No.483795

魔法少女と呼ばれて 第2話

萌神さん

小学四年生の少女"天城絆"は魔法少女である。彼女を改造したS・O・S(Secret of Secret)は世界征服を企む悪の魔術結社である。魔女になる為に無理矢理改造手術を受けた彼女は洗脳処置の前にS・O・Sのアジトから脱出。魔法少女キズナとなり、復讐の為S・O・Sと戦うのだ!
『魔法少女キズナ』それは彼女の始まりの物語である。

2012-09-14 17:39:23 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:560   閲覧ユーザー数:559

―Begins―

 

小学四年生 天城絆(アマギ・キズナ)は天涯孤独である。物心付いた頃から彼女は一人、児童養護施設で生活していた。午前の授業と給食が終わり、午後の授業前の大休憩時間。校庭でサッカーや鬼ごっこに興じる級友達を横目に彼女は校舎と体育館を結ぶ連絡通路を歩いていた。

 

その生い立ちから少女は周囲と壁を作り、同世代の子供達と解け込めずにいた。そう言ったはみ出し者は孤立し、いじめの対象に成りがちで絆も例外ではなかったが、彼女は生まれ持っての身体能力のお陰で腕っ節が強く、そう言った状況を力尽くで這い上がって来た過去を持つ。

 

当てもなく歩いていた絆は、体育館の角の目立たない場所で数名の男児に囲まれ、しゃがみ込んでいる女児の姿に気付いた。「あいつ…」絆が眉を顰める。女児を囲む男児は絆より年下の年少の少年達のようだった。

 

「お前等…そこで何してやがる!」足早に少女に駆け寄った絆に気付いた男児達が、ぎょっとして振り返る。「ヤバイ! バンチョー来た!」「ボコられる?」「逃げろー!」声の主が絆だと気付いた男児達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

前述の通り、絆はいじめを力で持って解決してきた。故にその暴力性は恐れられ、更に周囲を遠ざかる悪循環を生み出していた。逃げる男児の姿に鼻を鳴らし絆は蹲る女児に声を掛けた。「まったく…大丈夫だったかい、静夜?」静夜と呼ばれた女児は恐る恐る顔を上げた。

 

それが絆だと気付くと女児は安心した様な儚い笑みを浮かべた。「絆ちゃん…あ、ありがとう」「ありがとう…じゃ、ないよ。あんたも年下のガキにからかわれてんじゃないよ」絆は少女に手を伸ばし手を取って立ち上がらせた。

 

長い黒髪の大人しそうな印象の少女。栗林静夜(クリバヤシ・セイヤ)は絆が暮らす施設で一緒に生活する、同い年で数少ない彼女の友人である。父親の虐待により施設に引き取られた静夜は、そのせいか引っ込み思案で自分の表現が下手であり、からかわれ易かった。

 

「まあ、良いさ。さて、授業が始まる前に教室に戻るか」「うん…絆ちゃん…いつもゴメンね」「気にすんな…慣れたよ」「ううん、やっぱり絆ちゃんは凄いよ…羨ましいよ…」「…」憧憬さえ感じる静夜の視線から目を逸らし、絆は静夜を促して歩き出す。

 

(俺は…そんな人間じゃない…。お前が思う様な凄い人間じゃないんだ…)静夜は絆の大切な友人である。だが静夜が絆に夢見る理想…畏敬…憧憬は絆にとっては重い物だった。

―放課後―

 

予定されていた授業が終わると、絆は直ぐ様ランドセルを背負い廊下へ出る。「待ちなさい、絆さん。少し話しがあります」とそんな絆を女性の声が呼び止めた。「チッ…。ばばあかよ…」絆は顔を顰めると舌打ちし振り返った。

 

「聞こえていますよ、絆さん。まあ、悪態を隠して言わない所は評価しますけど」ゆっくりと歩み寄る初老の女性教師、中島希代子は絆の悪態については咎めず奇妙な所に感心していた。「で、何なんだよ」絆は面倒臭そうに半眼で問う。

 

「貴女は昨日、御柱先生の授業に出席しなかったそうね?」「ああ、それかよ…良いじゃねえか、俺なんかが授業にでなかったくらいで何も変わらないだろう」「周りはそうかもしれませんが、貴女の授業内容が遅れます」中島教師は静かに怒る。

 

絆は中島を毛嫌いしていた。とにかく小さい事で口煩く絆に小言を言ってくるのだ。中島教師の言葉を半分諦めて聞き流していると、そこへ一人の若い女性教師が割って入ってきた。「中島先生、もうその辺で許してあげて下さい」

 

生真面目そうな細い眼鏡を掛けた若い女性教師の名は御柱千歳(みはしら・ちとせ)と言う。「私が彼女が授業に参加したい、と言う気持ちが起きないような情け無い授業しか出来ないのが悪いのですから、彼女を責めないで下さい」千歳は中島に頭を下げると絆を庇った。

 

「あんたが謝る事はないだろう」慌てて絆は千歳を止める。彼女はいつもそうやって絆を庇ってくれる。粗野で嫌われ者で素行の悪い絆にも優しく接してくれる希少な人物だ。絆も彼女には心を開いていた。「…もう良いです」気が削がれた中島教師は軽く溜息を付いた。

 

「絆さん、授業にはきちんと出るように。学ぶ事は貴女の将来の糧となる物ですからね」中島教師は絆にそう諭す。「それから御柱先生…無駄に生徒を甘やかさないように…」次に千歳に言い含めると立ち去って行く。中島教師の後姿を見送りながら絆がボソリと呟く。

 

「すまない…」そう言って目を逸らす絆に、千歳はただ黙ってニッコリと微笑んで見せる。「絆さん、今度は私の授業に出てくださいね」「ああ…考えておくよ」素直になれない絆はぶっきら棒に返事をするとその場を立ち去った。


 
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