No.462225

恋姫異聞録152 ― 秋蘭の想い・鳳凰の目覚め ―

絶影さん

今回は、百回の時に希望して頂いた、新婚生活の始めの頃
を書かせていただきました。少しずつ、皆様のリクエストしてくださった
話を書かせて頂きます。都合上どうしても完結した後になってしまう事もありす
のでご了承ください。

続きを表示

2012-07-30 02:00:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9580   閲覧ユーザー数:7174

昨日、秋蘭と共に四人で街を回った翠と蒲公英は、十分に栄養のある食事と整体のおかげか

それとも秋蘭を見て、自分の生活を見なおしたせいか、朝早くに布団から抜け出して衣服と髪を整えると

今まで世話になったお礼に蒲公英は朝食を作り、翠は庭の掃除をしていた

 

「フフッ、気を使わずとも良いと言うのに」

 

夫と娘、そして姉や他の将よりも早く起きて朝食の用意をしようと居間に秋蘭は、二人の行動に感心し

やはり、夫が義妹と認めるだけのことはある。戦で手を手心を加えずに戦う事が難しくなってしまいそうだ

そんな事を考えながら、土間に降りて蒲公英に挨拶を交わして既に殆ど出来上がっている朝食の手伝いを始めた

 

「おお、美味いな!蒲公英が作ったのか?」

 

「うん、そうだよ!どうかな、秋蘭義姉様と比べて?」

 

「ん?秋蘭のほうが美味いよ?」

 

「そ、即答だね・・・」

 

良い香りのする粥を美味そうに口に運ぶ昭に、世辞も言えんのか阿呆と無言で手刀を見舞う秋蘭と笑う春蘭

義兄と義姉の掛け合いに、呆れつつ顔を崩す翠と蒲公英。二人に頭を下げる義弟、一馬に見るもの誰もが

兄妹の日常にしか思えないだろう。あと二ヶ月と少しで戦が始まり、殺しあうなど誰一人おもうどころか、考えもしない

それほど、翠と蒲公英の二人はこの場所に馴染んで居た

 

「翠さんと蒲公英さんは、今日は兄者と街へ?」

 

「ああ、一馬とも本当は街を回れたら良かったんだけど」

 

「そうですね、色々とお話を聞きたいと思っていましたが、仕方ありません」

 

「そのうち、きっと話せるよ。その時は、李通さんの事を蒲公英とお姉様に紹介してほしいな」

 

一馬とも真名の交換をしていた二人は、既に李通との関係も聞いていたのだろう

昭が何時、真名の交換などしていたのかと問えば、どうやら街を廻っていた時、警邏を統括する一馬に迷った所でよく出くわし

たまに案内などをしてもらっている時に真名を交換したとの事らしい。始め、あまりに丁度よく一馬が迷った場所に居るために

この間、夜中に街を出歩いていた蒲公英を捕まえた事で、自分達を怪しみ尾行して居たのかと思ったらしいのだが

一馬はそんな事は一つも考えておらず、旅行者がよく迷ってたどり着く場所を見まわっていただけらしく

話してみれば、水鏡先生に問題ないと言われた事をそのまま信じている純粋で純朴な人間なのだと二人は理解したようだ

 

「疑うって事を知らないのかって思ったけど、そうじゃ無いんだね」

 

「ああ、一馬は俺の言葉を信じてるだけだ。だが盲信とは違う、俺が不甲斐なきゃ直ぐに愛想尽かす」

 

一馬の頭をグリグリと撫でながら頼りになる兄で居なきゃならんから大変だと言う昭に

それは逆です、兄者の弟として相応しい人間にならなければと、何時も己を磨く事で精一杯だと言い

乱暴に撫でられるまま、兄者にだけでなく、義姉様お二人も居ますので三倍大変なのですよと苦笑いすると

 

「そんな心配はいらん。昭よりも頼りになる義弟だ、家を追い出す時は昭だけだろうから心配するな」

 

そう言って、春蘭は一馬の頭を昭と同じように撫でていた。何時になったら春蘭に認めてもらえるのか、俺は秋蘭にも

華琳にも認めてもらい、一馬にまで認めてもらわなきゃならんから道のりが長すぎると冗談交じりに溜息を吐く昭に

翠と蒲公英は、ならば今は自分達もそこに入るのか?と聞き、勿論と頷く昭をみて笑っていた

 

「さて、それじゃ行こうか。今日は俺と一日、街を回ろう」

 

「えーっと・・・何処に連れて行ってくれるんだ義兄様?」

 

「ほとんど見て回っただろう?今日は、丁度この新城に張三姉妹が着てるから、歌でも聞きに行こうか」

 

朝食を取り終え、一馬と兵舎に向かう春蘭と秋蘭を見送って、街に繰り出す涼風を肩車した昭と翠と蒲公英

家を出た昭は、暫く顔を赤くし翠と蒲公英も顔を赤くしていた。理由は、最後に見送った秋蘭と抱擁を交わした時だ

秋蘭は、昭の首に腕を回した時に、つま先立ちになってもぞもぞと昭の首元に頬を寄せて、耳たぶを舌先でチロチロと舐めた後

背後で顔を赤くする翠と蒲公英を他所に、固まる昭の耳たぶをカプカプと満足するまで甘噛して、仕事へと出かけていったのだ

 

「何時もあんな感じなの?蒲公英達と一緒にいる時と、お義兄様が居る時って声も違うし雰囲気も全然違うけど」

 

「俺をからかって遊んでるんだ。俺が照れたりするのが好きらしい、後は噛むのもな。しかし、そんなに違うか?」

 

「うん、あたし達と居る時は、表情があまり変化しないし、涼風が居る時は違うけど少し冷たい感じがする」

 

「冷たいって、何か言われたりしたのか?」

 

「あーっと違うよ、なんて言って良いのかな?格好良いって言うか、落ち着いてるって言うか」

 

少し心配する昭に、違う違うと顔の前で手を振る翠。言葉が足りなくてごめんよと謝る翠に、そういう事か、気にするなと言う昭と

翠の頭を撫でる涼風。一日一緒に居て秋蘭の事がよく解ったらしい翠と蒲公英に、昭は嬉しかったのだろう

秋蘭を理解してくれたことに喜んでいた。魏でも、秋蘭の事を心から理解している人間は少ないだろう

独特の雰囲気や、張り詰めた弦のような空気を出す時もある秋蘭。それを上手く使い分け、周りの空気を締めたり

話し合いなどをスムーズに纏めたりする事にも利用するので、自ずと周りに居る兵達は、彼女の大人な雰囲気と近寄りがたい空気に

厳しく恐ろしい人間だと誤解をする者も多い。新兵や、移民などは特にだ。理解しているのは、昔から従軍する兵達や

昔から居る魏の民達のみ。そのせいか、新城に居を移したばかりの時も、周りの民からは恐れられ昭と共にいる時以外は

民から声も掛けられる事は無かった。秋蘭の凛々しい姿を慕う一部の女性達を除いて

 

「ねえお義兄様、秋蘭義姉様とどうやって仲良くなったの?」

 

「突然なんだ?」

 

「だって、お義兄様と秋蘭義姉様って釣り合いとれて無いもん、秋蘭義姉様ってスッゴク綺麗だし」

 

「ははは、酷いな。まあ確かにその通りだから何も言えないが、仲良くねぇ・・・」

 

失礼なことを言うなと翠に軽く殴られる蒲公英。こんなに立派な義兄様なんだから、釣り合いが取れてない事なんか無いだろうと言う翠

 

「だって、お義兄様、外見は普通だし知り合ったのも随分小さい時みたいだし」

 

蒲公英が言うには、小さい時から義兄様の内面が好きだったなら、もっと小さい時から義兄様を好きだったのかと思ったら

昨日の話ではそういう訳では無かった、なら何時、何処で、どうやって好きになったのか解らないと言う事らしく痛みで涙目になっていた

 

「翠、直ぐに手を上げるな」

 

「だって、蒲公英が失礼な事言うから」

 

「ごめんね義兄様」

 

涙ぐむ蒲公英の頭をなでる昭は、首を傾げながら少々考える。はて、そういえば秋蘭が自分を本当に好きになったのは何時からだったのだろうと

同じように首を傾げる涼風を見ながら微笑む翠の柔らかい顔を見ながら、昭はふと少しだけ昔の事を思い出していた

 

「・・・そういえば涼風を産んだ時は、まだ俺の事が好きだと自分で解って無かったようだな」

 

「え?どういう事?お互いが好きかどうか解らないで、涼風が生まれたの?」

 

「んー、少々複雑でな、俺は秋蘭が俺を好きかどうか良く解らなかった。勿論、秋蘭自身も」

 

華琳に命じられ、閨を共にし子ができ、春蘭に認められる為だけに力を手に入れたと

掻い摘んで昔の事を話せば、翠と蒲公英は昭の綺麗に巻かれた腕の包帯を凝視し、昭の強さの理由を垣間見たような気がしていた

全ては子の為、刻まれた両腕の傷は、妻と義姉、そして子に捧げられた絆であり、愛そのものだということ

だが、同時に曹操の行動が理解できないと強い怒りを顕にする翠に、昭は少し悲しそうにして頭を撫でた

 

「華琳の事は、理解しづらいかもしれないな。まぁ、俺から言う事でもないし、華琳は悪くは無いよ」

 

「納得は出来無いよ、あたしなら」

 

「華琳と話せる時が来たら、聞いて見るのもいいかもしれない」

 

「それでお義兄様を好きになったんだね、蒲公英だってそんな事されたら嫌いになんてなれないよ」

 

むしろ、感激して誰にも渡さないと力説する蒲公英だが、昭は首を振っていた

秋蘭は、それでも自分の心が良く解らなかったらしいと言う昭に、翠と蒲公英は驚いて声を上げていた

 

「そんな、そこまでしてくれた人を好きかどうか解らないって」

 

「普通の好きとは違う事に自信が無かったみたいだ、華琳の事を愛する感じと違っている事にも戸惑っていたようだし」

 

「もしかして、秋蘭義姉様は男の人を好きになったことが無いとか?」

 

「そうらしい、だから普通の男より好きだが、徐々に好きになったのとは違うし、直ぐに愛に変わっていたから余計に戸惑ったと」

 

涼風も出来ていたし無理も無いと話す昭に、蒲公英は秋蘭義姉様が義兄様を愛していると理解した切欠があるはずだ

良ければそれを話して欲しいと、昭の腕を握って眼を輝かせていた。此れには翠も手を出さず、聞きたいのだろう

チラチラと昭の顔を伺いながら、腰に手を当てていた

 

「切欠か、面白い話ではないぞ」

 

「それでも良い!」

 

「秋蘭が話してくれた事でも良いか?」

 

「うんっ!聞かせて聞かせてっ!!」

 

「分かった、なら茶でも飲みながら話そうか」

 

そう言って市に入り、簡素な作りの出店のような茶店で茶と菓子を注文し、外に作られた東屋の席へと腰を下ろした

もともと、東屋で休む人に向けて作られた茶店なのだろう。出すモノも簡単な茶と菓子で、直ぐに席に運ばれ

涼風は父の膝の上で焼き菓子を美味そうに頬張っていた

 

「それで?切欠はっ!?」

 

「おい、蒲公英」

 

「いいよ翠。秋蘭には、涼風が警備所に行く俺に着いて来るようになった頃に聞いたんだ・・・」

 

休みの日に、木陰で木に寄りかかりながら涼しい風を受けて、休んでいたときだ

秋蘭は俺に躯を預けて、寝ている涼風の頭を撫でながら、思いついたように話してくれた

 

【涼風の顔を見て思い出したのだが】

 

【なんだ?ちゃんと部屋に居るようにしてるぞ、暑いから帽子も被せてるし】

 

【フフッ、そうではないよ。私が、お前を好きだと確信した時の事を思い出してな】

 

【確信か、俺は今でも不安だよ。なにせ、結婚した理由が理由だからな】

 

【なに、大丈夫だ。お前が私を嫌いになることはあっても、私がお前を嫌う事はない。今から安心させてやる】

 

そう言うと、秋蘭は懐かしそうな何処か恥ずかしそうな顔をして、涼風の頬を指で撫でていたな

 

 

 

 

あれは、涼風が産まれ、結婚して暫く立った時の事だ。昭が私と涼風が一緒に居れるようにと、仕事を全てこなし

朝も早くから出て、家に帰るのは夜遅く。それでも、昭は涼風と私の様子が気になって、朝食と昼食、そして夕食に

必ず顔を出し、少しでも時間があれば陳留の自分達の部屋に戻って私と涼風の顔を見て嬉しそうにしていた

 

旗揚げをしたばかりで忙しい事は理解していたし、仕事も私の分までこなす昭に随分心配をしたものだ

だが、お前はそんな顔を見せる事無く、何時も私と涼風の顔を見ては嬉しそうに笑っていた

 

涼風が声を出しては【今、喋った!】と喜び、腹が減ったと泣けば【ご、ご飯か!?おしっこか!?】と慌て

嬉しそうに笑えば【笑ってる!可愛いなぁ、大陸一だ!なぁ、秋蘭!秋蘭にそっくりだ!!】と昭まで笑って居た

 

涼風の表情に一喜一憂して、私は昭の顔を見ているだけで可笑しくて、幸せな気持ちになれた

華琳様に与えられる幸福とは違う、心が暖かく安らぐ心地よさを感じていた。これが安心というものなのだろう

 

【だが、毎日心配していたのだぞ、何時か倒れてしまうのではと】

 

【あの時は必死だったからなー。疲れとかあまり感じなかった】

 

【其れが怖かった。確かに、涼風の顔を見る度に疲れなど感じさせ無かったが、疲れは知らずに溜まるものだ】

 

そんな日々が続き、私は涼風の様子を見ながら食事の用意をして、部屋を掃除し、洗濯を干しながら昭の帰りを待っていた時

李通が私の元に現れて【昭様から言付けを預かって来ました。今日は帰れない、明日の夜には帰るとの事です】と言われ

私は珍しく李通にも分かるくらいに眉根を寄せていたようだ、李通は少し驚き【大丈夫です。近くの邑に交渉に行っているだけですから】

と、柄にもなく励まされてしまっていた。よほど私は酷い顔をしていたのだろうな

 

【あの時は酷かったんだ、賊に襲撃を受けた邑の人たちが警戒してしまっていてさ】

 

【ああ、後から聞いた。我らの軍を信用させる為の交渉は随分とかかったらしいな】

 

【ごめんな、早く帰りたかったんだけど】

 

【いや、あれがあったから私は自分の心の変化に確信が持てた】

 

元々、あの時、姉者との決闘で私は昭に対して他の者達や華琳様とは違う感情を持っていることに気がついてはいたが

それが何なのかよく解らなかった。華琳様とは違うし、他の者達とは比べようにもならない。だが、それは好きと言う事なのか

それとも、華琳様とは違った形の愛なのか。それが理解出来たのは、昭が丸一日以上、自分の元に帰って来ない事がわかった時だ

 

始め、自分の表情の変化も解らなかった私は、何時ものように涼風の顔を見に来た姉者に食事を出し、出産したばかりの私の躯を気遣って

くださる華琳様にも食事をお出しして、何の変わりもなく涼風の躯を湯で拭いて眠りに着いた。華琳様と姉者は、昭が帰ってこない事を

知っていたので、態々私の部屋に寝具を持ち込んで皆で眠りに着いた

 

何度か夜泣きで起きる涼風を華琳様は私よりも先に眼を覚まして涼風を抱いていた。姉者も、寝ぼけながら涼風の頭を撫でたり

抱いたりしていた。私はなんというか、申し訳なくてな、自分の子の為に此れほどしてくださる華琳様を益々愛するようになっていたし

姉者に対しても、何時もとは違う感謝と尊敬が心にあった

 

次の日、李通からは今日帰ってくると聞いていたから、私はきっと疲れて帰ってくるだろうから、良い物を食べさせて

体力を着けさせようと思っていた。華琳様からも、昭に半日の休みを与えるとお言葉を頂いていたから、侍女に食材を

買い出しを頼み、いつものように部屋を掃除して洗濯をして昭を待っていた。だが、昭は一向に帰ってくる気配は無く

日も落ちてしまったので、食事を一人で取っていたら、姉者が【まだ、昭は帰れないらしい】と私の部屋に現れてな

申し訳なさそうに、涼風の頭を撫でていた

 

【私は、なんだそんな事かと、ならば仕方がない。仕事が忙しいのだろうし、重要な案件なのだろうと気に止めなかった】

 

その日も華琳様と姉者が私の傍に居てくれた。相変わらず、夜泣きする涼風を私と共に目を覚まして見てくれたが

流石に連日、こうして来てくれるのは申し訳なくなってな、朝になって二人にその旨を伝えれば、華琳様は【流石に今日は

所用があって無理よ。でも気にしないで、私にとってもこの子は特別な子なの】とお言葉を頂いて、私は少し涙してしまった

 

【曹操様がそんな事を・・・狙ってるのか?涼風が可愛いからっ!!】

 

【違う、お前というやつは阿呆だな本当に】

 

【冗談だ、冗談】

 

【半分冗談ではなかろう、全く】

 

それで、姉者も【勿論気にするな、其れに今日は昭も帰ってくるだろう】と言ってくれた。私は、其れもそうだと思い

昨日と同様に、豪勢な食事を作って待っていた。だが、お前は帰って来なかった。日が暮れても部屋に戻って来ない

もしや怪我でもしたのか、それとも疲れが溜まり、心配していた通りに倒れてしまったのかと思っていたが

姉者が部屋に来て【今、此方に向かって邑を出た所らしい】という話を聞いて、安心していた

 

その時、私は姉者が驚くほど安心した顔をしていたらしい。だから、心配になってしまったのだろうな

【大丈夫だ、直ぐに帰ってくる。昭は、何処にも行ったりしない】と励まされたが、私には良く解らなかったから

そうだなと返して、涼風の躯を湯で優しく拭いてやって、今出たばかりなら帰るのも遅いと眠りに着いた

 

この日も同じように涼風は夜泣きで起きたが、三日目ともなると流石に姉者も起きられなかったのだろう

仕事の疲れも相まって深く眠りについていて、涼風の声でも起きることは無かった。私は、一人で涼風をあやし

泣き止までだいていた。暫く抱いて、落ち着いたのだろう、ようやく静かに寝息を立て始めた時、やたらと部屋が静かに思えた

 

昨日もその前もそんなことは感じる事は無かった。いや、感じては居たのだが、辛うじて華琳様と姉者のお陰で

気が付かずにいただけだった。段々と、不安が募る。意味が解らなかった、残暑で少々汗ばむ程の夜だと言うのに

何故か寒々しくて、暗闇の中、窓から照らされる月明かりの元、何かを探すように無意識に私は辺りを見回していた

 

不安を掻き消すように、肌掛けを握り抱きしめて震えていた。この私がだ。屈強な者達を弓矢で打ち倒し、華琳様の元で

力を振るい、賊を打ち倒す。敵を恐れた事など一度もない、むしろ望んで力ある敵と戦っていたというのにだ

 

だが、あの時の私は怯えたように震えていた。不安に押しつぶされそうになっていた、心が寒くて凍えそうだった

私は、何かを求めるように肌掛けを握りしめ探していた。そんな時だ、私が寂しさに押しつぶされそうになった時

随分時間が立っていたのか、それとも少しも過ぎて居なかったのかは解らない、だが再び涼風が泣きだしてな

私は急いで肌掛けを放し、涼風を抱き上げてあやしていた

 

【よしよし大丈夫だ、直ぐに昭は帰ってくる。直ぐにだ、だから・・・?】

 

泣き声を聞きながら、自然と出た言葉がそれだった。自分でも解らずに出していた言葉に驚き、気が付いてしまった

心が寒かった理由に、震えていた理由に、不安だった理由に、無意識に何かを探していた自分に、何を求めて肌掛けを握り締めていたのかを

気がついたら自然と眼から涙が溢れ、涼風の頬に落ちていた。自分が泣いていると解って、何度も手で涙を拭ったが

止めることが出来なくて、声を殺して泣いてしまっていた。そんな私の異常に気がついたのだろうな、姉者は飛び起き

泣いている私の姿を見て言葉を無くしていた。それもそうだろう、私が泣く所など姉者ですら数える程しか見たことは無い

賊が来たわけではない、部屋は荒らされて居るわけではない、では何故泣いて居るのか解らない姉者は困っていたよ

 

どうして良いか解らず困り果てた姉者は、華琳様を呼びに行こうと思ったらしいが、丁度良く昭が帰ってきて

部屋に入って私の泣き顔を見た途端、優しく抱きしめてくれた。私は【ただいま】と何時もの優しい声と、温かい昭の温もり

そして心が安らぐことを感じて、姉者が居ると言うのに声を上げて泣いてしまっていた。その時、確信したよ

自分はお前を好きなのだと、離れて居れば心がどうしようもなく寒々しく、寂しいと思ってしまうほど愛しているのだと

 

【華琳様に対しては敬愛だ、心服することに喜びを感じる。勿論、愛されることにも。だから私は華琳様を束縛することなど恐れ多く

出来無い。お前に対しては違う。居ないと不安だ。居ないと寂しい。そして、私のモノだし誰にも触れさせたく無いと思う】

 

【そうか、それは嬉しいな】

 

【良いのか?束縛すると言うことは、嫉妬もするだろうし、きっと我儘も言うだろう。それに、華琳様との関係も】

 

【良いよ、そのほうが嬉しいし、曹操様と秋蘭が俺のせいで関係が変わるのは嫌だったし】

 

【・・・お前はやはり阿呆だ。私は身勝手な事を言っていると言うのに】

 

【身勝手か?別にそうは思わないよ、秋蘭が傍に居てくれるなら何でも良いさ】

 

本当に阿呆だ、そう言って秋蘭は躯の全てを預けるように俺に躯を押し付けて来たから、俺は応えるように優しく抱きしめた

 

もしゃもしゃと頬張る娘の頬に着いた菓子を摘み、自分の口に放り込んで茶を飲む昭

話を聞いていた翠と蒲公英は聞き入ってしまっていたのだろう。茶など最初の一口だけ、菓子など手を付けてはいなかった

秋蘭の昭に対する大きな思いに、自分達や街の人々と、義兄に対する言葉や態度が違うのは当たり前だと冷めた茶に手をつけて

飲み込んでいた

 

「その話を聞いて、俺も秋蘭が俺のことを好きでいてくれているんだと確信できた」

 

「義兄様は義姉様の眼から読まなかったんだね」

 

「ああ、そんな事は絶対にしたくなかった」

 

「蒲公英は無理、絶対に見ちゃうよ。やっぱり、大好きな人が自分をどう思ってるかって知りたいもん」

 

「そういう気持ちは無かったと言えば嘘になる。だけど、卑怯だろう?俺だけ相手の心を知ってるなんて」

 

その言葉で二人は、昭の性格を知っていて秋蘭が自分からこの話をしたのだろうと思った

確かに卑怯だ、相手の心を踏みにじるような事になるのだから、義兄が好むわけが無い

だが、きっと自分と同じようにに不安を心に持っているはずだと、義姉は自分の心の中を素直にさらけ出したのだろう

 

「なんか、良いね。お互いに信頼しててさ」

 

「勿論だ、俺は秋蘭を一番に信頼してるよ。疑う事は無い」

 

「蒲公英もお義兄様達みたいになりたいな。相手はまだ居ないけど」

 

「なれるさ、お前達二人なら大丈夫」

 

さて、菓子を食って歌を聞きに行こうと言う昭に素直に従い、冷めたお茶と菓子を食べながら翠は昭と秋蘭を自分の父と母に重ねていた

父と母も、義兄のように互いを信頼していた。交わす言葉は少なかったが、父は母を気遣い、母は父を心から愛していた

やはり、自分の父の眼に狂いは無かった。この人は父の息子だ、自分の兄だと

 

「むぐむぐ・・・あ!」

 

「どうした、蒲公英?」

 

「やっと解った。魏の貨幣価値がこんなに低い理由!!」

 

「ククッ、蒲公英は面白いな。ずっと考えていたのかもしかして?」

 

どうやら、五銖銭の事を初めて教えてもらった時から今まで考えていたようだ

遊ぶ時は遊び、仕事は仕事と頭を切り替えるのが得意なようで、今まで昭と秋蘭の話を聞いて集中していたが

菓子を口に含んだ瞬間から疑問であった貨幣価値の差に着いて考えてい居たようだった

昭は、なるほどだから戦でも冷静に直ぐに心を切り替え、考えをまっさらに戻し、此方の真似をしてみせたのかと感心していた

 

「魏に入る商人は、お金を払って関税を通って、魏から出る時は家畜や米で通る。魏にはお金が溜まるけど

外の国、呉や蜀には家畜や米が流れる」

 

「だからなんだ?意味あるのか?米や家畜が流れたほうがマズイんじゃ」

 

「ううん、貨幣を鋳造する金属は手に入りづらいし作るのが面倒。なのに、お金はどんどん魏に溜まって言っちゃう

そんな事続けてたら、貨幣を牛耳られて呉や蜀は魏に土地ごと買い占められちゃうよっ!!」

 

「へ?戦せずにか!?」

 

頷く蒲公英。魏がしていることとは、他国の金を貯めこみ、自国の金を一切排出しない方法。まるで毒が徐々に躯に広がるように

弱らせられる恐ろしい方法。商人は魏に入る際に物で関税を払う事はない、何故なら貨幣の方が安く済み特だからだ。魏に入れば

貨幣価値の安いここで両替すれば、幾らでも手に入る。逆に、魏から出る際は貨幣で払えば呉や蜀で両替した時、恐ろしい程低い

だから魏国内で貨幣を使い果たし物で払う。そうすれば、魏から貨幣は一切外に出ない

 

さて、こんな事を続けていればどうだろう。普通ならば、国内から米やら家畜やらを洗いざらい持っていかれそうなものだが

そこは美羽が生み出した農耕技術や、昭の知恵による恩恵で補い、さらには鳳の知恵である国内で安く買い物のできるこの状況

魏に来た商人たちは、さぞ天国に来たような気持ちで心置きなく財布の紐を緩めて豪遊してくれる事だろう。魏国内で遊び周り

蜀や呉で最低限の家畜や米、調度品を売り、再び魏に戻って天国を味わう。風呂にも入ることだろうし、高い食事も余裕で口にする

だが、魏国内に自分の店をもとうなどと考える人間は居ない。魏国内で店を持てば、この遊びは二度と出来無いからだ

だから、商人たちは金を魏に運び込む。何度も何度も、際限なく魏に他国の金を送り届ける

 

そんなことを続けていれば、他国の金は底をつき、最悪は土地を買い叩かれる。なんだ、そんな事なら自国の金をどうにか増やせば

良いじゃないかと考える者も居るかもしれない。だがそれは間違いだ、此れの恐ろしい所は、気が付いても国内の貨幣を

増やせないことにある。そんなことをすれば、いきなり魏が貨幣価値を上げた瞬間、他国の貨幣価値は石ころ同然になり

商人たちは掌を返したかのように、他国から根こそぎ物資を買い叩くだろう

 

「誰がこんな事を考えたの?もしかしてお義兄様?」

 

「いや、ウチには恐ろしい程、頭の回る軍師がいてな。俺の交渉の失敗を帳消しにするために動いていたらしい」

 

「・・・荀彧って人?」

 

にっこり微笑む昭に、蒲公英は顔を青くしていた。戦が互角に終わっても、戦をしなくても、何方にしても蜀と呉は弱らされてた

今も弱り続けてる。だから、桃香様は金をくれといったのだ。きっと、朱里か雛里に口添えされていたはず

出来るなら金を要求して欲しい、無理だろうけどと。だが、知っているのなら何かしら対処をしているはずだ

自分達の軍師なら必ず

 

「蒲公英も信頼してるんだな、自分達の軍師を」

 

「うん、蒲公英が気がついたなら、必ず気が付いて居るはずだもん。蒲公英の仕事じゃないしね」

 

「良い判断だ。さて、そろそろ行こうか。そろそろ午後の部が始まるはずだ」

 

詳しい説明を受けて理解した翠は、想像して怖くなったのだろう。だが、蒲公英の自信のある表情で安堵していた

二人の様子を見ながら、昭はこの二人は良い組み合わせだ。義父も銅心殿も、きっと今の二人を見たら安心しているはずだと

娘を抱き上げて、張三姉妹が舞台を作っている広場へと足を向けた。可愛い義妹達を連れて

 

 

 

 

 

 

それから、張三姉妹の素晴らしい歌を聞き、出店の甘味を楽しみ、家に帰り皆で食事をして眠りに着き

日が昇り、遂に翠と蒲公英が帰る日となった

 

「ここから先は蜀の領土だ、次に会う時は敵同士だ」

 

「うん、楽しかったよ義兄様、秋蘭義姉様」

 

「私もだ、そのうちまた皆で食事が取れると良いな」

 

「浅漬の作り方教えてくれて有難う、早速帰って作ってみるね」

 

屋敷を出た後、秋蘭と昭だけで二人を国境まで送り、関所で四人は互いに握手を交わしていた

蒲公英と翠は、魏の将の皆に渡された土産を手に、国境の一歩前で止まって秋蘭と昭に手を振っていた

 

「じゃ、戦場では手を抜かないよ」

 

「ばいばい、お義兄様、秋蘭義姉様」

 

そう言って、蒲公英は涙ぐみながら翠に手を引かれ魏から蜀の領土に一歩踏み出した瞬間

 

「蒲公英っ!」

 

「えっ!うわっ!!」

 

腰から抜き出した宝剣、倚天乃剣が翠の首に一直線に襲いかかり、翠は土産を手放し銀閃で宝剣の腹を上から叩く

慌てて反応した蒲公英が、金皇の切っ先を体勢を崩した義兄の首に放つが、蒲公英の首にはもう一つの宝剣、青釭の剣

の刃が音もなく当てられる

 

「動いたら切り落とすぞ」

 

「ど、どういう事?秋蘭義姉様」

 

「何を寝ぼけている?既に貴様らは蜀の将だ、殺す事に何の躊躇いがある」

 

冷たい笑を浮かべる秋蘭に、蒲公英の背筋は凍り付く。そして、翠は蒲公英の腕を掴んで弾けるように距離を取った

 

「ったく、気を抜きすぎだ。帰るぞ蒲公英」

 

「・・・酷いよ、最後かもしれないのに、義兄様の馬鹿っ!!」

 

ボロボロと涙をこぼし、土産も拾わず駆けて行ってしまう蒲公英に呆れながら、翠は土産を拾い上げ

義兄と義姉に一度、笑を返して振り返らずに、蒲公英の後を追って走る。蒲公英にか、それとも別れる義兄達にか解らないが

十字槍、銀閃を大きく振りながら

 

「まったく、甘い奴だ」

 

「嫌いになったか?」

 

「なるわけがない、そういう所が気に入っているのだから」

 

宝剣を昭の腰に収め、手を繋ぐ秋蘭は、姿が見えなくなるまで二人の姿を見送っていた

 

「酷いよ、あんなに大事な事も沢山お話したのに、蒲公英の頭を撫でてくれたのに、こんな事ないよ」

 

「まったく、先に行くなよ。ほら、蒲公英の土産」

 

「お姉様は酷いと思わないのっ!最後かもしれないのにっ!!」

 

「全然。だって、義兄様はあたし達が戦えるようにしてくれただけだから。あのままじゃ、蒲公英は戦えなかっただろう?」

 

追いつき、横に並ぶ翠の言葉に、蒲公英は涙でぐしゃぐしゃの顔のままで呆けていた

 

「へ?戦えないって」

 

「その顔で分かるよ、義兄様は優しい。自分に剣を向けられるようにしたんだ、慣れ合いにならないように」

 

「で、でも・・・そんな、それじゃお義兄様は」

 

「あたしが言っちゃったら意味無いんだけど、蒲公英なら大丈夫だろ?義兄様の思いを無駄にするなよ」

 

そう、昭と秋蘭は、魏で過ごし、情が移ってしまった蒲公英達が戦えなくならないように、あえて攻撃を仕掛けた

もし本気で討ち取るつもりならば、将を多く引き連れるなり、伏兵を用意するなり幾らでも出来た

だが、二人はそれをしなかった。二人だけで見送りをし、蜀に入ったと同時に攻撃を仕掛けた

態々こんな事をする理由は一つだけ、翠と蒲公英が自分達を見て戦えなくならないようにしただけ

 

自分の子供の為に戦い、どんな手を使ってでも敵を打ち倒すであろう昭が唯一する、敵に塩を送るような行為

この正反対の行為は、二人を自分の妹だと思っているからに他ならない。それを知った蒲公英は、再び大きな瞳から

ボロボロと涙を零した

 

「・・・ごめんねお兄様、秋蘭姉様。気を使わせちゃって。でも大丈夫だよ」

 

「ああ、そうだ。あたし達は大丈夫。遠慮無く、兄様の首を貰い受けるさ」

 

昭と秋蘭の名から義と言う言葉が無くなり、蒲公英は涙を拭い、翠は瞳の奥に強い意志の光を灯す

自分達の兄と姉の思いを無駄にするものか、認めてくれた事に報いる為、一切手を抜くことは無いと心に決める二人

 

「好いわね、良い目をしている。天を貫く、正に倚天の瞳」

 

「アンタ、確か司馬徽。蜀の領土で何をしてる」

 

「あら、忘れたのかしら?御土産をあげると言ったのだけれど」

 

「なら、城まで来てもらおうか。そこでゆっくり話を聞く」

 

躯から覇気を漲らせる翠は、武都へと続く森の木陰から躯を覗かせる司馬徽に必殺の殺気を叩きつける

少しでも動けば、自分の槍がお前の首を貫き切り落とすと無言で警告しながら

 

「フフッ怖いわね。でも、先に御土産をあげるわ」

 

そう言うと、大事そうに抱えた頭陀袋を翠の方へと投げる。警戒した翠は槍を構え、蒲公英も同じように身構えるが

森から飛び出す騎馬から撃たれた弩に頭陀袋は撃ち抜かれる

 

「違いましたか、此れは残念」

 

「なんや、ハズレか」

 

騎馬に乗るのは稟と霞。稟が放った弩の矢は頭陀袋を撃ち抜き、地面に落ちて中から酒だろうか?地面に水たまりを作っていた

素早く反応した翠は、霞と武器を交わし、飛び散る火花をみて嬉しそうに笑う霞

 

「あら残念ね、もう一つあげるわ。今度はちゃんと受け取ってね」

 

何合か打ち合い、火花を散らす翠と霞。そんな二人を他所に、水鏡はもう一つの頭陀袋を投げ、蒲公英は稟から再び放たれる

弩弓を弾いて受け取れば、頭陀袋から聞こえるくぐもった声

 

「ふむ、駄目でしたか。行きますよ霞」

 

「了解、水鏡はどないする?」

 

「勿論、回収しますよ。蜀に渡しても良いことはありませんからね」

 

再び了解と応える霞は、大きく一撃を翠に放ち、翠の躯をずらすと一直線に柔らかく微笑む水鏡の腕を掴んで馬に引き上げ

翠達を残してそのまま魏へと走り去っていった。次は思う存分やり合おうと言い残して

 

「チッ、なんなんだあの司馬徽ってやつは」

 

「うわっ!ちょ、ちょっとお姉様っ!!」

 

「なんだよ、土産に変なもんでも入ってたのか?」

 

悲鳴のような声を上げる蒲公英に、一体どんな土産が入っていたんだ、まさか死体じゃないよなと頭陀袋を覗けば

袋の中には見慣れた薄く蒼に近い紫の美しい髪と、翡翠色の瞳が翠を見つめ返し、照れ笑いを浮かべていた

 

「ひ、雛里っ!?」

 

「はい。ごめんなさい、驚かせてしまって」

 

「なんで?どうして司馬徽が?だって!?あれっ??」

 

頭陀袋から抜けだした雛里は、ポンポンと躯に着いた埃を払い、衣服を正す。良く見れば、何時もの衣装ではなく

市井の者たちが着るような特徴の無い普通の衣装で、所々埃と泥が付いていて、一見しては誰も蜀の軍師

鳳統であるとは思わない

 

「桃香様が魏に入城する影に隠れて、水鏡先生の元に行ってました」

 

「で、でも兄様は慧眼で、呉の周泰も見つけたって」

 

「はい、なので桃香様に魏に入ってもらって、夏侯昭さんの眼を桃香様に釘付けにしておきました。お陰で、夏侯昭さんは

少し後に入った私に気がつくこともなく、直ぐに曹操さんの所へ行ってくれました」

 

想像も着かないような大胆なことをやってのける鳳統に、翠と蒲公英は驚き言葉を無くす

しかも、帰ってくるのに敵将である司馬徽を利用して、此方に無事に戻ってくるのだから

 

「途中で郭嘉さんに気が付かれて、此方に戻るのが少しだけ困難になってしまいましたけど、上手く行きました」

 

「す、凄いな。でも、司馬徽は良いのか?」

 

「はい、先生なら何も問題ありません。何も引き出せませんでしたから。でも、色々と知ることは出来ました」

 

赤壁の時とは打って変わって、怯える事もない強い表情の鳳統に、翠は笑っていた

どうやら、本当に鳳雛ではなく成鳥の鳳凰になったようだと

 

「ふふっ、夏侯昭さんのお陰です。桃香様も強くなられました。後は朱里ちゃんが、臥竜が起きるのを待つだけです」

 

「龍と鳳凰が味方か、此れほど心強い事はないよ。そうだろう蒲公英」

 

「うん、次が最後の戦い。必ず勝って平穏を、そして西涼をお姉様に治めてもらう」

 

夏侯昭のお陰で劉備は龍になった。そして、自分もそのお陰で成長し、折れぬ心を手に入れた

自分は何度も蘇り、決して死ぬことのない不死鳥だ、必ず天に浮かぶ雲を我が灼熱の羽で消し去って見せようと

鳳統は魏の方向に強い瞳を向け、翠と蒲公英も同じように視線を向ける

 

「絶対に負けない、あたし達は勝つ。必ず大陸を統一し、桃香様の理想を叶えてみせるっ!」

 

三人は魏に向い、勝利を誓うと自分達の拠点、武都へと足を向けた。蜀を勝利に導くために

自分達は僅かな努力さえも惜しむことは無いと


 
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