ある洞窟の中で、一人の男が座禅を組んでいた。膝の上には抜き身の刀が置いてある。
「くそ・・・・もう・・・・無理なのか?」
頭を壁にもたせかけ、目を閉じた。過去の記憶を振り返りながら。
『強くなれ。失ってしまいそうな物を全て守れる位に強くなれ。』
『『先生!!』』
『ついて来い。お前達に修行を付ける。』
初めてあの二人に出会った時・・・・・
『キュオオオオオオオン!!!』
『ウワァアアアアアアアーーーー!?』
二人が魔化魍に初めて遭遇して逃げ戻って来た時・・・・
『待て!!それをもってどこに行くつもりだ。今のお前ではそれを使う事は出来ない。』
『じゃあ何時になったら使えるんだ?!いい加減修行にも飽きてきたんだよ!!』
『よせ!!』
『グオオオオオオンン・・・・』
『出たな・・・・』
バチチチチ!
『うわっうわあああああああああああああああああああああああ!!』
バリッ、ボリッ、ゴチュ、バチュン・・・・
『糞・・・・すまない・・・・音撃射、
彼が音角を持ち出すのを止めようとして、ノツゴに食われてしまい、諸共に倒さなければならなかった時・・・・
『私はもう・・・・・昔の私とは違う。貴方に頼らなくても、私にはこんなに力があるわ。さようなら、先生。』
『待て!スコール、俺の話を』
『黙れ!貴方の言い訳なんか聞きたくないわ!この人殺し!』
そして、もう一人の弟子と、決別した時・・・・・
(引退を考えていた時に見つけたのがあいつだった・・・・助けるしか無かった。そんな癖が体に染み付いちまってる。俺は、逃げたかっただけなのかもしれない・・・・あの過去から逃げて、イバラキを育てる事に専念すれば、忘れられると思っていたが・・・・・甘かったな。もう、思い残す事は・・・・・無いな・・・俺も昔は人斬り包丁を振り回した男・・・・どこへ行こうが変わらない・・・・・あの世で地獄見物でもするかねえ。)
「うっ・・・?!く・・・・またか・・・・・あれを使った所為で・・・・・(鬼が・・・・暴れ始めた・・・・・駄目だ・・・・今、この場で・・・・)」
市は音叉剣に手を伸ばしてそれを胸に突き立てようとするが、まるで自分の体が自分以外の自我を持っているかの様に動きを止めた。幾ら動こうとしても手が柄に掛かる一歩手前で止まってしまう。だが、それを振り切り、刃を胸に突き立てた。夥しい量の血が流れ出す。だが、彼の鼓動は続き、息絶えない。
「もう・・・・手遅れか・・・・・」
ポケットの中からアサギワシ、アカネタカ、そしてケシズミカラスを引っ張り出し、それぞれに音響、封筒、そして陰陽冠を渡した。
「これを一夏の所に・・・・」
そう指示を出すと、胸に突き立てた刃を捻って刺し貫いた体を抉り始めた。地獄の苦しみだが、内なる鬼を押さえる為には己の息の根を止めるしか無い。痛みと戦いながらも体中に傷を付け、自らの命を絶とうと躍起になった。
「辛い、物だな・・・・中々死なないってのも・・・・!!」
その頃、一夏は窓の外を眺めていた。連絡を取れないままかなりの時が流れた。マドカは相変わらず熟睡している。
「一夏・・・・」
「どうした?」
「顔、怖いよ?」
「ん?あ、ああ、すまない。」
一夏の表情は曇っており、眉間に皺が寄っているのだ。楯無が怖がるのも無理は無い。だが、遠くで何かが自分に向かって来るのが見えた。それも三つ。
「あれは・・・・!(師匠のディスクアニマル!?)」
窓を開けると、そのディスクアニマル三体の持っていた物を受け取る。
「師匠の音響?!これは・・・・?!」
封筒を破り、中に入っていた手紙を広げた。中には鍵も同封されている。
『一夏、この手紙を読んでいると言う事は、俺は恐らく・・・・いや、それは後だ。兎も角、お前は本当の意味で一人前になれたと言う事だ。最初にお前を見つけたときとは見違える様に目覚ましい成長を俺に見せてくれた。織斑千冬との仲を修繕させると言うのが心残りだが、師匠として、お前の事を誇りに思う。俺の家に関してだが、お前が管理しろ。俺が持っている全てをお前に託す。どう使おうがお前の勝手だ。心配させていると言うのは重々承知しているが、理解してくれ。俺には時間が無い。そろそろ潮時だしな。頑張って生きて行け。恐れるな。苦難上等、障害物の突破法なんて物は探せば幾らでもある。
市
追伸:俺の最後の教えであり、警告だ。何があろうと、負の感情に身を任せるな。飲まれて、踏み込んでは行けない領域から絶対に戻れなくなる。その時お前は、大切な物を傷つけ、失い、その身を滅ぼすだろう。』
その手紙を読んで、一夏は全てを悟った。連絡を寄越さない理由も・・・・
(そんな・・・・・師匠・・・・)
絶望に打ち拉がれた一夏は目を閉じて静かに涙を流しながらも黙祷を捧げた。
「どうしたの?」
「今は何も聞くな・・・・・こんなみっともない顔、見せられない・・・・!!」
一夏の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。いつもとは見る影も無い。だが楯無は黙ったまま一夏の背中に腕を回した。小刻みに震える方を見て、泣いていると言う事が分かった。ポケットから携帯を取り出してたちばなに電話をかける。
『はい。』
「日菜佳さん・・・・おやっさん、いますか?」
『うん、ちょっと待ってねー。』
しばらくすると勢地郎が電話に出た。
「おやっさん・・・・師匠が、亡くなりました・・・・俺に、全部相続して・・・」
『そうか・・・・・押さえられなくなったのか・・・』
「押さえられなくなった・・・・まさか内なる鬼が・・・・?!」
『うん。一度だけ暴走した事があった。唯一残った身内がノツゴに食われてしまってね。今でもあの姿は覚えている。あれはまるで・・・・・いや、言わない方が良いな。彼の事だ、暴走する前に決着を着けようとするだろう。確実にね。』
「そうですか・・・・そうですよね・・・・吉野に連絡して下さい。師匠の武器は、俺が届けます。でも、音響だけは俺に・・・・」
『分かった。吉野には私が伝えておく。すまないね。』
「ありがとうございます。」
電話を切ると立ち上がった。
「マドカの側についててくれ。」
「どこ行くの?」
「気を紛らわしに行くだけだ。師匠がもういない今、俺は『織斑』に戻らなきゃならない。その状況を受け入れる為に・・・少し出るだけだ。長くは掛からない。」
マドカの頭を軽く撫でると、楯無が止める間も無く足早に出て行った。そのまま一夏は射撃場に向かった。連続で射出されるクレーを延長マガジンを入れたグロック二丁でそれらを全て撃ち落とし、弾切れになった時はクレーを蹴りで叩き落とす。サンドバッグを何度も何度も力任せに殴り付け、ボロボロになってもそのままそれを殴り続ける。一頻りそれを繰り返すが、気は晴れない。寮長室の扉を叩くと、千冬が扉を開けて招き入れた。
「師匠が死んだ。俺はお前の所に戻らなきゃならないらしい。」
「・・・・・そうか・・・・・・・」
「正直俺は驚いている。まさかあの写真をまだ持っているとはな。」
「お前は私の唯一人の弟だ。一夏、正直に答えてくれ。鬼とは、何なのだ?」
「鬼は、鬼だ。人に見えて人ならざる物。影で人を守る存在だ。表向きに俺達は存在しない。」
「だが、だからと言って何故お前が・・・・?!」
「俺がその道を、鬼となる事を選んだからだ。あの時、自分の無力さを呪いに呪った。その弱さに、虫酸が走った。だから、俺は強くなりたかった。そうする事で、俺は俺になって、自分に取って大事な物を守れると思った。それに、人生って道は苦難上等、喧嘩上等で挑まなきゃ勝ち上がれない仕組みになってる。俺はそれを生き抜く。只それだけだ。俺に姉として認められたいなら、アンタもそれをやって見ろ。落ちても良い。また這い上がれ。俺が言いたいのはそれだけだ、姉さん。後、部屋ちゃんと片付けろよ、ある程度は出来てるみたいだけど。」
(織斑一夏、か・・・・・悪くないな。)
初めて千冬に微笑みを見せて部屋を去った。
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