事件発生からすでに6時間…。
爆弾を仕掛けられ、走る棺桶と化した新幹線『富士5号』はヒロシマを通過していた。
車内は恐怖と戦慄が渦巻いていた。
「もういやだ!降ろしてくれー!!」
「…死ぬんだ、みんな此処で死ぬんだ…」
「パパ、ママ…!」
乗客たちの精神はすでに限界にまで達していた。そう…誰もがみんな諦めかけていた。
…だがしかし、『彼ら』は諦めていなかった!
「…OK、このタイプの爆弾ならボクにも解体できるのだ」
「マジかよ!?サフラン、お前すげーな!!」
「でも、そのためにはサポートが不可欠なのだ…スノウ君、今から部品を外して渡していくから落ちないように置いていって欲しいのだ」
「よっしゃ!任せとけ!!」
まずサフランは爆弾のカバーを外す。
どんな爆弾でも、最初にカバーを外さない事には解体作業は始まらない。
最も最近の爆弾は厄介で、カバーを外した瞬間に爆発するものもあるようだが、
今回の爆弾は単純な構造であり、カバーも直接起爆装置に繋がってはいない。
カバーが無事に外れたのを確認すると、持っていたドライバーで本体のケースの周囲にあるネジを一つ一つ外していく。
(…頼む、無事に解体してくれ、頼む…!)
T-9ジャイロの機内ではシュンがその様子を心配そうに見つめていた。
やがて本体のケースが開かれ、爆弾の内部構造が顕わになる。
「…次は電磁式速度計と…爆弾本体を切り離せば…」
サフランはラジオペンチを取り出し、速度計と爆弾を繋いでいるケーブルを切断する。
「…これで速度が落ちても爆発する心配は…!?」
サフランが一息ついたのもつかの間だった。
なんとケーブルを切断した瞬間、今度は時限タイマーが作動したのである!
「…おいおい、どうすんだよ!?こんなトラップがあるなんて聞いてねえぞ!!」
突然の出来事に焦りを隠しきれないスノウ。
しかしサフランは表情一つ変えずに爆弾を睨みつけていた。
(タイマーと信管に直結しているのはこの2本のワイヤー…爆発までは1時間……)
サフランの電子頭脳が先ほどまでと同じように、いや、むしろそれ以上にフル回転を始める。
電子頭脳は光コンピュータであるが、そこから溢れる光が、彼女の瞳の内部にまでちらつき始めた。
この現象が起きているという事は、それだけサフランが思考を研ぎ澄ませているということに他ならない。
ワイヤーと信管を繋ぐコードを、サフランの電子アイが捉え、透過表示していく。
…やがて、確信の眼差しを浮かべたサフランは、近くにおいてあったニッパーを取り出した。
「…両方同時に…切り離すのだっ!」
鈍い切断音とともに、2本のワイヤーが切り離された。
タイマーはそこでカウントを止め、やがてその液晶表示は消えていく。
「…」
さらにサフランは、起爆部に備わっていた信管をゆっくりと引き抜くと、残った部分を車両の床下から取り外していった。
「…ふぅ。ミッションコンプリート…解体成功なのだ!」
と、サフランは額にあふれ出していた
それを見届けると、スノウは近くにあった緊急放送装置のスイッチを入れて、客室内にアナウンスを流した。
『…こちらはテラ・プラネットポリス…地球連邦警察です。この列車に仕掛けられていた爆弾は無事に解体しました。繰り返します…』
その放送を聞いた瞬間、もはや騒ぐ気力すら無くしていた乗客たちの目に涙が浮かんだ。
そして誰言うとなく、乗客たちは次々に両手を振り上げ、歓喜の雄叫びを上げ始めた!
「やった…助かるんだな、俺たち!」
「わあぁぁぁぁ!」
「よかった…生きて帰れるぞっ!!」
その一報はシナガワの新幹線指令室にも届いていた。
「第0105列車…富士5号…爆弾解除!富士5号の爆弾は解除されました!!」
「やったぁぁああぁぁっ!!」
「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」
歓喜の叫びに包まれる指令室。しかし、運輸指令長のショウイチは未だ険しい表情を浮かべながら言った。
「…安心するのはまだ早いぞ。爆弾は解体できたようだが、まだ車内に残ったままだ。富士5号の車内から運び出すまで油断は禁物だぞ」
「はっ、そ、そうでした、すみません」
「で、富士5号はどこにいる?」
「…カンモン海峡トンネル通過。キューシュー地区に入りました」
「…全列車に通達。待避していた列車のうち、運行再開指示があった列車から出発だ。富士5号はハカタ・ジャンクション駅に停車。ここで爆弾を運び出す。キューシュー地区警察に依頼を」
「了解!!」
…45分後、ハカタ・ジャンクション駅。
いつもと違った緊張感が漂うホームの中に、富士5号が入線してきた。
もはや速度を落としても爆弾が爆発する恐れはない…列車の速度が、それを物語っていた。
長いノーズがホームに差し掛かり…やがてモーターの唸りとともに、富士5号はゆっくりとその車体を滑り込ませ、ホーム中央付近へ停車する。
爆弾が仕掛けられていた1号車付近にはキューシュー地区警察の特殊警官隊が待ち受けていた。
やがて各車両の扉が開け放たれる。1号車の扉からはスノウとサフランが姿を見せていた。
「…爆弾は解体完了なのだ。あとの処理はそちらにお任せするのだ」
「ご苦労、ウワサに聞いていただけはあるな…流石爆弾解体のプロというだけはある」
「お願いします」
爆弾は特殊警官隊に手渡され、すぐに駅の外へと運び出されていった。
それと入れ違いに、チーター形のファンガーが入ってくる。T-9ジャイロから状況を監視していたシュンだった。
「スノウ君、それにサフランちゃん、本当にお疲れ様」
「いや、オレは休暇で移動してたらたまたま爆弾に出くわしただけさ。お前とサフランが来てくれなかったらどうなってたか…本当にありがとう」
「うにゃー、安心したらお腹がペッコペコなのだぁ…」
と、ホームの上で談笑する三人。
『富士5号はこれより緊急点検のため車庫に入ります。ベイジン、ホンコン方面は臨時列車を用意いたしましたので、そちらをご利用くださいませ…』
「…と。さんざんな休暇になっちゃったみたいだけど、もうひと安心だね。スノウ君、お姉さんに元気な顔を見せてあげなよ」
「そうだな。…本当にありがとな、シュン、サフラン」
「ああ、この先も気をつけてね、スノウ君」
「お土産期待してるのだ!」
そう言うと、シュンはサフランを連れてハカタ・ジャンクション駅を去っていった。
スノウはその背中を見つめ、ただ笑顔で手を振り見送っていた。
…そうしていると、やがてスノウの目の前に、臨時のホンコン行き新幹線がやって来た。
列車のドアが開け放たれる。
「…さて、オレもそろそろ姉ちゃんのとこにいかねえとな」
と、スノウは一路ホンコンを目指し再び長い長い旅路につくのであった…。
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新幹線大爆破篇もいよいよクライマックス。
富士5号の運命やいかに!?
前回:http://www.tinami.com/view/458840
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