No.507513

マクロスF~とある昼行灯の日常~

これっとさん

コンサートも終わり、ダイチがアンドロメダ船団に滞在する期間もあと僅か。
知ってか知らずか、シェリルは感情の赴くままに振舞う。
それに対してダイチは…

2012-11-12 22:18:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10251   閲覧ユーザー数:9575

【シェリル・デート】

 

 

あー、疲れた。

さてと、これでオレの仕事は完全に終了、ってことで良いんだよな。やれやれ、この二週間、オレにしては働きすぎた感があるんは気のせいか?

 

まあ何にしても、明日にはフロンティアに向けて出発だ、今日の内にアンドロメダ来た記念に飲みに行かねぇと!

これが出張任務の醍醐味だよな。うははっ、そうと決まったらさっさと出掛けるか。

と、その前にシャワーシャワー、と…

 

……

ん、さっぱりした。

さて、着るモノっつったらS.M.S.支給のジャケットしか持ってきてねぇが、オレは服装に頓着するタチじゃねぇし問題無し。下着、結構ギリギリだったな。シェリルのアホが受身なんざに手間取りやがって、オレまで巻き込んでの訓練だったからそれなりに汗かいたし。てか『着替えチェックよ!』とかほざきながら毎朝オレの股間に顔近づけてスンスン鼻鳴らすの止めてくんねぇかな…?傍から見たらすげぇ誤解受けかねん状態だったぞ…

 

ま、それは良いとして、今は酒だ。居酒屋とかは結構あったはずだ、アンドロメダ船団はフロンティアと同じく地球の街並みを表現した船団だからな。ぐふっ、地酒とか楽しみだわ…

おっと、ネットで調べるとか無粋な真似はしないつもりだ、飽くまでも現地で発掘すんのが楽しみでもあるしな。

 

金は…ん、50000クレジットあれば充分、財布を懐に入れる。

 

 

さあ、目指すは歓楽街だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、今回のコンサートの大成功を祝して!」

「「「かんぱ~い!!」」」

 

グレイスが乾杯の音頭を取ってくれて、ホテルのガーデンを貸切にした打ち上げが始まった。

私の席はというと、みんなの席の前。えっと、上座って言うのかしら?宴会の席は初めてだから良く分からないのだけど。

みんな、思い思いにお酒を飲み始めているわね。私も…

…ん、いつものジュースに少しアルコールが入ってるって感じかしら。んと、チューハイって言うのかしら?口当たりが良くて最初の一杯は一気に喉に流れた。

そして、目の前に出されている料理を摘んで…うん、美味しい。

このお肉、レモンが掛けられてて油っこさと酸っぱいのが絶妙な割合で口の中に広がる。

 

…あぁ、美味しいわね。

ふと、顔を上げてみるとスタッフや関係者が笑顔で話しながら飲んでいる。

今まで出ていなかった私って…すっごく損した気分!

今回のことは私にとって良い薬となったわ。怒られて初めて分かることもあるってことね。

 

もし、ダイチに会っていなかったら…ううん、こういうことを考えるのは止めましょう。

……ん?ダイチは?

ぐるりと見回す。でもあの見知った顔がどこにもいない。

 

「シェリル?どうかした?」

 

ちょうど良いところに。

 

「グレイス?貴女ダイチを見なかったかしら?この会場に来ていないみたいだけど」

「え?鉄中尉なら………あ」

「?」

「……そういえば声をかけるの忘れてたかもしれないわね……」

 

め、珍しいわね、グレイスがこんなミスをするなんて。

って!?

 

「あ、ちょっと何処行くのシェリル?!」

「ダイチの部屋よ!」

「待ちなさい、今は誰もいないはずよ?出てくるときにスキャンしたんですから」

「…っ!」

 

もう!?せっかくゆっくりと話せるチャンスだったのに!

 

「どこに行ったのか分かる?」

「ちょっと待って…今アンドロメダの主線をハッキングして映像に出すから………んと」

 

ん?グレイスが言い淀んだ?何かあったのかしら。

 

「あー…シェリル?悪いことは言わないわ、これは見ないほうが」

「そう言われたら余計に見たくなるのが私なの!知ってるでしょ」

「……私は、止めたからね?」

 

まったく、何なのよ?グレイスがペンダントから映してくれる映像を覗き込む。

 

『あっひゃっひゃっひゃ!良い飲みっぷりだおっさん!ほれほれ、ごっそうさんが聞こえない!そんなアナタにもう一杯!ほれ、一気、一気一気♪』

『ん~…?ジョッキにビールが残ってる!そんなアナタに罰ゲーム♪駆けつけ!3杯!いやいや!5杯!?な~~んちゃって、12杯♪』

『待て、ワシはこれでもアンドロメダ大統領府のだな…』

『ハイハイ、言い訳なんかは聞きません♪飲~んで飲んで飲んで、お偉いさんの、かっこいいとこ見てみたい♪』

 

…はぁ。何でこんな早い時間から酔っ払ってんのよ?!

 

『お?!姉ちゃん悪い、オーダーな!モロキュウ持ってきてくれ!モロキュウな?うほっ、姉ちゃんパイオツでっかいね♪おっちゃん見てみ?ほれ!あ、姉ちゃん逃げたらダメだよ待って、え、何そのお盆はぐはぁっ』

 

…ふ

……ふふふふふふ。

堂々と他の女性にセクハラかますなんて良い度胸してんじゃない?

 

「今回はお疲れ様でした、シェリルさん」

「あん?!」

「ヒッ?」

「あ、ディレクター…ご、ごめんなさい」

 

もう!関係ない人まで巻き込むとこだったじゃない?!

良いわ、明日一日オフだしみっちり付き合ってもらうから!

 

 

 

あ、あれ?どうして私、こんなに怒ってるのかしら…

アルコールのせい、よね?うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…驚いたわね。

鉄中尉がこんな時間から酔っているのにもびっくりしたけど、中尉が絡んでいる中年は…

アンドロメダ船団、大統領次席補佐官のゲイル=ルーク。

私の手の者が少しずつ誘導し、あの居酒屋に自然な感じで導いた筈なのに。

ちょうど今この時間。近づいてきていた店員に扮した女性工作員との絶好の接触好機。

まさかこんな風にご破算にされるなんて…ね。

 

鉄中尉が酔ってセクハラをした店員。あの中尉の言動で居酒屋中の注目を浴びてしまった。

あそこにいる人たち全員がお酒を飲んでいるとはいえ、記憶の片隅に必ず置かれている筈。

これでは、スパイ行為をしようものなら後々に響く可能性大ね。

 

『くそっ、若造にはまだまだ負けんぞ!おい、ビールをピッチャーで持ってきてくれ。今日はとことん飲むぞ』

『うひょ、おっちゃんカッコ良い~♪ほれほれ、もっかい乾杯といきまっしょ!かんぷぁ~~い!』

 

これを偶然で済ます?ふん、有り得ないわね。

鉄中尉にはここまでプランの変更を強いられてきて、そして小さくない影響を今与えてくれた。

…次は必ず。

 

「グレイス?何を考え込んでいるの?ほら、グレイスも飲んで」

「えぇ、分かったわ」

 

…今日はひとまず、休戦ね。

明日から本気出すことにするわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…やかましいな、誰だ?ドアぶっ叩いてんのは…親の敵かのような勢いで鳴り響く鈍音に、オレの意識が覚醒する。

 

あー…昨日どんたけ呑んだっけ?三軒目までは覚えてんだが…

 

 

『いい加減開けなさい!!』

 

 

あぁ?

誰だ外でキャンキャン吠えてんのはよ。

 

ったく、仕方無ぇな。

起き上がりゆっくりとドアへと向かう。いてて、頭がズキズキしやがる。

そして意を決して扉を開ける。

 

 

「やっと出てきたわね!」

 

「おやすみ」

 

 

見知った顔を確認、素早くドアを閉めて施錠。

よし、寝るか。

 

 

『私を無視するな!開けろー!!』

 

 

はぁ、頭痛ぇ。あんまり無視するのも何だが、今のオレの勘は無視を奨励している。

だがしかし、奴はオレの雇い主であって、いやだがしかし昨日で仕事は完了、オレとは何の関係も無くなったわけだし、ならばこそ無視して…

……ぐぅ。

 

 

 

「いい加減起きなさい!」

「ぐぇっ?!」

 

 

 

は…は…腹が……

 

し、シェリル……てめぇ…

女の分際で……肘落としやがって……

てゆーかどうやって入って…

 

オレが苦痛に喘いで恨みの目を向けると、シェリルは髪の毛をバサッと払って腰に手を当てて言い放つ。

 

 

「ふん!この私を無視しようだなんて100年飛んで3年早いのよ!」

 

 

……何で飛ぶんだよ……?

 

 

オレの心からの突っ込みは、口から出ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ひでぇ目に遭った」

 

ダイチがお腹を擦りながら私をジト目で見てくる。

ま、自業自得って奴よね。

 

「私を無視するから悪いんでしょ?!」

 

「知らねぇって…つーかどうやって入ったんだよ」

 

「グレイスに頼めば、このくらいのオートロック容易いわよ」

 

「怖っ」

 

 

 

まったく、この私を確認してそこから締め出すなんて!

こんなことするのは銀河広しと言えどダイチだけよ。

 

 

「んで、何しに来たんだよ?オレぁまだ眠ぃんだけどよ」

 

「貴方、明日にはフロンティアに帰るんでしょ?だったら今日1日、私に付き合いなさい」

 

 

ふふん、1日中私と行動できるのよ?泣いて喜びなさい。

 

 

「はあ?何でんな面倒くせーことを」「貴方昨日の打ち上げにも来なかったでしょ?!探したんだから」

 

 

そう、昨晩ホテルのガーデンを貸し切って打ち上げをしたのに…

なのにこの男ときたら…!

居酒屋でちょっと可愛い店員にセクハラ紛いのことまで…!あ、思い出したら…!!

 

 

「あぁ、昨日は歓楽街に行ってハシゴしたっけ。でもよ、オレぁ打ち上げがあるなんて聞いてねーんだけど、そこんとこどうよ?」

 

「察しなさい!」

 

「んな無茶な」

 

 

くっ…旗色が悪いわね。でもこの私に負けは認められないの!

ならば次の一手よ。

 

 

「ふぅ〜ん…貴方、女の子から誘われてるのに断るわけ?甲斐性無い男は嫌われるわよ?」

 

「はっ、何を今更。んなこと気にしてたら今頃オレぁここにいねぇし。嫌われんのは慣れてっしな。酒かっくらって家で寝てるわ」

 

 

ぐうっ、ああ言えばこう言う…

仕方ない、こうなったら!

 

 

「…そう言えば、ボイスチャットしてるのに貴方から一方的に切られたわね…罪悪感は無いのかしら…?私あの後かなりショックを受けたのよねぇ…」

 

「あん?…何の話だ?」

 

この男…!この顔、完っ璧に忘れ去ってるわねぇ?!それはそれでかなりムカつくわ…!

仕方ないわね、ダイチがフロンティアに帰り着いた頃を見計らってまた繋い(ハッキング)でやるから。

 

 

「ああもう!良いから来なさい!」

 

「あ?…いてててて!耳引っ張んじゃねぇ!!」

 

ぶつぶつ言うダイチを、力ずくで引っ張り出す私。

 

はあっ…こんなつもりじゃあ無かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁぁあ…」

 

 

眠ぃ…まだ頭がガンガンしやがる。つーかこの状態でチェックアウトできたのは僥倖だったわ。こんなこともあろうかと、昨日の内に荷物全部バルキリーに積む手続きもしてたしよ。

余った時間はゆっくり観光ってのもなかなかオツってもんだ。

 

「堂々と欠伸してるんじゃないわよ、オヤジ臭い」

 

「今頃気づいたのか?」

 

 

何を言ってやがる?オレぁ28だぜ?まだ17、成人になったばっかの奴からしたら充分オヤジだわ。

 

 

「もう、この私と一緒に歩いてるんだから少しはシャンとしなさいって言ってるの」

 

「なら他の奴誘えよ…他に歳が近い男なんて腐るほどいんだろ」

 

「…それじゃ、意味が無いのよ…」

 

「あん?なんだって?」

 

 

ボソボソと呟くんじゃねぇよ、こっちは寝起きで脳みそ働いてねぇんだから。

つーか、今日はせっかくのオフだろうに。何でオレを誘うんかな。仮にクルマ運転しろっつわれても酒酔い運転になっちまうわ。出身船団とは違う所でとっ捕まったら手続きも面倒だし、今の仕事も無くすかもしんねぇし。

 

それによ。

 

 

「オレぁ遅くても昼過ぎにはここ出るかんな、それは分かってんな?」

 

「…へ?」

 

 

へ、じゃねえよ、へ、じゃ。アイドルがんな惚けたようなの口にしてんじゃねえ。

 

 

「聞いてないわよ?!」

 

「そいつは不思議だな、オレのホテル滞在は今日まで、もうチェックアウト終わってんぜ?マネージャーさんから何も聞いてないんか?」

 

「…聞いてない…」

 

 

おいおい、目に見えてがっくりしてんな。

 

 

はっ。

 

 

今気づいたんだが、オレって傍から見て美少女を虐めてる年上過ぎるお友達ってやつか?

こいつぁマズい。

 

 

「はぁ…仕方無ぇか、行くぜ、シェリル。ちっと観光に付き合ってくれや」

 

「えっ…ちょ、ダイチ?手を…」

 

 

ったく、かったりぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うぅ…私の顔、今どうなってるかしら…?

いくらサングラスで変装しててバレにくいとは言え、男性と手を…手を繋いで歩くっていうのは…初めて…だわ。

 

私が歩き易いように、身長の高いダイチが歩幅を狭めてくれてる。

紳士ぶってるのかしら?

 

…いえ、違うわね。

これは飽くまでも彼の日常そのもの。見てて無理してるって感じじゃないもの。

 

誰かと…こうして歩いたことがあるの?

彼女みたいな…人がいたりするの?

 

……ううん、何を弱気になってるの?!

私はシェリルなんだから!欲しいものは自分の力で奪い取ってみせるわ!

 

「お前ぇの表情、コロコロ変わって面白ぇな」

 

「っ!?」

 

「いっ痛ぇ?!」

 

 

…乙女の顔を覗きこんでるんじゃないわよ。

脛蹴るわよ?!

…もう。こっちが一方的に緊張してるのがバカみたいじゃない。

ダイチはダイチで全然普段と変わらないし…そんなに私って魅力無いのかしら…

 

 

「しっかしよ、シェリルも物好きなもんだな。貴重なオフを、オレみたいなおっさんと出かけてんだからよ。はっは、お前ぇのファンが知ったら悔しがんだろうな」

 

「…そうね、グレイスと一緒ならともかく、私がこうやって単独で動いているのは本当に稀よ。しかも異性と、ね。感謝しなさい、ダイチ。こんなサービス、滅多にしないんだから」

 

「くはっ、そんなサービス、せめて彼氏候補にでも言っとけ。オレみたいなおっさんにはあまり効き目無ぇぞ」

 

むっ、ちょっと頭にきたわ。

そこまであからさまに『お前魅力無い』みたいなこと言われたら、女性として、そして乙女として。

 

ぎゅっ。

 

「んあ?おいおい」

 

ふふっ。ダイチの手をとり、指を絡めて繋ぎなおした。

所謂、恋人握りってやつね。

そしてそのまま、ダイチの腕にもう片方の手を回して私の胸を密着させる。

 

「どう?これでも効き目薄いかしら」

 

あら?ちょっとダイチの表情が揺らいできたわね。少しは意識してくれてるって考えていいのかしら。

……

…ダメ、考えるのを止めたら私の心臓が爆発しそう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…シェリル、こいつ何考えてやがんだ?こいつの有名度は銀河に知れ渡るほどなんだろうが、オレみたいなパンピーとこんな格好で歩いてんのを見られた日にゃあ…うはっ、悪い結果しか見えてこねぇよ。

 

ちらりとシェリルの方を見る。げ、丁度目が合った。

てかその上目遣い、卑怯すぎんだろ。女の武器がこれでもかって詰まってやがる。しかも腕に密着されながら…だ。これがオレじゃなくて他の奴だったら勘違いしてしまうわ。

顔真っ赤だしよ、恥ずかしいんなら止めリャいいのに。

まぁプライドが高いコイツのことだ、自分から言い出したことを撤回するんは負けだと思ってんだろ。ここは大人なオレが気を利かせるべきかね。

 

 

「ほれ、シェリル。もう良いだろ?お前ぇの魅力はよ~~く分かったからよ?ちゃっちゃとこの恥ずかしい体勢どうにかしてくれんかよ。周囲の目もあるしな」

 

「あっ…」

 

 

周囲の目と聞いて少し力が収まったところを丁寧に剥がす。オレの腕からは少女特有の匂いがしてきやがる…やべ、このジャケットでバルキリーに乗ったら匂いが充満しかねんな。

 

ん?

 

何か不機嫌そうにこっちを見ているシェリルが視界に入った。何が気に入らなかったんだ?

オレがあっさり負けを認めたから…か?ったく、ガキだな。

 

「ほれ、行くぞ?ぬいぐるみでも買ってやっから機嫌直せって」

 

ポンッと頭を一撫でして、通りにあるファンシーショップへと足を向ける。

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

ガシッ。

 

さっきと違って腕を掴んで指を絡めてくる。流石に店内で抱きかかえるのは無理があるか。

てかまたこの格好かよ?!

…はぁ、まあいいや。

 

シェリルの手を引いて店内をうろつく。周りの女の子達がシェリルの方を見てヒソヒソ何やら話してやがる…バレたか、やっぱ?ま、良いか。どうせシェリルとはこの地でサヨナラすることになる、噂程度で収まるだろ。

黄色い悲鳴が聞こえたが敢えてスルーしとく。

 

 

ん~と、シェリルを動物で例えるなら……ん、やっぱこいつかな?

とある棚からオレが引っ張り出したのは、つぶらな瞳で舌をだしてお座りしているワンコ。

尻尾もピンッと張ってて、実在していたらはちきれんばかりに振ってそうなイメージがある。

 

 

「シェリル、コイツで良いか?ま、オレがチョイスしたもんだし、気に入らなかったらお前ぇの希望に任せるが」

 

「…ううん、これが良いわ。可愛い…ありがと、ダイチ」

 

 

なんだ?普段と違って珍しくしおらしいじゃねぇの。

へぇ、そんな笑顔もできたんだな。こいつぁ同年代の男だったら放っておかねぇよな、やっぱ。

くしゃりと、シェリルの髪を撫でてレジへと持っていく。

危ね、昨日有り金使わなくて良かった。ギリギリ足りたわ。

 

「ありがとうございました~」

 

 

会計を済ませ、店を出る。

シェリルは手は繋いだまま、もう一方でぬいぐるみを抱きかかえている。

時折、ぬいぐるみを見てはニヤニヤしてやがる…ホント、アイドルっつっても一人の少女なんだなって再認識させられたな。

 

「さ、まだまだ行くわよ?次は…」

 

さっきのレジでもらった観光マップを楽しそうに覗き込むシェリル。

はっは、何やら同じ様な経験をしたことがあるな…ランカちゃんもこうやってたっけ。

 

うし、ここはお嬢様の相手を時間いっぱいしてやりますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紆余曲折ってやつがあり、あちこちをシェリルと廻りオレはバルキリーの発着場に着いた。発信予定時刻は1530、時間はまだ昼を過ぎて3時くらいだから余裕はある。

 

結局シェリルもここまで着いてきちまったな、適当なところでサヨナラかと思ったんだが。

ぬいぐるみを大事そうに両手に持っちゃってまぁ。

 

 

「んじゃあオレはこれで行くわ。世話になったな、シェリル」

 

「ふふっ、私が見送りに来るだなんて、こんなサービス滅多にしないんだから」

 

「おう、分かってるさ」

 

 

短い間でも、濃い時間を過ごしたんだ、人となりはだいたい把握したつもりだ。

 

 

「その…気をつけなさいよ?フロンティアまで、遠いんだし、その…」

 

 

ったく、んな顔すんじゃねぇよ。まるで、捨てられた子犬のような、目を。

 

 

――――ぽんっ

 

 

俯いてるシェリルの頭を一回だけ、撫でてやる。びくっと顔を上げるシェリルだが…何だ?変な表情しやがって。

 

 

「この広い銀河でまた会う確率は低いがよ、また縁があったら会う日がくるってな。笑顔で見送ってくれや」

 

「…うん、そうね」

 

 

はっは、やっぱ子供は笑顔が一番だわな。オレも釣られて笑顔になりやがる。

 

「ダイチ」

 

「ん?」

 

身体アーマードの機能点検をしているところで声をかけられた。

顔を上げた瞬間、影がオレの顔を覆う。と同時に甘い匂いがオレの鼻腔を擽り、首に何かが巻きつく。

 

「んっ…」

 

「?!」

 

……はぁっ?!な、何してんだコイツ!?

 

「うふふ…ようやく私が勝ったわね」

 

おい、顔真っ赤にして言う台詞じゃ無ぇよ。

唇が離れ、少しずつ離れていく。

つーか幾ら気が緩んでいたからっつってこんな小娘に遅れを取るとは…

 

「勘違いしないで、これは必ずまた会いましょうってギャラクシーの挨拶なんだから!フロンティア出身のダイチは分からないでしょうけど」

 

勘違いも何も…ははっ、ったく。

一本取られました、はい。

 

「おう、挨拶、な。シェリルの願掛けだ、意外と早く会うことになっかもな。…っと、時間だ。またな、シェリル」

 

 

一度手を振り、飛行キットを作動させてコクピットに乗り込む。

接続正常が確認されると同時に、ハッチが閉まる。

 

一度シェリルの方を見ると、両手を口に添えて何か叫んでやがる。

 

 

…分からん。

 

 

もう一度指を立てて振り、下部噴射を上げていき……

 

 

『READY』

 

 

よし、発進と。

ん、流石はアンドロメダ、エネルギーと弾薬はきっちり補給されてるわ。

これならいける。

 

 

「またな、シェリル」

 

もう一回しばしの別れを告げ、メインバリアに向かい操作桿を操る。

 

あとはフロンティアへ…

 

 

 

だが、数週間後にまた再会し、あちこち連れ回されることになるとは、この時思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイチ…」

 

そっと唇を撫で、バルキリーが飛び去った方向をもう一度見る。

 

『次逢ったときは覚悟していなさい?絶対、墜としてあげるから!』

 

さっきの言葉がダイチに届いているとは思わないけど、ダイチは肯定のジェスチャーをしてみせた。これは私に対する宣戦布告と取って良いわね?

私のファーストキス…あげたからには、しっかりと責任を取ってもらうんだから!

 

ぬいぐるみを抱きしめ、私はグレイスが待っているだろう出入り口へと歩き出した。

 

 


 
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