを贔屓している理由にはならんだろう」

は?

鄒を贔屓している?

確かに鄒は俺の世話役だったこともあるから仲は良いが、別に贔屓しているつもりはないぞ?

「いや、鄒にはそもそも韓白のような特殊な性癖はないし、細かい事にも気配りが出来て俺の心情察してくれる優秀で瀟洒な侍女だよ。それに俺の成長や感謝の意を伝えると嬉しくて涙まで流してくれる娘なんだし、扱いが良くなるのは当然じゃないか」

「はぁ!?何を言っている!?あいつに特殊な性癖が無いだと!?いいか一刀!あいつが拭いているのは涙などではなくhヴェッ!」

春蘭は俺に何か鄒の事を教えようとしたが、糸の切れた人形のように急に倒れこみ意識を失った。

「おい春蘭!どうしたんだ?大丈夫か!?」

「あ、姉者!」

「春蘭!?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

急に倒れた春蘭を見て驚いていると、屋敷の中からものすごい勢いで鄒が先端の膨らんだ変な棒を持ってこちらへやってきた。

「す、鄒?」

「窓から奥方様と一緒に郷様たちの様子を覗っていたのですが、夏候惇様が倒れられたのが見えたので急ぎ駆けつけました。どうやら先程の郷様との鍛練でお疲れになってお休みになられたようですね。夏候惇様は鄒が屋敷の中へ連れて行き介抱させていただきますので、それでは失礼致します」

鄒は用件だけ俺に伝えると春蘭を小脇に抱えてそのまま屋敷へそそくさと戻っていく。

「姉者・・・・・姉者ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

春蘭が連れて行かれるのを見て気が動転した秋蘭もものすごい勢いで春蘭と鄒の後を追い屋敷の中へと入っていった。

華琳と二人残された俺は春蘭が何を俺に教えようとしたのか聞くことにする。

「なぁ、華琳。春蘭は鄒のことに関して何を教えようとしたのか心当たりは無いか?」

「・・・・・さ、さぁ何でしょうね。私にも分からないわ。後で帰ってきた春蘭自身に聞いてみたら?」

華琳はぎこちない動きで髪のドリルを弄りながら眼をそらしてそう言う。

華琳のこんな様子など今まで見たことが無いが、これ以上は何を聞いてもはぐらかされるだけだろうと思い、深くは追求しなかった。

しばらくして二人が戻ってきたときに再び聞いてみると・・・。

「・・・・・か、韓鄒殿は完全で瀟洒な従者だ!どこも可笑しい所などありはしない!そうだな秋蘭!?」

「・・・・あ、ああ、その通りだ姉者。あの方は素晴らしい従者だ」

と、二人とも口を揃えて言い、さっきの話は無かった事になってしまった。

俺は今日、鄒の何か恐ろしいものの片鱗を味わった気がする。

 

 

 

 

華琳たちが屋敷を後にした夜遅く、俺は部屋で自分の知識を書物にまとめながら過ごしていると扉が静かに開き、そこから宮中に忍ばせている諜報員が姿を現す。

「郷様、宮中の宦官どもに動きがありました。近々清流派に対して大規模な弾圧を企てている模様です」

「・・・・・詳しく聞かせろ」

俺は諜報員からの報を聞いて嫌な予感がした。

父上が司空になり華琳たちが襲われて約一ヶ月、タイミングが良すぎる。

「はっ、元々朝廷の官職で幅を利かせて汚職をする宦官と、腐敗した政治を排斥しようとする清流派の間では権力争いが絶えなかったのですが、旦那様が司空の座に就かれた事で均衡が崩れてしまいました。それに危機感を抱いた宦官どもは兼ねてより計画していたと思われる清流派の弾圧を実行に移そうと考えたようです」

「首謀者はあの男?」

「御察しの通り、張譲です。あの男は先の事で郷様を含めた北家を逆恨みしている節がありますので、それも含めてのものかと」

この前の一件以降、鳴りを潜めていたから曹騰様の忠告が効いたのかと思っていたが、どうやらこちらに飛び火したらしい。

「父上はどうしている?」

「宦官どもの悪行を帝へ訴える上奏文を作成しておられます。奴等の弾圧もそれ危惧して前倒ししたものかと・・・・」

「この事は父上には?」

「お伝えしました。しかし、何かを悟られたようなお顔をされるとわたくしめに下がるように指示されて、後はお変わりなく」

父上・・・・・何をお考えなのだ?

「分かった、父上には俺からも声を掛けておく。後の事は追って指示を出す、下がっていいよ」

「御意」

諜報員が軍礼をして姿を消したのを確認すると、俺は父上が居る書斎へと歩を進めた。

「父上、私ですが入っても宜しいでしょうか?」

「一刀かい?どうしたんだい、こんな夜中に?鍵は開いてるから入っていいよ」

了解を取り中へ入ると、暖の灯りを頼りに筆を取る父上の姿がそこにあった。

俺は書斎に入ると早速本題に入る。

「父上は兵の話を聞かれたのですね?」

「・・・・・ああ、聞いたよ」

「それで、如何されるおつもりですか?」

「・・・・・別に、いつも通り職務をするだけさ」

「なっ!?」

その言葉を耳にして俺は驚愕した。

父上の言っている事は自殺以外の何物でもない、殺してくださいと態々夜盗の前に出て行くようなものだ。

「父上、死ぬおつもりですか!?このままでは父上のお命はおろか、北家の取り潰しや母上まで危険に晒すのですよ!?」

「一刀、お前の目の前にいる私は誰だ?」

突然父上は禅問答のような事を言い出して困惑したが、その顔は真剣そのものだったので俺もきちんと答える。

「北家当主にして我が父、北景です。」

「確かにそうだが、それ以前に私は漢王朝の司空にして洛陽の法鬼と恐れられる北景だ。暗殺や弾圧が怖くて逃げたとあっては今まで私が処罰してきた者達と同じになってしまう、それにお前のおかげで帝からの信頼が厚い今ならこの上奏文を出す事で十常侍を弾劾する事が出来るやも知れん」

「父上、それは無茶です。あの十常侍の張譲は帝から我が父とまで言われて信を置かれている者、いくら父上が帝から信頼されていようとあの者には敵いませぬ。それに父上も先日帝にお会いして良くお分かりになられたでしょう?あのような御方が国の頂点に立たれている様では、例え十常侍を弾劾出来たとしても遅かれ早かれ漢王朝は崩壊します。それが分かっていたからこそ父上は私のやることを肯定されていたのでしょう?」

「・・・・何といわれようとも、これはもう私自身が決めてしまった事だ。今更覆す事は出来ないよ」

既に父上の意志は固く、これ以上の説得は無駄な言うことが解ってしまった。

父上、貴方という人は・・・・・。

「父上、貴方が法の鬼として北家と共に心中するのであれば、もうお止めはしません。これ以上は何を言っても無駄でしょう・・・・・ただ、それならば私も北家の嫡男としてやるべき事をやらせて頂きます」

「どうするんだい?」

「父上と一緒に北家が取り潰しとなれば家に関わる私財は全て宦官どもに接収され、例え従者であろうとただでは済まないでしょう。ですので、家に仕える全ての者に暇を与えて郷里に戻します。私財も八割以上を隠し、母上も涼州へと逃げて頂くよう手配させて頂きます。よろしいですね?」

「ああ、構わないよ。私が気にしていたことを全てお前がやってくれると言うのだから文句など在りはしないよ」

「・・・それでは、失礼させていただきます」

父上はそう言いつつも俺には目もくれずに、只、上奏文を作る作業に没頭している。

俺はそんな父上に少し腹が立ち、先ほど思った事を去り際につい言葉にしてしまった。

「父上・・・・・・・・・・・貴方は、愚直過ぎます」

「・・・・・・・・・・知っているよ」

その言葉を最後に俺は父上と言葉を交わすのは最後だと悟り、書斎を後にした。

書斎を後にした俺は指示を飛ばす韓白と鄒が居る部屋へと赴く、ここからは時間との勝負だ。

二人の部屋に着くと灯りが点いており、まだ起きていることに安堵しつつも、部屋の中に居る二人に声を掛ける。

「鄒、韓白。二人とも居るか?」

「郷様ですか!?どうしたのですか?こんな夜更けに!?ハッ!雅か!ついに私の魅力の虜になって夜這いに入らしたのですね!まだ心の準備が・・・・・ハァハァ・・・・」

「姉さん、落ち着いてください。間違っても郷様がそのようなことをするわけがありません。何か急用が出来て鄒たちの所へ来たに決まっています」

流石は鄒、俺の事を良く解っている。尤も今回は家全体に関わる大事を二人に頼むことになるんだけど。

「二人には至急頼みたいことがある。心して聞いてほしい・・・・」

「「郷様・・・・・?」」

二人は俺の緊迫した雰囲気からただ事ではないと感じ取り、怪訝な顔をして聞き返してくる。

「二人には直ぐに家の私財の八割を動かす準備と、父上を除く母上や俺を含めたこの家の全員の荷造りを進めてほしい。あとほかの従者は暇を与えるよう指示を頼む。医療所や兵たちには俺から指示を出す」

「「なっ!!?」」

俺の言葉を聞いて二人は耳を疑っている。当然だろう、まだ七つの俺が北家に関わる全ての事を指示し、しかもその内容が夜逃げの準備をしろというものなのだから。

「ご、郷様!?何を言っておられるのですか!?その様な事、旦那様や奥方様に何の断りもなく出来ることでは御座いません!それに旦那様の荷を纏める準備をしなくていいとはどういうことですか!?」

「父上には既に了解を取ってある、疑うならば書斎に行き直接聞いてみるといい。今の俺は北家嫡男にして当主代行の北郷一刀だ」

「そんな、郷様・・・・」

「姉さん、少し黙って」

韓白が取り乱す中、鄒のみは事態の重大性を感じ取り俺へ真剣な眼差しを向けながら話しかけてくる。

「郷様・・・・旦那様の身に何か御座いましたのでしょうか?」

「鄒・・・・最早父上の身一つですむ問題では無くなっている。北家は数日中に大陸から姿を消す、その前に俺がやらなければならない事を指示しているに過ぎないんだ。君たちには早急に動いてもらいたい。頼むよ」

鄒は俺の言葉を聞いて目を瞑ると少しの間考えた後、いつもの瀟洒な姿に戻って俺に返事をした。

「・・・・・・畏まりました」

「ちょ、ちょっと鄒!?」

鄒の返事にまだ状況を理解できていない韓白は詰め寄るのだが・・・・。

「姉さん、私たちは生まれてから北家に仕える侍女です。どのようなご命令でも成し遂げなければ成らない責任があります」

「でもっ!」

「姉さん!!」

鄒の呼びかけにようやく状況を理解できたのか、いつに無く真面目な顔になり返事をした。

「解りました。この韓白、北家当主代行である郷様のご命令を遂行いたします」

「ありがとう、二人とも。動かす私財のことだけれども韓白が六割、鄒が四割で管理できるようにしてくれ」

「「畏まりました」」

「それじゃあ、俺は他の場所へ指示を出しに行くよ」

俺が部屋を出て行く間、二人の侍女は深々と礼をしたまま微動だにせず俺を見送っていた。

その後、俺は夜遅くまで日夜作業をしている医療所へ赴き、ここを畳む準備と研究成果を持ち出せるようにする様に指示を出す。

最初は鄒たち同様何事かと詰め寄ってきたが、事情を説明していつの日か呼び戻すのでそれまで郷里に戻ってほしいという事を伝えると、皆納得して準備に取り掛かった。

本当に俺は良い従者に囲まれていたと、つくづく思う。

そして、俺は最後の指示を出すために兵の宿舎へ向かう。

北家嫡男が出さねば成らない指示の中で、一番嫌な指示を出すために。

 

 

 

 

「北家親衛隊!並びに諜報部隊!全員整列!」

俺は北家の私兵宿舎の前へ辿り着くと、宿舎の中の全員に聞こえるほど声を張り上げて招集を掛ける。

すると間も無くして、宿舎に居る全員の者が入り口前に集結して隊列を組んだ。

「これより、この洛陽における北家私兵団最後の命を下す!心して聞くように!」

「サーイエッサー!!!!!」

そこに居る全兵士が俺の言葉を聞き、一糸乱れぬ動きで敬礼をする。

それを確認し、俺は親衛隊と諜報部隊のそれぞれに任務を言い渡す。

「諜報部隊は北家に関係する人間が洛陽を後にしてから三日間、宮中と宦官の動きを調査した後に撤収。その後は俺の下へ合流して行動を共にしろ」

「サーイエッサー!!!!」

「親衛隊は母上の身辺警護、涼州へ送り届けた後は各々の判断で行動すべし。そのまま母上を護衛し続けるなり、涼州の兵になるなり好きにせよ」

「サーイエッサー!!!!!」

俺の突拍子の無い命令を受けても一切動じずに、ただ忠実に職務を遂行する胆力。

我ながら良く訓練されていると思いつつ、俺は最も重要な任務を言い渡す。

「また、洛陽に残る父上の為に親衛隊の中から五名、護衛役を募集する。この五名は死兵と成るは必至、そのため志願者のみを選出する。我こそはと言う者は前へ出ろ」

俺の言葉を聴いた後、一瞬静まり返るが親衛隊の隊列全体がズイッと前へ前進し、一番前に居た親衛隊長が俺へ話しかけてくる。

「郷様、我ら親衛隊の中に命を惜しむ雑兵は一兵たりとも居りません。何なりと死を賜りくださいませ」

「お前ら・・・・・」

本当に出来た兵士だ・・・・。

俺はそう思いながら親衛隊を見渡し、親衛隊長の横に居た班長の一人に命令を出す。

「では、お前の班の五名にこの命令を下す。見事やってのけよ」

「「「「「サーイエッサー!」」」」」

五名はそう言うと俺へ敬礼をして屋敷の方へと駆けて行った。

「以上を持って、任務を指示を終了とする!解散っ!」

俺の言葉を受けて全員が宿舎へ足早に戻っていった。

後は心配せずとも無事に任務を遂行するだろう。

「さて、後は俺個人がしなければならない事をするとするかな」

俺は北家の嫡男として洛陽での責務を全うすると、最後にやらなければならない事を片付ける為に屋敷へと戻る。

 

 

 

 

一刀が私の下に来て話をしてから四日目、私は帝へ提出する上奏文を手に玉座の間へ向かっている。

周りには一刀が残してくれた兵士五人が私の警護として取り囲んでいる。

北家の屋敷には私とこの五人を除いて最早一人も居ない。

私と話してからの一刀の動きは実に迅速なものであった。

私財の移動と隠蔽。

使用人全ての解雇と郷里への送還の手続き。

妻の説得と親衛隊への護衛命令。

これら全てを終わらせて洛陽を出たのが一昨日の事、今頃は長安の辺りまで移動しているころだろう。

私のような職務に忠実に動くだけの人間の息子とは思えないほどに臨機応変、縦横無尽、自由奔放、それでいて物事の芯と義を誠実に受け止めて行動する。

私には出来ん生き方を平然と遣って退ける。

息子のような主君に仕えたかったと心から思う。

「宮中警護役っ!張表(ちょうひょう)であるっ!司空北景殿、陛下への謀反を企てた罪により捕縛するっ!神妙に縛に就かれよっ!」

「何を申すかっ!?旦那様はその様な事を企ててはおらぬっ!宦官どもの命に従う犬どもめがっ!」

「抵抗すらならばこの場で全員斬り捨てるぞっ!」

「やめんかっ!!!!!!!!!」

張譲の命を受けて私を捉えに来た兵士と護衛の間での睨み合いを一喝して事を治めた後、相手の長に話しかける。

「張表殿、護衛の者が大変失礼した。この北景、貴方の申し出通り大人しく縛につこう。ただ、この者達は私の護衛に過ぎないのでこのまま宮中から出してもらいたい。よろしいかな?」

「・・・・承知した。但し、途中で暴れられても面倒なので護衛の者たちは部下が城外まで連れて行く」

「な!?旦那様っ!」

「良いのだ、お前たちはお前たちの成すべき事をしろ」

私は護衛たちにそう言い残し、黙して張表の後についていく。

すまないな一刀、父さんはお前が治める太平の世を見ることは出来ない。


 
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