No.524707

ゲイムギョウ界の守護騎士

ユキさん

青年sideの話です。ダンジョンで未確認生命と戦うブラン。
危機的状況に陥いた彼女の前にあの二人が現れる。

2012-12-29 14:59:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:757   閲覧ユーザー数:743

第25話 ホワイトハートの助太刀

 

 

 

数日前。

 

とあるダンジョンにて一人の狂戦士が次々と地面から現れる黒い影共に向かって、戦斧を容赦なく振り回していた。

その姿はさながら狂戦士(ベルセルク)に見えるが、何処となく守ってやりたいと思わせる雰囲気があった。

少女:ブランは戦斧を片手に、迫る影を叩き切り、開いた手では後ろに迫っていた4,5m程ある黒い人間めいた影に対し、魔法を浴びさせる。

 

「凍りやがれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ブランのかざした手の先にいる黒の巨人の周りから突如として氷を纏った四つの竜巻が現れた。

その竜巻は巨人に一斉にぶつかりさらなる竜巻を巻き起こす。

ブランは戦斧を両手で握りなおし、天井のギリギリの位置まで一気に飛び上がる。

目下には激しさを増していく氷風の竜巻。

身体を空で弓なりに曲げ戦斧を高く大きく上段に構える。

 

「ア■■■■■ヲ―――――――ッ!!」

 

謎の咆哮と同時に竜巻が一瞬で音もなく消え、巨人がブランを鋭い視線で射抜いた。

しかし、彼女とてこれだけでは怯んではいられない。

一国の女神がこんな得体の知れない物に負けるわけには行かない、そう心の中で言い聞かせ重力と全身の勢いに任せて真下にいる巨人に向かって一直線に落ちていく。

 

「吹き飛びやがれッ!!」

 

ブランは全身のバネを使い、最大の力で戦斧を巨人に向かって振り下ろした。

咄嗟に巨人は逃げようと動くが、足場がすっかり凍りついており身動きが取れない。

 

ドゴォォォォォォン!!

 

ダンジョン内に凄まじい爆震が巻き起こり、同時にこれまた声にならない断末魔をあげる巨人。

脳天から真っ二つに叩き切られたとういうのに巨人は今もなお動こうとする。

 

「ッ!?」

 

違和感を感じたブランは後ろに飛び咄嗟に距離をとる。

砂埃が空けてくと同時に違和感が強くなり、影の姿を見た瞬間ブランの顔に戦慄が走る。

巨人の影は切られた部分から半分に分かれ、数瞬のうちに二つのブランの影が出来上がる。

すると、二つの影は周りに溢れ出ていた、黒い影の群れは一箇所に集まり交じり合うようにくっつき形をなしていく。

そして数秒もせずに、二つの黒い戦斧が現れる。

それは黒いブランの手元にそれぞれ一本ずつ握られた。

 

「まるでドッペルゲンガーだなっ!」

 

ブランは影の姿が気に入らないのか鬼の形相をすると同時に、戦斧を地面に思いっきり叩きつける。

それに呼応するかのように、黒いブランに向かって地面から這い出た氷の結晶の軍勢が出現していく。

 

「「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」」

 

黒いブランたちはブランとまったく同じ動作をし、氷の結晶ではなく黒い結晶が地面から這い出してきた。

それらはブランの放った結晶とぶつかり、砕け、ぶつかり、砕けを繰り返し激しい拮抗を始める。

魔力同士の拮抗での勝利の為には並大抵の集中力と精神力では勝てない。

それに今避けたとしても、強力な魔法を連続で使ってしまったブランは動くことが出来ない。

つまり、この勝負での負けはブランの敗北を示すことになる。

ブランは苦悶の表情を浮かべながらも、決して気を抜かないでいた。

気を抜いたが最後。そこに待つのは『死』のみだ。

このままでは拉致があかないと考えたブランは戦斧にさらに魔力を注いでいく。

すると、目の前で拮抗していた状態が徐々にブランの優勢へとなっていく。

それを危険と感じたのか、影の片方が戦斧を地面から引き抜きブランに向かって駆けて来た。

 

「ッ!?」

 

目の前の出来事に呆然すると同時にブランの顔に焦りが浮かぶ。

一瞬でも虚を付かれた為、ブランは魔法のコントロールを見誤ってしまった。

押し返していた魔力の結晶は張り合うどころか次々と破壊されていく。

頭上には戦斧を構え今にも切りかかりそうな状態の影。

眼前には地面から王者の行進を続ける黒き結晶。

 

目をつぶり、迫る『死』の訪れを待つブラン。

逃げ場などない。そう思った瞬間、ブランの頭の中に浮かんだのは幼い双子の少女達。

姉のブランが居なければ泣いてしまうほどの弱虫な可愛い妹達。

 

だが、現実とは裏腹にブランの覚悟はそんな微笑ましい妹たちの姿によって呆気もなく崩れ去る。

頬を伝う一滴の涙。これが零れ落ちる頃には何もかもが終わっている。

 

不思議なことに、いつまで経っても身体に痛みが走らない。

おかしく思い、目を開けてみると目の前には大きな背中があった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

ブランに振り下ろされていた筈の戦斧は目の前で青年の持つ黒の剣と拮抗をしていた。

剣と戦斧の間で激しく迸る火花。青年の足場がメキメキと音を立てている。

そして、いつの間にかブランに迫っていた結晶は姿を消していた。

 

ギィンッ!

 

結晶のありかを探しているとすぐ近くで鼓膜に響く鈍い金属音がした。

音の元をたどると、そこは先程戦斧を使って結晶を形成していた影の居た場所だった。

そこで激しい闘争を繰り広げていたのはいたのは、戦斧を巧みに使うブランの影と白い大鎌を軽々と扱う巫女装束に身を包んだ銀髪の少女。

少女がこちらを一瞥すると

 

「任務完了したよ!」

 

戦闘中だというのに抑揚のない声で意味不明なことを叫びだす。

未だに拮抗をしていた青年は苦し紛れにも「りょ、了解!」と言い、剣を払い影との距離を取る。

少女は勢いよく切りかかってきた影の攻撃をすらりと避け、すれ違いざまに腕を掴み相手の勢いを利用して地面に思いっきり叩きつける。

 

「脱出するよ!」

 

一瞬にしてブランの横まで移動した少女は、ブランの手をとりダンジョンの出口に向かって走り出す。

青年の方もそれに続いてバックステップをしながら少女と同じくらいのスピードでダンジョンを駆ける。

ブランはそんな二人の行動をまじかで見て、

 

「へんな二人...」

 

共に走る二人の背中と顔を視界に収め、優しく呟いた。

 

「ありがとう」

 

ブランの声が聞こえたのか二人が同時に声を上げる。

 

「これぐらい、当たり前だよ!」「助かってよかった...」

 

少女の振り向きざまの満面な笑み。青年の優しい笑顔。

眩しすぎる笑顔を見せられたブランは照れくさそうにそっぽを向く。

危機的状況を有無も言わせないモノがその三人の周りには舞っていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ....こ、これからどうする?」

 

ダンジョンから抜け出した途端、地面に背中から大の字に寝転がる青年。

肩で息をしている様子から見て相当疲れているのだろう。

そんな様子を見て巫女装束から白のパーカーにミニスカートというラフな姿に変わっていた銀髪の少女は「う~」と少し唸ってからポンと相槌を打つ。

 

「とりあえず、帰ろう!」

 

「そう、だね....」

 

青年は立ち上がるとすぐにバランスを崩し、ブランの方に倒れてきた。

ブランは倒れてきた青年を支えると同時に急に膠着した。

 

「ん?...嫌な予感がする」

 

青年は手に触れた小さな、確かな柔らかさをもった感触に顔が赤くなるが、瞬時に背中にものすごい悪寒が走り顔を青ざめていた。

俯いたブランの肩がプルプルと震えだす。

 

「だ~りん...乙です」

 

少女のどこか怒りをはらんだ声音が耳に響いた瞬間、青年の視界に写っていたのはこちらに向かって飛んでくる鳥の姿だった。

上空20mの青年は最早どうでもよいという表情をしてこう呟いた。

 

「柔らかかったな(笑)」

 

その後青年が戻ってきたのは数分後だったそうだ。


 
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