「今年も色々あったねぇ」
暖房でぬっくぬくになってる居間でテレビを見ながら萌黄は私の耳元で囁いた。
私はゆっくりと頷く。大変なこともあったけど、嬉しいことの方が多かった。
何より、家族が増えたことが私にとっては本当に幸せだったのだ。
ずっと、お父さんとだけで、その後は一人っきりだったから。
「はい」
「私と二人の時よりも嬉しそうだから、ちょっと複雑だけど」
そういうと拗ねるような表情で呟く萌黄に私は慌てて手を振って否定した。
「それは違いますよ。萌黄に抱いてる気持ちと家族に持つ気持ちはまた別」
「別?」
「萌黄は恋人さん・・・ですし」
「くはぁっ、萌える・・・!」
「何々、何があった?」
私の発言で萌黄が思いのほか大きい声を上げていたからテレビを見ていた
瞳魅さんと愛神ちゃんが振り返っていた。
「な、何でもないですよ」
もう、萌黄ったら・・・。
どっちも特別に大事だけど、失くしたくないものだけれど。
萌黄といるときが一番ドキドキするから。比べられるものじゃないけど。
何て言えばいいのかわからないけど、とても大切な人だ。
「ちょっと、年越し蕎麦を用意してきますね」
そう言って、ちょっと気まずい気持ちになった私は立ち上がって早足で台所の方へ
歩いていく。
少しした後に気配を感じる。それは萌黄のものだった。
「ごめんね」
「知りません」
謝られてちょっとムッとした私は頬を少し膨らませるようにする。
周りに見られるのはちょっと恥ずかしいという気持ちがあるから抑えて欲しいのだけど。
「ごめんて、こっち向いてよ」
「何です・・・?」
チュッ
振り返ると私の頬に暖かく柔らかい感触が伝わってきた。
それは、萌黄の唇の温もりであった。
「も、萌黄・・・!?」
「シ~ッ」
人差し指で静かにのポーズをする萌黄。
私は呆れて呟いた。
「何がシーッですか、もう・・・」
体がビクッて反応してスープが跳ねるところであった。
「だって、特別な日だから我慢できなくて」
その言葉を聞いて私は顔を真っ赤にして萌黄の耳元で囁いた。
「私だって・・・同じ気持ちですよ」
なるべく自然に振舞って、時間がきたら萌黄とゆっくりと過ごしたかったから。
でも、萌黄がそうやって誘ってくると。私も耐えられなくなってしまう。
私のその言葉を聞いて、萌黄も同じように赤くなってどうやって反応すればいいか
困っているようだった。
「今すぐ行くので、テレビ楽しんでてください」
「うん・・・」
やや俯きながらも、素直に萌黄は私から離れていった。
私もさっさと準備をして蕎麦が入った丼をお盆に乗せて居間へと向かった。
賑やかなテレビから出る声と、それを見て楽しそうにしている姿を見ていると
私の理想としていた家族像がそこにはあった。
私も釣られるように微笑みながら、みんなに声をかけてテーブルに
お蕎麦を置いていく。
「さて、いただきましょうか」
『いただきまーす』
**
「ふぅ・・・」
新年を迎えてから部屋に入って一息つく私。それから間もなく萌黄が入ってきて
私に労いの言葉をかけてくれた。
「おつかれさま」
チュッ
挨拶する感覚で私にキスをしてくる萌黄、私もそれに応えて同じようにする。
いつもの濃厚さとは違って小鳥がじゃれて啄ばむような可愛らしいキスである。
「今年もよろしくね」
「うん・・・」
とろけるような気持ちに私は素直になる。この時間を大切に味わいたい。
「変わらず、一緒にいてくださいね」
「変わらずは無理かな・・・」
「え・・・?」
「だって、どんどん好きになってきちゃうし。去年よりも今年の方が好きになれるかも」
「も、もう萌黄ったら」
彼女はいつも私の気持ちをドキドキさせてくれる。
唯一みんなと違うのはこういうことなのだろう。
萌黄を抱きしめながら、家族を思い浮かべながら私はお父さんに気持ちよく
報告できそうだった。私は幸せですって。
お終い
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命たちがこれまでのことを語る話です。本当は海にいったときの話とかあったんですが、全部振り返ったら長くなるので短くまとめたら面白みなくなってました^q^