No.523159 とある魔術の禁書目録 戦場に舞う鴉黒騎さん 2012-12-25 21:10:25 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:717 閲覧ユーザー数:705 |
『ハハハッ!こりゃ大変、大変。キャロりん、聞こえる?』
白い雪に覆われた戦場に佇む一機のACのコックピットに男の愉快そうな声が響いた。
『どうかしましたか、主任?』
通信機から聞こえて来たのは主任と呼ばれた男の副官であり、後方に配置されている戦闘指揮車の車内で部隊の補佐に就いているキャロル・ドーリーと言う女性の落ち着いた声だった。
『今の状況、どんな感じかなぁ?』
『学園都市・ロシア軍の両機甲部隊及び航空部隊がアンノウンの攻撃を受け壊滅。お互いの負傷兵を救助しつつ当戦域から徐々に離脱を始めました。なお、総司令はこのアンノウンを≪堕天使≫と名付けました。また、未確認情報ではありますが、空中要塞からの攻撃により学園都市が所有するレーザー砲を搭載した衛星が破壊されたとの事です。』
『アハハハハッ!! いいじゃん! 盛り上がってきたねぇ!で?うちの姫さんは如何するって言ってんの?』
『総司令からは、直ちに部隊をポイントJ5-A-2へ移動し、≪堕天使≫を警戒しつつその場にて待機せよ。との指示が出されました』
主任はモニターに映し出されたポイントJ5-A-2を確認した後、唇を歪めた。
『へぇ、どうやら一発やり合うみたいだねぇ。で?他の連中は?』
『エリザリーナ独立国同盟に派遣中の特殊機動群全部隊及び地上群所属第1・第2機甲連隊、更に航空群、航宙群にも総司令から命令が下されています』
『姫さんかなり本気みたいだねぇ。おーい、下っ端。さっきの聞いてたよねぇ?移動するよ』
主任は楽しそうにそう言いながらスロットルを操作し、その巨体とも言える機体を流れる様に向きを変えると機体各所に搭載されているブーストを点火し、機体速度を加速させていく。その強力な推進力を得て更に速度を増していく主任が駆る『ハングドマン』に離される事無く、多数のACが後に続き、主任が率いる新たな戦場へと向かっていく。それらの機体には黒い翼を大きく広げた紅い目の鴉のエンブレムが描かれていた。
第一話 廃墟での出会い
雪が降り注ぐ中、至る所から黒煙が上がり家屋のほとんどが一部損壊もしくは半壊している廃墟の街の中をアサルトライフルであるAKを持った多数の民兵が正規兵と比べればお粗末ながらも周囲を警戒しながら進んでいた。
だが、その内の一人が頭を撃ち抜かれ、その後頭部からぬるぬるの赤い液体と柔らかい脳髄の欠片を飛び散らしながら斃れた途端、それが合図だったかの様に連続した発砲音が響いた後、近くに居た数人の民兵が撃ち抜かれ赤い液体を地面に撒き散らし斃れていく。
「RPG!伏せろー!」
待ち伏せを受けて浮き足立った民兵たちに紛争の有る所にRPG有り、とまで言われるRPG-7の弾頭が二発飛来し、一発は近くに放置された自動車に命中。爆発の影響でタンクに残っていたガソリンが誘爆し、近くに居た民兵を吹き飛ばした。
そして、残るもう一発は半壊の家屋に突っ込み家屋を完全に崩壊させた。
「ケホッ.......ケホッ.......」
家屋が崩壊した影響で出た大量の粉塵に一人の少女兵が襲われ、咄嗟に頭から被っていた灰色の全身が隠れる程大きな外套で目瞑りながら鼻と口を押さえた。一人粉塵の中に取り残されながらも身の安全を図るためにが収まるまでの間近くの崩壊しかけの家屋に隠れた。
少しの間その場に留まり、粉塵が収まった事を確認したその少女は銃床の横に細長い布で固定した手鏡で辺りを窺うと、そこは既に死屍累々の地獄が広がっていた。反撃している他の民兵たちが一方的に撃たれ、地面に倒れ伏しているのだ。
良く見れば撃たれた民兵たちのほとんどは肺や腹に弾を抱え込んだまま倒れ悶え苦しみ、その中には撃たれて混乱しているのか腹から飛び出した腸を腹の中に戻すためAKを捨てて者まで居る。
頭や心臓を一発で撃ち抜かれればどれほど幸運だろうか?
民兵には正規軍の衛生兵の様な贅沢品は存在しない。治療を行えるのは此処から十数km離れた自分達の拠点に居る素人に毛が生えた様なヤブ医者と、ここから程近い所に在るこの街で唯一の病院。その病院にしても恐らく医者の姿はおろか、患者の一人すら居ないだろう。
自分達に出来る治療は傷口を出来るだけ綺麗な水で洗い、消毒液や度数の高い酒をかけた後に包帯を巻く、ただそれだけだ。
正規の軍人ならばもっとマシな応急処置を訓練で叩き込まれているだろうが、民兵たちにそれと同程度の物を求めるのは酷な事だ。
状況を把握した後、AKの銃口を政府軍兵士に向けるとトリガーを引いた。銃口から吐き出された銃弾が一人の兵士に襲い掛かり、撃ち抜いた。だが、たった一丁のAKが作り出す弾幕など微々たるもの。加えてマガジンに装填されている銃弾を全て吐き出せば今度は政府軍兵士たちからの銃撃が始まった。
その激しい銃撃を受けながらも盾にしている壁からAKだけを出して反撃していたが、ある程度銃弾をばら撒いているとトリガーがガッチリと固まり動かなくなった。
「?............」
直ぐにAKを引っ込め、動かなくなった原因を確かめると薬莢を吐き出すはずの排莢口に薬莢がべったりと詰まっていた。排莢不良、こうなってしまえば持っているだけで邪魔になりかねないため手鏡を素早く取り外した後、躊躇無く放り捨てた。
丁度その時、道路を挟んだ反対側に建っていた家屋の一部が轟音と共に吹き飛び、その衝撃の影響で今まで家屋を支えていた柱が悲鳴を上げながら折れ、支えを失った家屋は
道路に倒れ伏し悶え苦しんでいた数人の民兵たちの上に無情にも崩れ落ちた。
倒壊の音が止むと、幾つもの発砲音の中に混じって遠くからキャタピラ特有の音がするのに気が付いた。
戦車又はそれに準ずる装甲戦闘車両の登場である。
これにより今まで劣勢だった民兵側は圧倒的に不利な立場に立たされる事となった。民兵たちがRPG-7を使おうとしても、その大半が随伴している歩兵部隊の銃撃を受けて蜂の巣にされていく。
その光景を見ていた少女兵は前日の戦利品であるM1911をホルスターから抜いたが、前に進んで味方の援護を行うのではなく、後ろに下がった。
「..........ん....」
そして、次の瞬間、仲間であるはずの民兵たちに背を向け、政府軍から放たれる銃弾と最大の脅威である戦闘車両に気を配りながらその場を離れた。
他人の立場から見ると、その行為は仲間を見捨てる最低の行為に思うだろう。しかし、少女は民兵たちを仲間だと思った事は一度も無かった。
元々、少女は都会から離れた所に在った村に住み、両親から愛情を注がれ貧しいながらも幸せに包まれて過ごしていた。だが、その幸せは村を襲った反政府組織の構成員が放った二発の銃弾によって簡単に壊された。
両親は後頭部から赤い液体を流しながら家の床に倒れ伏し、組織の構成員は両親が死んでいるのを確認した後、動かなくなった両親にしがみ付き震えていた少女を後ろ手に縛り、強引に家の外に連れ出してトラックに積まれていた檻に他の子供と同じ様に放り込んで自分達の拠点に拉致した。
そして、放り込まれた際の痛みに耐えながら、激しく揺れる檻の中から少女が見たのは、業火に包まれ焼け落ちる村の家屋と両親と共に過ごし、思い出の詰まった我が家だった。
拉致された後は同じ村の少年少女と共に洗脳教育の様な軍事教練を受け、それが終わると最も危険な最前線に送り込まれ、運良く生き残ったのは少女を含めて7人。その後も生き残った7人は、同じ様に拉致されて来た少年少女たちと共に何度も前線に送り込まれた結果、今日まで生き残る事が出来たのは少女ただ一人だけだった。
あの一方的な戦闘が繰り広げられていた区域を離脱し、周囲に気を配りながらも街路を素早く横切りながら政府軍が拠点としている街の北側に在る駅に向かっていた
その途中、少女はある廃墟ビルの地下に立ち寄る事にした。鉄筋コンクリート製のその廃墟ビルは昨日まで反政府組織の拠点として利用されていたが、政府軍の激しい攻撃を受けて急遽放棄される事になったため、運が良ければ予備の銃器や食料などが放置されたままの可能性が有り、ここに立ち寄ったのだ。
薄暗い階段を下りた所に在る地下へと繋がる扉が開いたままだったためそこから入り、壁に在る照明のスイッチを押すが、攻撃を受けた影響なのか照明が点く事はなかった。
照明を点けるのを諦めた少女はランプが置かれていた場所に近づき、まだ使えそうなランプを探し、そのほとんどが銃撃戦によって壊されていたものの一つだけ壊れずに残っていた。
今日は運が良い。少女はそう思いながら同じ場所に置かれたマッチを使ってランプに灯りを点けた。
ランプの灯りに照らされた壁や天井には無数の弾痕が残っており、床には大量の血痕と数人の民兵の死体がそのまま放置されていた。しかし、少女はその凄惨な光景に何の反応も示さず食料と水が置かれていた場所に近づくと、その場所は戦闘の余波を受けたのか多数の缶詰が床に転がり、水が入っていたポリタンクに穴が開いており水は僅かしか残っていなかった。その僅かに残っていた水を携帯していた水筒に注ぎ入れた後、缶詰を一つ一つ品定めして食べられると判断した物を食料袋に詰めていく。
カタ
聞き逃してしまいそうなほどの小さな音を少女の耳は聞き逃さなかった。
「.......?..」
聞こえて来たのは地下の一番奥の部屋からで、拳銃を構えながらゆっくり近づくと鉄製の扉には南京錠が掛けられていた。
入口の扉は入った後に閉めたため銃声が地上の政府軍に聞こえる可能性は低い。そう判断した後、躊躇無く南京錠を撃ち抜き破壊した。
壊れた南京錠を取り外し扉を開けると、部屋の中には縄で椅子に固定され、目隠しされているボロボロの男が放置されていた。
「.......やっぱり....」
少女はそう言いながら男に近づき目隠しを解くとペチペチと顔を軽く叩いた。
男の顔は暴行を受けたのか殴られた跡が目立つが、髪は黒く肌の色は過去に一度会った事のある東洋人と同じ色をしている。
「うっ!.......うぅ.......」
男は殴られた跡が痛むのか顔を顰め、それが治まると少女を困惑の表情を浮かべながらマジマジと見つめたが、頭から被っている外套によって感情が籠っていない紅い目と泥で汚れた褐色の肌しか見る事が出来なかった。
「.......言葉.......解る?」
「え.......あぁ、解る」
「.......組織から抜ける.......来る?」
首を傾げながら少女の言ったその言葉に男は驚きながらも、冷静に自分が置かれている状況を把握しようとした。が、それは少女の言葉によって強制的に止められる事になった。
「.......決断...遅いの.......嫌い」
「わ、分かった。一緒に行くよ」
その言葉を聞いた少女は男を縛り付けていた縄を素早く解くと、足早にその部屋から出て行った。拘束を解かれた男は急いで立ち上がり少女の後を追って急いで部屋を出たが、床に広がる大量の血痕と死体を見てしまった男は思わず吐きそうになったが、何とか我慢した。
「.......何してる?」
「.........君は何も思わないのかい?」
「?.......動かない..........ただの肉」
少女はそう言うと地上へと繋がる扉に近づき、男に振り向いた。
「....これが........戦場」
「......一つ聞いて良いかい?」
「.....何?」
「君の名前を教えてくれないか?」
「.......マナ...マナ・ハルメル...............貴方は?」
「......上条刀夜。こっち風で言えばトウヤ・カミジョウと言う」
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少女は廃墟となった戦場である男と出会い、その人生を大きく変える事になる。