「いいねファントム! 訓練の成果でてんじゃんか!」
「いつまでも足手まといのままではおれんのでなあ!」
そこら中でサイボーグと民兵の戦闘が展開されている廃棄港。
その海に面した一区画に、背中あわせで白兵戦を行う二機の機装がいた。
ガルダとファントムの振りまわす振動剣が、二人を取り囲むサイボーグ達をけん制する。
が、じわりじわりと奴らは輪の直径を縮めてゆく。
「楽しいなあガルダ! 駅の連中よか歯ごたえのある奴らだ!」
「何言ってんすか!? こいつらあたしたちを本気で殺しに……Damn!」
とうとう、サイボーグの一体がガルダの右腕を掴む。
それと同時に、僕は敵の輪の中へ馬ごと突っ込んだ。
軍馬の膝蹴りを喰らったサイボーグ達が砕け散りながら、海面遥か彼方まで吹っ飛んでゆく。
奇襲に気付いた何体かの敵は小火器を乱射してきたが、この重機装には傷一つ付けられやしない。
そいつらにお返しとして長身の斬馬刀を叩きつけてやる。
面喰ったサイボーグ達は反応を返せないまま、馬鹿でかい振動剣の露と消えた。
敵が一掃出来た後、鉄馬から降り立って二人へと駆け寄った。
「ガルダ、ファントム、無事か!」
「な、誰だっ!? このお侍ちゃんはっ!?」
「僕だ!」
「えー? 少し見ない間にガタユキも逞しくなったもんだな」
「うわ、安形には似合わねえぞこれ」
「やかましいわお前ら!」
心配して損した。
無事でほっとする反面、いつも通り過ぎて腹立つ。
だが一息つく間もなく、倉庫の隙間から新たな敵がうじゃうじゃ出てきやがった。
うかうかしていられない。
「二人ともよく持ちこたえた! ここからは僕が始末する!」
「えぇ……?」
「なにガッカリしてんの少尉殿! ほら下がるよ!」
activation:Five barreled rotary cannon GAU-12/EXA overdrive 25mm gun system
機関砲の使い方なんざ知らないが、一か八かで僕は背部ユニットから五連砲を引き抜いた。
ロックオンされた標的に意識を重ね合わせた瞬間、ガトリングが火を噴く。
音速を軽く超える 25mmの鉄甲弾を受け止めきれずに、倉庫は一瞬で崩れ落ち、サイボーグは次々弾け飛んだ。
一斉射が終わって辺りに残響と煙が漂った時、声が聞こえた。
「く、くっそ! 予定とは違うがお前りゃをここで葬り去ってやる!」
やたら口足らずなその声には覚えがある。
ありゃあ、ホログラムで演説をぶっていた噛み噛みのサイボーグだな。
ふむ。
再び突撃してくるサイボーグと共に、倉庫のトタン屋根を突き破って、戦車の砲塔に四肢を取ってつけたようなロボットが現れた。
二脚戦車は僕目掛けて片腕を振りおろしてくる。
「遅い!」
背中から宙返りを決め、逆立ちのまま畳んだ腕をバネにして伸ばせば、イヅラホシは宙を舞う。
そして腰に収めていた斬馬刀を再び抜いた。
目標は、もちろんヤツだ。
足を付けた倉庫の古看板を蹴り飛ばし、僕は重力に逆らって跳躍の方向を変えた。
「ヒーローごっこでなにが出来りゅ! 行けっ! 二脚戦っ、ぬううううん!??」
太陽も眩しいので、僕は二脚戦車の足を遠慮なくぶった切ってやった。
二脚の巨大ロボット兵器? そりゃ対人向けのおもちゃじゃないか。
親父から受け継いだ機装乗りの血を舐めんじゃねえぞ!
launch:BGM-71Q TOW-Jr. anti-tank missile attention! SACLOS
ロボットの股下に滑り込んだ僕は、対戦車ロケットをその燃料タンク目掛けて打ちこんだ。
乗員もろとも、ロボットの上半身が木っ端みじんになる。
戦車のなれの果ては水柱を立てて、海へと崩れ落ちた。
さあて。最後だ。
立ち上がり、ゆっくりと残りのサイボーグ達へと近づいてゆく。
噛み噛みサイボーグはひどく慄き、激しく震え始めた。
ハッタリでも演技するしかないぞこりゃ。
「貴様が頭領だろう。まず、誘拐した兵士たちをどこに監禁したか吐け」
「あ、あ! 分かった! 分かった! 言う! 北区の山中に『埋めてある』!」
束の間、僕は呆気に取られた。
僕らと交戦する遥か前に、こいつらは人質を殺したって言うのか。
物にならない怒りがこみ上げてくる。
ならもう用は無い。
サイボットを捕虜にしても、何の情報も吐かぬまま自爆するのがオチだ。
「いきなりだが、次に最後の言葉を聞こうか」
「うええ!? 後生だ! 見逃して」
「身勝手な責任論を嘯く輩なら! 潔く責任とってくたばりやがれ!」
「こっ、降服する! 降服だ! 降服……!」
「覚悟ッ!」
自棄になって襲いかかってくるサイボーグ達をなぎ倒しながら、僕は奴らのリーダーへと突貫する。
そもそも、宇宙開発用の義体を戦闘で使うなんて無茶すぎるんだ。
人や自然を踏みにじる事業よりも先になすべきことがあるだろう!
「ジェイクの糞ったれえええ! 最新の重機装があるなんて聞いちゃねえええ! コンの素人おおお!」
最後に残った彼は、カメラアイを見開いて機関砲を乱射してくる。
が、片目に狙撃を受けてサイボーグは大きく仰け反った。
いい仕事だ、ファントム。
鋼の鼓動に全神経を集中させ、僕は奴の懐深くへ入り込んだ。
「『俺』は素人じゃない! 俺は、
横一閃に振り切られた太刀筋は、夕闇に火花を散らす。
斬馬刀が甲高く吼えた時、刎ねた首は地へと落ちた。
首無しで突っ立っている義体を見つめているうちに、ふと頭によぎった。
かつては彼もヒーローだったのかもしれない。
サイボットは元々、サイボーグ化された宇宙飛行士たちの互助組織だったと聞く。
まさしく、国の誇る英雄の集いだったはずだ。
だが、今の彼らは人質たちを虐殺するまでに落ちぶれた。
成り行きでヒーローになった僕も同じように、自分の立ち位置を見失うかもしれない。
BINGO! BINGO!
ここにきてイヅラホシの電源出力が落ちやがった。
慣らし駆動も無しに、新品を酷使すりゃあエラーも起きる。
同時に、今まで興奮で誤魔化されていた耳鳴りと頭痛が、僕の身体へと攻めよせてくる。
吐き気を堪えながら片膝をついた時、機装の兜を誰かに外された。
ケーティだ。左肩には止血パッドが貼られている。
「無茶が過ぎます……」
「けれど、これで僕もみんなと同じヒーローになれたわけだ」
兜を抱えて俯くケーティへ、僕はむりやり笑って見せた。頭痛くてしょうがないけど。
ケーティの後を追って、ガルダとファントムも近づいてくる。
どれもボロボロだったけれども、なんとか、みんな無事だ。
よかった。今はそれだけだ。
「あーあ、随分手痛くやられたわね。さて隊長、これからどうする? このまま修理しちゃいたい所だけど」
「え、あの、その」
「すんません、その前に病院行ってええですか……?」
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オリジナルミリタリーライトノベルチックSFの第六話後編となります。
第一話を読んでない方(ry
挿絵は主人公だけ気合入ってます。
絵を描くって大変です。
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