真・恋姫†無双~赤龍伝~第15.5話「孫家の乗馬教室」
馬小屋の前で赤斗はウロウロとうろついていた。
赤斗「はぁー。どうしようかなぁ」
祭「何をしておる?」
赤斗「あっ祭さん。それに雪蓮までどうしたの?」
雪蓮「赤斗こそ、こんな所でどうしたのよ?」
赤斗「えっと、その…」
赤斗は歯切れが悪く中々答える事が出来ない。
雪蓮「わかった! さては私たちに隠れて一杯やる気ね!!」
赤斗「そんな雪蓮じゃあるまいし。…って言うか雪蓮こそ、その手に持っているのは何さ?」
雪蓮「これは私の大切なお酒ちゃんよ♪」
赤斗「また昼間からお酒か」
雪蓮「前にも言ったでしょ♪ お酒は人生の友だって♪」
祭「そうじゃ! 酒なくして何の人生か!」
赤斗「はは…そうですか」
祭「それでお主は何をしておったのだ?」
赤斗「ぅ……だから、それは…その……」
祭「ええい! はっきり言わんかい!」
赤斗「…ちょっと馬に乗る練習をしようかなー、と思って」
雪蓮「馬の?」
赤斗「うん。いつまでも、雪蓮や祭さんの後ろっていうのは、ちょっと恥ずかしいしね」
祭「ほう。それで一人で練習をしようと?」
赤斗「……はい」
雪蓮「面白そうじゃない♪」
赤斗「はい?」
雪蓮「ちょうど退屈してたのよ♪ 私が馬の乗り方を教えてあげる♪」
赤斗「何だか嫌ーーな予感がするんだけど……」
そう言いつつも赤斗は雪蓮の申出を受けたのだった。
赤斗「うわっ!」
本日、五度目の落馬。
雪蓮「もー何してんのよ!」
赤斗「だってなぁ」
雪蓮「言ったでしょう。馬に乗ったら手綱をこーして、こーすんのよ!」
興奮した様子で雪蓮はジェスチャーをしてみせる。
だが、そのジェスチャーは意味が分からない。
ちなみに祭は、少し離れた場所で酒を飲んでいる。
赤斗「またそれか…雪蓮、もっと分かるように言ってくんない?」
雪蓮「何よー! 人が親切に教えてあげてんのに!」
赤斗「言っている意味が分かんないんだもんなぁ」
雪蓮「何で分かんないかなー」
赤斗「思うに雪蓮の馬の乗り方って……勘だろ」
雪蓮「よく分かったわね」
赤斗「やっぱり……。僕は雪蓮みたいに勘では乗れないよ」
雪蓮「あら、そうかしら? 赤斗ならすぐに乗れるようになると思ったんだけど」
赤斗「……その根拠は?」
雪蓮「勘よ♪」
赤斗「はぁー」
雪蓮の勘による特訓は夕方まで続いた。
だが、その日は結局、馬に乗れるようにはならなった。
赤斗「痛っ~、身体中が痛い」
ボロボロになって赤斗は城に戻ってきた。
赤斗「今日は酷い目にあったな……」
冥琳「そこに居るのは風見か?」
赤斗「あ、冥琳」
冥琳「ん? そんなにボロボロになって、どうした?」
赤斗「ちょっと訓練をね」
冥琳「そうか。だが、怪我をしないように気を付けるのだぞ」
赤斗「は~い」
冥琳「それはそうと、雪蓮を見なかったか?」
赤斗「雪蓮?」
冥琳「そうだ。今日も仕事をさぼって何処かに行ったきり帰ってこないのだ」
赤斗「雪蓮、仕事さぼってたの?」
冥琳「どうやら知っているようだな」
赤斗「まあね」
翌日。
今日も馬小屋に赤斗は来ていた。
赤斗「よし。雪蓮たちはいないな。昨日みたいになったら堪んないものな」
昨日、雪蓮の勘だよりの特訓のせいで、全身打ち身だらけなっていた。
赤斗「さて、始めるか」
蓮華「そこにいるのは誰だ!」
赤斗「蓮華!?」
蓮華「赤斗? どうしたのこんな所で?」
赤斗(……今日は蓮華か)
赤斗「ちょっと馬に乗りに…」
蓮華「馬に? 一人で?」
赤斗「まあね。昨日、雪蓮に乗り方を教わって酷い目にあったから」
蓮華「そうなのか?」
赤斗「でも今日は大丈夫。今日は雪蓮が来れないようにしておいたから」
蓮華「どうしたのだ?」
赤斗「冥琳に雪蓮の居場所を教えておいた。昨日、雪蓮は仕事をサボったから、冥琳には喜ばれたよ♪」
蓮華「ははは……。でも赤斗。一人で馬の訓練は危険だぞ。なんなら私が…付き合ってもいいわよ」
赤斗「いいの?」
蓮華「もちろん赤斗が良ければだけど……」
赤斗「もちろん良いさ。むしろ、こちらからお願いしたいぐらいだよ♪ 雪蓮の教え方は意味分かんないし、一人じゃ自信がなかったから嬉しいよ♪」
蓮華の手を握り、赤斗は喜ぶ。
蓮華「////////////」
赤斗「蓮華?」
蓮華「な、何でもない! じゃあ始めましょう」
赤斗「痛ぅぅぅ…」
本日、初めての落馬。
蓮華「大丈夫?」
赤斗「大丈夫大丈夫。平気だよ。蓮華のお蔭でだいぶ慣れてきたと思う。雪蓮より教え方が上手いし、分かりやすいしね」
蓮華「そ、そうなのか?」
赤斗「うん。昨日は数え切れないぐらい落馬したからね。本当に蓮華は教えるのが上手いよ♪」
蓮華「うぅ…」
赤斗「どうしたの?」
蓮華「ほ、本当に何でもないわ! 訓練の続きをしましょう!」
赤斗「そうだね…おわっ!」
赤斗はいつの間にか背後に来ていた馬に驚いて飛び退いた。
蓮華「赤斗。もしかして馬を怖がっていない?」
赤斗「え? そ、そうかな…」
蓮華「馬も人が怖がってる事が分かるのよ」
赤斗「馬が?」
蓮華「馬はとても賢いから、赤斗が恐る恐るやってると…」
赤斗「馬に舐められる?」
蓮華「そうね。舐められてしまうかもね」
赤斗「じゃあ、馬に舐められないように主導権を握る必要があるのかな?」
蓮華「ムリに従わせて駄目よ。馬自身にあなたに従おうと思って貰わなきゃいけないわ」
赤斗「難しいんだね」
蓮華「赤斗なら大丈夫。馬も赤斗が一生懸命やっているのを見ればきっと認めてくれるわ」
赤斗「ふーーん。やっぱ蓮華に教わる事ができて良かったよ。馬の気持ちなんて考えてなかったもんね」
蓮華「じゃあ続けましょう♪」
赤斗「うん♪」
一時間後……。
蓮華「だいぶ慣れてきたみたいね」
赤斗「常歩なら何とか」
馬上から赤斗が答える。
蓮華「これなら、次は速歩をやってもいいかしら」
赤斗「速歩って、今より速くなるんだよね?」
蓮華「そうよ」
赤斗「それは…まだ、ちょっと不安かな……」
蓮華「大丈夫よ。私も一緒に乗って教えてあげるわ」
そう言うと蓮華も赤斗の後に乗った。
蓮華「もう少し前に詰めて。…それじゃあ行くわよ」
赤斗「ちょっと待っ…わっ!」
赤斗に構わず蓮華は速歩を始めた。
蓮華「ふふっ…これぐらいで情けないわよ。姉様や祭と一緒に乗った事があるでしょう?」
赤斗「あれは二人の後で、ただ落ちないように乗っていただけだしな。それに、こんな風に僕が前に乗って、こんなに速く走るのは初めてだから」
蓮華「じゃあ、早く慣れるようにしましょう。慣れる為には体に覚えさせるのが良いわ。それ!」
蓮華は一気に速歩から駆歩に変えた。
赤斗「蓮華! ちょっと速すぎ!」
一通り走り終えて、やっと蓮華は馬を止めた。
蓮華「どう? 少しは慣れてきたかしら?」
赤斗「ふぅー。酷いよ蓮華。いきなり駆歩になるんだもんな」
蓮華「ふふっ…ごめんなさい。赤斗の反応がおもしろいから、つい」
赤斗「ったく……ん」
その時、赤斗はある事に気がついた。
蓮華「どうしたの?」
赤斗「え、えっと…」
赤斗(言えない。胸が当たっているなんて……)
今まで乗馬に集中していて気がつかなかったが、蓮華の胸は赤斗の背中に押しつけられていた。
蓮華「変な赤斗ね。じゃあ、もう少し走りましょうか?」
赤斗「う、うん」
乗馬の訓練を再開した赤斗だったが、一度気になりだしたら頭から離れなかった。
蓮華「どうしたの赤斗? 集中しないと危ないわよ」
赤斗「そ、そうだね」
赤斗(集中なんて出来ないよーー!)
蓮華「赤斗? …あ」
ようやく蓮華も自分の胸が赤斗の背中に押しつけられている事に気がついた。
蓮華「きゃあああーーっ?」
赤斗「れ、蓮華、危な…うわーっ!?」
蓮華が馬の上で暴れた為、赤斗と蓮華は二人一緒に落馬した。
赤斗「うぅ…蓮華、大丈夫?」
蓮華「えぇ、大丈夫よ」
赤斗「良かった。…あ」
蓮華「あ…」
気がつくと蓮華を赤斗が押し倒す形になっていた。
赤斗「えっと、その…」
蓮華「……赤斗」
暫く二人は見つめ合っていた。
赤斗「……はっ!!」
赤斗は殺気を感じた。
そして、何か首に冷たいものが近づいてくる事を察知し、大きく身体を仰け反った。
ビュッ!
鋭い刃が先程まで赤斗の首があった場所を風を切って通過した。
赤斗「……」
赤斗の髪が数本、宙を舞う。
思春「ご無事ですか蓮華様?」
赤斗・蓮華「し、思春っ!?」
ここでやっと二人は離れた。
蓮華「思春、ど、どうして、ここに!?」
思春「お姿が見えないので、お探ししていたのですが……」
思春は赤斗を睨みつける。
赤斗「ぼ、僕はちょっと乗馬の訓練を…決してやましい気持ちは……」
蓮華「そ、そうなのよ!」
思春「……蓮華様」
蓮華「はい!」
思春「そろそろ軍議のお時間では?」
蓮華「そ、そうね、でも、赤斗の訓練が……」
思春「それならご心配なく。この者の訓練は私が引き継ぎましょう」
赤斗・蓮華「えっ?」
思春「……お任せ下さい」
その後、赤斗は蓮華に代わって思春に乗馬を教わる事になった。
蓮華と違い、思春の特訓は厳しく、その日の夕方まで続いた。
そして、赤斗は思春のスパルタな特訓のかいもあり、なんとか馬に乗れるようになったのだった。
つづく
Tweet |
|
|
7
|
0
|
追加するフォルダを選択
以前、投稿した第15.5話の内容を少しだけ変えて再び投稿しました。