No.539413

魏エンドアフター~獅子奮迅~

かにぱんさん

前回の閲覧数、支援数にびっくりしました。本当にありがとうございます。
コメントも頂いて嬉しい限りです。
今回は、台本書きについて厳しく言及されましたので、名前表記を無しで書いてみました。
初の試み+素人に執筆という事で、文章がくどかったり、今更ですが物語自体がおかしくても生暖かく見守ってやってください。
見づらいという方、申し訳ありません。

2013-02-03 04:11:28 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:13937   閲覧ユーザー数:8886

凪の雄叫びは、曹操達のもとへ。

 

「なん──!?」

 

「これは……」

 

「何が……起きているの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして孫策達にも届いた。

 

「……凄いわね」

 

「姿は見えず。

 されど殺気はひしひしと伝わってきおる……。

 こんな経験は初めてじゃのぅ……」

 

 

 

 

雄叫びが響き渡ると同時に一瞬、まるで暴風雨のように吹き荒れる雨。

尋常ならざる事が起きていることは、誰の目にも明白だった。

 

 

 

 

「とにかく、声のほうへ向かうわ」

 

「しかし華琳様、この殺気は只者ではありません、危険過ぎます!」

 

「姉者の言うとおりです。

 その場に居るわけでもないのにこれ程まで威圧されるなど、

 私は未だかつて経験したことがありません」

 

「危険は承知、戦に身を投じているのだから当たり前よ。

 何より私はこの先で起こっている事を知りたい。

 一体何が、何者がこれ程壮絶な怒りに身を染めているのか」

 

「華琳様……」

 

「…………」

 

「この出来事は、この先の乱世を左右する程のものだと思う……いえ、思わせる。

 これを避けるようならば、

 私はこの先、覇道を歩む資格が無いとさえ言えるでしょう」

 

「そこまでのもの……ですか」

 

「ええ」

 

夏侯淵の問いに短く応え、深く息を吐く。

 

「……素直に恐ろしいと感じたのは、初めてよ」

 

「──!」

 

曹操の身体が、微かに震えているのが見て取れた。

決して、雨を浴び、体温が下がったからという理由だけではない。

何故ならば、それを確認した夏侯淵ですら、己の身体が震えている理由を解っているからだ。

曹操、孫策達は、お互いに居る場所は違うにも関わらず、凪の雄叫びを聞き、殺気を肌で感じ取った。

その場にいない者の”威圧”を全身で感じていた。

道中の、まるで巨大な猛獣にでも食いちぎられたかのように、人体の半分が欠損している死体の数々。

それに加え、先ほどの雄叫びにこの殺気。

いや、殺気、殺意、その言葉ですら、この全身を覆う悪寒には生易しく思える。

兵達の表情に怯え、恐れ、今の雄叫びに慄いているのが見て取れた。

それを情けないと、罵倒出来るはずもなかった。

むしろ当然だと納得してしまう程に、凪が”敵”に向けた”意思”は、巨大で、強大で、膨大だった。

素直に”恐ろしい”と、英傑ですらそう思えるほどに。

この殺気を直に向けられている者が正常であるのなら、気が狂ってもおかしくないとさえ思える程に。

そして同時に、感じる事があった。

その殺意、殺気を放っている者は、己の為ではなく、誰かの為に、その身を怒りに染めていると。

こんなにも恐ろしいというのに、そう感じるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰が為に牙を剥く。

誰が為に力を振るう。

決まっている。貴方のためだ。

 

獅子王を着けた手を握り締める。

 

真桜に貰った獅子王。

これは凪の想いを形にしたものだと真桜は言ったが、真桜本人の想いでもあるのだ。

凪が己を極限まで追い込み、鍛錬をしている姿を見て、真桜は自分の持てる力全てを獅子王に注ぎ込んだ。

 

「なぁ、凪。

 ウチは凪ほど力も無いし、根性もあらへん。

 ウチに出来る事言うたらこれくらいや。

 ウチが何者にも劣らんもんを作ったる。

 隊長を守るための”力”を作ったる。

 ウチはそれくらいしか役に立てへん。

 せやから、頼むで。

 これは、凪が隊長を守るための”力”や」

 

何が力がないものか。

真桜のおかげで、私は守る力を手に入れた。

真桜がどれだけ獅子王の制作に身を入れていたかを知っている。

食事や睡眠を削って、獅子王に想いの全てを乗せていたことを知っている。

 

「凪ちゃん。

 沙和じゃ役不足かもしれないけど、

 真桜ちゃんや凪ちゃんみたいに、自分の誇れるものなんて持ってないけど、

 沙和も、守りたいよ。

 隊長を守りたいよ。

 凪ちゃんを守りたいよ」

 

何が役不足なものか。

沙和がいてくれたおかげで、私は折れずに立っていられた。

沙和が支えていてくれたおかげで、私は真っ直ぐに前を見ていられた。

 

二人が居たから、私は頑張れたんだ。

 

外史を渡る直前に、心へとどめた言葉が脳裏を過る。

 

 

「一刀を守ると誓うこと。

 そして──必ず貴女も、一刀と共に帰ってくること」

 

 

「凪──一刀を頼むぞ」

 

 

「明花は私が必ず守ってやる。安心しろ」

 

 

「──行って来なさい」

 

 

自分の想いだけではない。

皆の、華琳達の想いを一身に背負い、凪はここにいる。

 

守ると決めた。

守りぬくと決めた。

皆の想いを背負った。

一刀への想いを背負った。

 

自分に笑顔をくれた人が。

自分に笑顔を向けてくれた大切な人が。

今、目の前で傷つき、倒れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許さない。

 

 

許さない。

 

 

許さない。

 

 

絶対に許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──殺してやる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、地響きのような音と共に、凪が消えたように見えた。

それほどまでの”瞬発力”。

手足に纏った蒼炎が、残像のようにその場に揺らめく。

一瞬にして、群がっている白装束の目の前に到達する。

 

『─────────!!!!!!!!』

 

氣の咆哮をぶつけると共に蒼炎を纏った腕を、脚を、白装束の集団に振るう。

その”牙”を振るった瞬間、白で覆い尽くされていた場所が深紅に染まった。

肉を裂き、骨を砕き、絶命する。

 

「おのれ……!」

 

凪の突然の豹変に于吉は驚き戸惑ったが、すぐに死んだ数以上の傀儡を生み出す。

于吉の生み出す傀儡は、まるで無限に湧き出るように思えるがそうではない。

数ある外史を渡り歩き、戦死した兵士達を妖術によって媒体に圧縮し、召喚している。

生きている者も中にはいるが、大多数が死人を操ったもの。

次々に白い装束を身に纏った傀儡が現れる。

しかし

 

「な──」

 

于吉の表情から、先程までの余裕や悦楽といったものが完全に消えた。

僅か一瞬。

僅か一薙。

蒼い炎が横に走った、それを認識した瞬間、

降りしきる雨が真っ赤に染まった。

 

凪と白装束の攻防は一方的だった。

凪が壊し、于吉が傀儡を生み出す。

誰も彼女に触れることが出来ず、生み出された瞬間に血を吹き出し倒れる。

近寄ることが出来ないと解れば弓による斉射。

白装束の放つ無数の矢が凪目掛けて飛ぶ、が

 

『───────────!!!!!!!!!!』

 

全身から氣を放出し、自分に飛んできた矢、そしてその直線上にいる一刀への矢を全て弾き落とし、

即座に弓を構えている白装束達を沈めていく。

血風の中を奔り、獲物を狩るが如く暴れまわるその姿は、まさに獅子奮迅と比喩されるに相応しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒りに狂った凪を目の当たりにした桃香たちは、その姿に恐れを抱いた。

足はまるで地面に根を張ったかのように動かず、その雄叫びに身体が震える。

しかし、凪から目を離せない。

一刀を想うが故の壮絶な怒りに、その圧倒的な”想いの力”に、目を釘付けにされた。

 

「凪……!」

 

耳を劈く雄叫びを間近で聞いていた愛紗は、他の者とは違う感情を抱いていた。

目の前で行われた”誓い”。

会話の内容は自分の知らない事ばかりで解らなかったが、今までの凪、そして今の凪を見ていれば解る事があった。

一刀が歩んできた軌跡を、彼が今まで、凪の言う”皆”に注いできた愛情を垣間見た。

その愛情を注がれた一人であろう者が、目の前で怒り狂っている。

大切な人を守ろうと、全身全霊をかけている。

その姿を見て、恐れるという感情が湧いてくる筈もなかった。

むしろ、これ程までに頼もしい仲間が居たのかと、

これ程までに頼もしい者が、一刀についていてくれているのかと、感動すら覚えた。

 

「私は──」

 

いつの間にか、横に星が立っていた。

愛紗のほうへは目を向けず、しかしその言葉は愛紗へ向けられている。

 

「私は、主を見誤っていたようだ」

 

「な──」

 

戦っている凪の方を見ながら、言葉を発する。

 

「星、貴様……!」

 

愛紗には、星の言葉が一刀を批判するものに思えた。

星は凪と共に、この戦で一刀の傍で戦っていた。

故に、一刀が呂布を救ったことへの疑問、不信を抱えていたのを愛紗は知っている。

そして、決定的な出来事。

一刀が、命をかけて董卓を守ろうとした。

それは星の不信を裏付けてしまうものなのではないか。

裏切られたと、自分たちを捨てたと思ってしまうのではないか。

しかし、続いた星の言葉は予想とは違うものだった。

 

「私は、こんなにも真っ直ぐな御方を……こんなにも器の大きな御方を疑った」

 

全身を切り刻まれ、意識を失っている一刀を見て、悔しそうに唇を食いしばる。

 

「私は、一瞬でも主を疑った自分が、憎い……!」

 

「星……」

 

人が死ぬ事など当たり前、野盗に襲われるなど日常茶飯事。

そんな時代だからこそ、人々は救いを求める。

自分たちを守ってくれる存在を求める。

自分たちはそんな人々を救うために立ち上がったはずだ。

なのに、罪の無い者を討つための戦に参加している。

それを知った時、疑問を抱かない訳ではなかった。

しかし、それは己が招いた事象だと、心の中で割り切っていた。

自業自得だと、思っていた。

しかし彼はそうではなかった。

当たり前だ。

北郷一刀とはそういう人だ。

 

一刀の想いを聞き、星は己の浅はかさを呪った。

目の前にある命ひとつ救えずに、何が苦しんでいる人々を救う、だ。

全力で守ろうとした男がいる。

全力で救おうとした男がいる。

凪を見ていれば、一刀がどんな道を歩んできたか、すぐに解る。

 

甘いと罵倒される行動かも知れない。

正気かと疑われる行動かも知れない。

それでも、だからこそ、この腐敗した時代には、彼のような存在が必要だ。

 

 

 

 

 

 

「ったくよぉ。無茶すんのは勝手だけど、やるなら完璧にやれよな。詰めが甘いぜ」

 

「な……」

 

後ろから、家屋の中から出てきた人物に愛紗は驚きを隠せなかった。

 

「いくら何でもこの数相手にこんな民家に立て篭もるのは無理があるだろ。

 あたしがいなかったら危なかったぞ」

 

「ば、馬超!?」

 

中から出てきた彼女の脇には月と詠、そしてその後方に倒れている数人の白装束。

 

「な、何故貴様がここにいる!?」

 

「ま、今はそんなことどうでもいいだろ。

 まずは目の前のあれをなんとかしないとな」

 

馬超と共に出てきた月と詠が、すぐに一刀のもとへ駆け寄ってくる。

 

「ごめんなさい……!ごめんなさい……!」

 

「っ……!」

 

意識を失っている一刀の手を握りしめ、涙を流し、謝罪の言葉を繰り返す。

となりに居た詠も言葉が見つからないのか、一刀に渡された桜炎を握りしめ表情を歪めている。

 

「……我らに、加勢してくれるのか?」

 

愛紗は馬超に問う。

ここで起きている戦いは、もはや董卓を討つ為のものではない。

むしろ守る為に起きている戦いだ。

これを連合軍が知れば、自分たちも馬超も只では済まない。

 

「あたしも別にここまでするつもりはなかったんだけどさ」

 

手に持った銀閃を力強く振り、

 

「そいつが戦う理由を聞いたら、何か燃えてきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ……フハハハハハハ!

 例え貴女個人の力が強くとも、貴女のお仲間はどうでしょうかねぇ!」

 

このままでは押し切られると判断した于吉は、凪の意識を逸らそうと、

後方で一刀を守っている愛紗達のところへ無数の傀儡を生み出した。

街中の狭さなど気にしている余裕もなかったのか、これでもかという程にわらわらと群がり始める。

凪があちらへ気を取られているうちに体制を立て直すつもりだった。

しかし、

 

「は──?」

 

視界がズレる。

ドサっという衝撃とともに、視界に自分の下半身が映り込んでいる。

どうやら、上半身と下半身を分断されたらしい。

目の前に影が落ちる。

見上げると、腕を振りかぶっている凪の姿が目に入った。

そしてその腕が振り下ろされると同時に、更に視界が両側へズレた。

 

「ちぃっ……!」

 

身体を文字通り細切りにされたが、

恋の時もそうであったように、何事もなかったように再生し、

民家の屋根へ飛び、凪と距離をとる。

取り繕うように、表情に余裕を貼り付ける。

 

「いかに貴女が強かろうと、私を殺すことは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”見つけた”ぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

于吉の言葉に被せるように、凪が言葉を発する。

距離を取った于吉の方を、凪は見ていない。

しかし、それが何よりも于吉の背筋を凍らせた。

 

そんな筈はない。

わかる筈がない。

そう思うものの、凪が発した言葉、そしてその視線の先は明らかに”見て”いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ来たぞ。つーか何だこの数は。今まで何処にいたんだこいつら」

 

「狙いが主だというのであれば、どんな大群だろうと打ち砕くのみ」

 

「星、馬超、すまない。私は──」

 

「お主はそこで主と董卓達についていれば良い。ここは我らが守る」

 

そう言うと、愛紗達とは少し距離を空け、群がってくる白装束へ構える。

 

「そうそう、そんなボロボロの奴放り出して戦うわけにもいかないだろ」

 

「桃香様には鈴々と張遼がついている。心配するな」

 

竜牙、銀閃を構え、何人たりともここは通さんとばかりに、意識を、殺気を前方の敵にぶつける。

 

「あーあ。こりゃ母様と蒲公英にこってり絞られそうだぜ」

 

「ならば私も頭を下げよう。お主は恩人だからな」

 

「は、やめてくれよ。

 恩人なんて──」

 

言葉の途中で、複数の白装束が切りかかって来る。

しかしそれを見事にいなし、心臓を貫き、さらに頸を落とす。

 

「柄じゃないぜ。あたしはあたしの意思でここにいるんだ」

 

星も、前方に居る白装束を、相手が仕掛けてくる前に電光石火の槍捌きで絶命する。

 

「感謝する」

 

それを合図に、次々と白装束が突進してくる。

しぶとく、致命傷を与えても立ち上がり、攻撃の手をやめない白装束に

先程まで苦戦していた星達だったが、今は次々と地に伏していく。

凪のように一撃で仕留められないのであれば腕を奪い、足を奪い、頸を落とせばいい。

乱戦の中で、狙ったように部位を攻撃するのは至難の業だったが、星、馬超の圧倒的な集中力がそれを実現する。

漠然とした”人々を救う”という志が、今は”唯一人の男を守る”という信念に変わり、神経が極限まで研ぎ澄まされる。

誰一人として突破することの出来ない頑強な鉄壁がそこにあった。

 

さらに──

 

 

 

ドズンッという音と共に、何かが地面に突き刺さる。

 

 

数人の白装束を串刺しに、地面へ突き刺さる”深紅の呂旗”。

 

 

 

邪魔だと言わんばかりに、愛紗達のもとへ真っ直ぐに、方天画戟で白装束を薙払いながら近づいてくる。

白装束で埋め尽くされていた場所が、人一人分の赤い道が出来たかのように割れる。

 

「恋殿ぉぉーーーー!お待ちくだされーーー!!」

 

「「ご主人さまーー!!桃香様ーーーーー!!」」

 

恋のあとに続くように、陳宮、朱里、雛里が走っているのが見えた。

 

「……やったの……こいつら……?」

 

傷ついた一刀を見て、恋は静かに愛紗に問う。

 

「……ッ」

 

そのとおりである事と、それを防げなかった自分の不甲斐なさに返答ができず、一刀を抱きしめる腕に力が入る。

しかし、そんな愛紗の心を知ってか知らずか、恋は

 

「……そう」

 

短く応え、正面を向き、その言葉と共にまるで獣のような殺気が溢れ出る。

 

「……恋は助けてもらった……今度は、恋が助ける番」

 

「お前……」

 

愛紗は、”呂布”を冷血な獣だと思っていた。

しかしそれが今、目の前で、一刀の為に怒りを見せている。

 

「「ご主人様!」」

 

恋に続き、朱里と雛里がやってくる。

 

「すぐに応急手当てをします!雨を駕げる場所と綺麗な水と……衛生兵!来てください!」

 

二人が衛生兵の部隊を編成したのか、医療具を持った兵達が後に続き

朱里の指示に従い、月達を匿っていた家屋に一刀を運び、手当を始める。

 

「こんなところじゃ本当に応急手当しか出来ませんけど……」

 

朱里、雛里も一刀への手当に加わる。

一刀の姿に、痛々しい程に表情を歪める。

 

「愛紗さんは!?無事ですか!?」

 

突然朱里の意識が自分に向き戸惑ったが、その理由はすぐに解った。

一刀に触れていた場所が、赤く染まっていた。

腕や脚、胸、首に至るまで。

 

「……これは私の血ではない。……すまない」

 

「い、いえ、お怪我がないなら何よりです。

 ……全くご主人様にも困ったものですね」

 

一刀の手当を続けながら、涙を堪えるような声で、それでも明るい口調を意識するように。

 

「もう少し、私達を信頼してほしいものです。

 自分だけが犠牲になるような真似をして……。

 ご主人様の事だから、私達に迷惑が掛からないようにするつもりだったんでしょうけど、

 何の為に軍師の私達が居ると思っているのでしょうか。

 これくらいの困難、私と雛里ちゃんで吹き飛ばしてみせるのに……ッ」

 

 

 

 

 

 

悔しさをにじませながらも手を動かしていると、朱里達の連れてきた兵が慌てた様子で入ってくる。

 

「た、大変です!曹操と孫策が入場した模様!既に近くまで来ていると……!」

 

ついに来たか、と誰もが思った。

今のこの状況は白装束だけではなく、連合軍そのものが敵に回りかね無い。

いや、敵になる可能性が相当に高いといえる。

総大将の袁紹でない事には安心するが、それでも無視出来ない両雄が入場している。

弱小勢力である自分たちなど、簡単に潰されてしまうだろう。

 

「……覚悟を、決めよう」

 

愛紗はつぶやいた。

もしも、ここで自分たちが敵と見なされ潰されてしまうようであるなら……。

人々を救うという志が消えてしまうことに、強く抵抗はある。

だが一刀を見捨てる事など絶対に出来ない。

自分の理想の主人を見捨てる事など出来ない。

 

「大丈夫!」

 

不意に、場違いとも言える元気の良い声が響いた。

 

「絶対に大丈夫!私達は負けないよ!

 困っている人達の為にも、ご主人様の為にも、絶対に負けられない!」

 

「桃香様……」

 

「せやで。ここで負けてみぃ。一刀は全部自分のせいやって背負い込むで」

 

「邪魔する奴は鈴々が全部ぶっ壊してやるのだ!」

 

「わ、私も……!」

 

一刀の手を握りしめ、泣いていた月が声を上げる。

 

「一刀さんは私に生きる意味を教えてくれました……!

 私達の為に戦ってくれました……!

 私は……何も出来ないけど……でも!絶対に逃げません!」

 

「……この刀、この戦が終わったら返せって言われてるのよ。

 こんな所で死んだら、ボクが約束の一つも守れない奴だと思われちゃうじゃない」

 

「凪ちゃんだってあんなに頑張ってるんだもん!私達も負けてられないよ!」

 

桃香や鈴々だけでなく、霞、月、詠。

外で敵を迎え討っている星、馬超、恋。

全員が心を一つにした。

 

「────」

 

愛紗は言葉にならなかった。

今すぐ一刀に伝えたかった。

見てください、と。

貴方の行動は、決して間違いなどではない、と。

何故なら、こんなにも多くの者が、貴方の為に戦っている。

貴方の志を、信念を守ろうとしてくれているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ついに連合軍が来たか」

 

外で白装束を抑えていた星にも、旗が目視できる位置まで来ていた。

 

「あれは……曹操か。ここからが正念場ってか?」

 

馬超も曹の旗を確認し、銀閃を振るう手を休める。

群がっていた白装束達は、恋が加わった三人の絶対防壁に為す術がないのか、段々と突撃の勢いも弱まってきていた。

 

「しかし恐ろしいほど強いなあいつ。

 一人であの数相手に……あんな奴が存在するのかよ」

 

前方で、ここよりもはるかに多いはずの白装束を一人で殲滅している凪を見て、馬超は感嘆した。

 

「今一度聞くが……お主は本当に良いのか?

 お主まで連合に楯突いた者として追われることになるぞ」

 

「いいって。あたしは間違った事をしているつもりはない。

 あたしが納得してあんたらについてるんだ」

 

「……そうか。ならばもう、問うまい」

 

「でも正直母様が怖い」

 

「……まだ、いる」

 

曹操の旗が上がっている方向とは別の方を見ながら、二人の会話に入るように恋が言葉を発する。

恋の示す方へ目を向けると、そこには”孫”の文字。

 

「……こりゃあ、覚悟したほうが良さそうだな」

 

「そうだな」

 

「…………(コク)」

 

星、恋が同意し、三人が向き合う。

お互いの思っていることが解っているかのように、竜牙、銀閃、方天画戟を同時に咬み合わせ、

 

「「「守る覚悟を」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 

凪の言葉に尋常ではない焦りを見せた于吉は、彼女の進行を阻もうとさらに傀儡を生み出す。

もうなりふり構ってはいられないとばかりに、次々と傀儡で肉壁を作る。

鈴々でさえ突破を困難としたその壁を、さらに頑強にするように、次々と傀儡が生み出されていく。

凪はその壁をまるで意にも介さず、速度を落とすこと無く足を進める。

傀儡を生み出せば生み出すほど、血の雨となり、それは只の肉塊となる。

 

凪が向かう先に、少数の部隊が近づいてきているのが確認できた。

 

「フ、フフフ……まだ、神は私を見放してはいなかったようですね」

 

その旗を確認した于吉は、静かに姿を消した。

それと同時に、凪が全速力で曹操達のもとへ走りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!華琳様!!お下がりください!!」

 

夏侯惇、夏侯淵の両者は曹操の前へ出る。

両手足に蒼き炎を纏った者が、一直線に突っ込んでくる。

それを確認し、先ほどの殺気はこの者であると瞬時に判断した。

 

 

二人は華琳の前へ出るのが精一杯だった。

もっと前方、曹操から離れた場所で向かえうちたかったが、足が前へ進まない。

しかし違和感があった。

姿が見えない状態であれほど威圧された者を目の前にして、これだけの恐怖感で済むものか、と。

凪と夏侯惇達が衝突しようかという間合いに入ったところで、

白装束へ接触したときのように、凪は氣の咆哮を前方へ飛ばした。

 

「ッ……!!」

 

それを受け、夏侯惇、夏侯淵は一瞬、身動きが取れなくなり、

その隙に、凪が二人の後方にいる曹操へ突進する。

 

「華琳様!!!」

 

「ちぃっ……!」

 

曹操が絶を抜き、凪の攻撃に身構える。

しかし、凪はそのまま曹操へ突っ込むも、その直前で止まり、全く違う方へ腕を突き出す。

その行動の意味がわからず一瞬呆然とするが、突然、何も無い空間から振り下ろされた剣を、突き出した凪の腕が止めた。

そこから、曹操目掛けて剣を振り下ろしている導師のような服装の男が現れた。

 

「ぐお……ッ!?」

 

凪の咆哮を直に受けた男は苦しむように身体を硬直させ、うめき声を上げた。

受け止めた剣を握り潰し、そのまま男の身体を掬い上げるように獅子王で切り裂くが、

直前で硬直の解けた男は全力で凪の走ってきた方へ跳躍した。

 

「な、何故……私の……」

 

ダメージが完全に抜けてはいないのか、絞りだすような声で問うその男は、于吉だった。

 

于吉の口から赤い液体が流れる。

今まで飄々と、攻撃を受け身体を切り裂かれても何事も無かったように再生し、余裕の表情を見せていた男。

しかし、その標的を凪は捉えた。

 

今まで誰にも破られたことのなかった己の術が看破された。

いや、本来なら看破など出来るはずがないのだ。

妖術により己の姿を消し、依り代とした自分の分身をつくり上げることで、

どんな攻撃を受けようと即座に再生し、己の身が傷つくことなどなかった。

その消えた”本体”を、凪は卓越した氣の感知によって見つけ出した。

さも当然かのように彼女は”見つけた”と口にした。

 

于吉は驚愕した。

ここまで”楽進”という存在が強い外史は未だかつて存在しなかった。

今まで様々な外史で見てきた呂布や関羽といった英傑達を、はるかに凌ぐ力を目の前の楽進は持っている。

己の命が危機に瀕しているという事を、于吉は改めて認識する。

足元から冷えていくような感覚を覚え、それなのに汗が止まらない。

曹操を瀕死にし、さらに恋のように操り、人質とする。

世界が違えど、情の深い凪ならば追い込めるだろうという于吉の策は、呆気無く止められた。

 

目の前で行われたやりとりを、曹操達は呆気に取られた様子で見ていた。

解ることは、自分に突っ込んできた者に、命を救われたということ。

 

ゆっくりと、凪が歩み寄る。

四つの”牙”に蒼き炎を纏わせ、一歩一歩、怒りを踏みしめるように歩み寄るその姿に、于吉は恐怖した。

 

「くっ……!」

 

歩み寄る凪の前に、大量の傀儡が湧き出る。

後方の星、馬超、恋と交戦していた白装束も、全てを自分と凪の間に生み出す。

自分に襲いかかる敵を物ともせず、凪は于吉を捉え、歩みを進める。

白装束は、于吉の生み出した人形であるというのに、恐怖を覚えた。

人間であった頃の戦慄が今再びその身に蘇り、本能が、凪を畏怖の対象だと告げた。

 

凪の右脚を覆う蒼炎が一際大きくなり、それを蹴りと共に目の前の敵にぶつける。

 

爆発のような音に混ざり、肉が潰れ、骨が砕ける音が響いた。

それと共に、于吉を守るように立ちはだかっていた白装束が、”消し飛んだ”。

兀突骨のように、今までの白装束のように、人体の一部が欠損したのではない。

文字通り、消し飛んだ。

その場に残っているのは、足や手という、衝撃を受けた場所から一番遠い部位だけ。

 

ここに来て、さらに力が上がるのかと、于吉は絶望に近い感情を抱いた。

 

「わ、私を殺そうと、既に劉備軍が連合軍に反逆したという事実は変わらない。

 連合軍を相手に貴方がたのような弱小の軍に何が出来る。

 フ、フフフ、フハハハハハ!

 そうだ、これですよ、私が望んでいた状況は!

 我らが直接手を下さずとも、

 董卓達の──あの男が必死に守ろうとした者達の死は免れない!

 そして反逆に加担したものとして劉備軍もろとも北郷一刀は殺される。

 結局、あの男は自分勝手な偽善に周囲を巻き込んだに過ぎない。

 己の我儘で、劉備達を潰して──」

 

それ以上、言葉を繋げなかった。

于吉の口を、顔ごと掴むように凪が抑えた。

 

 

「お前のような下衆が、あの人を語るなよ」

 

 

ミシミシと顔の骨が軋む音が脳に直接伝わる。

 

 

「連合軍を相手に何が出来るかだと?

 もしも、それがあの人を傷つけるのなら、軍だろうが国だろうが──」

 

 

于吉を掴んでいる腕の蒼炎が、徐々に濃くなっていく。

視界が蒼く染まり、凪の声だけが届き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、打ち砕いてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元が違う。

気づくのが遅すぎた。

手を出すべきではなかったのだ。

手を出してはいけなかったのだ。

 

その言葉と共に、于吉は頭を握り潰された。


 
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