~遊撃士協会・ロレント支部・夜~
「クラウス市長の依頼で昏睡事件の調査を始めたそうね。どう、聞き込みの様子は?」
「あ、うん。昏睡した人の家族から一通り話は聞いてきたけど……。」
「わかったわ。それではみんなを呼んでいったん情報を整理しましょう。」
そしてエステル達はアイナや仲間達に聞きこんだ時の情報を報告した。
「……なるほど。色々調べてきてくれたわね。特に、昏睡した人たちの関係者の証言は興味深いわ。とりあえず、全ての証言において完全に一致している箇所がありそうね。」
「あ、それって……目撃者が有無?」
アイナの言葉にエステルは確認した。
「ええ、まさにその通りね。4人の件に共通すること……それは、昏睡した瞬間を目撃した人がいないという事よ。」
「ヘッ、なるほどな。まるで狙ったかのタイミングで眠ったわけか。」
「その意味では、この霧も一役買っているみたいですね。これだけ視界が狭いと目撃者も限られるでしょうし。」
シェラザードやアガットの言葉を補足するようにクロ―ゼは目撃者がなかった理由を推測した。
「霧の中から人知れずあらわれて犠牲者の魂を食らう悪魔……そんな妖しくも美しいイメージが浮かんでくるねぇ。」
「ふえぇぇ~っ……」
「怖いよ~………。」
「うう、ゾッとしないわね。」
オリビエの話にティータやミントは怖がり、エステルは冷や汗をかいた。
「そうなってくると……その悪魔を特定するのに有効な証言がありそうね。」
「ええ……『鈴の音』と『黒衣の女』ね。どちらも昏睡事件に関わりがあると見ていいわ。
アイナの話にシェラザードは頷いて今までに手にいれた情報の中にあった一部を話した。
「鈴はともかく、黒衣の女の人を見たのって確かエリッサだけだよね。偶然って可能性はないのかな?」
「そうだよね………1人しか見ていないものね………」
エステルは首を傾げ、ミントも頷いた。
「いえ……それはないわ。その女性が現れた場所で何があったかを考えるとね。」
「あ……。ルックが昏睡した時計台……!」
「確かパット君も同じ人を見たって言っていたね……!」
シェラザードの話にエステルやミントはある事を思い出した。
「そう。黒衣の女性が出てきたのは時計台から……。そこでパット君がルック君を見つけたのよね。」
「た、確かに……偶然であるわけないか。それじゃあやっぱりその黒衣の女の人が……」
「ああ、間違いあるまい。どうやらまた新たな『執行者』が現れたようだ。」
シェラザードの話に頷いたエステルの言葉を続けるようにジンは真剣な表情で答えた。
「チッ……やはりか。」
「原因不明の霧と昏睡が今回の『あり得ない現象』。そして鈴の音が『メッセージ』なんですね。」
「これでようやく敵の姿が見えてきたわね。私はこれから、各地の支部と王国軍に連絡するけど……みんなはどうする?」
アイナはエステル達にこれからの方針を尋ねた。
「そうね……。このままだと、またいつ他の市民が狙われるとも限らないわ。夜通しでパトロールすべきね。」
「うん、あたしも賛成。交替でやれば少しは休めるはずだし。」
シェラザードの提案にエステルは頷いたが
「ああ、その必要はないぞ。」
「えっ……?」
ジンの言葉にエステルは驚いた後、ジン達を見た。
「夜間のパトロールは俺たち野郎どもに任せとけ。お前らはまとめて家でゆっくり休んどけや。」
「で、でも……」
「いいのかな……?」
アガットの提案にエステルやミントは戸惑った。
「そうね、エステルやミントも今日は疲れたでしょう。姫様とティータちゃんを家まで案内してあげなさい。」
「あ……。うん、わかった。」
「えへへ~。クロ―ゼさんやティータちゃんと一緒にお泊まりできるんだ~。」
シェラザードにも言われたエステルは頷き、ミントは嬉しがった。
「あのな、シェラザード。何を他人事みたいに言ってる。パトロールは野郎どもに任せとけって言っただろうが。」
「え……」
アガットの言葉にシェラザードは驚いてアガットやジンを見た。
「お前とエステルには調査で頑張ってもらったからな。代わりと言っちゃあ何だが、今夜はゆっくり休んでくれや。」
「ちょ、ちょっと待って……。ランクBの遊撃士にそんな気遣いは無用だわ!」
ジンの話を聞いたシェラザードは反論したが
「シェラ君、ここは従っておきたまえ。平気な顔をしているが疲れは完全に隠せていないよ。」
「……っ………。……そうね。」
オリビエの指摘にシェラザードは言葉を詰まらせた。
「シェラ姉……」
「ジンさん、アガット。夜間のパトロール、よろしくお願いするわ。」
エステルが心配そうな表情で自分を見ている中、気を取り直したシェラザードはジンとアガットに見回りを頼んだ。
「ああ、任せとけ。」
「その代わり、明日の朝からキッチリ働いてもらうぜ。」
そしてエステル達はギルドを出た。
「フッ、今夜はもう遅いからすぐに休んだ方が良さそうだね。それではエステル君。家まで案内してもらおうか!」
「って……どうしてアンタが来るわけ?」
エステルはちゃっかり自分達について来たオリビエを睨んで尋ねた。
「ハッハッハッ。そう警戒することはないさ。このオリビエ、たとえハーレム状態でも節度は守る紳士だからねぇ。ムフフ……」
「あ、あう……」
「オリビエさん……目がヨコシマですよ。」
オリビエの表情を見たティータは引き、クロ―ゼは苦笑した。
「まったく、このまま簀巻(すま)きにしてやろうかしら……」
(簀巻きってなんだろう??)
エステルは呆れた表情で溜息を吐き、ミントはエステルの言葉に首を傾げた。
「こら、スチャラカ演奏家。こんな所で何してやがる。とっととパトロールの順番を決めちまうぞ。」
その時、アガットがギルドから出て来て、オリビエを睨んだ。
「え……。……ハッハッハッ。アガット君ったらお茶目さん。パトロールは、君とジンさんの2人でやるって話だろう?」
アガットの言葉に一瞬驚いたオリビエだったが、笑って自分は逃れようとしたが
「そんな事は一言も言ってねえ。俺たち野郎どもに任せとけって言っただけだ。」
「へっ……」
「おら、とっとと来やがれ。」
「ア、アガット君。ちょっと待ってくれないか?こんなハーレム状態なんて滅多にあることじゃないんだよ?君の分まで楽しんでくるからどうか見逃して……」
「あー、とっとと始めるぞ。」
問答無用にオリビエはアガットにギルドの中へ連れて行かれた。
「うーん、オリビエ馴らしにはああいうのが一番みたいね……。しかもホントに緊張感のないヤツ。」
「ふふ、本気なのか冗談なのかいまいち判りにくい人ですよね。」
エステルの言葉に頷いたクロ―ゼは微笑みながら答えた。
「100%本気だと思うけど……。とりあえずティータとミントの教育に良くない存在であるのは確かね。」
「そ、そんなこと言ったらオリビエさんが可哀想だよ~。」
「そうだよ~。オリビエさん、面白くていい人だよ?」
オリビエを酷く言うエステルにティータとミントはオリビエを庇った。
「ふふ……」
「シェラ姉?」
「ううん、何でもないわ。オリビエの言葉じゃないけど今夜は早目に休みましょう。」
「うん、そうだね。………っと。その前に。………サエラブ!!」
(………何用だ。)
シェラザードの言葉に頷いたエステルはブライト家に向かおうとしたが、ある事に気付きサエラブを召喚した。
「えっと……よかったら、アガット達を手伝ってくれないかな?アガット達の負担も減るし、サエラブなら、あたし達と違って”獣”の感覚とかがあるから怪しい人を見かけた時、すぐに捕まえられそうだし。」
(………まあ、いいだろう。我も”男”だしな。)
「ありがとう。」
そしてサエラブは器用にギルドの扉を開けて、ギルドの中へ入って行った。
「さて………ティータ、クローゼ。案内するから付いて来て。」
そしてエステル達はブライト家に向かい、レナに暖かく迎え入れられた後、それぞれ疲れた身体を休ませた………
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第232話