No.485922

はがない 俺達は百合薔薇が少ない

アニメ第二期おめでとうというのとは何の関係もなく
小鷹君のお尻をかけた戦い

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件

続きを表示

2012-09-19 00:27:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2289   閲覧ユーザー数:2215

俺達は百合薔薇が少ない

 

 俺は自分の迂闊さを呪わずにはいられなかった。

 何であんな一言を言ってしまったのか。

『最近は平和で穏やかで過ごし易いけれど……ちょっと退屈だよな』

 日常を物騒な非日常に変えるマッドサイエンティストの前で何であんな言葉を口にしたのか。

 悔やんでも悔やみきれない。

 

「に、肉……っ。私は……初めてなんだ。だから……や、やっ、優しくしてくれ」

「お肉様ペロペロとあたしを褒め称えてくれたら特別に優しくしてあげても良いわよ♪」

「そ、そんな恥ずかしいことを言える訳がないだろう……ばか」

「じゃあ、ハアハァ。優しくするのは無理ね。本能のままに弄ばさせてもらうわ。ハァハァ。ガルルルルル」

「そ、そんなあ……ううう。お母さん……」

「大丈夫。あたしも初めてだから夜空と条件は同じよ♪ 初めて同士、一生に残る思い出にしましょう♪」

「この責任は一生掛けて償ってもらうからな。私は絶対に浮気は認めないぞ」

 俺の目の前では星奈が夜空のマウントを取った状態で乗っかっている。年齢制限なしでは描写できないようなことが今まさに行おうとしている。顔はエロゲープレイ中のように欲望だだ漏れだ。リアルエロゲーキターとか思っているに違いない。

 夜空はツンと顔を逸らしながらもうっとりと熱っぽい瞳で星奈を見つめ、その体は冷凍マグロのように動かず星奈のなすがままになっている。

 こんなの絶対おかしい。

 けれどそのおかしな光景は紛れもない現実。

「フッフッフ。原作5巻で実は女だと判明した幸村くん。理科のこの果てしないユニバースな欲望のはけ口になってもらいますよ。ゲッヘッヘ」

「あにき……申し訳ありません。りっぱなにほんだんじにも…あにきのしゃていにもなれませんでした。うっうっうっ」

「ファッキン! ファッキン! 泣いているメイド姿の美少女とは理科の魂にいけない炎を燃え上がらせました。早速いただきま~す♪」

「あにきの……およめさんになりたかったのに、体が少しも言うことを聞きません……」

 暴走したエヴァ初号機みたいに野性味溢れる仕草で幸村のマウントを取る理科。後はもう見ていられなかった。

「あんちゃん? 目隠しされると何も見えんとよ」

「小鳩は絶対に見ちゃ駄目だっ!」

「お兄ちゃんが目隠ししているので夜空達のうなされ声だけが聞こえて来るのだ」

「マリアも絶対に見ちゃだめだっ!」

 俺に出来ることは年少組を悪影響から守ることのみ。子供を守ること。

 そうだ。それこそが今の俺が絶対に完遂しないといけない仕事なんだっ!

「よしっ、2人とも走って逃げるぞ!」

「あんちゃんが言うのなら、このレイシス・ヴィ・フェリシティ・煌の真価を見せてやろう。クックック」

「何だか分からないけれどお兄ちゃんがそう言うのなら全力ダッシュするぞぉ。走るの大好きだからな~」

 2人の同意を得て走り出す。

 どこまで逃げれば安全なのかは分からない。

 でも、安全な所まで2人を逃すのが大人である俺の義務に違いなかった。

 

 

 

 俺は隣人部で過ごす日常を満喫していた。

 友達は少なくとも俺を受け入れてくれる心地良い場所。

 会話はなくて協調性もなくても互いの存在を認め合える仲間達。

 転校ばかりを繰り返し、引っ越す度に怖がられてぼっちで過ごし続けてきた俺がようやく辿り着いたエデン。それが隣人部だった。

 だが、俺はエデンに留まっている内に更に高い欲望を抱くようになってしまった。

 罪深い人間である俺は欲望の虜となってしまったのだった。

 そして飛び出たのが先程紹介した言葉。

 言い直せば、マンネリで飽きたので刺激が欲しいと訴えてしまった。

 その言葉がどんな災厄をもたらすかも考えずに。

 

『理科はヘヴンへと導く素敵なお薬を完成させたばかりです。実験してみましょう』

実験と述べる理科の瞳は光り輝いていた。

 その右手に赤ブドウよりも赤い怪しい液体が入った丸型フラスコを手に持ちながら。

『一応聞いておく。その液体はどんな効果を持つ薬なんだ?』

『同性しか愛せなくなる薬です。しかも凄い勢いで同性を愛したくなる薬です』

 学校に自分だけの研究室を持つ天才科学者女子高生は何の躊躇も見せずに言い切った。

『オーケー。まだ怒らないからその薬のどこがヘヴンに導く薬になり得るのか説明してみろ』

『先輩が男子トイレや男子更衣室に入れば滾りが止まらなくなります。もうギンギンです。そして欲望のままにその辺のモブの男子生徒を無差別に襲って自慢のエクスカリバーで貪り尽くせばまさにヘヴン状態です。主に理科がっ!』

 多くの企業の新商品研究を手伝う天才科学者女子高生はドヤ顔をしてみせた。

『オーケーオーケー。よく分かった。殴るのは勘弁してやるからその薬をこっちに渡そうな』

 理科に向かって手を伸ばす。だが理科は首を横に振って拒絶した。

『そんなこと言って、この学園の男子生徒達が小鷹先輩のエクスカリバーに次々と貫かれて新たなる快楽と人生に目覚めるのを阻止する気ですね!』

 理科は子供を抱くように大事に両腕でフラスコを抱え込んでいる。涙まで浮かべて子供を取られまいと必死の母親のよう。

 そしてその必死ぶりは俺の神経を酷く苛立たせるものだった。

『その通りだ。俺は男色の魔王になるつもりなんてない。だからその薬を早く寄越せ』

『小鷹先輩が男子生徒300人ほどを襲って貪り尽くしてくれたら理科もこの薬をお渡しすることもやぶさかではありません』

 俺が手を伸ばす分だけ理科は後ろに下がっていく。

『ここの高校の男子生徒の数って全学年合わせて300人程度だったよな?』

『なら、男子生徒は襲わなくて構いませんので代わりに理科を襲って滅茶苦茶にしてください。赤ちゃんが出来るまで何度も。それで勘弁してあげますよ』

 理科の口元には涎が垂れている。顔全体がほかほかして妄想に浸っているのが分かる。

『お前は一体何をほざいて……』

 理科の代案が気持ち悪過ぎてやっぱり引く。どうしようかと思案したその時だった。

 

『何だと~~~~~~っ!?!?』

『何ですって~~~~ぇっ!?!?』

 それまで我関せずと読書とゲームに興じていた夜空と星奈が立ち上がった。

 目を血走らせて怒りを全身で表現しながら。

『志熊理科っ! 貴様は一体何をほざいているのだ。乙女の恥を知れっ!』

『フッ。甘いですね、夜空先輩。先程の言葉で小鷹先輩の思考は麻痺、言い直せば既に理科が寝取ったも同じです』

 ……同じじゃねえよ。

『小鷹は女と見ればマリアや小鳩ちゃんでも見境なく襲い掛かる性欲の塊の犯罪者。アンタだって再起不能になるぐらい大変な目に遭うかも知れないのよ』

 ……だから何故星奈は俺をロリコン犯罪者にしたがる?

『そんなの、望む所じゃないですかっ!』

 ……ドヤ顔を見せるな。

『こうなっては仕方ない。小鷹を殺して理科の貞操を守るしかない』

 ……何故そうなる?

『そうね。小鷹が性犯罪者になるのを防止するには殺すしかないわ。小鷹は死ぬしかない』

 ……だから何故そうなる?

『夜空のあねご、星奈のあねご。及ばずながらご助力致します』

『って、幸村もそっち側につくのかよ!?』

 思わず大声を上げてツッコミを入れてしまった。

『さあ、小鷹先輩。理科の力を借りなければこの場で殺されることは確定ですよ。何と言っても女の嫉妬は怖いですからね~♪』

『事態をややこしくした張本人が何を言ってやがるっ!?』

 激しくツッコミを入れるが理科の言う通りだった。よく分からない殺気を漲らせる3人の包囲網を突破して部室外に出るには理科の援護が必要。

 だから俺はその援護を勝手に借りることにした。

『じゃあ、理科。後で理科室な』

 ばっちりウインクしてみせながら意味ありげな言葉を述べてみる。意味があるように聞こえるだけで何の意味もない言葉を。

『えっ? 先輩? 今の言葉は一体……? ええっ? も、もしかして本当に!?』

 頬を赤らめながら目を大きく開いて俺を驚きと期待の表情で見ている理科。悪いな、そんな色っぽい話じゃないんだ。強いて言うなら命が掛かっているから嘘ついた。それだけだ。

『今の言葉はどういう意味だ? 志熊理科、説明しろ!』

『殺戮第一目標を変更ね。理科をまず仕留めましょう。小鷹はその後ね』

『お覚悟を』

『えぇえええええええぇっ!?!?』

 よし、3人の注意が俺から理科へと移った。その機会を逃さずに俺は部室の出口へと駆け寄る。

 ドアのノブを回していよいよ外に……。

 

『あんちゃ~ん。到着したん……きゃぁああああぁっ!?』

『お兄ちゃんの髪がプリンっぽいのは~髪をうんこで染めているから~……ぎゃぁあああぁ!?』

 外に出た所で丁度やって来た小鳩とマリアに激突。

『アウチッ!?!?』

 2人の頭がみぞおちに突っ込んで来たことにより俺は大ダメージ受ける。体に力が入らなくなり、足はふらふらと後退。

 そして、俺は背中から3人の修羅に囲まれて棒立ちになっていた理科へとぶつかっていった。

 

 

 後は先程説明した通りだ。

 ぶつかった拍子に理科はフラスコを落として割り、その中身は部室内に撒き散らかされた。

液体をもろに浴びることになった理科、夜空、星奈、幸村は同性を凄い勢いで愛する人になってしまった。

 まあ、この4人に関しては自業自得な部分がない訳でもない。けれど、恐怖はこれだけで収まらなかった。

 おかしくなる前の理科(いつもおかしいというツッコミは置いておいて)が最後に言った言葉。それが問題だった。

『この薬は揮発性が強く、空中を漂う状態になってもしばらく効力を維持します。だから先輩……全力で深呼吸を繰り返して下さい。男パラダイス実現の為に』

『分かった。全力でこの付近から遠ざかるっ!』

 理科のありがたいアドバイスを聞いた俺は小鳩とマリアに部室に入らないように注意し、薬の効果が本物であることを確かめながら2人を連れて逃げ出したのだった。

『ちなみにこの薬は見た目12歳未満とヘタレ野郎には効きませんので先輩達は安全ですよ…ファッキン!!』

 

 

 

「にゃっはっはっはっは。お兄ちゃん、大勢でやる鬼ごっこって本当に楽しいのだ~♪」

「全力で走れ、マリアっ! 捕まったらリアル鬼ごっこになるぞ!」

「あんちゃん……うち、もう走れんとばい。疲れたん……」

「あの茂みの奥に隠れるまでは動かなくても足を動かし続けるんだ!」

 小鳩の手を引っ張りながら前方をびゅんびゅん駆け回るマリアの動向に注意を払いつつ学校の敷地を逃げ回る。今の俺達は囲いの中に放たれた獲物に他ならなかった。

 

 理科の怪しい薬を浴びたのが梨花達隣人部女子高生4名で済んだのならまだ良かった。外部に被害が拡散しなかったのなら。

 だが、悲劇は起きてしまった。

 隣人部の部室があるのは礼拝堂。

 その礼拝堂の講堂では屈強な男子運動部員50名と鞭を振るって他人を叩くのが趣味なお姉さん系女子生徒50名が天馬理事長とケイト先生の指揮の下にミサの準備中だった。

 理科の作った薬は気体となって礼拝堂に流れ込み狂気となった。

 天馬理事長は逃げ込んで来た俺達を見るなり言った。

『学園の全ての門を封鎖せよ。そしてこの閉じられた檻の中で男パラダイスを作り、将来の我が義理の息子羽瀬川小鷹、いや、俺の嫁である小鷹をその生贄に捧げよう』

『どうしてそんな黒魔術的な発想になるんだっ!?』

 理事長を止めてもらおうと思いケイト先生を見る。

『そこのチビ2人を調教して……いや、調教して調教し尽くすからみんな捕まえるんだよ』

『言い直す気まるでなしっ!?』

 ケイト先生は悪の女幹部のような悪い顔で小鳩達を指差しながら言った。似合い過ぎていた。

『2人とも、すぐにここから逃げるぞっ!』

『うっ、うん』

『うんこババアになんか捕まってたまるかなのだ~』

 俺達は慌てて礼拝堂から脱出。

 だが、理事長とケイト先生の追っ手はしつこくいつまでも俺達を付回して来たのだった。

『羽瀬川小鷹を捕らえ俺の下に届けるのだ。抵抗するようなら味見して構わんっ!』

『高山マリアと羽瀬川小鳩を捕らえるんだよ。抵抗するなら大人の厳しさを体に教えてやんな』

 最悪な命令を賜りながら。

『俺達もう、ギンギンっす』

『私達もう、ビシバシよ』

その命令を何の疑いもなしに受領しながら。

 

 

「ここで隠れて待っていれば……大丈夫だよな」

 茂みの中から用心深く周囲を窺う。

 周囲に人影はなし。ホッと一息つく瞬間。

「今度はかくれんぼなのだな。にゃっはっは。楽しいのだ」

 マリアはまだまだ体力が余っている。少し安心だ。だけどマリアの場合ははしゃぎ過ぎて敵に露見しないように神経を使わないといけないが。

「あんちゃん。うち、しばらく休まんともう動けんばい」

 反対に小鳩は疲労困憊の状態。本人の言葉通りしばらく動けそうにない。いざとなったら背負って逃げることも考えなければ。

 そんな風に今後の方針を練っている時だった。

「お兄ちゃん。悪い敵が近付いてきているぞ」

「姿勢を低くして息を潜めるんだ」

 体勢を低くして木々の間に身を隠す。

 屈強なガタイをしたトランクス1丁の筋肉男は俺達の存在に気付かずに側を通り過ぎていった。尻を大きく振りながら歩く様が気持ち悪かった。

「危なかったな……」

 息を撫で下ろす。

「あっ、また別の悪い奴が来たのだ」

 マリアの声に合わせてまた身を伏せる。

 俺達のすぐ側を手に鞭を持った女子生徒が通過していった。普通に制服を着て歩いているが、鞭を舐める様が怖かった。

「もう辺りに悪い奴はいないようなのだ」

「そうか。それは良かった」

 上半身を起こしながら深呼吸する。

 男は裸、女は鞭を持っているので敵か一般人か判断し易いのは助かる。

 けれど、敵の数がこうも多いと気が滅入って来る。

 

「あんちゃん……」

 小鳩が思い詰めた声を出した。

「何だ?」

「敵の数が増えとるような気がするんよ」

「そう言えば……そんな気もするな」

 礼拝堂にいた生徒の数は男女合わせて100名。

 けれど今は屈強ではない男子生徒や鞭が似合わない系の女子生徒も俺達を追う側に回っている。これは確かに追っ手側が増員していると考えられる。

「ということは、礼拝堂の気体が外に流れて増えたか、ゾンビみたいに他人に絡んで増えるかどっちかか」

 言いながら何か違うと思わなくもない。

 感染していない生徒も多いし、追っ手は理事長とケイト先生の命令だからか全員が俺達を追い回している。従って夜空と星奈みたいに自分達で絡み合ったりもしていない。

 だが、学者でない俺が原因を考えても仕方ないし、こんなバイオハザードな状況ではとにかく生き残らなければ意味がない。

「お兄ちゃん。服にあのマッドうんこサイエンティストの薬がついているから悪い奴が増えるてるんじゃないのか?」

「えっ?」

 マリアの言葉に驚いて自分の制服を見てみる。

 シャツの腹の部分は半分濡れた状態で赤く染まっていた。

「バイオ・ハザード源は俺かよ、畜生っ!!!」

 分かってみれば何のことはない。敵を増やしていたのは俺自身だった。

「あんちゃん。うちの制服にも赤い染みができとるとばい」

「お兄ちゃん。よく見たらわたしの修道服にも赤いのが掛かっていたのだあ」

 結局3人とも犯人側でした。

 

「なら、今すべきはこれ以上の被害の拡大防止だな」

 制服を脱いで木の根元に置いておく。

 そして脱いでいる途中で気が付いた。

「ゲッ! パンツにまで液が掛かってやがった」

 俺のトランクスにも赤い液体の痕跡が見えた。

「あんちゃん。ウチもじゃあ」

「にゃっはっはっは。わたしもなのだあ」

 3人とも被害は甚大。

 しかしどうしたもんか?

 バイオハザードの増殖を防ぐにはパンツまで脱がないと駄目。だが、それは人として駄目だろう。さて、どうするべきか?

「にゃっはっは。うんしょうんしょ」

 考えている間にマリアがパンツまで脱ぎ始めてしまった。さすがは子供。裸になるのに躊躇いがない。

「神の手先には負けられんばいっ!」

 続いて小鳩まで脱いでしまった。小鳩ももう中学2年生なのだからそろそろ恥じらいをもって欲しい。

 いや、見た目マリアと変わらなくて、中身も中二という名の小学生みたいだから恥ずかしくないのか?

 とにかく2人は学校の敷地内ですっぽんぽんになるという快挙を果たしてしまった。

「お前達なあ……っ」

 呆れて上手く言葉が出ない。

「何をやっているのだ? お兄ちゃんも早く脱ぐのだ」

「へっ?」

 マリアは俺のトランクスの右側を地面に向かって引っ張った。

「あんちゃんも全部脱がんと意味がなかとよ」

「はへっ?」

 小鳩は俺のトランクスの左側を地面に向かって引っ張った。

 両側から引っ張られたトランクスは俺の管理を離れ地面へと落ちていった。

 その瞬間俺は学校の敷地内、しかも野外ですっぽんぽんになるという大偉業を達成してしまった。

 エロゲーキャラでなければ許されない偉業をやってのけてしまったのだ。

 しかも高校の敷地内で全裸の幼女達にマジマジと見られながら。

「俺は今……エロゲーを越えた存在になったん、だ」

 少しも嬉しくなかった。

 嬉しい筈がない。

 全裸の幼い少女2人と一緒に全裸でいる所を他人に目撃されれば……。

「良くて退学。普通なら警察行き、だよな」

 俺の人生は間違いなく終わる。

 服を着たまま男に襲われるか、全裸になって警察に捕まるか。

 選択肢がパネェ。

「どうしたのだ、お兄ちゃん? 急に落ち込んで」

「あんちゃん? お腹でも痛いのけ?」

 2人が心配して覗き込んでくる。

 けれど、小鳩達は俺が腹痛になっているのだと思い腹部を覗き込んで来る。

 言うまでもないが今の俺は全裸。

 傍から見れば全裸の幼女たちが俺の股間を覗き込んでいるように見えるだろう。

 いや、俺が幼女たちに股間を覗き込むように誘導しているように見える筈。

「罪は重ねたくないんだが……俺の社会的生命はもう諦めるしかない、な」

 屈強な男たちにお尻を献上するつもりはない。

 となれば、全裸を貫き通すしかない。

 小鳩とマリアを守る為に俺は、俺はっ!

「俺は……社会的な……人間止めるぞぉ~~っ!!」

 覚悟を決めて大きくふんぞり返る。

「おお~っ! お兄ちゃんが大きくなったのだ~っ! 大きくて逞しくなったのだ~」

「クックック。さすが我が半身。あんちゃんはビッグで勇ましいのじゃ~」

 小鳩とマリアが腹部を覗き込んだまま感嘆の声を上げる。

 もしこの会話を誰かに聞かれていたとしたら……俺の死刑は免れないだろう。

 だが例え処刑される事態に陥ろうとも俺は2人を守り抜く。それが大人の……いや、俺の今の生きる目標なのだから。

 

 

 俺は小鳩とマリアを変態たちの手から守りきる為に人間を止める覚悟も決めた。

 後はこの覚悟を実行に移すだけ。

「くんくんくん。こっちの方から小鳩ちゃんのパンツの匂いが漂って来ているわ」

「匂いで分かるとは肉は本当に変態なのだな」

 タイミングを合わせたように星奈と夜空の声が近付いて来た。俺達よりも更に茂みの奥からやって来ている。

 さすがは星奈。匂いで小鳩を嗅ぎ分けてみつけだすとは斬新な方法だった。しかもパンツの匂いって……。お前の将来が心配だ。

「さあ小鳩ちゃん。おとなしく出て来てペロペロさせなさい」

 更に星奈が迫って来てる。その横には夜空がいる。声がないので幸村がいるかどうかは分からないけどその可能性は高い。

 3人に囲まれたら小鳩達を守りきる自信がない。

 なら、やるべきことはただ1つ。

「走って逃げるぞ、小鳩、マリア」

 2人の手を強く握りながら宣言する。

「お~。お兄ちゃんがいつになくやる気なのだ~」

「う、うん。アイツ…ヤッ」

 2人も逃走に同意した。

「よしっ。ここから走って部室に逃げ込もう。後はみんなが正気に戻るまで中から鍵を掛けて篭城戦だ」

「お~。引き篭もりごっこなのだな~。ポテチの備蓄も沢山あるし楽しそうなのだ~」

「我が半身の奇策。狂気を帯し天界の者どもにどこまで通じるのか我が見届けてやろう。クックックック」

「じゃあ2人共、全力疾走で行くぞっ!」

 俺はもう1度2人の手を強く握り締める。そして3人並んで礼拝堂に向かって走り始めた。3人とも全裸のままで。

 

「体が……軽いっ! 全裸で服の重さがないからか」

 両手で幼女を引っ張っているのにも関わらず普段よりも足が速く動く。

 今なら世界記録も狙えるんじゃないかと思えるぐらいに絶好調だ。

 これなら一気に礼拝堂に辿り着ける。

 そんな期待を抱いたが現実はそう甘くなかった。

「小鷹先輩っ!? 全裸のマリアさんと小鳩さんと走り回って一体何を……ブヘッ!?」

 俺達の正面を立ち塞ぐように現れた理科が盛大に吐血した。致死量なんじゃないかと疑うぐらいに盛大に。

「こっ、こっ、小鷹先輩の……全裸……グヒョッほあおおらちおあっ!?!?」

 吐血に続いて盛大な鼻血。今日も理科は大フィーバー。

 だが変態マッドサイエンティスト、しかも今はガチ百合獣に構っている暇はない。

「俺はマリアと小鳩を連れて部室に立て篭もるんだっ! 今のお前の相手をしている時間はない」

 理科の横をすり抜けて礼拝堂を目指す。

「はっ、裸の幼女2人と部室に篭って何をする気なんですか、小鷹先輩っ!?!?」

「そんなこと……決まってるだろうがっ!」

 小鳩とマリアを変態達の手から守る。それが俺の存在意義。

「えぇえええええええええええええええええええええええええぇっ!?!?!」

 驚きの声を上げる理科を尻目に立ち去る。

 

「あんちゃん……もう疲れたとばい」

「後ちょっとで礼拝堂に到着するから頑張るんだ」

「お兄ちゃん。お腹が空いて力が出ないのだ」

「部室に戻ったら幾らでもポテチを食べて良いから今は頑張れ」

 途中で体力が尽きた2人を何とか引っ張りながらようやく礼拝堂前に到着した。

 後は中に入って部室まで辿り着いて立て篭もれば俺達の勝ち。理科の薬もそういつまでも効果があるのではないだろう。

「小鳩ちゃん。みぃ~~~~~けっ♪」

 だが、礼拝堂を後1歩にして茂みの中から突如出て来た星奈にみつかってしまった。

 星奈は礼拝堂を背にして立っており、位置取りが厄介なことこの上ない。

「あんちゃん」

 星奈に恐れを抱く小鳩が俺の背中に隠れる。

「何で? 何で小鳩ちゃん裸なの? 小鳩ちゃんのパンティーを茂みの中で回収してもしかしたらって思ったんだけど」

 ちなみに星奈はその小鳩のパンツを頭から被っている。

 普段から小鳩に対して犯罪者的な言動が目立つ奴だと思っていたが、まさかパンツを被って現れるとは。

「パンツはね、被るものなのよ!」

「そんな常識はエロゲの中だけにしてくれ!」

 誇らしく語る変態に激しくツッコミを入れる。

「とにかく、小鳩ちゃんが裸なのはあたしに襲って欲しいからなのよね? そうよね? もうそうに決めたわっ!」

 自問自答してひとりで勝手に納得している。舌を大きく出してペロペロの体勢を取りながら。理科の薬のせいでいつもより変態ぶりが5割増しだ。

「ええ~いっ! いきなり盛るな、肉よっ!」

 星奈に続いて出て来たのは夜空。体に付いた葉っぱを払いながら俺を睨んでいる。制服のボタンが掛け違いになっているのは……触れないであげるのが優しさだろう。

「小鷹よ。何故貴様は幼女2人と裸で学校の敷地内を走り回っているのだ?」

 瞳は俺から逸らしながら。ほんの時々俺の体を横目でチラリしながら。

 同性しか愛せなくなっている夜空は、俺に小鳩達を盗られると思って怒っているに違いない。

 なら、せめて気迫だけでも夜空に負けないようにしなくては。

「これは俺の意志だっ!」

 背をそらして胸を張りながら大声でハッキリと宣言する。

 俺はこれ以上理科の薬の被害を広げず小鳩とマリアを守りきるのだと。

「……幼女2人と裸で走り回ることが小鷹の願望だと言うのか? 小鷹は露出狂で幼女好きの本物の変態だと言うのか? この現実を見せられては……もう否定できない」

 夜空がガックリと膝をつく。

 何だか知らないけれど礼拝堂に向かって駆け込めるチャンスだ。よしっ!

 

「夜空先輩。残念ながら小鷹先輩は本物です」

「あにきは、見た目12歳以下の少女のみを無差別に襲う鬼畜生にも劣る悪鬼羅刹だったのです」

 駆け込もうと思った所を今度は理科と幸村が現れて進路を塞がれてしまった。

「…………決定的な証拠があるのか?」

 呆然とした瞳で夜空は2人の後輩に尋ねる。理科達はゆっくりと、だが明白に頷いた。

「……小鷹先輩は理科に向かって確かに『俺はマリアと小鳩を連れて部室に立て篭もるんだっ!』と言い切りました。理科達が幾らアピールしても誰にも靡かなかったのは先輩が本物だったからです」

「……あにきは妹君とマリア殿にご自身の立派な股間を覗き込ませながら『おお~っ! お兄ちゃんが大きくなったのだ~っ! 大きくて逞しくなったのだ~』『クックック。さすが我が半身。あんちゃんはビッグで勇ましいのじゃ~』とお二人に言わせておりました」

 2人の言葉は小さくてよく聞こえない。けれど、話を聞いている夜空の顔色が蒼白よりもまだ白く変わっていったのだけは見て取れた。どう見ても悪い内容の話をされている。

 そして遂には涙を零しながら夜空は俺に語った。

「タカ……お、お前は、お前さえその気になればいつでもお嫁さんに出来る私よりも、その幼女達の方が大事だと言うのかっ!?」

 夜空は一体何のことを言っているのだろう?

 今の夜空はガチ百合モードだし、まともな思考様式をしているとは思えない。けれど、俺の誠心誠意だけはぶつけよう。そうすれば夜空の目も覚めるかもしれない。

「今の俺にとっては小鳩とマリアが何よりも誰よりも大事なんだっ!」

 百合乙女とガチホモ男子高校生が溢れるこの異界で俺は2人の少女を最後まで守り抜いてみせる。それこそが俺にしか出来ないこと。俺の望み。

 

「そうか……小鷹がそこまで本気ならばもう貴様の性根を叩き直そうとは思わん」

 泣くのを止めた夜空が怒りの形相で立ち上がる。

「ならば悪鬼羅刹の道に落ちた小鷹も、その小鷹を誘惑して私の幸せな未来の結婚生活を潰したロリビッチ2人もみんなまとめて殺してやる~~~~っ!」

 夜空は背中に隠していた護身用警棒を引き抜いて俺に向かって構えた。

「理科もジェラスの渦に飲まれて小鷹先輩に死んでもらおうと思います」

「あにき。来世でもお仕え致しますので安心して現世は旅立って下さい」

 2人もそれぞれ武器を構えた。

「あんちゃん。怖かと~~っ」

「お兄ちゃん。うんこ夜空達が普段よりも凶暴なうんこになっているのだ」

 小鳩とマリアが俺にしがみ付いてくる。その体を激しく震わせながら。俺だって怖いからその気持ちはよく分かる。

「裸の小鳩ちゃんに抱きつかれるなんて小鷹が憎い~~っ。こうなったら小鷹を殺して小鳩ちゃんは裸に首輪だけしてあたしの部屋で飼わないと気分が収まらないわ」

 星奈も敵に回った。

 4人の少女に命を狙われて絶体絶命の危機。怖くて頭を抱え込んでしまいたい。

 けれど、それは出来ない。

「あんちゃん……っ」

「お兄ちゃん……っ」

 俺のことを一途に頼ってくれている小鳩とマリアがいるのだから。

 2人の為に、俺は負けられない。

 

「理事長。しかし何でまたこの時期に特別ミサを行おうと?」

「それはだな、ケイトくん。我が校の全生徒がより品行方正になってくれるようにだな」

 

 俺は何があってもこの2人を全力で守りきるっ!

「小鳩、マリア。2人共ともよく聞いてくれ」

 2人の腰に手を回し強く強く抱き締める。

「「うんっ」」

「いいか……」

 夜空達にも俺の覚悟が聞こえるように大きく大きく息を吸い込んで……

 

「お前達が……俺の翼だっ!!」

 

 俺の全身全霊を高らかに歌い上げた。

 次の瞬間に世界が終わっても何の問題もないように悔いを残さずに熱く語り上げる。

 

 

「あ~羽瀬川小鷹くん。品行不良の現行犯で即刻退学ね」

「そこのバカチビも姦淫の罪で教会破門な」

 

 

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

 こうして俺は妹達を守りきり大いなるフリーダムを手に入れることに成功したのだった。

 

理科の薬の効果が既になくなっていたことにもっと早く気づけよ、俺……。

 

 

 

「お兄ちゃん。朝ごはんはまだなのか? 小学校に遅刻してしまうのだ~」

「ちょっと待ってろ。もうすぐ出来上がる」

「あんちゃん。ウチ、もうお腹と背中がくっ付いてしまう直前なんよ」

「もう出来上がるからテーブルに座って待ってろっての」

 マリアも小鳩も朝から元気でやかましい。

 女の子なんだから少しぐらい料理を手伝ってくれればなあと思ったりもする。が、却って手間が増えそうな予感もする。

 朝の5分は夜の1時間以上に貴重なのだから。

 そんなことを考えている内に料理の準備が完了。

 3人分の食事をテーブルへと運ぶ。

「にゃっはっは。ごっは~ん♪ ごっは~ん♪ 朝から美味しいお兄ちゃんのご飯なのだ」

「元神の使いは、神の使いでなくなってもやかましいのじゃ」

 大はしゃぎするマリアを見て呆れる小鳩。妹にも少しはお姉さんという自覚が芽生えて来たという所か。

「今のわたしはお兄ちゃんのお嫁さんだからな。お兄ちゃんのことを褒め称えるのは当たり前のことなのだ」

 えっへんと胸を張るマリア。

「何を言っておるんじゃ! あんちゃんの正真正銘のお嫁さんはウチたい。お前はおまけの二号に過ぎんの!」

 小鳩にお姉さんになったと思うのは錯覚だったらしい。いつものようにマリアと同レベルで諍いを開始。

「お兄ちゃんはこの間の結婚式でわたしとお前を両方お嫁さんにすると誓ったのだ。だからわたし達は両方お兄ちゃんのお嫁さんなのだ♪」

「そ、それは確かに……グググググ」

 歯噛みして悔しがる小鳩。マリアの言っていることは妹にとっては真実であるだけに反論出来ないらしい。

 そう。俺はつい先日、小鳩とマリアと3人の結婚式を挙げた。

 とはいえ、本物の結婚じゃない。3人とも結婚できる年齢じゃないし、俺と小鳩は兄妹。

 要するに結婚式という名前の一つのイベントを行ってみたのだった。

 勿論俺が望んで行った訳じゃない。

 首謀者はケイト先生だった。

 

『まあ、これから妹をよろしく頼むっていうことで、景気付けに面白いことをしよう』

 

 教会を破門されてマリアはうちで暮らすようになった。

 それはこの際別に構わなかったのだが、マリアの姉であるケイト先生はとんでもないことを言い出した。

 

『妹が男と同棲するんだからやっぱり結婚式ぐらいは挙げてもらわないと世間体が悪いからなあ』

『10歳の少女相手に同棲とか言わないで下さい……』

『その10歳の子供に手を出した容疑で学校をクビになった君に言われても説得力がないなあ』

 

 ケイト先生はニヤニヤ笑っていた。完全に人をからかっている瞳だった。

 

『で、君もこれから再入学か就職しなきゃいけないわけでしょ?』

『まあ、そうなりますね……』

 

 答える俺の気分はとても重かった。

 学校を退学になった理由が理由だけに俺を受け入れてくれる学校はありそうにない。それぐらいは分かっていた。

 

『ロリコン事件で退学になった君を受け入れてくれる学校なんてないだろうねえ。でも、私の知り合いの酒屋のおやじさんが男性店員を1人正規で雇用したいって言っていてねぇ。君次第で紹介してあげても良いよぉ』

『…………見返りは?』

『さっき言った通りに結婚式を行うこと。うちのバカだけじゃなく君の妹とも一緒に式を挙げて良いから』

 

 こうして就職をチラつかされた俺はケイト先生の提案を受け入れたのだった。

 

 結婚式で色々あったのは言うまでもない。

 本物のシスターの癖に偽物の結婚式の進行を堂々と取り仕切るケイト先生。

 誓いのキスをする順番で結婚式の最中にも関わらず大喧嘩を始めた小鳩とマリア。

 式の途中でウェディングドレス姿で乱入してきた夜空、星奈、理科、幸村。結局あの4人が何故あんな格好で乱入して来たのか欠片も理由は分からなかった。

 『一緒に逃げるぞ。どこまでも連れ回せ』とか、『愛の逃避行よ。出来れば小鳩ちゃんも一緒に』とか『理科は愛人でも構わないのですが正妻の座も好きです』とか『あにきのお世話は他人には任せられません』とか騒いでいたが何のことやらさっぱりだ。

 どうも俺のことを許してくれたみたいなので『俺達は一生友達だぜ』と熱く述べたらみんな感極まって泣いて帰っていった。

 そんなこんなで大波乱の結婚式を終え、俺はケイト先生の紹介もあって駅前にある中堅規模の酒屋に就職を果たした。

 これからは俺が2人のことを養っていかないとな。

「あんちゃん? ぼぉ~としてどうしたのだ? ご飯、食べないのけ?」

「お兄ちゃん。もしかして具合悪いのか?」

 2人の妹、いや、形式的には結婚式を済ませた嫁に顔を覗き込まれて我に返る。

「そんなことないぜ。俺は普段通りだって」

 元気であることをアピールするように大きな動作を取りながら朝食をとり始める。

「おお~。お兄ちゃんが元気になったのだ。お兄ちゃんが元気な姿を見るとわたしも嬉しいのだ」

「ウチだってあんちゃんが元気でいてくれるとそれだけで幸せになれるんよ」

 2人の嫁は本当に嬉しいことを言ってくれる。

 あの日、社会的生命を1度は絶ってまで2人を守りきった甲斐があった。

「とっても嬉しそうな顔しとる」

「にゃっはっは。わたし達がいればお兄ちゃんはいつでも元気になれるのだ~」

 2人に向かって力強く頷いてみせる。

 高校生活は終わってしまったけれど、この新しい生活も悪くない。

 いや、悪くないどころか最高じゃないか。

「まったく……小中学生は最高だぜ!!」

 最高に良い気分になりながら俺は味噌汁を一口すすった。

 

 

 僕は友達が少ない ハッピーエンド

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
3
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択