「……私ね、ポケモンバトルってあんまり好きじゃないんだ」
それは俺がイエローの家にやっかいになり始めてから、半月が過ぎただろうかという時のこと。
まだ自分の力をうまく使いこなすことができなかった俺は、よく森に技の練習をしに来ていた。
そして、なぜかそんな時はイエローもついてきて、練習風景を眺めつついつものようにスケッチをする。
その日もイエローは、技の練習に勤しんでる俺から離れたところに座って黙々とスケッチをしていたが、唐突にそんな話を切り出してきた。
「えっとね、別にバトルをすることが悪いって言ってるわけじゃないんだよ?
ポケモンと一緒に強くなって、ポケモンと一緒にバトルして、勝ったら一緒に喜んで、負けたら一緒に悲しんで、それでまた努力して強くなって、今度は勝って一緒に喜ぶ。
それはとても素晴らしいことだって思う」
だけど、そうイエローは続ける。
「私はねミオ、バトルをして傷ついていくポケモンを見るととても辛いんだ。
そんなことを思うのは一生懸命練習してるミオにも他のポケモン達にも失礼なことなのかもしれないけど、どうしてもそう思っちゃうんだ。
ほんとは傷つけあわないでみんなで仲良く一緒に笑い合っていられたら一番いいんだけど」
でも、世の中そうはいかない。
気性の荒いポケモンもいるし、そうでなくても縄張り意識が強いポケモンもいて一度その縄張りに入ろうものなら執拗に追いかけてくる。
縄張りを抜ければ追ってこない、そういうこともあるがそれはまだいい方で、最悪縄張りを抜けても追い続けてくることも度々ある。
それにことは野生のポケモンの話だけにとどまらず、普通に生活をしている中でもポケモンを使った悪質な犯罪行為だって頻繁に起こっている始末だ
トレーナーであれ、一般人であれ、ポケモンであれ、それで命を落としたという例も決して少なくはない。
話し合って解決する、それができれば一番いいのだろうが、世の中のこと全てが話し合いで解決できるわけではない。
犯罪者でも野生のポケモンでも、襲ってくる時は大抵問答無用だ。
そんな時、傷つけたくないからと相手の好きにさせていてはこちらがやられてしまうだけである。
自分も傷つきたくないから、自分もやられるわけにはいかないから、応戦せざるを得ない。
そこで攻撃することに戸惑ってしまえば、自分がやられてしまうだけならまだ自業自得で済むが、それ以上に最悪自分以外の人にも被害が及ぶこともあり得る。
人によってはそのことで自分が肉体的に傷つく以上に、精神的に傷付き立ち直れなくなってしまう人だっているのだ。
まだまだ子供なイエローではあるが他の子供たちよりもどこか聡いところがあり、バトルが好きではないといってはいるが、そういうところはきちんと理解はしているようだ。
「……しょうがない、ことなんだろうけどね。
それでも、私はできる限りバトルはしたくないなって思う」
そういうイエローはどこか悲しげな表情をしていた。
◆◆◆◆◆
俺たちはマサラタウンを出発した後、もと来た一番道路を通って2日かけてゆっくりとしたペースでトキワシティに辿りついた。
幸いなことに行きで襲ってきたオニスズメの大群は帰りでは出くわすことはなかった。
……ちなみに、道中イエローが落とした荷物は、無事回収することができた。
ただ、落としてしまった荷物の中に道中食べるはずだった軽食があったはずが、回収する際には見つけることができず、恐らくオニスズメかそれ以外の野生のポケモンが持って行ってしまったのだろうと、少しもったいない気もしたが早々に諦めることにした。
トキワシティに着いた時、俺は一度家に帰って両親にポケモン図鑑をもらって帰ってきたことを報告しに行くかとイエローに聞くも、それはまた後でと言った。
どうやらそのままトキワの森に行くようだ。
『それで、2番目に仲間にする奴って……まぁ、どいつかは予想ついてるんだけどな。
一応聞くけど、あのいつも一緒にいたコラッタだよな?』
「あはは、やっぱりわかっちゃったよね。
うん、私が一番最初に友達になった子なんだ、だからラっちゃんも一緒に旅ができたらいいなって思って」
そういいながら笑うイエロー。
よほどそのコラッタ、ラっちゃんと会うのが楽しみなのだろう、歩くペースも若干上がってきた。
イエローはまだにこにこと笑っている。
そんなイエローを見ていると、旅から戻ったばかりで若干疲労していたというのに、心が自然と充実していき少しだが疲れを忘れさせてくれる。
イエローにはいつでも変わらず、その笑顔でいてもらいたいものだ。
……しかし
(……楽しそうなのはいいけど、わかってるのか? 一緒に旅をするってことは―――)
トキワの森に行く道を楽しそうに歩くイエロー。
そんな姿を見ている俺の心には、一抹の不安が残っていた。
◆◆◆◆◆
「あ、ラっちゃん!」
『イエロー! 久しぶり!』
トキワの森に着くとイエローの気配に気づいたのかすぐさまラっちゃんが茂みから飛び出してきてイエローに飛びついた。
『ミオも久しぶり! 途中オニスズメに襲われたって聞いたけど大丈夫だった?』
『あぁ、まぁ、何とかな。それより帰りにオニスズメには会わなかったけど、どうしたのか聞いてないか?』
『えっと、確か少し前に半分は森に戻ってきたって聞いたけど。あとはどこかに行ったんじゃないかな』
なるほど、どうやらもう一番道路周辺の大群は無くなっていたようだ。
まぁ、その周辺に巣を作ってるような奴らもいるかもしれないから全部いなくなったってわけじゃないかもしれないけど、それでも運悪くピカチュウをボールから出していたトレーナーがあそこを通ったとしても俺達やサトシ達のように大群で襲われるようなことにはならないかな。
「それでねラっちゃん、私達これから少ししたら旅に出るんだけど、もしよかったらラっちゃんも一緒にどうかな?」
俺との会話も一端途切れたところで早速とイエローはラっちゃんに本題を話す。
『僕も一緒に?』
「うん!」
『……そうだね……うん、いいよ』
「ほんと!? やった、やったねミオ!」
『……』
ラっちゃんの返答により一層嬉しそうにしているイエローだが、しかし俺は別の事に気が向いていた。
喜んでいる最中のイエローには気づかないかもしれないが、もしかしたらと思っていた俺には気づいていた。
ラっちゃんから漂ってくる雰囲気がさっきまでとは変わったこと。
“タッ!”
「あっ」
ラっちゃんがイエローから距離をとる。
いきなりの事にイエローはどういうことか戸惑っている様子だ。
そんなイエローに、ラっちゃんは無情にも告げる。
『イエロー、君は僕と一緒に旅をしたいんだよね? 僕を仲間に加えたいんだよね?』
「え、う、うん、そうだよ? みんな一緒だったらどんなにつらい旅も楽しくなると思って……」
『そうだね、きっとイエローとミオと一緒ならどんなにつらい旅でも楽しいものに変わるかもしれないね。
僕も二人と一緒に旅をすることを思うと楽しみでしょうがないよ。
……でも、その前にイエローにはしてもらわなくちゃいけないことがある』
「えっと、何……かな?」
『イエロー……君には僕と、バトルをしてもらうよ』
「……え、えぇ!?」
(……やっぱり、こうなったか)
イエローは驚いているようだったが、逆に俺は少なからずこの展開が予想できていたため、それほど驚くことはなかった。
野生のポケモンを仲間にするには基本的にポケモンバトルをして勝って力を示すことが条件だ。
中にはそのトレーナーの人格を認めて仲間になるというポケモンもいるにはいるが、それはきわめて稀だ。
……しかし、イエローと仲のいいラっちゃんなら、イエローの人柄をよく知るラっちゃんなら別にバトルなんかしなくても一緒についてきてくれるのではないか、そうも思っていたのだが……。
「な、なんで!? そ、そんなバトルなんてしなくたって!」
『そうだね、僕も最初はそれでもいいかなって思ってたんだけどね。君と一緒に過ごしてきた時間で君の事を沢山知ることができたし、皆に優しい君が僕は大好きだから』
「だったら!」
『イエロー、君はとても優しい子だ。
その優しさを多くに向けることのできる君はとても素晴らしいし、好ましいともと思う。
だけど……』
……そっか、ラっちゃんは心配なんだな。
イエローは優しい子だ、それはラっちゃんだけじゃない俺もそう思っているしこの森に住むイエローと触れ合ってきたポケモン達にもわかることだろう。
しかし、その優しさがいつかイエローを傷つけるのではないか、それをラっちゃんは心配しているのだ。
この世界を旅するということはここの森で出会ってきたポケモンよりも多くのポケモンと出会うことになるだろう。
しかし、その出会うポケモンの全てが全てイエローに好意的であるとは限らない。
ましてやポケモンを使って悪事をはたらく者もいるこの世の中、イエローのポケモンを傷つけたくないという想いにより逆にイエロー自身が傷ついてしまうという可能性は大いにあり得る。
いくら言葉を紡ごうとも、いくら触れ合おうとしても分かり合えない存在などこの世には数えきれないほどいるだろう。
ラっちゃんはそんな奴らに大好きなイエローを傷つけさせたくないのだ。
だからこそ少しでも経験を積ませるためにイエローにバトルをさせる。
旅をするというからには最低限イエローは自分で戦えるようにならなくてはいけない。
自分の身を守れるようにならなくてはいけない、俺達ポケモンを十分に使いこなして。
だから……
“ザッ”
「ミオ!?」
俺はラっちゃんの想いを汲み取りイエローの前に出る、ラっちゃんとバトルをするために。
『……やろうぜ、イエロー。
旅をするからには野生のポケモンとバトルすることになるのは必至だ。
話し合いだけで解決できればそれはそれでいいかもしれないけど、何でもかんでも話し合いだけで解決できるわけない。そのことは、お前だって解ってるだろ?』
「そ、それは、そうだけど」
そう、イエローだってそれくらいのことわかっているのだ、あのスピアーの一件のお蔭で身をもってわかってるはずなのだ。
どれだけ言葉を紡ごうとも取り合われることがなく、ただ一方的に襲われて死にかけたのだから。
あの時は確かにスピアーは混乱していたのかもしれないが、だからと言って今後の旅でそういうことがないなんて言いきれない。
現に俺たちはオニスズメの大群に襲われたわけで、俺が攻撃した時もイエローはいい顔はしなかったが止めはしなかった。
それは反撃しなければ自分たちがやられてしまうということがわかっていたからだろう。
そういった意味合いでは、あのスピアーに襲われた一件は貴重な体験をしたと言える出来事だったのではないだろうか。
『……イエロー、俺は、いや俺達は心配なんだよ。
お前の誰にも傷ついてほしくないという想いはとても素晴らしいもんだ。
そういう優しい想いに俺もラっちゃんも惹かれてるんだと思う。
だけど、その想いのせいでいつかイエロー自身が傷つくんじゃないかって俺たちは心配なんだ』
「……ミオ」
『俺達もイエローが傷つかないように一生懸命守る、身体を張ってでも守る。
だけど、俺達だけじゃ守りきれないんだ、イエローが一緒に戦ってくれないと守りきれないんだよ。
……だからイエロー、俺達と一緒に戦ってくれ!』
俺には漫画の主人公が言ってるようなかっこいいセリフなんて言えない。
こんな状況でいいセリフが思い浮かばないというのもそうなのだが、たとえ思い浮かんだとしても俺はそんなセリフを言うことはなかっただろう。
そんな大層なセリフを言えるほどの経験もしてきていないし、仮に俺がそんなこと言ったとしても言葉に重みなんてあるわけがなく薄っぺらいだけで何も伝わらないだろう。
だから俺にできるのは、今の俺の気持ちをラっちゃんの気持ちをそのままイエローに伝えることだけだ。
「……うん、わかった、私も一緒に戦うよ。
ミオ達が傷つくところは見たくないけど、私のせいでミオ達を傷つけることなんてもっと嫌だから」
だから、そういいイエローは先ほどまでの弱々しく、迷いに包まれていた顔から一変させて前を、ラっちゃんの方を見据えて
「……私も、一緒に戦うよ」
もう一度、決意を表すようにそう言った。
『やっと、決心がついたようだね』
イエローの言葉を聞き、心なしか口の端をつり上げて薄らと笑っているようなラっちゃん。
イエローにやっとその気が起きてうれしいのだろう。
確かにラっちゃんがイエローのことを好きだということに変わりはないが、野生のポケモンというのは基本的に好戦的なポケモンが多く、ラっちゃん自身も他の血の気の多いポケモンほどではないにしろ好戦的なところがある。
『さて、始めようか。イエローの、初めてのポケモンバトルを!』
そういうと、ラっちゃんは体を低く落として臨戦態勢をとる。
『さぁイエロー、指示を頼む。
これからは、バトルの時はイエローの指示で動くから頑張ってくれ。
俺もできるだけ合わせるようにするから』
「う、うん、一緒に頑張ろうね」
そう、これが正真正銘のイエローの初バトル。
オニスズメの大群の時は初心者なイエローに指示できるわけもなく俺が勝手に動いていたが、これからはそうはいかない。
イエローはトレーナー、俺はイエローの手持ち。
俺達の仲にあるのは主従関係ではなく友情だと断言できるが、だからと言ってイエローの指示を無視して俺の独断を通すわけにもいかない。
『……来ないのかな? じゃぁ、先手はもらうよ!』
と、俺達が会話をしていた時、焦れたのかラっちゃんが“体当たり”で先制攻撃をしてくる。
『イエロー!』
「はぃ!? え、えっと、避けてミオ!」
イエローの戸惑いながらも何とか出すことのできた指示に従い俺は“体当たり”を横に躱す。
結構ギリギリだったが、スピードは俺の方が上のようで何とか避けることがでk
“バシバシッ!”
『アデッ!?』
「ミオ!?」
ギリギリで避けたと思った矢先、俺の脇に大した威力ではないものの衝撃が襲い、吃驚した拍子に足を滑らせて転んでしまう。
いつまでも倒れているわけにいかず、すぐさま立ち上がり四足で立って低く構える。
相手を見てみると俺の方を見て薄らと笑いながら尻尾を振っているラっちゃんの姿。
(なるほど、“しっぽをふる”か。)
相手の防御力をダウンさせる技“しっぽをふる”、実際に防御力が下がっているかどうかなどわからないが尻尾の衝撃と転んだことによるダメージ以外にダメージはなく戦闘に問題はない。
……にしても
(相手の種族がコラッタだからっていう俺の不注意もあったかもしれないけど、それ以上にラっちゃんなんだか戦いなれてねぇか?)
“体当たり”と“しっぽをふる”のコンビネーション、一見簡単そうに見えるが正面から勢いよくぶつかってきて、回避された瞬間に尻尾を当てるというのは結構難しいはずだ。
的に対してだったら俺も“アイアンテール”の練習の時に何度か当てることはできたけど、動く物体が相手だと命中率は格段に下がるだろう。
つまり、先ほどの一連の動作だけでも、ラっちゃんがかなり練習を積んでるということがわかってしまったわけだ。
まぁ、とにかく今は考えていてもしょうがない。
『俺は大丈夫だ! 続けて指示を出せ!』
「う、うん! ミオ、“電気ショック”!」
それに従い“電気ショック”を放つ。
ほぼノータイムで放たれた、それほど威力はない電撃はまっすぐラっちゃんに向かって進み
“サッ”
当たる瞬間、ラっちゃんの動きが加速した。
ラっちゃんは紙一重で“電気ショック”を躱し、加速したままの動きで電撃の脇を通って俺に向かって突進してきた。
(これは、“でんこうせっか”!?)
電気ショックを使っていたために反応が一瞬遅れた俺は真正面からラっちゃんに衝突され背後にあった木に叩きつけられた。
『……ぐッ!』
叩きつけられた俺はそのままずり落ちて地面に倒れる。
“しっぽをふる”の防御力低下、“でんこうせっか”による速攻、更に木に衝突した衝撃により俺の体はかなりボロボロになっていた。
(……強い)
純粋にそう思った。
最初の一撃は不注意による自業自得、次の二撃目は自身の経験の不足により反応ができなかったことによるもの。
オニスズメの時も相性が良かったということがあったとしてもあの大群相手に辛うじて撃退できたことで俺の中で自信になっていたものが全て崩れ去ってしまった。
二撃、たった二撃でわかってしまった、ラっちゃんは間違いなく強い。
そして戦闘経験も俺なんかと比べるのもおかしいくらいに豊富だ。
『……ここまでかい、ミオ? だったら、ちょっと、がっかりだ、ね』
その声に俺は顔を上げる。
ラっちゃんは俺を見て心底残念そうな、期待外れだという表情をしていた。
『僕は、イエローと出会ってから、イエローを守りたいと、思った時からずっと自分の力を高めてきた。イエローを守るために、傷つけ、させないために』
ラっちゃんは動かない、もう勝負はついたとでもいうのか尻を下ろして俺に語りかけてくる。
『でも、なんだい、君のその姿は? 君は今まで、何もしてこなかったと、いうのか?
ピカチュウとコラッタという種族の差、性能の差といってもいいけど、それで、劣っている僕に、ここまでボロボロに、されるなんて』
ラっちゃんは知っているのだ、元々の種族としての力の差を。
しかし、それでもラっちゃんは自身を高め続けた。
努力によってポケモンはいくらでも強くなることができるということを知っているから。
だからこそ、ラっちゃんは憤りを感じていた。
種族として元の性能が優れているミオが自分にここまでボロボロにされることに、自分の大好きなイエローの一番のポケモンになった俺が自分に一撃も入れることもできず地に沈んでしまったことに。
『君じゃ、イエローは、守れ、無いな』
『ッ!?』
その言葉をきき、俺は歯を食いしばる。
確かにラっちゃんの言っていることは正しだろう。
イエローを守ると決めてから自分を高めはじめて間もないとはいえ、戦闘において油断をし、その油断がもとで今地に付しているのだから。
これではイエローを守れないといわれても仕方がない。
……しかし
『…ッ…ぐぅぅ!!!』
『……まだ、立つんだね』
『あたり、まえだぁ! 諦めの悪さは、俺の自慢だからなぁ!』
力が入らなかった体に電気を迸らせ自身に活を入れる。
動く、まだ動く。
手も足もまだまだ動く。
電気もまだ半分も使ってはいない。
まだまだ戦える。
(でも、実際に戦って分かったけど、ラっちゃんは強い。
スピードはまだ俺の方が勝ってるけど、力は互角かもしれないけど、それを補って余りあるほどの経験がラっちゃんにはある。
……今のボロボロの俺でどうやって逆転する?)
考える、自分に今できることを頭に思い浮かべては否定し、思い浮かべては否定していく。
どうすればいいか、どうすればこいつに勝てるのか。
なかなか思い浮かべることができないその時、
「ミオ! ラっちゃんは痺れてるよ! 今だったらさっきまでみたいに戦えないはず!」
イエローから声がかかった。
イエローの声に訝しみラっちゃんに目を向けよく見るようにすると、ラっちゃんの体が若干震えているのが見えた。
そういえば、さっきから彼が話している時、度々詰まりながら話していたのを思い出す。
つまり、ラっちゃんは本当に痺れていた?
しかし、一体いつそんなことに……。
「ミオ! “でんこうせっか”だよ!」
イエローの声にはっとする。
そうだ、今はそんなこと考えてる暇はない。
そんなことより今は目の前のバトルに集中しなくては。
俺はイエローの指示通り“でんこうせっか”を使う。
肉体のリミッターが外れ俺のスピードが加速される。
そのままラっちゃんに向かって突進していくが、どうやらラっちゃんも“でんこうせっか”を使って加速しているらしくギリギリで躱され背後から追撃してくる。
しかし、その動きに先ほどのキレはない。
俺はそれを横に跳んで躱し、すぐ横を通り過ぎていくラっちゃんの脇腹目がけてそのまま突撃をかました。
『うわぁ!!?』
その勢いのままラっちゃんは地面を転がり木にぶつかって止まる。
そして
「ミオ! 今度こそ当てて! “電気ショック”!」
ノータイムで放出された電撃は最初と同じようにラっちゃんに向かって放たれる。
ただ最初と違うのは、ラっちゃんは痺れてダメージを受け怯んでいるということ。
放たれた電撃はラっちゃんに避ける動作をとらせる暇すら与えずに直撃した。
それほど強力でない電撃ではあるができるだけ強く、できるだけ長く放出する。
10秒ほどたっただろうか、放出し続けることにつかれた俺は放出を打ち切る。
ラっちゃんはまだ意識は失っていないようで、何とかして立ち上がろうともがいているようだ。
なんとしぶといことか、いくら“電気ショック”とはいえ通常より長い時間浴び続けているにもかかわらずまだ動けるとは。
実際このトキワの森でも、そんなことできるポケモンもそうはいないのではないだろうか(同じ電気タイプのピカチュウたちを除いて)。
……それほど、あの電撃を耐えきれるほどラっちゃんは自身を鍛え続けてきたということなのだろう。
しかし、立ち上がろうともがくも疲労や痺れによりなかなか立ち上がることができないラっちゃん。
まぁ、それを待ってやる義理はないわけで
『イエロー、今だ!』
「う、うん! やぁ!」
イエローは腰のベルトに装着されているモンスターボールを一つ取り、ラっちゃんに目がけて放り投げる。
しかし、ボールを投げることに慣れていないイエローの投げたボールは大きく狙いを外れて高く空に飛んでいき
「あ」
『あ』
そのままゆっくりと落ちいてきたボールが木に当たって跳ね返り、ちょうどその落下地点に倒れていたラっちゃんに当たった。
すると、ボールから赤い光が伸びラっちゃんに当たりそのまま収納されてしまった。
何度か転がったところでボールは止まりその場でカタカタと何度か震えるが、それほど時間も経たず震えは止まり、それと同時に機械的な小さな音が鳴る。
「……えっと、これって」
『まぁ、世間一般でいうところの捕獲(ゲット)ってやつだろうな』
「そっか……そっかぁ、私初めてポケモンを」
イエローはボールを拾い上げるとどこか感慨深げにボールを見つめる。
まぁ、確かに初めてバトルをし、初めてゲットをしたのだ。
バトルが好きではないというイエローであったとしても今回の事で満足感や達成感といったものが彼女の中に満ち溢れていることだろう。
「……って、あぁ! 二人とも傷だらけだったんだ! 早く治療しなくちゃ!」
と、しばらくボールを見つめていたイエローが声を上げ、わたわたしながらも治療に取り掛かり始める。
ほんと、最後の最後で締まらないものだ。
そんなこんなといろいろありながら、イエローの初めてのバトルは無事幕を閉じたのだった。
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10話です、ようやく投稿できたとです。
……あぁ、実習も試験もなくなってしまえばいいのに。