No.537077

【K】セプター4イメージ向上計画

茶田さん

・コメディなので普通に楠原が居ます。ツッコミ要員です。
・掠る程度にドラマCD『ふたりぼっち忘年会』のネタが出てきます。
・意地でも善条さん出しちゃうんだからね!と出したらオチが迷子/(^o^)\ナンテコッタイ
・室長の「抜刀」ボイスは全員集合バージョンの〆にしか入ってないよ!とか、ブログネタに困ったら資料室のクロの写真をアップしとけがお約束だよ!とか、そういう阿呆ネタ入れる部分がなかった。

2013-01-28 04:01:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1555   閲覧ユーザー数:1555

 会議室に集まったメンバーをぐるり見回し、淡島は小さく頷くと凛とした声を発した。

「では始めましょう。伏見」

 早々に名を呼ばれた伏見は舌打ちこそ漏らさなかったがだるそうに立ち上がり、目の前に置かれていたタブレットを手に取ると、これまただるそうに口を開いた。

「えーお手元の資料をごらんくださいー」

 だらだらと垂れ流すといった表現がふさわしい口調の進行役に一同は苦笑を漏らすも、全員が指示通りにノートサイズのそれを軽くタップする。

「それらは街頭やらネットやらのアンケートの集計結果でして、えー中にはぜんぜん関係ないところに紛れ込ませたものもあり、その分、赤裸々な回答が得られて大変愉快なことになってます。まぁだいたいの傾向としてはセプター4はお高く止まってるだのイケ好かないだの偉そうだの高圧的だのと、ぶっちゃけイメージは底辺だってことです」

 伏見のわかりやすいがアレな説明に眉をひそめつつも、淡島は招集をかけた特務隊の主要メンバーを再度ぐるりと見回した。

「それを踏まえて、本日の会議は『セプター4イメージ向上計画』についてです」

「あの副長、世間のイメージがどうであれ、セプター4の活動に支障はないと思うのですが」

 おずおず、と挙手をしつつもこの会議を根底から否定する楠原に隣の日高が軽く噴出する。

 ちなみにセプター4に良い印象を抱いていない筆頭が、この国の総理大臣であろうことは想像に難くない。青の王から特令をばんばん発令される総理大臣の存在意義を考えるとちょっとかわいそうな気がしないでもないが、それはさておき。

「ちょ、タケル、おまえ脊髄反射で物言うのどうにかしろ」

「えっあっすみません!」

「いや、楠原の言うことはもっともだ。しかし、有事の際には一般人の協力は不可欠。故にもっと親しみやすく、より協力を得られるようにとの、室長からのご提案です」

 その最後の一言で室内の空気が、ザワ……、と揺れた。

「そこで、もっとセプター4を知ってもらうために手始めにサイトを開設します。機密に触れない程度に活動内容をアップし、持ち回りでブログ更新。スペシャルコンテンツとして主要メンバーの着ボイスや待ち受けを週替わりで配信予定」

 ちなみにサイト作成は伏見に任せる、と淡島が付け加えれば、寝耳に水であったか伏見は、はぁっ!? と素っ頓狂な声を上げ、資料作成を丸投げされたこともあり、隠すことなく盛大な舌打ちをかました。

 だが、淡島は涼しい顔でそれを、さらり、と流し、話を続ける。伏見は当然、もう一度盛大に舌打ちをかました。

「そしてゆくゆくはアイドルユニット結成までが計画のうちで、コンセプトは『会いに行けるセプター4』とのことだ」

「いやいやいや! 一般人が現場に来ちゃダメでしょ!! ていうかそれどこのAKBですか!?」

 間髪入れず楠原がツッコめば他の隊員からも「アイドルとか無茶振り過ぎですから!」と悲鳴が上がる。

「なんかいろいろと間違ってる気がするんですけど! 一般の人たちにどう思われようとも、自分たちは掲げる大儀を信じ貫けば良いと……」

 いいぞタケルもっと言ってやれ! と声援を送る日高を面倒臭そうに見やり、伏見は今思い出したと言わんばかりの態度で口を開いた。

「あー言い忘れてましたがこの会議の様子は別室で室長がモニタリングしてますんで、そのつもりでよろしく」

 楠原の熱い主張を遮った伏見の口調は相変わらずだらだらとしたものだが、一瞬にして室内の空気が凍った。

「……と、善条さんが言ってました」

 つい、と目を逸らしダラダラと冷や汗を流しつつ、やや上擦った声で言葉を続けた楠原に「売った! こいつ自分かわいさに師匠を売ったぞ!!」と口には出さなかったが、日高をはじめとした他隊員は脳内で同時にツッコミの声を上げた。

「お前たち、やる前から無理と決めつけるとは何事だ。道明寺、貴様は無駄に名前だけはキャラが立っているのだからそれを活かさずしてどうする」

「そこで名指しとか勘弁してくださいーッ!」

 淡島からの不意打ちに涙目になっている道明寺を弁財が慰める横では、五島が「AKBってことはセンターをかけてバトルしたりするのかな」との呟きを漏らし、「いや、センターは室長一択だろう」と加茂が大真面目に応じれば、榎本から「頼むから嘘でも冗談でもやる気があるような発言はしないでくれるかな」と真顔でツッコミが入る。

「ちなみに室長デザインの衣装案もソレに入ってるんで参考までに」

 伏見の言葉に全員がなにやら不吉な予感を抱いたか一斉にタブレットを操作し、目にも止まらぬ早さで次々とページをめくっていく。

 そして、ほぼ同時にその手は、ピタリ、と止まり、全員が得も言われぬ表情で画面を凝視する。ややあって、これは……、と声にならぬ呟きが誰からともなく漏れ、ごくり、と喉が鳴った。

 レトロ風などといった言葉では到底間に合わないソレを、敢えて言葉で表すとすれば、

「……ダサ」

 楠原が漏らしたそれが一番的確であった。

 刹那、誰もが楠原の死を確信したのだが、意外なことに淡島からの叱責はなく、それどころか淡々と「ひとつの意見として考慮します」との返答が寄越されたのだった。淡島も衣装に関しては思うところがあったのか、温情たっぷりの処置に楠原は「あ、ありがとうございますっ」と裏返った声で礼を述べるだけで精一杯だった。

「本日はこれまで。次回の会議日程は追って連絡する」

 これは会議とは名ばかりの決定事項の確認ではないか、と全員が生気を失った顔で項垂れ、力なくタブレットを卓に置く。

「副長がグラビアばりのキワドイ写真をアップする方が手っとり早いんじゃねーの」

「なにか言ったか日高」

「なんでもありません!」

 冷ややかな眼差しにふさわしい氷の刃のような声音に、日高の背筋が、ピンッ、と伸びた。

「解散」

 淡島の宣言に全員、のろのろ、と立ち上がり、まるで死刑宣告を受けたかのような面持ちで足取り重く退室したのだった。

 

 

「良い案だと思ったのですがねぇ」

 特務隊メンバーからすれば悪夢のような例の会議から一週間後、執務室で小皿に載った羊羹を一口大に切り分けつつ宗像が心底残念そうに漏らせば、向かいで碗を手にしたまま善条は困ったように眉尻を下げる。

 少々お時間頂いてもよろしいですか、といつもの決まり文句と共に茶に招かれ、その都度断る理由を探すのも面倒臭いと、善条は宗像の雑談相手を甘んじて受け入れている。

「たとえば楠原君は可愛げがありますから、弟キャラとして受けると思うんですよ」

「はぁ」

 曖昧な相槌を打ちつつ、だが彼は拍子が揺らぐから歌や踊りには向かないだろう、と善条は弟子の様子を脳裏に思い描く。善条の返事は元より期待していないのか、ゆるりゆるり、と手中で碗を回した後、音もなく抹茶を飲み下した宗像は「本当に惜しい」とため息混じりに零した。

「ですが、御前からダメ出しをされては従うしかありません」

 呆れに呆れて言葉を選ぶことすら莫迦らしくなったか『貴様はバカか』と黄金の王がホットラインで直球を寄越してきた際、後ろから『歌って踊れる王様って格好いいと思うけどなー。中尉はホント頭堅いんだから』と暢気な声が聞こえたが、これ以上、黄金の王の機嫌を損ねるのは得策ではないと、宗像はなにも聞いてないとの態度を貫き、その場で計画の凍結を約束したのだった。

「サイトの雛形を完成させていた伏見君には悪いことをしました」

 いやはや彼は仕事が速い、と態度は悪いが優秀な部下を宗像は惜しみなく褒める。

「アイドルユニットとか、本当はどうでも良かったのでしょう?」

 困ったように眉尻を下げたまま善条が口にすれば、宗像は、ふっ、と吐息のような笑みを漏らし、「さぁ、どうでしょうね」と底意の見えない声音で返してきた。

 忘年会で隊員全員に一発芸を強要し、表情筋のひとつも動かさない室長を前に蒼白になる部下を眺めて楽しむような少々歪んだ性格の男だ。会議の場で慌てふためく特務隊の面々を眺めてほくそ笑んでいたとしても否定しきれないのが恐ろしい。

「広報活動の一環になれば、と思っていたのは本当ですよ」

 優秀な人材は何人居ても困りませんからね、と澄まし顔で言い放ち羊羹を優雅に口に運ぶ宗像の姿に、室長と副長で勧誘ポスターを作った方がよほど建設的なのではないかと思うも、善条はそれを口にする気はさらさらなかった。ヘタなことを言って面倒に巻き込まれるのは御免被りたいというのが偽らざる本音だ。

「ところで、これをどう思いますか」

 すい、と滑るように畳の上に差し出されたタブレットに目をやり、善条は手には取らずそのまま指先で画面を撫でる。次々と現れたのは衣装のデザイン画で、満場一致で「ダサい」と評されたモノだが、善条はそのことを知らない。

 暫し黙り込み、ゆるり、と頬の傷を撫でた後、そっ、とタブレットを相手に押し返し一言。

「生憎と若者の服装のことはよくわかりませんので」

「そうですか。いや、大したことではありません。忘れてください」

 平素と変わらぬ表情のままタブレットを脇へ押し退け、宗像は何事もなかったのように「もう一服いかがですか」と問うてきたので、善条は「頂戴します」と畳に置いた碗を静かに戻した。

「着ボイスの配信までならアリだと思うんですがねぇ」

「御前直々の説教を延々と喰らいたいのでしたらお止めしませんが」

「それは御免被ります」

 どこまでが本気かわからない宗像に内心で肩を竦めつつ、善条は差し出された二碗目を口に運んだのだった。

 

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2013.01.27


 
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