現代に生きる恋姫達 桂花の後編
事実は小説よりも奇なり。
そんな言葉が世の中にはあるけど、そのときの状況はまさにそれを物語っていた。一年前のあの日、『前世』の記憶を思い出した私が、様々な葛藤の末にその時は諦めた再会を、まさかこうして果たすことができるなんて。
「華琳様……なんですね?本当に……」
「ええ、そうよ。……久しぶり、というのかしらね、これも……ねえ、桂花」
例の痴漢騒ぎの後、件の痴漢を鉄道警察に引き渡した私たちは、被害者、そして関係者としての事情聴取が終わったあと、降りた駅の構内にある喫茶店に入って話をしていた。紅茶を傾け、以前と変わらぬお姿で優雅にカップを口元に運んでおられる華琳さまと、その隣に座ってコーヒーを飲む一刀。私はその二人と対面する形で座り、時折、一刀に対して睨みに似た視線を向けながらオレンジジュースを飲んでいる。
ただ、ほんの少しだけ、その目の前にいる一刀からは、私は微妙な違和感がするのをどうしても拭い去れなかった。あの頃より少し年をとっているせいだろうか、警察の事情聴取の際に彼が言った年齢は二十歳だった。あの世界に、前世の世界に彼が来たときは確か17歳だと言っていたはず。五十、六十と過ぎた人間ならともかく、まだまだ成長期に(多分)あるはずの私たちなんて、三年も年をとれば十分に変わってしまえるだけの期間だろう。
けれど。
それを加味した上でも、彼から感じるその違和感、それを私はどうしても拭いきれなかった。そして、その違和感の正体が、紅茶を二口ほど飲み終えた華琳様の口から、私にとっては十分すぎるだけの衝撃として語られた。
「さて、色々話を始める前に……桂花。多分今、貴女が勘違いしていることがあるだろうから、ここでそれをはっきり言っておくわ。……あのね」
「はい?」
「……ここにいるカズトはね、あの一刀ではないってことよ」
「……え」
その瞬間、私の感じていたその違和感が、何かの抜けたピースがはまるかのように、重なった。
「……じゃあ自己紹介、しておくか。警察で事情聴取されていた時に聞いていたのかもとは思っていたけど、その様子じゃあ聞こえてなかったっぽいし。……改めて、“はじめまして”、だな。俺は『本剛夏守斗』。読みはあの世界のホンゴウカズトと一緒だけど、字はまったく違う、彼とは完全な別人の、ただの大学生だ」
一刀じゃ、なかった。
目の前にいるその彼は、確かに見た目、あの彼に見えるけど、彼じゃあ、北郷一刀じゃあ、なかった。それが、私の感じていた違和感の正体、だった。
「……そう……。そう、なのね。アイツじゃあ、ないんだ。……そっか」
「桂花?……もしかして、カズトが一刀じゃなかったこと、そんなにショックだったの?」
「え!?あ、いえ、べ、べつに、そ、そういうわけでは無くてですね、つまるところのその……っ!」
「……えーっと。確か、ゲームの中じゃあ桂花って、北郷一刀に対してはツンデレどころか鬼ツンなキャラ……だったよな?」
「……そのはず、なんだけどね。私も、覚えている限り、この子が一刀にデレたことなんて無かったはずよ。……もしかして桂花、貴女、表の態度はあんなだったけど、心根の底は」
う。
「……ははあ、なるほどね。つまり、ゲームの中の桂花のアレは、照れ隠し、それが極端に極端な形で出ていただけ、と。いやあ、まさに『事実は小説より奇なり』、ってやつだな」
……このカズトは、あの一刀じゃない。それは分かっているけど、やっぱり、よく似たその顔でそういうことを言われると、私としては、なぜかとっても腹立たしくなって。で、出ちゃいました。
私の、“アレ”、が。
「う、うう、うるっさいわね!なに?!なんか文句でもある?!アイツとおんなじ顔して気持ちの悪い事いわないでくれる!?誰が誰に照れ隠ししていたって言うのよ!?何時何処で何時何分何秒?!私は今だってあんな奴のことなんか大っ嫌いよ!誰彼構わず無責任に口説いて回ってその挙句、勝手に天の、この世界に一人で帰っちゃったあんな種馬男なんて、まったく全然これっぽっちも好きでもなんでも無いんだから!」
「あ、ああ、そ、そうですか……」
「桂花……変わってないわね、貴女のソレ。でも、以前とは色々状況が違うんだから、少し、自重してくれると嬉しいかしらね」
「……あ」
大声で、周りの視線なんか一切気にすることなく、そんなことを叫んだ私に、店内の他のお客の視線が全部集中していたのは、まあ、当然と言えば当然なわけで。……あー、もう!人がこんな恥ずかしい思いをするのも、全部あの馬鹿のせいよ!そうよ!今何処でどうしてるのか知らないけど、全部、北郷の馬鹿のせいよっ!
その後、私は華琳さまとカズトの二人とアドレスの交換をし、後日、これまでに見つかっている他の者たち、諸葛亮こと朱里、龐統こと雛里、孫権こと蓮華、趙雲こと星、そして張勲こと七乃、それぞれと、また改めて会う機会を作ると言うことで、その日はそれで別れた。
そういえば華琳さまが朱里と雛里のことを話してくれたとき、その顔がなぜか引きつって見えたのは気のせいだろうか?それに、会うときには十分覚悟しておくようにって言われたけど、一体どういう意味だろう?
「……ばいんばいんの、ぼいんぼいんな体型にでも、二人とも成長していたりとか?はは、まさかね」
前世において、私は朱里や雛里ら、いわゆる『貧乳』の同士たちとともに、貧乳党、なんて結社みたいなのを作っていろいろ活動なんかもしていた。そして、今世においても、私はそのくびきから逃れられなかった。
中学を出たあたりから完全に胸の成長はストップし、背もまったくといっていいほど伸びていない。だからというわけでも……まあ、あるんだけど、胸の大きいのとか背の大きい同姓を見ると、嫉妬と羨望の眼差しをどうしても向けてしまう。健康診断とか、体育とか、水泳の時間なんて、私にはただの苦行に過ぎなかったという、忌々しい思い出も……!
って、愚痴ばっかり言っても仕方のないことを延々続けるのもどうかと思うので、その話は一旦横に置いておくけど。あの、同士だった朱里と雛里がもし、背も胸もいっぱしに成長していたら……憎悪で人が(ぴー)れないかしらね……ふふふふふ。
とまあ、当日の私のそんな黒い念はさておいて。
あの奇跡の出会いから数日後、華琳さまから例の五人と会う、そのセッティングが出来たから来るようにと、そうメールを受け取った私は、あの日に起こった奇跡みたいな出会い、いや、再会、を、何度も何度も心の中で思い返しつつ、幸せな心持ちのまま、目的地へ向かうための電車に乗るため、最寄の駅の構内を歩いていた。
「でも、こうして華琳さまと再会できて、今度は朱里たちとも会えようになるだなんて、ほんと、まるっきり小説か三文芝居みたいね。……この分なら、もしかしたら、他の連中とも近いうち、会えたりするんじゃあないかしらね」
とはいえ、魏の面子だけでも、まだ華琳さまと私以外の者達の行方が分からない。天和たちあたりなんかは芸能界にでもいそうな気はするけど、そんな名前のアイドルとかは聞いたことないし。蜀や呉のほかの連中にしたって、まるっきり接点みたいなものは浮かばないし、蓮華がその姉妹に前世の姉妹だった二人が居ない以上、かつての血縁も当てにはできない。
北郷……一刀の奴だって、実際に、この世界に居るとは限らない。カズトがイコール一刀なんじゃあないか、そう考えもしはしたけど、やっぱり、カズトはカズトなわけで、よくよく見れば、私の知っている北郷一刀とはどこかが違う。
結局のところ、ただ、運命の巡り合わせを待つしか出来ないのが、無力な学生に過ぎない今の私である。
《じりりりりりりり》
『間もなく、三番ホーム、列車が発車いたします。危険ですから駆け込み乗車はお止めください』
「……って、いっけない。急がないと電車に乗り遅」
「っと!?」
「きゃっ!」
あれこれ思考しながら駅の構内を歩いていた私、電車の発車のベルが鳴っていることに気づき、慌ててその場を駆け出そうとしたら、反対側から歩いてきていた一人の通行人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさいっ!私、慌てていて前を」
「ああ、別に気にしなくていい。それよりいいのか?電車、出てしまうが?」
「あ!」
その人は私の不注意を笑って許し、それどころかそんな風に気まで使ってくれた。でも結局、電車は既に行った後。
「あー……やっちゃった……はあ、遅刻ね、これは。……華琳さまに、メールしておかないと。はあ、かつての荀文若ともあろう者が情けな」
「……おい」
「え、あ、はい。な、なんでしょうか」
華琳様の怒る顔を想像しつつ、肩をがっくりと落としながらケータイを取り出す私に、先ほどの女性が再び、不意にその声をかけてきた。
「お前今……荀文若、と言ったか?」
「え、あ、は、はい……あれ?」
はて?この人よく見ると、どこかで見たことのあるような?髪の毛、アレは多分染めているのだろうけど、あの世界ならともかく、現代では不自然極まりない紫色の髪をし、その背中に背負っているのは、形からしてギターか何かのケース、だろうか。それっぽいものを背負う、この、パンク風のファッションをした、スレンダーな体型のその女性。
そして、その人は次の瞬間に、こう、のたまわれました。
「……まさか、とは思うが。お前、魏の、曹操の所の軍師だった、荀彧……か?」
……ちょっと。
本当に、三文芝居どころか、漫画かなんかの中じゃあないでしょうね、この世界。
「……え……っと。その、ど、どちら、さま?」
「ああ。そういえば、あの頃はあんまり、皆と交流がなかったっけな、私は。お前とも口を利いたことがあるのは……そうだな、一、二度、くらいか?私は」
「私は、今の名前を『
To be continued......
というわけでw
現代に生きる恋姫、桂花編から華雄編へと、そのまま続いていきますww
え?続きは年明けとか言っていたのに、なんでこれを書いたって?
・・・・・・モチベさん、かんばーっく!
そういうことです。
長編かける気力とモチベが回復しないんですっ!
だから、短編ですむこれを先に書きました。
ちなみに、華雄編も年内に書くかどうかといわれれば、書いちゃう公算が高いですね(オイwww
そして最後に。
MiTiさんは出す気がないといってましたが、やはり、僕としては彼も出ないと、恋姫は語れないと思いますので、MiTiさんはおkと言ってくださいましたから、『本郷夏守斗』ではなく、正真正銘の『北郷一刀』を、単独登場で書きますw
彼が今、どんな『容姿』で、そしてどんな『名前』で、現代において存在しているか、皆さんお楽しみにしてください。
では今回はこの辺で。
再見っ!
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現代恋姫、桂花編の後編です。
ちょっと短いですが、どうかご勘弁を。
では