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鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第六四話

NDさん

最終章その2 遅れてすいません。後3回くらいで最終回になります。

2012-09-18 18:36:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1781   閲覧ユーザー数:1748

~コンフェイト大森林~

 

狩人

 

その職業を得ているギルドの人間は、森で今日も変わらず魔物の討伐を任されていた。

 

10分前は。

 

今は、無残な姿へと変わり果てている。

 

眼球は抉られ、団子のように串に通され炙られ

 

大腸、小腸はモツ鍋へと変貌し

 

脳味噌はスープの隠し味にされているのである。

 

『さて……と、街はどこだったけな』

 

『もう、マクトったらまた道に迷って』

 

そんな、普通のパーティのような会話をしているのは、世界樹の騎士であるディセンダーだ。

 

彼らに取って人間は、人間が討伐する魔物以下のような物しか捉えていない。

 

彼らは、そこまで人間に興味も持っていないのである。

 

ただ、同じ形をした下等生物だと。

 

『あーあ。またこんなに残して』

 

『悪い悪い、明日の為に取っといてくれよ』

 

『明日は無いわよ。全く……』

 

そう言って、残った肉や骨は無造作に捨てられる。

 

勿体無いという概念も、彼らには無い。

 

可哀想等と言う感情は、人間に対しては微塵も向けられない。

 

人間は、虫でさえも苦しみ足掻く様を見たら少しは慈愛の感情が芽生えるが

 

彼らにはそんな感情は人間に対しては一切持てないのだ。

 

人間を憎んだ世界樹の主が産んだ生物だ。

 

それは、当たり前の事だと彼らの中に刻まれている。

 

『うっし!飯も食ったし。とっとと仕事すっか!!』

 

モツ鍋もそこらに投げ捨て、魔物が食い散らかす。

 

その光景を見ていた女魔法使いが、

 

『汚い』と小さく呟いて、そのモツや肉や骨を一瞥して舌打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

~アドリビドム~

 

『動きました。奴ら多数のディセンダーの軍団が世界樹から排出されています!!』

 

すずは、この二日間ずっと世界樹を観察していた。

 

その報告伝言は、決して早い物とは言えず、

 

世界樹からこの船まで、すずの足でもおよそ1時間はかかる。

 

だが、それを見こなした上での行動を、アドリビドムは取っていた。

 

『分かりました。』

 

ヴェイグとリカルドは、今の所、この状況では安全地点とされているウリズン帝国へと派遣

 

ユーリとリタ、そしてレイヴンは、エステルの国ガルバンゾへと送られる。

 

フレンが重傷の為、ユーリは一時的に騎士団に身を置く事を命じられた。

 

他の皆も、出身国、出身地を守る事を最優先として、行動をしていた。

 

『貴方は、戻らないのですか?』

 

すずは、アンジュに疑問の声をかける。

 

『私は、この船のリーダーだもの。リーダーが船を降りるなんて、わけないわ。それに…』

 

アンジュは俯き、床を見つめる

 

『この船は、終わった時の集合場所だもの。私は、歓迎会をするって大事な仕事がありますし。』

 

『その仕事、貴方だけがやるわけでは無いでしょう?』

 

船の奥から、また一人の声が響く。

 

チャット

 

彼女もまた、この船に残った一人だった。

 

『今、この船に残る物は僕とアンジュとすず合わせて4人。後一人は甲板で視察…』

 

足が震えている。

 

彼女もまた、この船のリーダーである事を自覚しているが

 

そんな名の肩書に気にかけられないほど、恐怖に震えていた。

 

『……僕の船を守るには、心元無いですが、この際、しょうがありません。』

 

『世界を壊す事は、エドワード君がやってくれる。私達は、それまで私達の世界を守りましょう。』

 

アンジュは、確信と信頼をエドワードに寄せていた。

 

敵であったゲーデとラザリスを仲間に引き入れた彼ならば、この世界を壊してくれる。

 

変えてくれる。

 

その先は、きっと私達が望む世界が……

 

あるわけが無い。その先にあるは、また初めから。

 

ほぼ無となった、荒野の世界が広がる事かもしれないだろう。

 

『そして守り切れたら、今度は私達が、この世界を作って行きましょう。』

 

歪みから形成され、完全なる歪んだ世界を作ったこの世界

 

二度と、このような最悪な悲劇が繰り返さないように

 

アンジュ達は、既に腹を括っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ライマ国騎士団 城下~

 

『うるぁああああああああああああ!!!』

 

人間は、人間の形した物を殺すにはかなりの躊躇が起こる。

 

慈悲と感情、それらを察知して、殺すのを良心が躊躇われるように作られているのだ。

 

それは、世界樹が作った感情か、自己防衛の為の知恵か。

 

その知能を、今彼らは恨んでいた。

 

その感情は、彼らディセンダーには全く備えられていないのだ。

 

殺す事に趙著が無く、

 

加勢に来たライマの騎士団が、もう10人ほど殺された。

 

バラバラになった。

 

首や腕や指や、内臓が

 

そこら辺に散らばり、俺達の感情を蝕みおかしくさせる。

 

『っざっけっんな……よおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

ルークは、そんな世界樹の理不尽や

 

自分のそんな甘さに、かなりの苛立ちを感じていた。

 

だが、その甘さが普通の人間だ。

 

人間たる、普通であり当然の事なのだ。

 

間違っているのは彼らだ。だから

 

”こいつらを殺さなければならない”

 

『!!』

 

剣士の顔面に刃を入れて、

 

横に引いて、顔を半分にさせた。

 

顔の内臓や骨が露出する。

 

血が、人間のように溢れだす。

 

その光景を見て、罪悪感と狂気が自分の中から湧き出てくる。

 

恐怖に怯え、泣き叫ぶディセンダー

 

その光景を見て、自分も得体の知れない恐怖と罪悪感に襲われる

 

俺は人殺しか

 

この光景は、人殺しなのか

 

人殺し

 

子供が、泣いている

 

人殺し

 

人殺し

 

 

 

ボ ク ハ ヒ ト ゴ ロ  シ

 

 

 

『アル!!!』

 

エドが叫び、ようやく正気を取り戻した。

 

『戦争ってのは厄介だ!!相手の断末魔が耳から離れなくて、殺すのが躊躇われて、何度も死にそうになり、得た物が割り合わねえ!!』

 

エドが錬金術を発動する時、地面が盛り上がり、ディセンダーを蹴散らした。

 

『だがなぁ!!これが現実だ!!この世界が間違っているが上に、こんな事を強いられるんだ!!』

 

エドは走り、強行突破しようと走る

 

『だから!!甘い戯言ばかり考えるな!!こんのクソッタレ世界を叩き殴らねえ限り、誰がこの世界を変えるってんだぁあああああああああああああ!!!』

 

エドは錬金術で

 

地面から錬成されたトゲで、ディセンダーを吹っ飛ばした。

 

『行かせるな!!』

 

女魔法使いディセンダーが、エドの近くに居た少女の僧侶にそう言った。

 

『ふんむ!!』

 

少女ディセンダーは、持っている杖を発光させ、呪文を唱えた

 

『!!』

 

エドは、錬金術で刃物を錬成し、

 

錬成速度で、その少女の足が切り落とされた。

 

『うぎゃぁああああ!!!』

 

少女を支える物が無くなった瞬間、少女はそこから転げ回った。

 

『この戦争は、綺麗事では終わらねぇ。覚悟して戦え!!』

 

そう言って、エドはそのまま走りぬけた。

 

アルは、その兄の言葉を受け止めて、考えた

 

『…………』

 

綺麗事では終わらない。

 

それは分かっている。分かっているんだけれども。

 

僕は

 

『この世界を』

 

変えるには

 

守るには

 

ディセンダーを、殺すしか無い

 

そんな事を、付きつけられている気分だった。

 

『…………変えてやる!!!』

 

そしてアルは、草を掻き分けてエドの後ろへと追った。

 

 

 

 

 

 

~コンフェイト大森林~

 

ゲーデは殺していた。

 

何の躊躇も無く、ディセンダーを殺していた。

 

この時、錬金術は便利だと改めて実感した。

 

『おい!!こいつは個人戦では勝てない。団体戦で…』

 

変な小細工をしかけてこようものなら、錬金術を行い、

 

まとめて潰せば、簡単に潰せる

 

潰せば、人間みたいに内臓や骨の欠片が皮膚を突き破って露出する。

 

『醜い…。』

 

ラザリスが、その死骸を生ごみを見るような眼で見つめる。

 

彼女は、触れたくも無いのか、魔術のような物を使って敵を蹴散らしている。

 

だが、それでは簡単に殺せないらしく、何度も使う必要があった。

 

相手に取っての不足は無い。

 

向かうは世界樹

 

その場

 

その時間で

 

俺は、俺なりのケジメを付ける必要があった。

 

『邪魔だどけ』

 

錬金術は、本当に便利だ。

 

人間を理解できていれば、その人間を異形の形に変えて

 

動けなくする事も可能なのだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~霊峰アブソール~

 

人が居ないと思われる、この場所でもちゃんと住民は居る。

 

山の麓で家を作り、冷凍保存を当然として生きている住民だ。

 

それなりに、楽しくそして幸せに生きている。

 

当然、ディセンダーもその者達の命を目当てにこの場所に集まる。

 

『うわっ寒っ!!』

 

その中で、魔導師が文句を垂れた。

 

『しょうがないだろ。俺達の配置はここなんだから。』

 

『そうなんだけどさ~…あーあ。私達はいっつも貧乏くじを引く運だよな~』

 

霊峰アブソールへと派遣されたのは、帽子を深くかぶった女の子と

 

斧を所持する、男戦士

 

のディセンダーだった。

 

『じゃあさ、この上に更に吹雪降らせて、奴ら凍死させた方が楽なんじゃないの?』

 

『そんな適当な事して、万が一誰かが生き残ってたらどう責任取るのさ。』

 

『ちぇ。そんな簡単に行かないかー』

 

人間にすれば、猟奇的な話をしている事と思うだろう。

 

だが、今日生み出されたディセンダーのほとんどは、思考回路は

 

”とにかく人間を全滅させる事”以外、そこまで考えない。

 

例えどんな理論を解いても、彼らに人間の正論を持ちこませるのは不可能だろう。

 

脳の作りから、人間とは別次元であり

 

世界から本当に愛されているのは、彼らなのだから。

 

『ちゃんと確認して、死を確認しても油断しないで、ちゃんとバラバラにしないと』

 

『はいはい。終わったら飯にしようよー』

 

『全くお前は……いつもこれだから』

 

男戦士は、呆れるように溜息を吐く。

 

そしてそのまま人間達に近づく

 

『来たか』

 

このアブソール出身の彼女は、ここにもディセンダーが来る事を覚悟して、ここに戻った。

 

誰ひとり、殺させないように。

 

『ん?』

 

その様子を、魔導師は察知した。

 

屋根の上のその存在を、視覚で捉え、すぐさま理解したのだ。

 

『ねぇ、あれ精霊じゃない?』

 

『ん?本当か』

 

そう言うと、戦士は斧を持ち上げた。

 

『そう簡単に……仕事は終わらないって事だな。』

 

そして斧を突き出し、戦闘体制へと入った。

 

『……愚かな生物よ。』

 

『いや、僕達は愚かじゃないよ。』

 

『アンタのように人間に仲間する方が、愚かなんだよ!』

 

そう呟いた後、戦士はセルシウスに向かい

 

魔導師は呪文を唱えた。

 

『お前は氷の精霊だったな!調べはついてる。俺達に氷の攻撃しても、間に合う事は無いだろう!』

 

『私達の攻撃、戦略にやられなさい!!』

 

ディセンダーはそう叫んで突っ込む。

 

その言葉を聞いたセルシウスは

 

不敵に、微笑んだ。

 

『!?』

 

セルシウスが指パッチンを行った瞬間

 

焔が電撃のように戦士を襲った。

 

『ぐおあ!!』

 

その突然の攻撃に、ディセンダーは完全に避ける事が出来なかった。

 

『うおあ!熱っ!!』

 

衣服に着いた焔を、もみ消すのに必死だった。

 

『え……どう言う事?』

 

魔導師は、意味が分からなかった。

 

『アンタ…氷の精霊なのに、どうして焔の技を!!?』

 

『ふん、こちらも対策はしていると言う事だ。』

 

更に指パッチンを行った所、今度は戦士の全身に着火して、豪焔の如く燃えつくそうとしていた。

 

『があああああああああああああああああああああ!!!?』

 

まだ、理解できていないようだ。

 

人間と、そこまで脳味噌が変わらないようだとセルシウスは一瞥した。

 

『チャーリィィイイイイイー!!』

 

その行動に、魔導師は混乱と怒りに包まれた。

 

『こんのぉ…!!私達の裏を掻くなんて卑怯よ!!』

 

『何度でも言うが良い』

 

『そもそも…どうしてアンタみたいな精霊が人間の味方をしているの!?おかしいでしょ!?』

 

更に、魔導師は代弁を続けた

 

『目を覚まして!!私達世界の方が、全体的に正しい!!そいつらは間違っているの!!そうでしょう!?』

 

『私は、世界の理論より人間の理論を選んだ。』

 

そう言って、再び指パッチンを行った。

 

『うああ!!』

 

だが、かろうじて避けられてしまった。

 

『でも……そんな焔、私にだって出せるし、防げる!私の敵じゃないわ…!』

 

そう、叫ぶように語った魔導師を見て

 

セルシウスは、クスクスと笑った

 

『……何がおかしいのよ』

 

『……いや、これしきの事で慌てふためくとわなと。』

 

『当り前よ。氷の精霊の貴方が、こんな焔の技を使うなんて』

 

そう言った後、セルシウスは再び魔導師を睨みつけた。

 

『そうか。だがな』

 

セルシウスの後ろから、更に大きな焔の稲妻が発射された。

 

その稲妻は、まるで狙っていたかのように

 

魔導師の横をすり抜け、

 

後ろに隠れていたディセンダーを焼き尽くした。

 

ディセンダーの断末魔、

 

容赦ない焔が、魔導師以外のディセンダーを覆った。

 

『私の師である”人間”は、私の焔とは比べ物にならんぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オーリス村~

 

ロイド達の拠点であるその村の周辺には、

 

早くもディセンダーが近づいてくるのが見えた。

 

『……端から見たら、本当に旅人にしか見えないわね』

 

『だけど、確実に俺達を殺しに来る。……来るぞ』

 

ロイドとリフィルは、死を覚悟したうえで向こうに来る奴を睨みつけた。

 

更に、ここにはプレセアも居る。

 

本当はプレセアは、ここの村出身では無いが、

 

ジーニアスの記憶喪失に負い目を感じてか、近くに居る事に決めた。

 

目つきの変わったプレセアを傍に置くのは危険だと、リフィルは一度問いかけたが、

 

話し合いの結果、ジーニアスの記憶発掘の為にも傍に居る事を優先する事に決まった。

 

しかし、彼が記憶回復した事は、今のところ微塵も無かった。

 

『……君は、どうしてそんな悲しい目をしているの?』

 

何も知らない少年は、知る少女に問いかける。

 

『ジーニアス君が知る必要はありません。』

 

ただ、口を閉ざしたまま、語ろうとはしない。

 

負い目と後悔と自己嫌悪により、返答する余裕が無い。

 

だから、それが冷たい返答だと言う事は理解していた。

 

『…………そう。』

 

だが、それを踏まえたうえで、ジーニアスは何も問いかけなくなった。

 

これから先、何が有るのか分からない。

 

ロイドや実の姉と紹介されたリフィルという人も、今日に限っては空気がピリピリしていた。

 

何か

 

何か、今日はおかしい。

 

それは、ジーニアスも肌と心で感じていた。

 

『……………』

 

何も問いかけない少女

 

何も問いかけない少年

 

その状況が今、作り出された時

 

墓場のように静寂な空間が、漂うように流れ

 

今にも死にそうな状況が、更に死にそうになった。

 

『…ジーニアス』

 

『何?』

 

会話が続くと思われた、その会話は

 

『私は、今でも殺したい人が居ます。』

 

殺伐を更に殺伐とさせた。

 

『………誰?』

 

『貴方を、記憶喪失にした張本人です。』

 

そう、プレセアは鏡を見ながら答えた。

 

『ですが、二番目に殺したい人も居ます。』

 

その質問をした瞬間、ジーニアスは不穏な表情で身を壁に捩じらせた。

 

どうにも、プレセアとはあまり関わりたくないような様子になっていた。

 

『……………』

 

『いえ、人と言うにはとても大きすぎるかもしれません。』

 

『……………』

 

『二番目に殺したいのは、この世界です』

 

『…………この世界?』

 

ジーニアスは、更に言葉を連ねる。

 

『この世界って事は、この小鳥が飛んで、空が青くて、花が咲いて、土に健気な虫が生きている、この世界の事?』

 

『その通りです。』

 

何の躊躇いも無く、答えたプレセアの言葉に、

 

ジーニアスは、強烈な悪寒を感じた。

 

『…僕は、君と関わりたくない』

 

『……………』

 

その言葉を聞いたプレセアは、初め

 

ジーニアスが、アドリビドムに誘ってくれた時の事を思い出した。

 

その時に、リフィルさんが勝手に神殿に向かって、そこでアドリビドム員に出会って

 

エドワードさんに出会って、アルフォンスに出会って

 

そして船で、ロイドやアンジュに出会った。

 

そのギルドは優しく健気で強い者達が集っていた。

 

だけど

 

いつからだろうか。私が捕まって

 

洗脳されて、ジーニアスを滅茶苦茶にしたのは

 

ギルドを不穏な空気にしたのは

 

アドリビドムが、バラバラになったのは

 

『もう……関わらない方が良いかもしれません…』

 

『……………』

 

ジーニアスは、返答をしない。

 

ただ、壁の方に向かって震えている。

 

私と言う存在に恐怖しているのだろうか。

 

話をしていく内に、ジーニアスが私を見る目を変えていく。

 

記憶を失くす前では、考えられなかった目

 

恐怖と、軽蔑の眼

 

もう私の事を、仲間とは思っていないだろう。

 

『だけど私は、いえ私達は』

 

私は斧を強く握り、動かした。

 

『貴方を守り、世界を殺さなければなりません。』

 

『…………っ!!』

 

ジーニアスは、豪快に布団をまくり上げ

 

ドアの方へと走った。

 

『!?』

 

私を強く押しのけて

 

外へと飛び出したのだ。

 

『しまった…!』

 

外は、危険が多数ある。

 

しかも今日は、誰これ構わず殺されてもおかしくない。

 

『リフィルさん!』

 

リフィルに協力を頼むべく、叫ぶと、

 

こちらを見た瞬間、血相を変えた

 

『ジーニアス!!駄目!戻りなさい!!』

 

ロイドも、体制を構えて止めようと入った。

 

『おいジーニアス!!止めろ!危ない!!早く戻るんだ!!』

 

『僕はジーニアスを辞める!!』

 

そう言って、けん玉を取り出し、

 

『今は僕の身体だ!前はどんな僕は知らないが…今のこの身体は、この僕の身体なんだ!!』

 

呪文を、唱えた。

 

『ロックブレイク!!』

 

地面から突如生えた岩の反動で、ジーニアスは大きく飛びあがった。

 

『おい!!』

 

ロイドは、諦めずに追いかける。

 

『ロイド!?』

 

叫びを聞いたコレットも駆け付けたが

 

『コレット!村を頼む!!すぐ戻るから!!』

 

友を追うべく、彼は向かった。

 

『…………っ!!』

 

リフィルも、共に行こうと身構えたが

 

このまま動くと、村に危険を及ぼす。

 

だが

 

『先生!!』

 

村を棄てて、ジーニアスの捜索へと向かおうとした。

 

『ごめん……離してコレット…!』

 

リフィルが、弱い声で頼んでも、コレットは離さなかった。

 

『お願いです…。今はロイドを信じて…』

 

『ロイド……だから何よ』

 

リフィルは、未だに衣服を掴んでいるコレットの襟首を掴み、怒鳴った。

 

『ジーニアスは!!私一人の肉親なのよ!?たった一人の家族なのよ!?貴方に何が分かるの!!』

 

その叫びは、当然コレットにも届き

 

プレセアにも、届いた。

 

リフィルの掴む手は、次第に強まり、そして弱まり

 

弱まると共に、震えが大きくなり

 

最後には、落胆した。

 

『…………ごめんなさい。』

 

リフィルが、謝った。

 

『今は……ロイドを…信じましょう…』

 

最後申告のように、そう呟いた。

 

その言葉を聞いた後、私は

 

プレセアは

 

『村を……守って下さい。』

 

そう言って、ロイドの後を追った。

 

元々は、私のせいだ。

 

全部、私のせいだ

 

私の

 

 

 

 

 

 

 

~オーリス森~

 

『ジーニアス!!ジーニアス!!』

 

ロイドは焦っていた。

 

ジーニアスの危険な今

 

村の危険な今

 

今、それが自分の身の板挟みとなっているからだ。

 

だが、

 

記憶を失くしたジーニアスは、ロイド以上に不安な精神を持っていたのだろう。

 

自分が何者なのか分からない不安

 

周りが何者なのかわからない不安

 

自分がそんな目に会うとなると、想像も出来ない。

 

ゾッとする。

 

『どこだ……おい!どこに居る!!』

 

草の中

 

樹の陰

 

祠の周辺

 

どこを探しても、どこにも居なかった。

 

どこに居る

 

どこだ

 

どこ

 

 

『…………おい』

 

『………………』

 

居ない

 

居ない方が、

 

ここに、居ない方が、良かったかもしれない。

 

ジーニアスは、

 

大きくも無く

 

特に小さくも無い

 

普通の樹の傍で

 

首に矢を打たれ

 

血まみれで

 

佇んでいた。

 

この光景を見て、最初に思ったロイドの思考は

 

ただ、目の前の光景についての自己解釈である。

 

ジーニアスは死んでいる

 

死んでいるのか?

 

死んで

 

 

 

 

 

後ろで、何かが落ちる音が聞こえた。

 

振り向くと、プレセアが居た。

 

『…………』

 

プレセアはただ、ジーニアスの亡骸を見て

 

じぃっと見つめているだけで

 

近づいて

 

近づいて

 

動かないそれを、ジーニアスを見ていた。

 

 

矢の

 

矢の指した方向

 

矢が向かってきたであろう方向を見て

 

プレセアは、その方向へと向かって

 

走りだした。

 

 

 

 

 

 

俺は殺した。

 

殺した。

 

俺の星晶を破壊したと言うクソガキを殺した。

 

残党が知らせてくれた。

 

あの銀髪のガキが、星晶を使い物にさせなくした。

 

確実に殺すとは決めていたが、星晶を破壊した奴だ

 

どれ程の奴かと思っていたが、他愛も無い。

 

ただのガキだった。

 

矢を一発放っただけで、動かなくなった。

 

今、暁の従者は、私教祖を含めて

 

12人しか居ないが

 

十分だ。

 

世界は、再び私を中心に動き始めるのだから。

 

『ふひ…ひひひ…』

 

さぁ歩こう。そして殺そう

 

ディセンダーは、私を求めている

 

私の元へと、再び来るだろうと信じている。

 

足音が

 

近づく

 

近づいてくるのだから。

 

さぁ

 

さぁ

 

ピンクの髪

 

その髪は

 

形は

 

ディセンダーでは無く

 

前の、私の手下だった。

 

『おお』

 

挨拶をしたら

 

前の、私の手下は

 

 

 

悪魔のような顔となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ルパープ峠~

 

『こっから抜ければ、後は世界樹まで直ぐだな!!』

 

エドとアルは、何も構わず、すぐさまと世界樹へと向かっていた。

 

その時に、ようやくこの峠へと辿り着いた。

 

途中からのディセンダーから逃げ、隠れて、出来る限りやり過ごす事へと決めた。

 

出会った時、そこから本当の殺し合いが始まるからだ。

 

と、そこで

 

エドは有る事を思い出す。

 

『……………』

 

この、人型の窪み

 

今や、風化して崩れて平らになってきているが、形は大まか残っていた。

 

『兄さん?』

 

『ん?ああ。悪い悪い。』

 

そう言えば、一番最初にカノンノと出会ったのは、ここだった。

 

そう、感慨深く考えると、少しだけ切なくなった。

 

『どうしたの?まさかディセンダー…』

 

『いや、どうやらこの辺は少ないようだな。行くぞアル』

 

そう言って、動きだそうとした時

 

足音が、聞こえた。

 

『!!』

 

危険を察知したのか、エドはすぐさま足を止めた。

 

『兄さん!』

 

『……ああ』

 

隠れる場所も無い。逃げる事も出来ない。

 

エドとアルは、殺し合う覚悟を決めていた。

 

深呼吸を繰り返し、精神を整え

 

死ぬ、自分を守る姿を考え

 

守り方、攻撃方法までもを頭の中で張り巡らせた。

 

足音が近づく。

 

その音に警戒しながら、しばらく待ち

 

待っていると、姿を現した

 

『……………え?』

 

その姿は、見た事のある

 

かつての、仲間の姿だった。

 

『……お…おおソフィか。久しぶりだな』

 

そう言って、エドが近づくと

 

ソフィはエドの腹に、一発

 

蹴りを入れた。

 

『ぐはっ…!!』

 

その攻撃の予想が出来なかったエドは、モロに食らい

 

向こう側の岩まで吹っ飛ばされた。

 

『ソフィ!?』

 

『ぬぐっ……てめっ…!!』

 

一瞬、こいつはソフィの皮を被ったディセンダーかと思われたが、

 

目や姿からして、どう見ても偽物には見えない。

 

ディセンダーから感じる、素直さからも狂気を感じられなかった。

 

『ソフィ……どうして…?』

 

『裏切り者には、聞く耳を持ちません。』

 

裏切り者?

 

そう、エドが問いかけようとした瞬間、間髪無く語った。

 

『ゲーデの一味に…仲間に迎えた貴方に……潰されない権限は無い…』

 

『!!』

 

そうだ。アスベルはゲーデに殺された

 

いや、正しくは殺されておらず、魂だけ抜き取られた。

 

ソフィは、ゲーデを酷く恨んでいる事はエドも知っていたのだ。

 

『違う!!話を…』

 

エドが叫んだ瞬間、ソフィが、再び戦闘へと入った。

 

『うぉお!!』

 

今度は、辛うじて避けられた。

 

『てめっ…いい加減に!!』

 

『兄さん!!』

 

アルが指差した方に、エドが顔を向けると

 

そこには、ディセンダーのパーティが居た。

 

『くっそ!!』

 

エドは、錬金術を発動し、ソフィの動きを止めた。

 

『!!』

 

ソフィの身体に、岩の突起物を巻き付け、しばらくは動けなくしたのだ。

 

『アル!!殺るぞ!!』

 

『うっ………』

 

殺す事には、躊躇があった。

 

どうして、アルは自分が生き物を殺す事を自分からする事が出来なかった。

 

『うるぁ!!』

 

エドは、錬金術を発動し、

 

幸い、まだこちらに気づいていないパーティに向かって、錬金術を発動させた。

 

『ぐああ!!』

 

『きゃぁ!!』

 

『うわぁ!!』

 

全員の足を、まとめて強打させたのだ。

 

人間より耐久力はあっても、回復能力は人間よりも長けるだけで、そこまででは無い。

 

足を折るか、斬ってしまえば、完全に回復するにも時間が掛る。

 

その間に逃げるか、殺すかは選べるが

 

今はソフィを置いて逃げる事は出来なかった。

 

『ソフィ!!』

 

エドは、縛られて動けないソフィに向かって、一括した。

 

『俺はゲーデを仲間に入れた!!それだけは認める!!』

 

そう言った瞬間、再びソフィの表情が強張った。

 

『だがな!!俺だってアイツは気に食わねえし、アスベルを助け出す為なら、あいつを殺してでも引きずり出す!』

 

そう言った瞬間、エドはすぐさまソフィを開放するよう錬金物を分解した。

 

瞬間、ソフィはエドの方を睨み、

 

エドの顔めがけて殴りにかかった。

 

だが

 

『…………』

 

殴らず、そのまま静止するように立ち止まった。

 

『…だから、それまで待っててくれ』

 

エドがそう語った瞬間、再びソフィは戦闘体制にかかり、

 

エドを殴りにかかっ

 

ろうとはせず、エドの後ろに立っていたディセンダーを殴り飛ばした。

 

『ぐばはぁ!!』

 

ディセンダーは、岩へと飛ばされた。

 

『………信じても、良いんだよね?』

 

ソフィがそう確認すると、

 

『当たり前だ!!』

 

そう、エドは大声を上げ

 

アルを連れてその場から駆けだした。

 

『新しい世界を作る時に、あいつだけサボらせるかよ!!引きずり出して、働かせてやれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~世界樹の麓~

 

私は今、一人となった。

 

盗賊団と呼ばれた、レジスタンスは目的を失い、解散し

 

それぞれの故郷を守るべく、元居た員は、バラバラに去って行った。

 

私は、守るべき故郷が無い。

 

だから、何も失う物等無い。

 

この世界を壊す

 

その為に、私は世界樹の麓へと来たのだ。

 

ここまで来るのに、342人のディセンダーを皆殺しにしたが、

 

何も感じない。

 

蔑んでいた人間よりも、感情が少ない彼らは

 

殺しても魂は帰る

 

そして、また生まれ変わる。

 

その円環の法則を知ったからだ。

 

『お前は……世界樹は…。何の為に、こんな事を…』

 

人間が死ぬ所は今までいくつも見てきた。

 

死の人間の樹は、上には行かず

 

地面に行き、どこかの方向へと向かって進む。

 

その法則に疑問を感じた私は、答えを知った時、絶望を知った。

 

殺しても、殺しても、

 

ただ、利用されているに違い無いからだ。

 

殺しても、意味は無い。

 

いくら殺しても、恐らく

 

世界樹の養分にされる

 

ディセンダーでも、人間でもだ。

 

終わりの無い物語を、延々と続けて

 

ただ、延々と生き続けて

 

世界樹は

 

終わらない事を願っている。

 

それに、何の意味があるのか。

 

皆殺しにして、”無”に戻った時に

 

何が、その後に何が残るのか。

 

世界樹は

 

もしかしたら

 

想像以上に、幼稚な魂を宿しているのかもしれない。

 

『おい』

 

声をかけられた。

 

振り向くと、そいつも人間では無い。

 

ディセンダーにしては、負の感情が著しく高い、妙な者と

 

別の世界の住民の気を持つ少女が居た。

 

『お前、誰だ』

 

『私か?』

 

『お前以外に、誰がいるんだよ。』

 

自己紹介は苦手だ。

 

隠さなければならない部分

 

その部分を意識して、若干でも増大でも

 

不安と罪悪感を感じるからだ。

 

『私の名はダオス。それ以外は何も説明はしない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ゼルギアス洞窟~

 

ある日に決まり、洞窟の結界は強まり始める。

 

その結界は、ある少女が掛けたものであるが

 

決して、侵入を阻める物ではなく、

 

私の存在を抹消させ、私を洞窟へと閉じ込める為の結界である。

 

私が、闇の精霊等と呼ばれるのも、この暗黒の洞窟の中、

 

結界の中でずっと佇んでいたからである。

 

闇を得てから、ずっと、ずっと力を溜めてきた。

 

今までは、弱くなれば脱出を試みたが、どうも簡単には破る事が出来ない。

 

だが、この日

 

人類が皆殺しにされようとするであろう、この日だけ

 

結界が、余計に強まり

 

私と言う存在を、闇に閉じ込めたままにしてしまう。

 

だが、それもこれまでだ。

 

今まで、何百年、何千年、何万年、

 

ずっと闇の中に閉じ込められてきた。

 

ただ、閉じ込められていたわけではない。

 

いつか、この闇へと出る為に

 

いつか、少女と出会う為に

 

力を蓄え、作って来たのだ。

 

この強い結界を破るほどの力が無ければ、向こうの世界を救う事なんて出来ないだろう。

 

そう、心得てから、より一層強くなった結界の前に、我は立つ

 

この結界を、破る

 

破れば、私は

 

この世界を、救えるかもしれない

 

あの少女を、今度こそ守る事が出来るかもしれない。

 

少女の名前は忘れてしまったが

 

出会った時、この姿を見られた時

 

私だと気づいてくれるか分からないけれども

 

絶対に、この世界から

 

あの少女と、人類を

 

救う事と決めている。

 

『さぁ』

 

我は、手を掲げる

 

結界に、手を向ける

 

『開けよ』

 

我は結界を壊す

 

力の限り、今まで育った力の限り

 

『我は』

 

結界が、反発する

 

私を絶対にここから出さんと、心決めているように

 

『もう怖くない』

 

結界が、壊れる

 

ヒビが割れて、私の力に打ち負けるように

 

『あの世界に帰るぞ』

 

私の決心に負けるように

 

結界は、バラバラに砕け散った

 

『レム』

 

少女の名前を思い出した。

 

その少女は、ずっと一緒に居てくれた少女だった。

 

我は、少女を守るべく、一歩、

 

光の世界へと、歩みだした。


 
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