第23話 悪夢の始動
壁に穴が開いていた事件から数日、四大陸が震撼する事件が起きた。
この宿にいるネプテューヌ達も驚きを隠せていなかった。
目の前のテレビに流れる映像はまるで悪い夢でも見ているような光景だった。
そのテレビに映ってる場所は果てしなく広い雪原。
それだけ見ればきれいな光景に見えるかもしれない。
だが、見たものの目はそんな光景は映るはずがない。
なんたって、中央に立つ黒ずくめの男の足元から広がる多大な赤があるからだ。
その赤は男から広がるものではない。周りに倒れた無数の人間からのものだった。
首だけのものなど、どれもがひどい殺され方をしている。
『現在この男については調査中との事で、
各大陸の女神様が先陣を切って指揮を執っているとの事です。
また、女神不在のプラネテューヌは大混乱をしているそうです』
ニュースから流れるアナウンサーの声でその場にいた全員が意識を覚醒させる。
タイチ以外の全員が身震いを起こしている。
無理も無い。こんなにむごい殺され方―――そもそもタイチ以外の
4人は人の死などはじかに見たことなど無いはずだ。
これは世界から消えた傷跡が再び浮き出してきたのだ。
「この悪夢は誰にも止められないかな」
この生まれ変わった世界は変革についていけるのか、期待と畏怖。
それは神からの試練じゃない。悪魔からの小さな悪戯でしかないのだ。
事件判明から数時間前。
男は無数の人間を連れて、雪原を歩いていた。
ついてくる人間は全てが、
まるで操られてるかのようにおぼつかない足取り男の後を追いかけていた。
男が止まり、指示を促すと後ろについていた人間は男を囲むような配置に移動させられた。
パチンッ!
男が指を鳴らした瞬間、全員が自我を取り戻しこの状況に混乱していた。
そして、男が静かに口を開く。
「今から世界を壊すための変革を行う。
この変革に世界が耐えられることは無い。始めよう、『悪夢』を」
男のフード越しに光った右の心奏眼(オッドアイ)が紅く光り、雪原の風景が一瞬にして変わる。
火を吹き上げる街。人々の憎悪、怨嗟、嫉妬、様々な感情が入り組んだ世界が顕現していた。
一瞬のうちに変わってしまった風景。
男が片手を空に上げると、焼ける空に突如として、剣を模した黒い光が浮かびだす。
「喰えよ」
上げた片手を振り下ろすと剣が踊るように空を舞う。
その光景に人々は完全に見いていった。
だが、一人の叫び声により人々に戦慄が走る。
「.....呆気ないな」
人々は抵抗することも出来ずに黒い剣に喰われていく。
これだけ資質のあるものを集めたが、誰一人として抵抗することは出来なかった。
男はつまらないものを見るような目で、
「終わり」
それをはき捨てた。一言で「悪夢」の世界は蜃気楼のように崩れもとの風景に戻る。
男は死んだ者たちの姿も見ずにその場を去り行くのだった。
青年は少女と夜の雪原を歩んでいた。
夜遅くに出かけるのはちゃんとした理由があった。
記憶を戻すきっかけを掴むために少女に剣の稽古を頼んだのだ。
「ふぁ~....うにゅ」
「ごめんね。眠いのに無理にお願いしちゃって」
少女の頭を一撫ですると少女は猫のように擦り寄ってくる。
はたから見たら初々しいカップルに見えなくも無い。
歩きづらいと思いつつも、少女を払うわけにもいかないのでゆっくりと目的地へと向かっていく。
歩くこと数分
異変を感じたのは少女だった。眠そうな顔が戦慄を覚え、
少女の顔に警戒の色が浮かび上がっていく。
歩いていた青年を手で制し、虚空から呼び出した少女の身の丈をゆうに越す白い鎌を手元に握る。
「気をつけて。何かがいる」
「う、うん」
青年はぎこちない手つきで腰についていた鞘から剣を引き抜く。
刀身は黒一色である。西洋剣の形をしている。
少し先を歩いていくとひどいにおいが鼻腔をついた。
その臭いに吐き気を覚えながらも青年は少女の背を追いかけ、数分で臭いの元にたどり着いた。
「な、なんだよ!?なんで、人がこんなに!!うぐっ!」
青年は思わず吐きそうになったが、なんとかそれをとどめて、再びその光景を瞳に焼き付けた。
少女は呆然としてこれを見ていた。
まるで、人の死をイヤと言うほど見せられて、感覚が麻痺しているような表情だった。
「あ...」
その時近くで男の子の呻き声が聞こえた。
青年はすぐにその子の元に駆けつけ―――何もすることが出来なかった。
男の子の右腕は千切れており、そこから血が多量に流れ出ている。
「―――僕にこの子を救うことは出来ないの!?」
青年がそばにいた少女に必死に訴えかける。
少女は少しだけ逡巡した後、静かに口を開いた。
「あなたの超回復能力をその子に授ければすぐに元通りになるわ」
「どうすれば、いいの!?」
青年は躊躇無く頷き、その答えを少女に求める。
自分にそんな力があるのは青年はそれほど驚かなかった。
少女は青年の決断の早さに驚いていたが、今度は迷い無く声を発した。
「あなたの手をその子の胸に手を当てて。それだけでいいから」
「分かった」
青年は言われるがままに、少年の胸に手を当てる。
「唱えます。汝、その力を分け与え、汝の承諾を許す」
少女が短く、でも不思議と何かを感じさせる言霊を唱えた。
すると青年の右手の甲に剣の描かれた黒き紋章が浮かび上がる。
数分後
青年たちは少年を協会に連れて行った。
理由はここら辺には家がほとんど無く協会が一番近い為である。
「この子をお願いします」
「はい、ではお預かりしますね」
協会の人にその子を預け、青年は少女をおんぶし協会から出るため廊下を歩いていた。
少女は協会に入って、すぐに気が抜けたように倒れてしまったのだ。
青年が廊下を歩いていると協会の人々に先程から異様な注目を浴びていた。
「居心地が悪いな」
出来るだけは早足でそこから立ち去る。
数分後、青年は玄関の前にたどり着くとある事実に気付いてしまった。
協会の扉は押引式なのだ。両手が塞がってるこの状態では開けようもない。
「入るときはインターホンみたいなのあったんだけどな.....どうしよう」
辺りを見回すが付近には誰も歩いていない。
一回少女を降ろすという考えも出てきたが、それは本能が否定をした。
ここにおいたら、いけない。そう心の中で誰かが告げたのだ。
青年はそれを信じ、再び路頭に迷う。
いっそ体当たりでもして壁を壊してみるかとも、考えたが、それは普通に考えて無し。
「うーん....「壁を壊して、わっはっはっは~」....」
「はは、夢で何をしてるのかな」
渇いた笑みで少女の寝言を笑い飛ばす。
しかし、これ以上ここにいるのも気が気で無いので、青年は扉に頭を添える。
「体当たりじゃなくて、頭突きでいってみるか」
首を引き狙いを扉に決める。
「い、いける!ど、どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
渾身の一撃を溜めた額を叩きつけ、
とてつもなく鈍い音と叫び声が協会内に響いたのは言うまでもない。
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協会から追い出されて、
数日後5人を待っていたのは大量虐殺事件だった。
一方、青年と少女はその現場に居合わせてしまった。
いったい、犯人は――――!?