No.547170

超次元ゲイム ネプテューヌmk2 ~Blue Wind~(~chain~)

こたさん

もうすぐ新しい一歩を踏み出します(*´∀`*)

2013-02-21 21:47:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1411   閲覧ユーザー数:1395

「……お待ちしておりました。」

 

一同がワープすると、そこはプラネタワーの謁見室内だった。

それと同時に、イストワールが一同を待ち構えていたかのように浮遊している。

 

「いったい、何がどうしたですの?」

 

がすとが怪訝そうに首を傾げる。だが彼女だけではない。日本一や5pb……アイエフにコンパ、ソニックも首を傾げている。

唯一、メンバーの中で落ち着きのないネプギアが声を発した。

 

「いーすんさん、ルウィーのシェアが九割も奪われたってどういうことですか!?」

『え…………ッ!?』

 

一同は耳を疑った。ネプギアが何を言っているのかが分からなかった。

 

――――シェアが奪われた?しかも九割?

 

もし、それが本当なら洒落にならない。守護女神の力の源であるシェアが九割も奪われたということは国家崩壊の一歩手前とイコールしている。

だが、ネプギアとイストワールの様子を見る限り頓智でも何でもないだろう。そもそも、あの二人が冗談を言うタイプではないという事はそこにいるメンバーの全員が理解していた。

 

「ちょ……どういうことなのッ!?」

 

冷汗を浮かべ始めたアイエフが尋ねる。

 

「――どうやら、皆さんがウェスタン・イリースへと向かっている最中ルウィーが何者かに襲撃されたらしいのです。規模が小さいのがせめてもの救いですが、このままではルウィーのシェアが完全に無くなってしまうのも時間の問題です。みなさん、帰ってきて早々誠に申し訳ありませんが大至急ルウィーへと向かっていただけますか?」

「ハイですッ!」

 

一同はソニックのカオス・コントロールで再び姿を消した。

 

 

ルウィーの教会へとワープした一同は目の前の光景に肝を潰した。

 

「ミナさんッ!」

 

まず目に入ったのは、ぐったりとした様子のミナがパイプ椅子に腰かけている光景。上半身の体重を全て背もたれに預けているためか、椅子からはギチギチと音が鳴っている。顔色もまるでホラー映画に出てくる幽霊のように真っ青だった。

 

「あ……皆さん……」

 

ミナが一同の姿に気づき、上半身を無理やり起こそうとするも力が入らないらしかった。力を入れること自体が肉体への苦痛を生じさせるらしくミナが渋面を作る。ネプギアが駆け寄りミナの上半身を助け起こした。たったこれだけのことなのに激しい運動をした後のようにミナの呼吸が切れている。

 

「ッ……すみません、教祖であるはずの私が……」

「そんなの関係ないさ。国を担う教祖だろうがなんだろうが、自分の命が一番大事なんだ。」

「……動けそう?」

「……はい。正直ちょっとしんどいですけど……無理ではないです。」

 

ミナはそう言うとパイプ椅子に手を置き強引に立ち上がる。しかし、すぐに足がガクンとなりコンパが助け起こす。

 

「―――現在ルウィーはシェアだけで言えばほぼ壊滅状態です。街自体は公園付近を除いては今のところ目立った被害はないです。」

「要は、今回の主犯は公園に居るってことだね。」

 

日本一がパキパキと拳を鳴らし始める。

 

「――先程まで、ロムとラムが向かっていたんですが……」

「え…………ッ!?」

 

必要以上にネプギアが食いつく。

 

「ミナさん、あの二人は今どこに!?」

「現在、自室に……――」

 

それを耳にするとネプギアは廊下へと飛び出し走り出していた。

 

「お、おいネプギア!?」

 

ソニックはミナのことを仲間達に託し、ネプギアの後を追いかけた。

 

 

青いカーペットが敷かれた長い廊下を走る。

廊下の至る所にドアが設置されていた。迷宮のような廊下を走り、『ロム&ラム』と書かれた表札のぶら下がっているドアを開け放ち、中へと入る。乱れる呼吸を気にすることなく、ネプギアは広い室内を見渡した。

 

「…………ッ!」

 

ベッドの上に寝かされている二つの姿。ネプギアはベッドに駆け寄る。

案の定、ロムとラムが寄り添うように大きなベッドに寝かされていた。ベッドの大きさは二人の幼女が寝る分にしては大きすぎる気もしたが、そんなことを一々気にする余裕が彼女にはなかった。いつも身に纏っている赤と青のコートを脱いだ状態で布団の中へと入っていた。顔色はミナ同様決して良いと言えるものではなかった。

そんな二人をずっと看病していたのか、若干眠そうな表情のルミーとフィーがネプギアに向き直る。「ネプギアさん……!」というルミーの声が微かに彼女の耳へと入ったが、ネプギアは真っ先にロムとラムに近づく。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

跪き、二人の顔を覗き込む。少し離れた場所でも十分に分かる顔色の悪さは目と鼻の先程の距離になると最早何も言えなかった。

 

「………………」

 

いつもはあんなに子供らしく活発なラムがぜぇぜぇと苦しそうに唸っている。

 

「………………」

 

普段からあまり多くを口にしないロムも呼吸を荒くし唸っている。

まるで病魔に冒されているようなそんな二人の様子にネプギアは言葉を失った。

ぎゅぅぅ……と心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。

何故か、見ているこっちまで呼吸が苦しくなっていた。

 

「ルミー、何があったかを話してくれるか?」

 

いつの間に部屋に入っていたのだろう、ソニックがネプギアの隣へ来るとルミーに尋ねる。

 

「はいデス……一時間ほど前まで、ルウィーは至って普通だったデス。ロムさんとラムさんもいつも通り、リビングで遊んでたデス。けど、その時……窓の外から凄く大きな音がしましたデス。初めは私達は何が起こったかわからなかったデス。けど、お二人は真っ先に飛び出していったデス。」

 

ルミーが心配そうにロムとラムに一瞥を投げた。フィーが「チャオ~……」と弱々しく鳴いた。

 

「暫くして、私とフィーも現場に駆けつけたデス…………けど…………」

 

ルミーが言いにくそうに口籠った。そんなルミーにソニックは首を傾げる。

ルミーとフィーは顔を見合わせ、小さく頷いた。

 

「…………私も最初は信じられなかったデスけど…………」

 

首を傾げたままソニックはルミーの次の言葉を待った。

 

 

「―――ソニックさんにそっくりな人が、お二人を………―――」

 

 

ソニックは目を見開いた。隣でネプギアも息を呑んでいる。

再びルミーが口籠る。だが、何を言おうとしていたのかはもう分かる。

 

――それを聞いて思い浮かぶのはあいつしかいない。

 

ギュッ……とソニックは拳を作った。

 

「……私とフィーが協力して、お二人を何とか教会へと連れてくることに成功したデス。デスけど……お二人は既にぐったりとしてたデス。」

 

ソニックがベッドに目を向けた。

 

「――それで、今に至るってわけか。」

「……はいデス。」

 

ソニックの瞳のレンズには苦しそうに唸る二人の姿が映っていた。眉間に皺を作る。

 

「…………よく、あいつ相手に無傷で帰って来れたな。」

「何度も危ない目に合いましたデス。けど…………」

「お前達の修行の成果ってことだな。」

 

ソニックがルミーとフィーに向き直り微笑を浮かべる。フィーは得意気に胸を張る一方でルミーは俯いた。

 

「どうした?」

 

ソニックがそっと手を伸ばすと、ルミーはバッと顔を上げた。

 

「ダメなんデス!こんなんじゃいけないんデスッ!!」

 

ルミーの発した声にソニックとネプギア、フィーがビクッと肩を揺らした。

 

「確かに、私はルウィーで修行して多少なりとの技術は身につけたかもしれないデス。事実、私達はお二人を助けることができましたデス。けど……私は全然満足できていないデスッ!いくら、人を助ける力を手にすることができたとしても、自分の望まない力なら手にしたって意味ないデスッ!私は、人を傷つけるための技術なんていらないデスッ!!」

 

ルミーが言い放つと走りだし部屋を出ていった。フィーもその後を追う。

 

「………………」

 

ソニックとネプギアはそんな二人の背を見つめていた。

動けなかった。

 

「ソニック……」

 

ネプギアが小さくその名を呼ぶ。

だが、ソニックは動じなかった。

ネプギアはロムとラムの唸り声をBGMにどこか悲しげなソニックの背を見つめていた。

 

その時だった。

 

 

ダガァァァァッ!!!!

 

 

『ッ!?』

 

地響き。二人は体勢を崩す。

 

「what!?」

 

すぐさまソニックは窓を開け放つ。空気が勢い良く室内に流れ込み、カーテンが大きく靡く。目まいがするほど高い位置にある窓から街全体を見回す。

 

「………!?」

 

右方向に黒煙が昇っている。黒煙はそれ程大きくない。

黒煙の根元付近……あそこに奴がいるのか。

 

グッ……――

 

ソニックは足に力を入れ、幅2メートル程の大きな窓から飛び出そうと試みた。

 

「ソニック、待って!」

「Huh?」

 

ソニックはその体制のままネプギアに視線を向ける。

 

「私も行くッ!」

 

ネプギアが立ち上がり、こちらへと近寄ってくる。

 

「……いいのか?」

 

ソニックが尋ねる。彼の視線はロムとラムに向けられていた。

 

「……うん、もうすぐコンパさん達も来るだろうし。一刻も早くルウィーを救わなきゃ。」

「……All right。しっかり掴まってろよ。」

 

ソニックが徐にネプギアをお姫様抱っこの状態で持ち上げる。ネプギアもソニックの首筋まで腕を回し、ぎぅぅとソニックに寄り添う。その際、胸元に柔らかい物が押し付けられるような気がしてソニックは怪訝そうに小さく首を傾げた。

 

「…………………」

 

何故、ネプギアが女神化せずに自分に縋っているのかが小さな疑問点ではあったが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 

「行くぜ?」

「うん……!」

 

ネプギアが頬を赤らめ、さらにぎぅぅと抱きついてくる。

ソニックはそのまま走り、窓から飛び出していった。

ゴォォという風を切る音が耳に入る。いや、正確に言えばそれしか耳に入らない。

ネプギアの髪が何度も頬を掠る。彼女はさらにソニックに縋りつき、「ひぁ……」と小さく声を上げていた。高さが高さだけあってあって流石に怖いのだろう、飛び出した時からぎゅーと固く目を閉じている。「大丈夫か?」とソニックが何度声をかけてもただ小さく頷くだけだった。柔らかい物がさらに強く押し当てられる。次第にネプギアの姿勢が少しずつ変わっていき、いつしか二人は頭が交差し抱きついているようにも見えた。

まるで、下りしかないジェットコースターに乗っているような気分だった。

雪が降り続けるこの国で、あんな高い場所から飛び降りたらもっと凍りつく程の寒さだと覚悟していたのに、それ程寒くはなかった。

 

―――そして、二人は確かに地上へと向かっていった。

 

 

 

 

 

私の意味は何だ?

私の命は誰のためだ?

私の悲しみは誰の悲しみだ?

私の怒りは誰のものだ?

 

――……考えれば考える程、頭がおかしくなりそうだ。

 

なら、私は何をすればいい?

どうすればこの苦しみから解放されるのだ?

 

――……頭を抱える。嘔吐感に襲われる。

 

おのれ…………

 

 

オノレオノレオノレオノレノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレノレオノレオノレオノレオノレオノレ――――

 

 

 

……女神か?

 

奴等を葬れば答えは生み出せるのか?

 

ならば……………

 

女神を、潰す。

 

――一人残らず徹底的に叩き潰してくれる……!

 

 

 

ソニックが黒煙が立ち上っていた公園へと着地するとネプギアがすぐさま離れ身構える。

無理もない。

 

二人を待ち構えるように、離れた場所であのハリネズミが対峙していたのだから。

 

戦いの場は少し前までは公園であったであろう、小さな滑り台やブランコが無残な姿となり端へと追いやられ公園内は平野となっている。強敵と交戦するのにはもってこいの広さである。

ハリネズミの足元は何故か潤されていた。背後に直径7mほどの穴が開いていたが、そこに何かがあったのだろう。

 

「……!」

 

ネプギアは静かにビームソードを構える。ジャリ……と足元から鈍い音が響く。公園内には砂が散蒔かれていた。砂場か何かのそれだろう。

 

「……………」

 

ソニックはブルーウィンドを引き抜きながら小さく周りを見回す。周りに人がいないことを確認するとニッと口の端を吊り上げた。

 

「また会ったな、俺のfakeがッ!」

 

剣を構えつつソニックが言い放つ。ネプギアも女神化し、パープルシスターへと姿を変えた。

ギロリ、とハリネズミの腹部の眼球がソニックを睨む。

 

「……………………貴様に用はない。」

 

ハリネズミが低音、尚且つ冷徹に告げた。

 

「………ッ!?」

 

―――喋った!?

 

ゾクゾクッと背筋に嫌な寒気を感じつつ、ソニックは目を剥いた。

今まで何があっても、戦闘中であったとしても一言も声を発することのなかった奴が初めて声を発したのだ。

ギロリ、と腹部の眼球が今度はパープルシスターに向けられる。威圧的目力に彼女は一瞬逡巡するが、すぐさまキッと睨み返した。

 

―――ギリッ……!

 

ハリネズミが硬い拳を作ると戦慄き始めた。その表情もどんどん険しいものへとなっていく。まるでこちらを威嚇するように、不気味な声を発し始めた。

 

「…………女神…………」

 

ハリネズミがその名を告げる。パープルシスターは一瞬肩を震わせたが、M.P.B.Lを構え直しそのまま静聴した。

ハリネズミの口がゆっくりと動く。そして、告げた。

 

 

「―――…………答えろ……『我が鎖』を何処へやった…………!?」

 

 

咄嗟に「え?」と聞き返す。

 

「鎖……!?」

 

パープルシスターは疑義の念を抱き、怪訝そうに首を傾げる。

あのハリネズミが何を言っているのかが分からない。

 

「……答えない気か……ならやはり貴様は潰してくれる……!」

「お、おいおいいきなり言いがかりは――」

 

ソニックが言葉を続ける中、ハリネズミが姿を消す。

そして、パープルシスターの眼前へと現れた。

 

「!?」

 

怯んだパープルシスターにハリネズミが拳に不気味な光を集め、両手を組み振り上げ落とした。

 

「させるかッ!」

 

ガッ!!

 

ソニックがハリネズミとパープルシスターの間に入り込み、剣を両手で翳すと拳をガードした。

 

「………………!!」

 

ハリネズミが恫喝を加えようとしているのか、狂犬のような唸り声を発し始める。怒りに歪んだ表情がそれに即していた。口から覗かせる犬歯がワナワナと震えていた。

 

「……ぐぅッ……!!」

 

ハリネズミの拳の光が更に強くなるとソニックの足がガクガクと震えだす。光が強くなる一方で、ソニックの足にかかる重量が大きくなっていった。剣を支えている両腕も限界に近づいている。

 

ドガァッ!!

 

「ッ!?」

 

ハリネズミの体が横に吹っ飛ぶ。それと同時に、とてつもない重量に襲われていたソニックの体がそれから解放され、バランスを崩しその場に倒れこんだ。

 

「ソニック!」

 

すぐさま彼が立ち上がるとパープルシスターの姿が目に入った。恐らく、彼女がいつの間にかハリネズミの背後に回り込み反転攻勢に移ったのだろう。

ソニックが親指を立てると二人はすぐさまハリネズミに向き直る。吹き飛ばされたハリネズミはギャルンッ!と空中で一回転すると止まるべく地に足を着ける。だが、砂のせいで中々止まれないらしくズザザザザと言う音を発しながらブレーキをかけている。

 

ギュンッ!

 

その隙を見計らったソニックはハリネズミ目がけて走り出す。

気が遠くなる程の短い間隔―――ソニックは剣を逆手に持ち替える。

 

ズンッ!!

 

ソニックは一気にハリネズミに肉薄すると、その胴体を――腹を切り伏せる。

パープルシスターは思わず口を塞いだ。

倒れる下半身に続き、ゆっくりと落下していく上半身。

 

ドサァッ……!

 

ハリネズミの上半身が地に落ちる。

 

「あ……あ…………」

 

パープルシスターは声にならない声を発する。

目の前で見てはいけないものを見てしまった。

 

―――ソニックが、敵を『殺した』のだ。

 

「……………………」

 

ソニックは動きを止めると剣を収め、パープルシスターの方へと歩き始める。

彼の目元は暗かった。いや、自分が彼の表情を確認することを拒んでいるのか―――

とにかく彼の表情を確認することはできなかった。

ザッザッザッザッザとソニックが砂を蹴り歩いてくる。

こちらへ来るまでの時間が酷く長く感じられた。

 

そして、肌身に吹き付けるルウィーの雪風がいつも以上に冷たく感じられた。

 

ソニックが目と鼻の先にまで歩いてくると歩みを止める。

 

「………………」

 

何を言えば分からず、パープルシスターは目を背ける。

 

「帰るぜ、ネプギア。」

 

ソニックが目元を暗くしたまま小さく告げる。

しかし、彼女は動かなかった――否、動けなかった。

 

果たして、この結果でよかったのか?

 

確かに、あのハリネズミはルウィーのシェアを9割も奪い目的は不明だがこれまで幾度となく自分達を殺そうとしてきた。しかし、だからといってその命を奪う必要はあったのだろうか?

だが、一方で奴を止めない限りルウィーのシェアはどんどん下がる一方であった。それを止めるためには、確かにあのハリネズミを殺めることが奴を止める最善の方法だったのかもしれない。

 

――しかし、ソニックが他人を殺すという姿は何故か見たくなかったのだ。

 

「hey?」

 

返事をしない彼女を心配したのか、ソニックが顔を覗き込む。

 

ドグッ!!

 

「うッ!」

「!」

 

その刹那、鈍い音に続きソニックの悲鳴。パープルシスターは顔を上げる。

 

「ぁ、ぁ………ッ!!」

「………………ッ!?」

 

先程ソニックによって真っ二つとなったはずのハリネズミが何事もなかったかのように無傷でソニックの頭を鷲掴みしその体を持ち上げていた。

それけではない。

 

 

 

 

――その姿が、『二つ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ……ん、な……ッ!?」

 

眼前のソニックの頭を鷲掴みにしているハリネズミのすぐ隣にその姿がもう一つ。

そう、『奴』が二体居たのだ。

 

「な、なん……でだ……ッ!?」

 

ソニックがもがきながら声を発する。

 

「……貴様はたっぷり料理してやる。」

 

ソニックを掴んだままスーと上昇していくハリネズミ。

 

「ソニック!」

 

パープルシスターが追いかけようとするものの、もう一体のハリネズミが立ちはだかる。

 

「どいてくださいッ!」

 

パープルシスターがM.P.B.Lを振り下ろす。ハリネズミはそれを軽々と受け流すとパープルシスターの足を払った。バランスを崩したパープルシスターの体が宙を舞う。ハリネズミが咄嗟にパープルシスターの足を掴むと上空目がけて投げ飛ばした。

 

「く……ッ……!」

 

ギャルンッ!と一回転しパープルシスターは体勢を整える。

その刹那、上空に殺気。上を向くとハリネズミが足を鞭の如く振り下ろしていた。

 

ガッ!

 

「キャァァッ!」

 

瞬時のガードが間に合ったものの、とてつもない重さにパープルシスターの体は地に向かって落ちていった。

 

ドッ!

 

何とか着地に成功。再び上空のハリネズミに射るような眼差しを向ける。ハリネズミは拳を作った片腕を振りかざしこちらめがけて急降下してきていた。

落下とともに振りかざした拳に球体の薄茶色の光を纏わせている。

パープルシスターは怯むことなくハリネズミを迎え撃つべくM.P.B.Lを構える。

ハリネズミとの間合いが近くなり、パープルシスターはM.P.B.Lを振った。

 

バギャアアァァァァッ!!

 

「くッ!」

 

ハリネズミの拳とぶつかり、火花が飛び散る。

M.P.B.Lが弾き飛ばされそうになるものの強く握り直し再び振り下ろす。

ハリネズミも負けじと拳を振り下ろし続けた。

激しい力のぶつかり合いに幾度も火花が散る。

再びM.P.B.Lと拳がぶつかる。両者譲らずにギリギリと鈍い音を立てていた。

パープルシスターは歯を食いしばり、息がかかる距離のハリネズミを睨む。

一方のハリネズミは相変わらずピクリとも表情を変えることはなかった――

 

……ギリィッ……!!

 

――と思った束の間。ハリネズミの閉じられた口がゆっくりと開き、ギリギリと歯ぎしりをする。

 

「……もう一度問う……『我が鎖』を何処へやった…………!?」

「なんの……ことですかッ……!?」

 

先程の質問を再び問いかけられ、パープルシスターは再び答える。

 

「…………………!!」

 

ギンッとハリネズミの腹部の眼球が姿を顕す。

 

「ッ!?」

 

刹那、パープルシスターは妙な違和感を感じハリネズミを強引に押しのけると距離をとった。

着地し、再びハリネズミを注視する。

その時だった。

 

「ッ!?」

 

背筋にゾクゾクッと悪寒。膝に力が入らなくなり、ガクンと膝を落とす。

ガシャンと音を立ててM.P.B.Lが地に落ちる。

パープルシスターの脳裏に浮かぶ映像――あの時、前にルウィーであのハリネズミと戦った際に浮かんだあの映像。

ギョウカイ墓場――ゴロゴロと轟く雷鳴をBGMにこちらへと向かって歩いてくる奴の姿。

 

「ぁ……ぁ……」

 

私は細かく震えながらその姿をただただ直視していた。

怖い。

何も考えられない。

涙が止まらない。

そうしてる間にもハリネズミとの距離が徐々に縮まっていく。

 

ギュゥンッ!!

 

ガァァッ!!

 

こちらに向かって歩んできていたハリネズミの体が横に吹っ飛ぶ。それも、まるで車に撥ねられたかのような不自然な吹っ飛び方。周りの景色もいつの間にかギョウカイ墓場ではなく、私が先程まで居たルウィーの公園内へと戻っている。

 

ガッ!

 

「ひぁ……ッ!?」

 

そして、私の腕が強く引かれる。いつしか、私の体は宙に浮いていた。次第に何かに抱き上げられている――お姫様だっこ状態になっている。

 

「大丈夫かい?」

 

声がすると、私を抱きかかえた状態のソニックの姿が顕になった。

 

「ソニック……?」

 

さっきもう一人の方のハリネズミに捕まったはずなのに――私の脳裏に浮かんだその疑問の答えは、ソニックの擦り傷だらけの顔が答えてくれた。

私達は公園の遥か上空に浮かんでいた。ソニックが私の腕を引く際、大きく跳躍したのだろう。チラと下方を見る。米粒サイズの黒い点が二つ見えた。

 

「……相変わらずしぶといねぇ。」

 

私に続いてソニックも下方を眺めていた。

 

「……なぁネプギア?前に俺が言ったこと覚えているか?」

「ぇ……?」

 

パープルシスターが視線をソニックへと向ける。

 

「『恐れているばかりじゃ前に進めない』ってさ。」

「…………」

「さっきまでのお前の状態を見てて大体のことはなんとなく分かる。」

「……………」

「確かに、俺が思ってる以上に怖いかもしれない。お前は三年前心に深い傷を負ったかもしれない。けどな、やっぱそのままじゃ女神を助け出すことなんて出来ないぜ?そのために俺は『promise mark』をお前に渡したんだ。」

 

パープルシスターは視線を落とす。視線の先には彼女の手の中でキラキラと光る青いカオスエメラルドがあった。

 

「お前は『怖さ』なんかに自由を抑圧されるのか?本当にそんなんでいいのか?」

「…………」

 

―――そんなの、良くないに決まってる。

 

私は無言で首を横に振っていた。

 

「だったら、そんな重りはとっとと下ろそうぜ。走る時に余計な装備は要らないのさ!」

 

ソニックは私から離れると地へと急降下しだした。

私は、そんなソニックの姿を少しの間だけ見つめていた――――

 

 

 


 
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