No.521832

新たなる世界の中心で:Introduction

佐倉羽織さん

全ての魔法少女を救う概念となった鹿目まどか。お菓子の魔法少女のおはなし。新世界の守護者たる魔法少女のしたためる、決して届かない遠くの友人への手紙、そして手の届くぐらい近くの友人との会話。魔法少女姉妹、そのちいさな魔法症状のの無邪気な願い、そしての望んだ結末。そして、鹿目まどか自身の静かな暮らし。

2012-12-23 11:12:59 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:721   閲覧ユーザー数:719

新たなる世界の中心で:Introduction

一次創作 Magica Quartet「魔法少女 まどか☆マギカ」

○片道書簡

 

親愛なる暁美ほむらちゃんへ

お元気ですか?……って聞くのはなんか変ですね。私にはあなたが今何をしているのか、全部判ってしまうのですから。

でも、私の思いはあなたには届かないのですね。だからこの手紙も、本当は、ほむらちゃんに届かないとは判っているんです。

でも。どうしても書いてしましました。もう宇宙の概念なんだから、もっとしっかりしないといけないのに、私はやっぱりダメダメです。

 

私は相変わらずいろいろな時空で、魔法少女の最期を看取っています。

私にはもう時間の概念がないので、忙しいのかそうでないのかは判りません。

でも多くの魔法少女達を見守って、彼女達のつらい気持ちを知って、暗い思いを強く感じない日はありません。同じ魔法少女同士、共闘している子達でも、それぞれの思いはまた別のところにあって……。人って本当に分かり合えることは絶対にないのだな、そう思うとちょっと寂しくなります。

それでも彼女達との最後の会話で、彼女達の短い人生が幸せだったと感じてもらうことが、そして、生きていて、そして魔法少女をやっていてよかったと思ってもらえることが、逆に私の支えになっています。

 

私、不器用だから、ほむらちゃんにいろいろお願いしたままこちらに来ちゃって、宇宙の(ことわり)のくせに、今でもほむらちゃんを頼ってしまって……。でも、ごめんなさいって言いたくないから、ありがとうって言うね。

 

ほむらちゃん、本当にありがとう。

 

――――

 

親愛なる鹿目まどか様

まどかが宇宙の理になって、本音を言うと私は寂しいです。

あなたとは、最初に出会ったときのように、おしゃべりをして、学校の帰りに寄り道をして……そんな暮らしをまた送りたかった。それは否定できない事実。

 

でも、私はまどかに、この世界を、悲しみばかりが続くこの世界を、任せてもらえたから。それはうれしいことだから。

だから、この残された世界を絶対に守りたい、そう思っています。

 

巴マミとも佐倉杏子とも、友人と呼ぶにはあまりにも遠い距離だけど、情報交換をしたり、それなりに交流があるから、安心して。

 

あと、ちゃんと学校にも行っているよ。もうすぐ繰り返し習ったところは終わるから、魔法少女業の傍ら、きちんと勉強しないといけないね。

 

ごめん、本当は今すぐあなたにあって、その温もりを感じたい。でも、たとえ姿は見なくとも、言葉は聞こえなくても、いつでもまどかは私を見守っていて、励ましてくれている気がします。

だから、寂しく思わないようにがんばります。だって、私が弱音を吐いているところをまどかに見られたくないもの。

 

この手紙は私の宝箱にしまっておきます。もし時間があったら見に来てくれるとうれしいな。

 

――――

 

大好きなほむらちゃんへ

私のお手紙は届けられないのに、ほむらちゃんのお手紙を見てしまえることを許してね。

 

うん、わたしはずっと、ほむらちゃんの傍にいるよ。ほむらちゃんだけじゃないよ、マミさんや杏子ちゃんや、ほかの魔法少女達にもちゃんと寄り添っているよ。

 

ほむらちゃんに辛いこと押しつけて、自分は、のほほんと理になったのに、こんな事言うのはなんか卑怯な気もするけど、ほむらちゃんは頑張りすぎなくていいと思うんだ。もっと周りの魔法少女に頼ってみようよ。

みんなそれぞれ思惑は違う。それはもちろんよくわかるよ。でも、相手を全部理解しないといけないのは私だけでいいんじゃないかな。理解なんかしなくても、協力できるところだけでも、きっといろいろなことが一緒に出来るよ。それが判るだけでずっと幸せな気分になれると思うんだ。うん。

 

この手紙がほむらちゃんのところに届けられないのがすごく残念です。

 

――――

 

私の大好きなまどかへ

私はまだ、巴マミの心の弱さが気になって、一緒に戦うまでには至っていません。

でもこの世界のマミは、魔法少女の秘密もある程度知っているし、自分の心の弱さを自覚して、克服しようとがんばっているみたい。

 

きっと、みんな目指すところは違うのかもしれないけれど、それぞれが精一杯生きてるって、そう最近思えてきたの。

もちろん、まどかが見守っていてくれるから、前から一人ではなかったんだけど、それでも身近に仲間がいるのはいいことなのかなって、ちょっと思ってきています。

私も、誰かに頼ってもいいのかな? そんな風にね。

 

手紙だと、なんだかあんまり書けないね。

私が円環の理に導かれて、もう一度まどかに逢ったら、その時は、もういっぱい話すことがあるから覚悟してね。

また手紙、宝箱に入れておきます。

それでは。

「ここ、座っていいかしら?」

ほむらはゆっくりと顔を上げ、右を向いた。そこには巴マミがいた。

「好きに座ればいいわ。図書館なのだから」

ほむらは液晶に表示されている書き掛けの手紙に視線を戻して、ぶっきらぼうに言った。マミはそのニュアンスは全く意に介さず、少しうれしそうに、

「ふふ、そうね」

と答えると、ほむらの予想に反して、向かい側の席ではなく、ほむらの後ろを回って左隣の席に座った。ほむらの手元をのぞき込んで聞く。

「手紙?」

「ええ」

素っ気なく答える。

「そっか……伝わるといいね、想い」

「伝わるわけないわ」

感情のこもらない、つぶやきと語り掛け、その中間ぐらいの大きさの声で、顔を上げずにほむらは答える。

「そうかしら? 彼女は『いつでもどこにでもいる』んでしょ?」

ハッとして振り返る。マミはほほえんでいる。

ほむらは、しばしその顔を無表情に見つめた後、そのまま表情を変えずに淡々と聞いた。

「巴マミ、あなたは今晩も魔獣を探しに行くの?」

マミは考えるポーズ、口に右手の人差し指をあて、斜め上を見るポーズを作って、

「そうね。今日はお買い物もしなくていいし、このまま街へ行くことになるかしらね」

と答えた。

「私も連れて行きなさい」

と、

ほむらは言った。

マミは目を丸くしてしばし驚いた。けれどもすぐにほほえみを戻して、問い返した。

「どうして?」

「この間のレモンパイのお礼よ。ただそれだけ」

マミはフフッっと息をもらした。

「……お礼ならしかたがないわね。暁美さんが手紙を書き終わったら、出かけましょうか。一緒に」

ほむらは特に何か反応をするわけでもなく、机に視線を戻すと、手紙の最初の部分を、こう、書き換えた。

 

――――

 

最近、巴マミと仲良くしています。

今日もこれから一緒に魔獣を探しに行くところです。

一緒に行くのはお茶のお礼だと言い訳してしまったけど、なにも聞かずに受け入れてくれました。

巴マミは、最初に出会った時と同じように、優しい所もちゃんと持っている、普通の人です。

 

――――

 

私の大切なお友達、大好きな大好きなほむらちゃんへ

不思議だね。私の手紙は絶対にほむらちゃんに届きはしないのに、まるで届いていて、返事をもらっているような錯覚におちいります。

 

私もマミさんとケーキ食べたいな。

そして、早くほむらちゃんと会って、いっぱい、いっぱい、お話ししたいな。

でも、ほむらちゃんには出来るだけ長くその世界にいてほしいから、今はお預けです。

こんな事書いているようじゃ、理失格だね。

うん、私もがんばろう。がんばって立派な円環の理になるよ。

 

一緒にがんばろうね、ほむらちゃん。

 

 

【他の話しは頒布版にて】

 

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コミックマーケット83 1日目(29日) 東5ホール ハ13a 「マドカミ町奇譚」にて頒布します。


 
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