ロレントに到着したエステル達は報告の為にギルドに向かった。
~遊撃士協会・ロレント支部~
「へっ、やっと帰って来たか。」
「どうした?やけに遅かったじゃないか。」
「お帰りなさい、ママ!」
エステル達がギルドに入ると既に護衛を終えたアガット達や依頼をいくつかこなしたミントがいた。
「ええ、色々あってね。」
「アガットたちはもう鉱山に行ってきたの?」
「ああ、すでに向こうに連絡が行ってたらしくてな。すぐに出発できたから意外に早くかえってこれたぜ。」
「ただ、帰る途中で奇妙な魔獣が現れてな。その事を話していたんだ。」
「奇妙な魔獣?」
ジンの説明を聞いたエステルは首を傾げた。
「霧の中から現れて倒すと消滅する魔獣でね。『霧魔』とも言うべきかな?」
「そ、それって……!」
「あの魔獣と同じですね……」
オリビエの話を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは真剣そうな表情で答えた。
「あのね、ママ。実はミントが依頼を終えてギルドに戻る途中、街中で一匹現れて大騒ぎになったんだ。」
「なっ!?」
「まさか街中にまで現れるなんて……!」
ミントの話を聞いたエステルは驚き、シェラザードは信じられない表情で驚いていた。
「……ちなみにその魔獣、霧状の為なのか物理攻撃がほとんど効かなくてね。王国軍の兵士達が苦戦していた所をミントがかけつけて、魔術やアーツで援護をして、なんとかなったわ。」
「ホッ………」
アイナの話を聞いたエステルは安堵の溜息を吐いた。
「その様子だと、お前らの所にも現れやがったのか………ケガはしてねぇだろうな?」
「えと、私たちは大丈夫なんですけど……」
アガットの心配にティータはエステルの顔色をうかがいながら答えた。
「………………………………」
「???」
「何かあったみたいね。報告してもらえるかしら?」
黙って、悲痛そうな表情をしているエステルやティータの言葉にアガットは眉を顰め、アイナは真剣な表情で尋ねた。
「ええ、実は……」
そしてエステル達は農園で起こった出来事について一通り報告した。
「そう……一足遅かったみたいね。」
エステル達の報告を聞いたアイナは無念そうな表情で溜息を吐いた。
「……あたしの失態だわ。もう少し上手く立ち回れば犯人を捕まえられたのに。」
「ううん……。シェラ姉は全然悪くないよ。悪いのは、肝心な時に動けなかったあたしだもん。」
「気にすることはないわ。どうやらあなた達は、罠にかけられたみたいだし。」
「わ、罠!?」
アイナの言葉にエステルは驚いた。
「農園に入ったと同時に聞こえてきた鈴の音……。待ち伏せしていた霧の魔獣、そして鍵のかかった正面玄関……。ギリギリのタイミングでお前さんたちが間に合わないよう計算された感じだな。」
アイナの言葉を補足するようにジンが説明した。
「た、ただの偶然じゃないの?」
「いや、昏睡事件を考えても『黒衣の女』はかなり巧妙だ。キミ達が護衛する人々をわざわざ先回りして眠らせた………フフ、ひょっとして挑発してるのかもしれないね。」
「う、うーん……。『黒衣の女』と言われても心当たりは全然ないし……。挑発される覚えはなんだけど。」
「………………………………」
オリビエの推測にエステルは考え込み、シェラザードは浮かない表情で黙っていた。
「ふう、ただいま戻りました。」
その時、ロレント常駐の遊撃士――リッジがギルドに入って来た。
「あれ、リッジさん?」
「そういえば護衛で王都まで行ってたのよね。」
「ええ、朝早くに向こうを出てやっと戻って来られましたよ。それにしても……いったい何があったんですか?霧の範囲は広がってるわ、街を兵士が巡回しているわ……」
「実は昨日の夕方頃から色々大変なことが起こってね。」
状況を理解できていないリッジにアイナは事情を説明した。
「うわ……そんなことになってたんですか。マズイ時に出かけちゃったなぁ。」
「ううん、気にしないでよ。定期船が止まっている以上、護衛だって大切な仕事なんだし。」
「あたし達が、そういう仕事を請けている余裕はないからね。フォローしてくれて助かるわ。」
「そうだよ!リッジさんのお陰で、ミント達は今の状態を調べられるんだから!」
事情を聞き、気不味そうな表情をしているリッジにエステルとシェラザード、ミントはフォローの言葉をかけた。
「こ、光栄です。そういえば……その『鈴の音』なんですけど。それって霧の向こうから聞こえてくるんですよね?」
「ええ、そうよ。」
「何のために鳴らしているのかはっきりしてないんだけどね。」
「そうか……」
「何か心当たりでもあるの?」
エステル達の話を聞き、考え込んでいるリッジを見て、アイナは尋ねた。
「さっき、エリーズ街道を通っていた時なんですけど……。かすかに鈴の音を聞いたんです。」
「あ、あんですって!?」
「ええええええ~!?」
「エリーズ街道のどのあたりで聞こえたの?」
リッジの話を聞いたエステルとミントは驚き、シェラザードは血相を変えて尋ねた。
「え、えっと……。グリューネ門から出てわりとすぐだったから……。ミストヴァルトの方ですね」
「ミストヴァルト……」
「たしかロレント地方の南東に広がる森だったな」
「最初、誰かいるのかと思って聞こえてきた方角に向かって大声で呼びかけてみたんですよ。でも、何の返事もないから気のせいかと思っちゃって……」
「ふむ……。ボクたちに伝わるのを見越してわざわざ鳴らしたのかもしれないね。」
「挑発……ということですか。」
「ケッ、舐めやがって……」
リッジの話を聞いたオリビエの推測にクロ―ゼは不安そうな表情で頷き、アガットは舌打ちをした。
「………………………………。シェラ姉……どうする?」
「そうね……。罠の可能性は高いけど飛び込んでみるしかなさそうね。招待に応じさせてもらいましょう。」
そしてエステル達がミストヴァルトに行くメンバーを決めたその時、リッジがある事を思い出してエステル達に言った。
「あ………実はさっき話した事、メンフィル兵を率いているっぽい人に話しちゃったんだけど、不味かったかなぁ………?」
「え!?」
「メンフィル兵を率いているというその人物……どんな容姿かしら?」
リッジの話を聞いたエステルは驚き、アイナは尋ねた。
「えっと………紫が混じった銀髪に赤い瞳の男性で、細剣(レイピア)を帯剣していました。服装からしてかなりの身分の人と思うんですが……」
「紫が混じった銀髪に赤い瞳、武器がレイピアって………その人、リウイじゃない!!」
「何故、リウイ陛下が兵達を率いて本格的に動き出したのでしょうか……?昨日の様子では、今すぐには動かないご様子だったのに………」
リッジの説明を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは信じられない表情で呟いていた。
「リ、リウイ陛下って…………じ、じゃあ、あの方がは、”覇王”………!道理で迫力があった訳だよ………」
エステルとクロ―ゼの話を聞いたリッジは驚いた後、冷や汗をかいた。
「迫力があったって、どういう事?」
一方リッジの言葉に首を傾げたエステルは尋ねた。
「迫力というか………あれは完全に怒っていたな………僕を見つけて鈴の音で尋ねられてさっきの話をした時、『どこにいる!』とか『さっさと教えろ!』とか迫られて、もの凄く怖かったから、つい話しちゃったんだよな……」
「………普段冷静なあの陛下に一体、何があったのかしら?」
リッジの話を聞き、シェラザードが首を傾げたその時
「うふふ………さすがに今回はいくらパパでも怒るわよ。」
「レン!」
「「レンちゃん!」」
なんとレンがギルドに入って来た!
「レン……じゃあ、貴女がリウイ陛下とペテレーネ様の次女のレン姫ですか。………早速ですが一体何があったのですか?」
エステル達の言葉を聞き、ギルドに入って来た少女の正体がわかったアイナは真剣な表情で尋ねた。
「…………今回の昏睡事件………レン達、メンフィルにも被害者が出てしまったのよ。」
「なっ!?」
レンの話を聞いたエステル達は驚いた。
「一体、誰が眠ってしまったの、レンちゃん?」
エステル達が驚いている中、ティータは心配そうな表情で尋ねた。
「……………………被害者はプリネお姉様とお姉様の傍にいた侍女よ。」
「プ、プリネが………!?そ、そんな………!」
プリネまで昏睡事件の被害者になった事にエステルは顔を青褪めさせた。
「じ、侍女って、まさかツーヤちゃん!?」
また、ミントは血相を変えてレンに尋ねた。
「いいえ。ツーヤとはまた別の人で、お姉様と同年代の人でお姉様が幼い頃から大使館で働いている人で、お姉様の幼馴染といってもおかしくない人よ。………お姉様達はクロスベルからグランセルに帰って来て、こっちに定期船で戻ろうとしたんだけど、この霧のせいで定期船は無いでしょう?だから、徒歩で大使館に向かっていたんだけど………どうやら、それが裏目に出てしまったようね。ツーヤが兵士さん達を呼びに言っている間に眠らされてしまったらしいわ。」
「………それで眠らされたプリネさん達は今、どうしているの?」
レンの説明を聞いたシェラザードはレンに尋ねた。
「………今はママとツーヤが2人を介抱しているわ。今日、レンがここに来たのは、”メンフィル帝国”としてパパやシルヴァンお兄様達の代理人でエステル達――遊撃士協会に依頼を出す為に来たのよ。」
「一体、どんな依頼になるのでしょうか?」
アイナはメンフィル帝国がどのような依頼を出して来たのか気になり、尋ねた。
「今回の昏睡事件を起こした犯人………その人の特徴をもし、知っていたらレン達に教えて。」
「特徴って言っても『黒衣の女』ぐらいよ?」
「ふ~ん………『黒衣の女』か………ありがと、エステル。じゃあ、さっき言った依頼の続きになるんだけど、それも今、伝えるわ。その『黒衣の女』を見つけたら、レン達に教えて。」
「……『黒衣の女』を見つけて、何をするつもりなのかしら?」
レンの話を聞いたシェラザードは何となく嫌な予感がして、警戒した表情で尋ねた。
「そこにいる遊撃士さんも話したと思うけど、パパは兵士さん達を引き連れて本格的に犯人の捜索を始めたわ。――プリネお姉様達を眠らせている術を解かせる為にね。」
「”解かせる”って、その言い方だと無理やりさせるみたいだが、何をするつもりなんだ?」
レンのある言葉が気になったアガットは目を細めてレンに尋ねた。
「うふふ………何をわかりきった事を。パパの言った事をエステルは覚えているでしょ?」
「え………?あ!確か、『俺達にもその刃を向けるのなら滅するのみ』って言っていたけど、まさか……!」
「そ♪レン達、メンフィルに刃を向けたんだから、”死”という名の”罰”を与えないと……ね♪」
信じられない表情で驚いているエステルにレンは凶悪な笑みを浮かべて答えた。
「まさか、メンフィルは犯人を殺害するつもりなのですか……!?」
「………………………!!」
信じられない表情で尋ねたクロ―ゼの推測にシェラザードは驚いた後、表情を青褪めさせた。
「ええ。まあ、ただでは死なせないつもりだから、安心していいわよ?捕まえて、拷問して『結社』の情報を全て吐かせてから殺すつもりよ♪勿論、エステル達には犯人捜しを手伝ってくれたお礼としてその時、手に入れた情報を教えてあげるわ♪」
「……………………」
楽しそうに話すレンのとんでもない言葉にエステル達は言葉を失い、黙っていた。
「さて…………受付さん。レン達の依頼は勿論、受けてくれるのでしょう?エステル達がこれからしようとしている事とほとんど似ているんだから。しかもレン達、メンフィルも今回の犯人捜しに手を貸すんだから、人手は多い方がいいでしょ♪」
「………………………わかりました。依頼料はどのくらい出すのですか?」
小悪魔な笑みを浮かべたレンに尋ねられたアイナは重々しく頷いた後、尋ねた。
「うふふ………エステル達、全員に受け渡す形だから、分け前は仲好くしてね?犯人を見つけて、レン達に教えてくれた時は50万ミラ。犯人を捕らえて、レン達に引き渡してくれれば最低でもその2倍は出すわ♪」
「50万ミラに100万ミラ………前代未聞な依頼料ね…………」
「………もはや、賞金首扱いだな……………」
レンの話を聞き、アイナは信じられない表情で呟き、ジンは重々しく頷いて答えた。
「うふふ……じゃあ、頼んだわよ。今、ミストヴァルトはパパやルースお兄さんが率いている兵士さん達が犯人捜しをしているから、一般人は通してくれないけど、エステル達――遊撃士協会の関係者は通すようにはしてあるわ。だから、早く来てパパ達を手伝ってあげてね♪」
そしてレンがギルドを出ようとしたその時
「待って、レンちゃん!」
「?どうしたの、ティータ。」
ティータがレンを呼び止め、レンは首を傾げてティータを見た。
「レ、レンちゃんもまさか、犯人を許していないの………?」
「………当たり前でしょ?レンの”家族”を傷つけたんだから。………まあ、レンは手薄になっている大使館に残るから犯人捜しには参加できないけどね。……じゃ、今度こそ失礼するわ。」
そしてレンは今度こそ、ギルドを出て行った。
「………メンフィルが本気で動き始めるなんてとんでもない事になってしまったわね。」
「うん。…………どうしよう、アイナさん。レンの……メンフィルの依頼を受けた方がいいのかな……?」
アイナの言葉に頷いたエステルはアイナにレン――メンフィル帝国の依頼を受けるべきか尋ねた。
「………相手は”執行者”だろうから、同情は不要よ、エステル。」
「シェラ姉………でも………」
シェラザードの言葉にエステルは納得がいかなそうな表情をしていた。
「……シェラザードの言う通り、相手は恐らく『結社』。手に入れられる情報は多ければ多いほどいいわ。………とりあえず、メンフィルの依頼の件は頭の隅に置いて、今は犯人を見つけ、昏睡している人達を起こさせる事を優先して。」
「……………わかった。」
そしてエステルはメンバーであるシェラザード、アガット、クロ―ゼ、ミントと共にミストヴァルトに向かった……………
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第237話