パラメータと最近対戦で使った武装セットを確認する。やはり近接用の装備が多い。近接戦ではほぼ全勝だった。政はかなりの成績でCランクを勝ち抜いていた。
政のパラメータに突出した項目はない。ならば、あえて同じ間合いで戦い機動性を活かして競り勝つのも手だろう。
「ナイフでいくのはどうでしょう。オーナー」
「最近の対戦だとパイルバンカーが多いけど、大丈夫か」
「距離をとっても一気に詰められる可能性があります。機動性はこちらの方が上です、近接戦でもこちらが先手を取れると思います。」
少し間を置いてオーナーが口を開いた。「まあ、モノは試しだしな。任せるよ、好きにやってくれ。武装はナイフとハンドガンでいいな。」
「はい。ありがとうございます、オーナー」
コマツから通話の申請が入った。オーナーは軽くディスプレイに触れ、通話を許可した。
「どう、大丈夫。ブリーフィングが終わると指示は出せないから気をつけてね。」
「ああ、こっちは大丈夫。」
「じゃ、いくわよ。」政の武装が決定された。
「オーナー、こちらも参りましょう」
「よし。」オーナーがこちらの武装を決定する。「頑張れよ。」
「お任せ下さい、オーナー。」
私を乗せたエレベータがゆっくりと下がり、筐体の中へと入っていく。バトルロンドが始まるのだ。
筐体内に入った私の視界は暗転する。ハンガーに固定され、ロボットアームが手際良く私の体に指定された武装パーツを装着していく。装備が終わると筐体内の戦闘区域に移送され、天井から降りてきたワイヤーが固定される。筐体の制御システムとのリンクが確立し、視界が開ける。うららかな日差しの中、地平線のかなたまで広がる風にそよぐ草原と腰に手を当てて微笑む政が遠くに見えた。予想通り近接用の装備に身を包んでいる。両腕にはパイルバンカーが装着されていた。
「さあて、おっぱじめるとするか」微笑みを浮かべたまま黄色い安全帽を目深にかぶり直した。
「はい、始めましょう」手にしたハンドガンのグリップをしっかりと握り直す。
空に大きくREADYと文字が浮かぶ。これは実際の光景ではない。筐体内には日差しも風も草もない。制御システムが作る仮想の光景、存在するのは私と政だけだ。
空に浮かぶ文字が変わる。FIGHT。
雄叫びを上げて政がこちらに向かって駆け出す。ハンドガンを両手でしっかりと握り、わたしも政に向かって駆ける。
政の間合いに近づくと背中に装備されたスラスターを使い高く飛び上がる。ハンドガンを三点射。機先を制するため、頭上から一撃を加える。頭を庇うように上げた政の左腕に着弾の火花が散り、損傷の程度を示す数字が浮かぶ。
仮想なのは武器もだ。私の持つハンドガンから弾が出ることはない。武器と神姫に設定されたパラメータから制御システムが計算し命中と与えた損傷を判定する。実際に神姫の体に損傷が出ることはない。当然といえば当然だ。一回の対戦で重大な損傷が生じてはゲームにならない。耐久性を示すLPが設定され、制御システムが損傷を数値化しそこから差し引かれる。ゼロになれば行動不能。負けだ。
僅かな損傷しか与えられなかったが、もとよりこの射撃は牽制のためだ。 もう一度スラスターを噴かし、政の頭上を飛び越える。私たち神姫の動きももまた仮想的だ。高く飛び上がること、まして空を飛ぶことなどできない。制御システムを通して体をワイヤーが釣り上げる。
政の背後に出ると体をひねり頭を狙いハンドガンを二点射。今度は外れる。政は体を翻し大きく踏み込む。私の着地点めがけ、裂帛の気合とともに右のパイルバンカーを突き出す。私の体はまだ空中にあり、躱しきることができなかった。左の脇腹をパイルバンカーが突く。激しい衝撃。体が後ろに弾かれる。これもまた仮想的な動きだ。こんなに強い衝撃を受ければ私たち神姫の体は砕けてしまう。銃器と違い打突武器は実際に当たる。だが、当たるだけだ。傷はつくが、重大な損傷を与えることはない。私たちが受ける衝撃は制御システムの判定した結果のフィードバックだ。
この一撃の損傷は大きかった。同等の損傷をあと三回程受ければ行動不能になる。
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やっと初対戦が始まります。
バトルロンドの脳内設定が出ますが
こういう解釈もアリかと思ってください