No.541171

殺人鬼の兄弟は異世界を旅する

第六話『誤解』

2013-02-07 19:08:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3480   閲覧ユーザー数:3183

 

 

 

「さて、後を付けるとするか」

 

「ああ」

 

 猿女と交戦してから翌日、俺達はネギの護衛を果たす為に後を付けた。

 

 どうやら今日は一日中班行動らしい。

 

 といっても昨日の今日だから奴等もすぐには襲撃しないだろう。このかの魔力が狙いとなると、何らかの儀式か生け贄、それとも召喚に必要なのだろう。前もって準備する必要があるはずだ。ま、一応護衛はするがな。

 

「で……アイツ等は一体何をしているんだ?」

 

「……さあ?」

 

 俺の視線の先にはネギと内気な少女……名前は忘れたが、他の奴等は彼女のことを『本屋ちゃん』って呼んでいた気がする。

 

 そして、その後方15m前後の所で後を付けている明日菜達がいた。……何をしているんだ?

 

「……ああ、そういうことか」

 

 どうやら志貴が何か分かったらしい。

 

「分かるのか?」

 

「ん? ……ああ、兄さんはそういうのには疎いから分からないのか」

 

『そうね、桜鬼なら仕方ないわね』

 

「……?」

 

 どうやら志貴は答えるつもりは無いらしい。ううむ……志貴が知っていて俺が知らないのはなんかズルイ気がする……。それとレン、なんか貶してないか?

 

「ま、様子を見ていたら分かるさ」

 

 ふむ……志貴がそういうなら少し様子を見ていよう。

 

 俺達はしばらく見ていると、なんとあの本屋がネギに告白したのだ! 流石の俺もビックリしたぞ。

 

 その後にネギが倒れた。レンに頼んで内容を聞いてきて貰ったところ、どうやら知恵熱らしい。子供で知恵熱って、普通は無いのだが……。

 

「ねえ桜鬼、ちょっとその辺を散策してきていい?」

 

 っとまあ、ネギが倒れた事により俺達は旅館に戻る。そして部屋で暇をもてあましていた時にレンがそう言った。

 

「……あまり一人で且つ遠くへ出歩くなよ? あと、なるべく人の形態を取らないことだ。お前と黒レンは顔を知られているからな」

 

「もうっ、子供扱いしないでくれる? ま、すぐに戻って来るから大丈夫よ」

 

 レンはそう言うと窓から飛び出していった。

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

 俺は少しだけ心配になった。

 

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 私は桜鬼に少しだけ時間を貰ったから機嫌が良い。実は私、前いた世界では京都に行ったことがないから色々散策したかったのよね~……路地裏とか。

 

 さてさて、最近は悪夢を集めていないから少し欲求不満なのよ。

 

 まあ、魔力は桜鬼のを貰っているから死にはしないけど、やっぱり日常的にしていたことだからやらないと落ち着かないし。

 

 …………まったく、桜鬼って本当に凄い人だわ。魔力は二十七祖に匹敵する程のモノだし、戦闘力も高くて強い。それに、世界を渡ってきたって言うんだもの。それを聞いた時は正直頭がおかしいのかと思ったけど。

 

 ただ、何故か魔術回路が無かったわね……。どうしてかしら?

 

 そう言えば、桜鬼って志貴のお兄さんなんだよね? 双子だからかなり似ているわね。最初は志貴が二人いるのかと思って生きた心地がしないわ。いや、志貴に一回殺されかけたけど……。

 

 でも、あの志貴と此処の志貴じゃ全然違うわね。だってあそこまで丸くないもん。口調は一緒だけど他が全く違うと言っていい程だわ。前の世界での志貴はただ殺しまくっているだけのケモノみたいだった。

 

 だけど、此処の志貴はちゃんとした人間というモノを感じる。恐らく桜鬼が教育したせいだと思う。

 

 志貴とは時々話したりするけど、やっぱり少し苦手ね。でも、桜鬼なら大丈夫。志貴に似ているけど、雰囲気がやっぱり志貴とは少し違ったから……。

 

「ん? 猫?」

 

 私が考え事をしながら歩いていると声がした。すごく聞いたことがある声だった。

 

 私が振り向くとそこには…………

 

「……貴様、ただの猫じゃないな?」

 

 昨日の剣士さんがいた。

 

 

 

 

 ハァッハァッハァッ……っ!

 

「待て! 斬魔剣!」

 

「にゃっ!?」

 

 私は今とてもピンチだわ。だって、殺されそうだもん。いや、軽く言ってるけど割と本気で逃げてるのだけどね。

 

 それにしてもあの剣士、容赦ないわね。こんなか弱い子猫を本気で殺そうとしてるし。

 

「さあ、追いつめたぞ!」

 

 っと、そうこうしている内に路地の一角に追いつめられてしまったわ。

 

 むぅ~、桜鬼には人の姿になるなって言われてるし、でもこのままじゃ殺されちゃうし……どうすればいいのよ?

 

「安心しろ。せめて痛みは感じさせないで祓ってやる」

 

 いやいや、安心できないからね!

 

「はあっ!」

 

「っ!」

 

 そして鈍色に光る刃がゆっくりと私に迫ってくる。ああ、本当(・・)ならここで死んじゃうんだよね……。でも、ごめんなさいね? 貴女の刃は私に届かないわ。だって……

 

 ガキィンッ!

 

「やれやれ……だからあれほど遠くに彷徨くなと言っただろ?」

 

「ま、助かったんだから良かったんじゃないか?」

 

「なっ!? 貴方達は!?」

 

 ―――私のご主人様が守ってくれるもの。

 

 

 

 

 

 

「貴方達は……女子寮の管理人さんの桜鬼さんと志貴さん!? 何故貴方達が此処に!?」

 

「仕事だ」

 

「そうそう、大事な仕事があってね」

 

 ま、取りあえずレンを回収しないとな。

 

「取りあえず肩に乗ってろ」

 

『ええ♪』

 

 俺が肩に乗るように促すとレンが嬉しそうに乗って来た。

 

『さすが私のご主人様! 乙女のピンチに駆けつけるなんて王子様みたいだわ♪』

 

 いや、本来はお前が俺を助けるものじゃないのか? ってか、その口ぶりからしてお前、絶対に態と追いつめられただろ?

 

『あら、何の事かしら?』

 

 ……確信犯か。まあいい。

 

「それにしても、人様の猫を殺そうとするのはどうかと思うが?」

 

「ああ、それにこんな物騒な刃物を持ってね。子供が持つ物じゃないよ?」

 

 レンならこの程度を簡単に切り抜けられただろうが、多分俺が人の姿になるなと言った事を守ったのだろう。自分の身を守るぐらいなら別に構わないのに……意外と律儀なやつだ。

 

「管理人さん………いえ、桜鬼さん、志貴さん。貴方達は一体何者ですか? いや、まさか……」

 

 どうやら彼女が何か察したらしいが、多分それは勘違いだと思う。絶対にコイツは俺達をスパイだと思っている。そんな顔をしてるしな。

 

「……まさか管理人になりすましてお嬢様を狙っていたとは……」

 

 ほら、勘違いしていただろ?

 

「……何を言っているんだ?」

 

「惚けても無駄です! 申し訳ありませんが、今この場で拘束させて頂きます!」

 

 そして彼女がこちらに斬り掛かってきた。

 

 くくく……いやはや、何でいつもこうなるんだろうな?

 

「斬岩剣!」

 

 俺は桜咲の攻撃を躱す。そして刀はそのまま俺の後ろにあった岩を切り落とした。

 

 ……当たったら痛そうだな。

 

『痛いじゃ済まないと思うけど?』

 

 そりゃそうだ。

 

「っ……今のを躱すとは……やはりただ者ではないですね!」

 

「おい志貴、見てないで何とかしろ」

 

「冗談はよしてくれよ兄さん。その程度の奴、兄さんなら瞬殺だろ?」

 

 確かに冗談だがな。

 

「覚悟っ!」

 

 やれやれ、仕方ないな。

 

 俺は七ツ夜で桜咲の太刀を受け流し、『閃走・一鹿』で迎撃する。

 

「なっ……ぐあっ!?」

 

 桜咲きはなんとか野太刀で防御するも、あまりの衝撃に身体が耐えられなかった。

 

 脆いな……。

 

「な、なんて重さだ……」

 

 そして吹き飛ばされながらも何とか受け身を取って体勢を立て直した。

 

 ふむ、少々骨はありそうだが……この程度か。力を隠しているのもつまらん。……まあいい。そろそろ誤解を解かなければな。

 

 俺は再び斬り掛かろうとする桜咲を手で制して言う。

 

「待て。お前は誤解している」

 

「……何をです?」

 

「俺達は学園長に頼まれて此処に来たんだ」

 

「……学園長が?」

 

 その言葉でより一層警戒心を高めてきた。……やっぱり、知らされてないのか。いや、何となくそう思ったが。

 

「……証拠は?」

 

 証拠ねぇ…………ああ、電話すればいいな。

 

「少し待ってろ」

 

「……?」

 

 俺はポケットから携帯を取り出すと学園長に電話した。

 

『どうしたんじゃ、桜鬼君? 何か問題でも起きたかの?』

 

 ああ、お前のせいで今現在問題が発生しているがな。

 

「ほらよ。学園長だ」

 

 俺は桜咲に電話を投げて渡した。 

 

「……もしもし、学園長ですか?」

 

『ん? その声は刹那君かの? どうして桜鬼君の電話に刹那君が出ているのじゃ?』

 

「そんなことはどうでもいいです。それより学園長……管理人さ……七夜さん達に京都へ行くように言ったのは本当ですか?」

 

『へ? そうじゃが…………あ……』

 

「何・故・言・わ・な・か・っ・た・の・で・す・か!?」 

 

 おお~、桜咲から赤いオーラが出ているな。

 

『スマンスマン、忘れておった』

 

「スマンじゃないでしょう!? ……はぁ、もういいです。今度からはちゃんと連絡して下さい!」

 

『すまんのぅ』

 

 そして会話が終わったのか、桜咲はこちらに歩いてきて電話を返してくれた。

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 そして頭を下げた。

 

「いや、別に構わない。元はと言えば学園長が悪い」

 

 どうやら誤解が解けたようだ。

 

「そう言って頂けると助かります」

 

 桜咲はそう言って頭を下げた。

 

「さて、誤解も解けたことだし、ネギと合流しようか」

 

「は、はい」

 

 俺達はネギと合流するために旅館へ戻る。だが、ネギ本人は話しどころでは無かったようで、また後で話そうということになった。

 

 


 
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