No.517601

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#89

高郷葱さん

#89:文化祭二日目 その六



長らくお待たせしました。

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2012-12-12 02:52:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1435   閲覧ユーザー数:1350

IS学園第二アリーナ IS搭乗体験会場の会場――

 

「うん、その調子。それじゃあ歩いてみて。―――方法?普段通りに『歩こうとすれば』歩けるわよ。方向転換はすり足の要領で………」

 

「的を出すから試しに撃ってみてね。引き金を引く時はしっかりと脇をしめて。―――え、飛びたい?それは学園に入ってからのお楽しみだよ。」

 

駆り出されたシャルロットや鈴たち専用機保有者が指導する傍ら、オーケーサインの出た体験者は射撃訓練用の的を使っての『射的』に挑戦していた。

 

「わわ、わわわわわ!?」

 

乱射する人、狙おうとする人、撃った反動に驚いて転ぶ人、機体の向きを変えようとして転ぶ人。

 

しっかりと授業で習ったり、訓練を積んできた面々からすると初々しく新鮮な光景が広がっていた。

 

「…そういえばラウラとセシリアは?」

 

「なんでも、招待した人が来てるらしいからそっちに行ってるよ。」

 

「……あんたは大丈夫なの?」

 

「まあ、ウチはアレだからね。鈴こそ、蘭たちとはもういいの?」

 

「演武前にそれなりに遊んで回ったから、ね。それに一夏と箒はそれどころじゃないみたいだし。」

 

「ま、生徒会の役員だもんね。」

 

はぁ、と溜息をつく二人。

二人に限らず、ラウラやセシリアもタイミングを見て一夏と一緒に文化祭を見て回ろうと考えていただけに無念さは大きい。

……前もって解っていたのでショックは少ないが。

 

「さて、」

「さてと、」

 

指導(おしごと)頑張りますか。」

 

この後、『お手本』を求められて色々やるうちに『鈴vsシャルロット』のガチバトルに発展した挙句、取り押さえに向かった教員の練習機相手に無双するが、駆けつけた空の無慈悲なミサイルの飽和攻撃によって撃墜される…という喜劇のような出来事もあったのだがここでは割愛する。

 

 * * *

 

 

「まったく、本国も困ったものだ。こちらは休暇中だというのに護衛任務だなんて……」

クラリッサは愚痴をこぼしながら列に並んでいた。

 

ラウラから『部隊宛て』に送られてきた一枚の招待状。

それを巡って発生した部隊内招待券争奪血戦(バトルロワイヤル)を勝ち抜いた彼女は意気揚々と休暇申請をして―――

 

 

 

受理されたが、直前になって政府関係者の護衛として学園までの護衛(エスコート)を言い渡された。

 

一応、休暇を半休にしたりとか手当てがつくとかいろいろな特典はあるのだが、それでも演武が終わるまでは自由行動すら取れなかった。

 

それ故、演武後のおやつ時という一番混雑する時間帯に模擬喫茶の入場待ちする羽目になっているのだ。

 

 

 

だが、それは間もなく終わる。

 

あと二人、あと一人と中へ進んでゆきもうすぐ順番がやってくる。

 

 

 

そして―――

 

「大変お待たせいたしました、それではご案内―――」

「おお、クラリッサか。」

 

教室のドアの敷居をくぐった処で、そんな声が彼女を迎えた。

 

「あ、たいちょ―――」

 

クラリッサの視界に飛び込んできたのは、銀髪眼帯という特徴的で小柄なメイドだった。

クラリッサの脳は一瞬だけ、それがラウラである事を認識できなかった。

 

「ラウラさん、今はお客様ですわよ。」

 

金髪タテロールからの突っ込みが離れた奥の方から聞こえるとラウラが少しばかりいずまいを直すと、

 

「お帰りなさいませ、クラリッサお嬢様。」

 

深々とした一礼。

 

そんな姿に呆然としたクラリッサを見てラウラは『してやったり』と笑みを浮かべる。

 

「ラウラさん、悪戯もいいですけどちゃんと案内してくださいませ。あとがつかえてますわよ。」

 

「っと、すまん。セシリア。それではご案内――――クラリッサ?」

 

セシリアに促されて席に案内しようとしたら後ろから肩を掴まれて振り返るラウラ。

 

その視界に写るのはカメラ片手にどこかヤバめな目の輝き方をしている部下(クラリッサ)の姿。

 

「隊長!もう一度、もう一度お願いします!!出来れば数パターン、いえ、もっと!!」

 

突如として暴走を始めたクラリッサに慌てるラウラ、暴走クラリッサを(妙に慣れた様子で)止めに掛るクラスの面々――なんて光景がそれから数分ほど続いていた。

 

 

「これは、永久保存版写真集を作るしか―――」

 

「や、やめ、ダメだそんなの、―――恥ずかしい……」

 

「隊長、可愛すぎます!」

むぎゅっ。

 

「あー、一応メイドさん執事さんはお触り無しですよー。」

「…ま、無駄っぽいけどね。」

 

「執事長とメイド長なら即鎮圧かな?」

「きっとね。」

「きっと織斑先生みたいにガツンとやってくれるじゃない?」

 

 

 

一方ではそんな騒ぎをチェルシーとセシリアが眺めていた。

セシリアが衣装のメイド服で、チェルシーは普通にカジュアルな服装という、普段と逆転した外見ではあるが。

 

 

「…随分と、楽しそう……なのかなぁ………」

 

そういうチェルシーの顔はややひきつり気味だ。

 

「この程度なら日常茶飯事ですわよ、チェルシーお嬢様?」

 

「だから、それは止めてくださいとあれほど………」

 

「あら、昔は『姉さま』呼びされてあんなに嬉しそうにしていたのに?」

 

「む、昔は昔です!だいたい、何年前の話ですか!」

 

そう言われるて慌てるチェルシー。

ちなみにそれは十年ほど前の話である。

 

「あまり大きな声は他の方に迷惑ですわよ。ほら、諦めてお世話されなさいな。」

 

「ああ、もう…」

 

そう言いつつも笑顔を浮かべるチェルシー。

こっちもこっちで、なんだかんだいって楽しげであった。

 

 * * *

 

「はぁ…酷い目に遭った………」

 

「まあ、止めに入った先生たちを全滅させた僕たちも僕たちだけどさ…」

 

シャルロットと鈴は『お手本』から発生した『本気の試合』に熱中しすぎて『やり過ぎだ』と止めに入った教員の機体を全部叩き落とし―――

 

騒ぎを聞きつけてやってきた空の手によりあっさりと撃墜。

 

現在は首から『反省中』のプラカードを提げ、茣蓙(ござ)の上で正座中。

指導役は復活した先生方が引き継いでやっている。

 

「まったく。凄いのは判ったが、何やってんだか。」

 

その傍らには弾と数馬が居た。

 

蘭がまだ体験コーナーに居る為に暇を持て余しているのだ。

時々、アリーナの外に出たりしているようではあるが…

 

「だってねぇ。いつもやってる相手だから本気でやらないとどうもね…」

 

「そうそう。お互い、手は殆ど知り尽くしてるから勝負にならないのよ。」

 

例外は何しでかすか判らない一夏と箒なのだがシャルロットも鈴もそこは黙っておく。

 

「それにしても、あの先生凄かったな。」

 

「さっきの演武の時も一夏たちを一蹴だったし。」

 

しみじみと言う弾と数馬。

 

「ちなみに、空は僕たちと同い年だよ。」

 

「ゑ?」

 

シャルロットの発言に『信じられない』という顔をする弾と数馬。

 

二人はそのまま『嘘だと言ってよ』と言わんばかりに鈴に視線を向け…

 

「そういえば、シャルロットとラウラが転校してくる少し前までは一緒に授業受けてたっけ。」

 

鈴にまで『本当だ』と言われて唖然とする。

 

「あー、あの頃が懐かしいわ―――って、まだ半年もたってないけどね。」

 

遠くを見るような素振りをして懐かしむ鈴。

 

その脳裏にはゴーレムのビームから自分たちを庇って直撃を受けた空の姿が映っていた。

 

「ああ、一つ訊いておきたいんだが…」

 

唐突に、数馬がそう切り出した。

 

「何?」

 

「さっき外に出た時な、こう、背がけっこう高くて長い黒髪な()に会ったんだが、心当たりはないか?」

 

「ちょっと漠然過ぎて判らないわね……もうちょい特徴無いの?髪型とか、胸囲とか。」

 

鈴の脳裏には箒を始めとする『知人の比較的長身で長い黒髪』な面々が浮かんでいた。

 

「そうだな…前髪がちょっと長めで目に掛ってる感じで、それでも美人そうだって思うような子だったと思う。背も…パッと見た感じ、周りより頭半個分以上は出てたな。肩幅もけっこうあるし、胸もそれ相応にあったと思うぞ。」

 

「うーん、髪型は?」

 

「ストレートだったぞ。」

 

挙げられた条件を組み合わせてみるが、どうもしっくりこない。

まあ、鈴もシャルロットも知っているのは学園のごく一部に過ぎず、他学年ともなればお手上げだ。

 

「ったく、コイツはその子見つけるなりあっという間に近づいて口説こうとしたんだぜ?」

 

「あれだけ凄いなら口説かない方が失礼だろ。」

 

「どうだか。――処で、一夏以外に男子は居ないんだよな?目つきがけっこうキツめで、腰くらいまである髪を軽く結ってるような感じの。」

 

「居ないわよ。」

 

「そうだよな…」

 

そんな会話をしつつ、鈴はある事に気がついていた。

 

(―――こいつらが見かけて口説こうとした女子って……まさか一夏?)

 

条件を聞いている限りではそうとしか思えなくなっていた。

 

平均的な女子の身長より頭半個から一個くらいの差がある身長や肩幅等の身体的特徴といい、一緒に居た『男装が自然な女子』といい、条件が挙がるにつれて一夏にしか思えなくなってくる。

 

『ねえ、鈴。』

 

そこにシャルロットがISのプライベートチャンネルを使って声をかけてきた。

 

『どうしたのよ。』

 

『もしかしてさ、弾達が見かけたのって、一夏じゃない?』

 

『あ、やっぱそう思う?』

 

シャルロットの言葉に鈴も同意を返す。

もちろん、表面上は違和感無いように反応しながらで。

 

『そうとしか思えないよ。…で、どうする?』

 

シャルロットが言いたいのは教えるのか、放っておくのかであるが…

 

『放っておきましょ。―――面白そうだし。』

 

『…そだね。』

 

だんまりを決め込む事にした鈴とシャルロット。

 

そのしばらく後、本当に女装中の一夏と男装中の箒に出くわし、唖然とする弾、蘭、数馬とその様子を見て大爆笑する鈴とシャルロットという光景が見られたのだが、ここでは割愛する。


 
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