「夏樹、何外見てんのよ」
教室の窓からあの日のように青い空を見ていると、窓越しに視界を遮られた。
「お前と会った時の事を思い出してな、エリー」
ツインテールを揺らしながら、窓の向こうで浮かんでいる彼女はあの暑い日に出会った魔法少女だった。ちなみに恰好はこっちの世界……というか世間一般的に見て違和感のないもの、つまりはうちの制服を着てもらっている。
着てもらってはいるが、空中にぷかぷかと浮かれてはどう頑張ろうと目立たないとは言い辛かった。現に俺の視界の外ではざわざわとクラスメイトが噂する声や、教室のドアが開く音が聞こえる。
見えないし聞こえないが、校舎の外側では無遠慮に指を指したり、双眼鏡で主に下半身を眺めている男子生徒がいる事だろう。ばれたら目玉焼かれるくらいで済めばいいな。
「あら、殊勝じゃない、私が初めて踏んであげた時の事を思い出すなんて」
そう言ってエリーは濁った瞳を細めて笑う。それを見て俺は一言「ばーか」とだけ小さく言った。
「ふぅん……」
彼女が右手を挙げると俺の側頭部に衝撃が走った。外野のざわめきと、教室から出ていく足音が一層激しくなる。みんなとばっちりは受けたくないらしい。
「いい度胸じゃない、その度胸に免じてそれで許してあげる」
机の近くに黒板消しが落ちる。どうやらぶつけられたのはこれらしい。
「……そりゃどーも、んで、今日はどうしたんだ?」
「別に、暇だから学校の人たちと遊ぼうと思ってね」
学校の人たちで、の間違いじゃないのかと俺は言いたかったが、それは黙っておくことにした。
「とりあえず、遊ぶならこないだみたいに気絶させるんじゃねーぞ」
この間は酷かった。バンジージャンプをテレビで見た影響か、校舎の屋上にクラスメイトの田中を無理やり連れて行き、そこから飛び降りさせたのだ。
途中で浮かばせる予定だったらしいが、少々落ちる速さや彼自身の重さを間違っていたらしく、地面まで数センチの所でようやく止められたのだった。
彼は失禁の上気絶している状態で下ろされ、現在もいまだに学校には来ていない。俺は心の傷が浅い事を祈るばかりだ。
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