No.473098

あるはずのないもの

暑い夏ですこんばんは。
同人恋姫祭りの時くらいには気合を入れて外史を書いても委員会書記のたくましいいのししです。
今回もぜひとも参加したいと思い作品を作らせていただきました。
では早速レギュレーションの確認をば。
【1つ目】

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2012-08-20 23:09:20 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2777   閲覧ユーザー数:2446

それは三国同盟の定例会議でのこと。

 

「涼をとる?」

 

北郷が聞き返したのには理由がある。

彼にはその解決策がわからないのではなく、方法がないではなく、ただ単純にもう何度目かも分からないその質問に対する回答が出尽くした…というわけでもない。

わけでもないのだが、いい加減そろそろ思いつかなくなっているも事実だ。

 

「暑くて兵の士気も上がらないのよ…なんとかならないかしら?」

 

呉の王、蓮華は一刀にそう問うた。

いくら平和と言えど、兵の士気が下がるのはあまりイイことではないことくらい北郷にだってわかる。

わかるにはわかるのだが…

 

「そうはいってもなぁ…

 スパに、水泳に、打ち水に…いい加減そろそろ案がね…」

 

北郷は頭を抱えてしまう。

「天の国の知識」といったって限度がある。

技術的なものに関しては一刀はその仕組がわからない、もしくはわかってても実現できない物が多いから、彼の出せる案は簡易なものに限られる。

そして、簡易なものは端から採用されていく。

その結果が上記のものだが、それ以外となると…

 

「浴衣…はもう作った。すだれ…ももう作った。茣蓙…もある。もう思いつかないよ…」

「でも一刀、貴方前に天の国では暑さ知らずだと言っていたのではなくて?」

 

そう聞くのは、魏の王、曹操である。

 

「そりゃそうなんだけどさ。あれはクーラーっていう設備があってだな?

 こっちでそれが実現できればそれに越したことはないけど、ここで言うところの真夏に氷を作れって言うようなもので…

 実現なんてできないよ。」

 

日本にいた時を思い出し、北郷はなんとか実現できそうな案をひねり出そうとする。

しかし、出ないものはでない。

 

「まったく…あなた、肝心なときに役に立たないわね…」

「でもでも!ホントはまだ何かあるんでしょ!?ね!ご主人様!あるんでしょ!?」

 

北郷に全幅の信頼を置く蜀の王桃香は、なんの悪意も疑いもなく彼に問いかける。

 

「そんな目で見られてもなぁ…桃香にそう言われると頑張って思い出したいところではあるんだけど。

 もう物理的に涼しくなる方法って言ったら熱い風呂に入るくらいしか思いつかないよ…」

「貴方はまた…」

「しかたないだろ!もうほんとに出尽くしてるんだって!

 風呂に入ったあと浴衣で縁側に出ると結構涼しく感じるんだぞ!

 それ以外にほんともう無理、これ以上はほんとにでてこない…」

 

北郷はほんとうに困った様子で、頭を抱えてしまった。

 

「むぅ…困ったわね…華琳のところはどういう対策をしてるのかしら?」

「むしろ私は蓮華のところの事情を聞きたいくらいだけれど。

 比較的暖かい地域の者はどのように過ごしているの?」

「私たちは…そうね、普段からこのような格好だし、慣れているというのもあるから。

 しかし今年も異常に暑くて…」

「はぁ…こちらと大して変わらないということね?」

「ねぇねぇ~御~主人様~。何かないの?何かないの?」

 

そして、結局彼にお鉢が回ってくるのであった。

 

「う~ん…もう、なんだろう。あとはもう気分だけでも涼しくなるみたいな方法しか思いつかないよ…

 風鈴とか…あとはそうだなぁ…あれは、でもシャレにならないしなぁ…」

「む?その様子だと何かあるようね?」

「いや、あることにはあるんだけど…俺は本当はやりたくないんだよこれ…」

 

そう言って、彼は皆の前に「それ」の内容が書かれた竹簡を広げてみせた。

「肝試し」

 

それを見た瞬間、北郷の首には絶が当てられていた。

 

「どう?肝は試せた?」

 

満面の笑みで華琳は言う。

 

「ほら、まずこれだよ。絶対これやられるから嫌だったんだ!

 十分肝は試せたよ!そうじゃなくて、俺のいた国では夏といえば、の定番の行事なんだよ。

 背筋がゾッとする話を聞いて、そのあと夜の森とかいわくつきの廃墟とかを探検するものだ。

 ただこっちだと夜の警邏とか日常茶飯事だから…怖くないじゃん…

 ほら、説明もしたことだし、早くこの首元のひんやり要素をどけてくれよ。」

 

納得いかないといった表情で、華琳は武器を引いた。

 

「まったく。それならそうと早く言えばいいじゃない。

 しかし、天の国の人々は変わった事をするものね。」

「全く同意見だわ。一刀のことを悪く言うつもりはないのだけれど、それって意味があるのかしら…?」

 

蓮華と華琳は口々にそういった。

もちろん北郷もそんなことはわかっていると言った様子であり、頭を上げ、話を変えようとした。

 

「だろ?だからいままで提案しなかったんだよ。だから他の案を考え…」

 

その後の言葉は、たった一人の輝く瞳を前に、続けることはできなかった。

 

「やろうよご主人様!それってすっごく面白そう!」

場所は伏す。

いわゆる、「それらしい」雰囲気のある森に場所を移した一行は、黙って北郷の話を聞いていた。

思い立ったが吉日とはいうが、妙に乗り気な桃香があれよあれよという間に各将たちの予定を取り付け、準備はあっという間に整った。

その場にいなかったお祭り好きの前呉王の粋な計らいでこの「いかにも」な森が用意され、現在北郷によってその場所の「いわく」話(無論、作り話である)がなされているところだ。

 

「と、いうわけでここは志の半ばで矢を受け死んだ女性達が埋められているんだ。

 なんでもその人達の声が夜な夜な聞こえてきて…」

 

その話を笑うもの、信じて怯えるもの、そして涙ぐむもの。

それぞれの反応をみて、北郷は切り出す。

 

「と、いうことで、これからみんなに今話した女性の噂を確認してきてほしいんだ。

 この道を奥に進んだところに小さな川がある。その川のほとりまでいった証拠に、そこに落ちてる石や何かを拾ってきてくれ。

 二人組でね~、はいくじ引いて~」

 

まるで引率の教員のような手際で籤を配り終えた北郷は続ける。

 

「武器は置いてってね。いろんな意味で危険だから。はい、じゃあ同じ番号が書かれてる人と一緒に行ってくださいね~。

 はい一番から。お、なんだシャオと蒲公英か。お互い仲良くね~。」

最初の組から武器を預かり、森の中へと送り出すと、北郷は何やら準備をし始めた。

それに気が付いた女性が一人、声をかける。

 

「随分手馴れているようだな、北郷。」

「お、秋蘭か。まぁこれはこれで俺たちの時代の伝統行事というか。

 夏になったらほぼ必ずやる行事だからな。秋蘭は誰と組むんだ?」

「私が姉者か華琳様以外の番号を引くわけがなかろう?今回は姉者のほうさ。

 ところで、北郷は籤を引いていないようだったが…」

「あぁ、俺は俺でもっと大事な役目があるからな。凪、沙和、ここは頼むぞ。

 ほら真桜、準備できたか、行くぞ。」

「あ、おい。どこにいこうというのだ?」

「なにって…秋蘭ともあろう方が気が付いていないわけないんじゃないのか?

 それに、大体の連中がもうこれがどういう行事か気が付いているはずさ。

 なにもないただ森に入るだけじゃ、つまらないだろ?」

 

北郷は、さも当然といった表情でそういうと、森の奥へ入っていった。

そう、彼の役目は、いるはずのない「幽霊」役だ。

もちろん相手は百戦錬磨の強者たちだ。半端な隠れ方ではあっという間に気配でばれてしまう。

その為に、真桜と二人で森に入り、各種罠とともに驚かせる作戦をとった。

先ほどの話のおかげである程度の人数は森に入ることに恐怖を覚えている為、驚かせやすい環境は整っているといえよう。

さらにいえば、これは北郷の日頃のうっぷん晴らしという面もある。

どうせ相手は彼より強い。

だからある程度やって驚かせても怪我などしないだろうし、やりすぎるということもない。

北郷は、本気だった。

沙和協力の傷メイクにボロの服は単純だが効果抜群だ。

日本にいた時はそれでも懐中電灯があったため範囲は狭いがはっきり見えてしまうが、こちらはうす暗い蝋燭一本しか渡してない。

うすらぼんやりとした暗がりからこちらには定着してない文化である腐乱死体、いわゆるゾンビの格好に多くのものが叫び声をあげた。

そうでないものは手を出した。

声も手も出せないものは、気絶した。

だんだんと夜も更けていき、残る人数も少なくなってきた頃だった。

 

森の中でメイクだか怪我だかわからない顔を準備し北郷は次が来るのを待っていると、悲鳴が聞こえた。

悲鳴自体が聞こえることは特に問題がない。

だが、北郷は妙な胸騒ぎを覚えた。

(あそこは…コースじゃないぞ…)

北郷は悲鳴の場所に向かった。

川のほとり。静かな水音とともにそこに待っていたのは悲鳴の主と、低く響く唸り声。

へたり込んだ蓮華と、亞莎。

その目の前に、虎がいた。

なぜこんなところに虎が?

こんな簡単に出てくるものなのか?

疑問は尽きぬが、そんなこと考えている場合ではない。

細い倒木を手に、殴り掛かる。

虎が一瞬怯むが、視線を蓮華たちから外さなかった。

だが怯んでいる間に、北郷は蓮華たちと虎の間に入れた。

できる限り虎を興奮させないように、北郷は小声で後ろの二人に声をかける。

「蓮華、亞莎、立てるか?」

「えぇ…ただ亞莎が…私をかばって…」

「やられたのか!?」

「突き飛ばされて気を失っているようで…」

「抱えて逃げられそうか…?」

「でもそうしたら一刀が…!」

「いや、信号弾もあるから大丈夫だ。すぐに真桜たちが来る。

 それに獣は火を怖がるんだろ?だから蓮華はすぐに逃げろ。

 合図で動け。1、2、のさんっ!」

 

北郷が空に向けて信号弾を放つと同時に、蓮華は亞莎を抱え走り出した。

妙な光と音に虎はたじろぎはすれど、目の前の餌をおめおめと逃がすつもりはないようだ。

目の前の男には目もくれず、逃げようとする当初の餌めがけて飛びかかった。

 

「させるかっ!」

 

北郷は木端を振り上げて、虎の横っ腹に叩きつけた。

 

「オラ、こいよ虎野郎!そっちにはいかせねぇよ!」

 

食事を邪魔され、いい加減腹を立てたのか、ついに虎は標的を北郷に変えた。

 

「よし、そうだこっちだよ虎野郎、食ら…っ!!!」

 

北郷は額にもう一撃加えるつもりで木端を振り上げたが、激痛によって顔を歪めた。

虎の前足が、肩口に刺さる。

呼気をすぐ近くに感じる。

飛びかかられたのだと気が付くまでに時間がかかった。

 

「畜生、離せ、離せ!!!」

 

鼻に、耳に、でたらめに拳を食らわせても怯みもしない。

満足に動けぬ北郷相手に、勝ち誇ったように咆哮をあげ、虎は大きな口を開けた。

いただきます、と。そういっているように思えた。

こんなに簡単に死ぬのか。

死んだら、華琳や蓮華に怒られるな…

そんな場違いのようなことが北郷の頭をよぎる。

意識は朦朧としていた。

時間の流れがゆっくりのように感じた。

光が、目の前をかすめていった。

不思議とその光に見覚えがあるようだった。

暖かい朱色が目の前に広がった。

 

北郷の意識はそこで途絶えた。

目を覚ますと、北郷はよく見知った天井の下にいた。

体中包帯を巻かれていることに気が付くのに一瞬。

そこが医務室だと気が付くのにもう一瞬。

蓮華が北郷に抱きつくのに十分すぎる時間だった。

 

「心配したのよ!あなたが死んでしまったらと思ったら…!」

 

部屋を見渡すと、表現こそ違えど、皆同じ気持ちなのだろう。

自分が無理に肝試しをせがんだせいで、と桃香が言えば、私がたきつけなければと華琳もいう。

口々に自らの非を詫びる面々だったが、そのなかで一刀はあることが気になった。

 

「ごめんね一刀…あたしがあそこを使わせたわけだし…あたしたちがしっかりしてれば…」

「すまんな、北郷。」

「あぁ、いや、雪蓮も冥琳もそうだけど二人のせいじゃないって。

 むしろあの場所ついてから二人ともちょっと様子がおかしかったし、そっちの方が心配だったよ。

 二人はもう大丈夫なの?」

「まぁ…なんかあの場所についたらなんかね…泣けてきちゃって…何かあったのかしらね?」

「さぁ…私にもとんと見当がつかいのだ…」

「まぁ、いいさ。二人が無事だったら。それに俺のことを助けてくれたのって雪蓮だろ?

 だったらお相子ってことでいいじゃないか?」

 

全員の表情が、訝しげに歪んだ。

 

「え…あぁ、まぁ確かにここまで運んだのはあたしだけど…」

「え?いやちがうよ。あの虎を追い払ったの雪蓮じゃないの?

 俺があいつに食われかかった時に、奴を追い払ったのは南海覇王だったとおもったけど…」

「何言ってんのよ一刀。あたしじゃないけど…?」

 

そういうと、雪蓮は蓮華の方を向く。

 

「い、いえ、私でもないわ。大体武器の類は全部凪に預けていったわけだし…」

 

そうなると、今度は北郷が訝しげな顔をする番だ。

 

「え…でも、たしかに見たんだ。燃えるような朱色の服に南海覇王。あれはいったい…」

「おかしいじゃない!あたしたちがついた時にはもう虎なんていなかったわよ!?」

「はぁ!?じゃあいったい誰が…?」

「ちょ、ちょっとまて、一刀。たしかお前が襲われた場所は、川のほとりだったな…?」

「何よ冥琳、なにかわかったっていうの?」

 

何かを閃いた冥琳から耳打ちされ、雪蓮は納得いったという顔をした。

「いや、あの場所はたしか…」

「あ…あー…それなら…まだでるっていうの…?」

 

「なんだよ、雪蓮、なにかわかったのか?」

 

業を煮やした北郷は、二人に尋ねた。

 

「えぇ、ちょっとね。この人数を前にはちょっと話せないわ。

 悪いけど、みんなちょっと席を外してくれる?」

 

その雪蓮の只ならぬ雰囲気に、皆は従わざるを得なかった。

皆が、席を外すと、雪蓮は口を開いた。

 

「蓮華とあなたがあそこね、まさかそんな方まで蓮華が迷って行ってしまうと思わなかったけど、ほら、前に案内したじゃない?

 あそこ、あたしたちの母様のお墓の近くよ。」

「え…あ。」

 

なぜ、今まで忘れていたのだろか。北郷はそう思った。

 

「以前に案内したあそこ。蓮華たちはそっちの方まで行ってしまっていたのね。」

「じゃあ、もしかして俺を助けてくれたのって…」

 

「さぁ、それはわからないけど、文台様だと考えても…不思議ではないのかもしれないな。

 なにせ、あそこは『志の半ばで矢を受け死んだ女性が埋められている』のだろう?」

 

冥琳はおかしそうに喉を鳴らす。

 

「いや、あれは完全に口から出まかせで…」

「偶然…というにはできすぎていると思うが?」

「いや、それはそうだけど…」

 

事実を知ってもなお、北郷は納得いかないといった表情だった。

そんな表情も、雪蓮の前では何の意味も持たなかった。

 

「まぁ、何はともあれ、一刀も蓮華も亞莎も無事でよかったわ!

 ヒヤッとして、当初の目的も達成できたわけだし!

 さ、一刀の傷も傷も浅いんでしょ?飲も飲も!」

「え、いや…」

「逆らっても無駄だぞ、北郷。こうなった雪蓮は私でも止められんぞ?

 それに今日は私にも止める気ないしな。」

「そうよ、一刀。だいいたいね、あたしたちの墓の前で蓮華達をかばう姿見せられちゃったら、さすがのあたしも嫉妬しちゃうわ。

 飲まないとやってられないものね!」


 
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