皆さんこんにちは。董卓軍の客将になった蒼です。
なんだか久しぶりにこの挨拶をしたような気がします。
まぁ、それは良いとして今宮殿の庭に来ているのですが……
「さて、見せて貰うぞ。蒼。お前の武が月様にふさわしいか確かめてやる」
何故か月達がいる中で目の前にいる椿と手合わせすることになっている。
というか椿って、なんか春蘭と同じ感じがするな。
椿+百合=春蘭って感じかな。
案外話をさせてみれば気が合うかも……いや、もしかしたら自分の主君自慢で、喧嘩しそうだ。その確率はかなり高い、そしてその喧嘩を止める秋蘭と霞が止める……うん普通に想像できる。
まあ、そんなことはどうでもよく、結論から言うと、客将として向かえられた『紅蓮団』の上にいる俺の武を正確に見極めよう。
……という建前で、実際は二つ名を持っているぐらい強いのなら手合わせしてみたいぐらいの考えなんだろう。(まあ、詠は建前の方が本音っぽいが。)
しかし、一人とやるならともかく、椿の後に、霞、恋と続く連戦は多少……訂正かなりキツイ。実戦だったら、おそらく霞辺りで切り上げるとこだが、自分自身がどこまでいけるかを試したくなっているようだ。
……いや、絶対。これはランサーさんからの悪癖のはず。分の悪い賭けは好きだけど俺の素の性格から来ているものではないはず。
俺は戦闘狂(バトルマニア)ではない。俺はことなかれ主義の平和主義者だ。
……そう、ただ刺激が欲しいだけ。この手合わせはただ俺を退屈しのぎで、強い奴とやり合いたいだけ……、ってこれ戦闘狂(バトルマニア)の台詞じゃねーか!
「何を落ち込んでいるのかは知らんが、やる気がないのか?」
「……ああ、いや。自分の性格を再認識して落ち込んでいただけだ。
まあ、俺はいつでもいいんだが、そっちはどうなんだ?」
そう言いつつ、気持ちを入れ換えて、体に流れている気をさらに速く動かす。
これが俺の気の使い方、体に循環して流れている気を一種の血液とイメージし、身体の強化を行う。
これにより全体的に強化され、特に新陳代謝や反射神経などが強化される。
「私もいつでもいいぞ。こい蒼!私の武で貴様の武を打ち砕いてやる」
そして、椿は戦斧を構える。俺も何時もどおりに槍を構える。それと同時に自然と心が昂ぶる。
「いいね。いいね。その気迫。来いよ椿。少しでも気ィ抜くとすぐに終わっちまうぞ!」
そう言い放つと同時に二人ともお互いの間合いに入る。
初手は譲る。椿の攻撃を槍で全て受け流す。
やはりと言うかなんと言うか、威力はあるけどは一直線だな。
さて、ここで椿に稽古をつけるのもいいが、もしかしたらあるかもしれない反董卓連合を考えると……
どうしたもんか。
―side 観戦者
「なんや蒼っち、えらい防戦一方やけど大丈夫なんか?」
そう呟くのは霞、『神速』の二つ名を持つ武人。
「……大丈夫、蒼、本気出してない」
それを否定するのは『飛将軍』の名を持つ恋。
実際、この二人は蒼の実力は椿よりも上だと感じている。いや、おそらく自分達よりも……
「大丈夫ですよ、あれは蒼様の悪癖でして」
溜め息混じりに、森羅は二人の会話に入る。少し呆れたような、諦めたような顔をしながら。
「悪癖って、蒼っちの防ぎ方、かなり危なっかしいと思うねんけど、そこんとこの説明よろしく頼むで、森やん♪」
「お願いします。私のことは森羅と。「いやや、森やん」森羅「森やん」…はぁ、分かりました。もうそれでいいです。
蒼様の防ぎ方は殆ど正面からではなく、あのように受け流す形になってます。理由は正面からより力を使わないからだそうです。それに元々あまり力がない方ですし……
まあそれはどうでもいいでしょう。それより悪癖の方は、自分より弱い相手に初手を譲り、相手の攻撃を全て防いでから、攻撃をし始める癖です。実際我々『紅蓮団』全員にこのように戦い、勝っています」
本当に、自分の誇りを失いかけましたよ。と愚痴を漏らしながら説明する森羅に疑問を持った霞は質問する。
「その戦い方って相手が疲れた所を攻撃するってことやろ。それが蒼っちの戦い方やないん?」
「甘いですよ。蒼様は自称とはいえ『最速』を名乗っているのですよ。
本当の戦い方は相手が対応出来ないぐらいの速さで攻撃を繰り出す戦い方です。あの戦い方は自分の速さに初撃から対応出来ない人用とも相手の力量を試すとも言っていました。
本音はそんなに早く勝負が決まるのはつまらないから。という理由なのでしょうが……
おそらく、そろそろ攻撃にうつる時間でしょう」
そう言いながら三人は立ち合いに意識を向ける。
その直後に手合わせが動き始めた。
―side out
本当にどうしようか悩んでいる内に椿による猛攻が終わった。といっても動きにフェイントが殆どなかったので受ける側(この場合流す側というのか……)としては楽ではあったのだが。
というかよく此処まで力強く斧を振るえるよな。
その力を少し分けてもらいたいが。
「蒼、貴様。真面目に戦え。さっきから私の息切れを狙っているのだろうが、貴様に武の誇りはないのか!」
「いや、俺お前の息切れを狙ってるわけねーだろ。
つーか、正面から切り結ぶのが武の誇りだとしたら俺にそんなもんはねーよ。
もしお前にそんなもんがあるのなら捨てちまえ」
「なんだと!貴様ー!」
俺の言葉に怒り、更に攻撃が単調になりはじめた。
もう、決定だ。こいつ危なっかし過ぎる。少し考えを改めさせるか。
そう思い身体全部を使い、椿の攻撃を押し留める。
「怒るなよ。
ったく、少し落ち着け馬鹿。お前の攻撃、単調になりすぎてんぞ」
「それの何が悪い。当たればいいのだ当たれば」
ダメだこいつ、とっとと負かして、落ち着かしてからでないと話を聞きやしねえ。
まあ、取り敢えず。
「てめえに正しい戦い方を教えてやるよ」
俺は少し離れて、槍を構えなおす。
そして、椿が間合いに入った瞬間攻撃(講義)を開始する。
「まず、基本だが。一騎打ちや一騎打ちの本質は相手と己の間合いの陣取り合戦だ」
そう言いつつ、椿の間合いを俺の間合いに変えるため、刺突、斬撃、打撃を組み合わせ、そして狙いは急所だけではなく相手の体力を奪うように全身を狙う。そうして相手に防御しか許せない状況にしていく。
「そして、その為には虚実交えて攻撃しなければならない!お前のように正面からだけだと今の俺のように直ぐに見切られるぞ!」
そう言っている間に、椿の間合いを大体掌握した。後は止めだけ。俺は石突きの方で椿を突き、一時的に行動不能にして槍を首筋に当てる。
「これにて終了だな」
「くっ、もう一度戦え!今度こそ私が勝つ!」
「無理だね。つーか今のお前と戦ってもちっとも面白くねぇ」
「なんだと!」
「いいから聞けよ。
まずだ。戦に次があると思うんじゃねえよ。勝ったら大体が生き残り、負けたら大体が死ぬ。これが戦の理(ことわり)だろ。
そして、生き残る為にはどんなに昂ぶっても冷静に周りを、そして己を見る必要がある。なのにお前は頭に血が上り、攻撃が単調になり、俺に見切られ負けだ。つまり、死んだんだ。分かったか」
「だが、正々堂々と戦ったのだ悔いはない」
この馬鹿野郎が。
「お前は、お前の武に誇りがあるのか?」
「当然だ。それがどうした?」
「なら、その武、誰に対して誇っている?」
「それは勿論月様や仲間の者達だ」
「なら、月達がお前が侮辱され、その武を懸けて突っ込んで死んでいくのを望んでいるのか?」
「それは……」
困惑する椿。
自分の価値観を無理矢理変えられているんだからしょうがないっちゃしょうがないんだが、少し見てられない。
「俺は、いや俺たちは生き残るために、より上手く殺す為の武を極めようとしている。
そして、生き残ることで仲間は安心する。
だからな椿、俺は生き残る為の武には誇りを持ってるが、死ぬための武なんぞは持ってねえんだよ。
死んだら皆悲しむし、落ち込む。そして士気が下がって負けに近づく。わかるな」
「ああ、そうだな。
だが、私はどうすればいい?私の武が間違っているのは分かった。しかし、私には武しかない」
「んなもん俺が知るかよ。自分で考えな」
そう言い放つと、椿はかなり落ち込んでしまった。
周りを見ると、全員からどうにかしろと目で訴えられている。
……ああ、畜生。分かったよ。
「少し助言しといてやる。自分の主君を悲しめるな。生き残り、月を喜ばせな。生き残るために頭を使え。常に周りを見ろ。
それが出来るようになったら、面白くなってるだろうし、また戦ってやるよ」
そう言うと、椿は何かを悟ったのか真っ直ぐこっちを向いて来た。
「蒼、礼を言わせてもらう。
もし、お前と会わなかったら、私はいつか月様を悲しませただろう。
私は一から武を見直す。そして見直せたら、もう一度手合わせをお願いする。
今度こそ、お前の本気で」
まあ、この性格だから時間はかかるがなと言いながら此方を見る。というか自覚はあったんだなアイツ……
いい目だ。次は楽しくなりそうだな。
「勿論だ。次は何時かは分からないが必ず」
そう返し、握手をする。
次は霞か。面白くなりそうだな。こいつは。
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すいません、今さっき気が付きました。
では、改めて12話です。