No.455883

万華鏡と魔法少女、第三十一話、深夜と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-19 21:34:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6115   閲覧ユーザー数:5650

死ぬ…という恐怖は任務を数多くこなして来た自分にとって、気がつけばあまり気に掛けるものでは無くなっていた

 

 

待つ人が居ない自分にはそれを抱く事が無くなるのは、命を奪い合う中で生きてきた己にとっては自然と必然的な事だったのかもしれない

 

 

人は本当に脆く簡単にちょっとしたきっかけで壊れる

 

 

だから、人の一生は儚く尊いものだと、戦争などのくだらない争い事で失うべきものではなく守るべきものだと俺はそう感じた…

 

 

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漆黒の暗闇の中で風に流され、揺れる赤い雲の衣を身に纏う忍

 

 

彼はその場で真っ直ぐにとある二人の少女の無意味とも取れる不毛な戦いを、自身の持つ妖しく輝く三つ巴の眼にてただ静かに沈黙したまま眺めていた

 

 

片方はこの町に住まう人々を守る為に自分の掲げる正義を信じ、彼等を害する者を無くす為に…

 

 

もう片方はある書物によって苦しむ一人の少女をその辛さから少しでも救い、前のようにその彼女や兄と呼んだとある男との幸せな日常を取り戻さんとする為

 

 

そこにあるのはまさしく完全な悪では無い、互いに望むのは純粋な願いだけである

 

 

眩い閃光が互いに激突する度に闇の中で弾ける様に綺麗な火花が散り、その願いを叶える為に己の身を削り戦う

 

 

そんな痛々しい彼女達の姿を眺める漆黒の中で三つ巴の瞳を浮かべる忍は片方の少女の姿を捉えていた

 

 

片方は分かる、一見幼い風貌に巨大な金槌に見える物を担ぐあれは今まで大事な少女の傍に居た存在だ

 

 

だが、もう片方…

 

 

今、自分の三つ巴の瞳、写輪眼の視界に入ってくる現在、自分が見つめている彼女

 

 

「…高町…なのは…」

 

久しい者の名前を漆黒の中で身を潜める忍は戦場を見つめたまま一人静かに呟くように呼んだ

 

 

高町なのは…、以前、この世界の金銭を手に入れる手段として働いていた翠屋という店で出会った小さな少女の名前

 

 

彼女はジュエルシードと呼ばれる膨大な力を秘めた宝石を封印する為に動いていた魔法少女と呼ばれる存在の一人だった

 

 

真っ直ぐに己の正義を信じ、その身を粉にして平和を愛し人々の生活を守る為に戦う事を決めた一人の少女、

 

 

自分はその以前の事件、

 

膨大な力を秘めた宝石、ジュエルシードの力を使って己の願いだけを叶える為に動いていた首謀者として彼女と対峙した

 

 

その時に彼女の覚悟を改めて問いかけた出来事は未だに記憶に新しい

 

 

彼女はあの時たしかに己の意志を自分に示した言葉と例え、武力が無くともその話し合いで分かり合えるという態度で

 

 

だが、どうだろうか? 今、戦場において一人の少女を守る為に戦う騎士と対峙している彼女には深く暗い迷いが見える

 

何をそんな風に思い詰めているのか、彼女の集中力の欠いた浮いた様な戦い方にイタチはどこと無く不安を感じられずにはいられなかった

 

「ほらほら!どうした!私を止めて話をするんじゃなかったのかよ!」

 

 

「…くぅ…まだ!…このくらい!」

 

 

星々が輝く夜空を華麗に魔法使いが共に翔ける凄まじく激しい空中戦

 

 

ビルの物陰の暗闇に身を潜める忍は静かな眼差しでそれを見詰め眺めながら、その身に纏う赤雲の衣の懐からゆっくりとある物を取り出した

 

 

それは奇妙な形をした仮面、

 

両目に穴が空いておりその穴から螺旋状に波紋の様なものが広がるという形状の面であった

 

どうもこの同じ様なデザインのお面は以前、何処かで見覚えのある様な気がするが多分、気のせいだろう

 

 

忍は懐から取り出したそれを自身の顔へしっかりと装着する

 

 

この仮面は自身の身元、そして素顔を相手に悟らせないためにグレアムが気を利かせて用意してくれた物だ

 

 

どうやら、早速それが役に立った…以前、自身の顔を覚えているなのはにこれで正体が暴露する可能性は完全とはいかないが、ほぼ隠す事が出来る

 

 

同じく、現在進行形で彼女と戦っているヴォルケンリッターのヴィータにもだ

 

 

…さて、それでは準備は整った後は…

 

 

顔を隠す為に身に付けた仮面に手をそっと添えて忍はその場で介入する時を待つ

 

 

それは、この場にいる自分を除いた計二名の協力者による襲撃のタイミング…

 

 

グレアムが代わりに戦場に立つと言い出した自分の身を案じて、目的の援助の為に出してくれた二人の少女

 

 

二人が戦闘を繰り広げている彼女達を介入すると共に自分も後からそれに続く

 

 

それが、この場で戦闘を静かに見詰める赤雲の忍が考えた算段であった

 

 

 

(…やはり楽では無いな、兄という位置の役割は…)

 

 

仮面の内側から零れる、頬が緩み浮かんだ微かな笑み

 

 

忍は懐から苦無を取り出すとそれを構えて空中で飛び散る火花に視線を向けた

 

そんな時であった、彼は予測通りといった風にその出来事と共に目の色を変えた

 

 

唐突に空中で鳴り響く爆発音

 

 

これが、忍とその協力者の間で交わされた合図のようなものであった

 

 

彼女達の戦闘に横槍を入れるという、なんとも無粋なやり方ではあるが、今の彼等にとってはこれが必要な行動であった

 

 

戦闘を繰り広げていた赤髪の守護騎士と小さき可憐な魔法少女は共に距離を取り、戦闘に介入してきた人物達に視線を向ける

 

 

「…流石だな闇の書の守護騎士、そして、管理局の魔導師…」

 

 

爆発により互いに距離をとった彼女達は自分達に向けられる第三者の声に警戒を高める

 

 

真剣な戦闘にあんな風な爆発によって横槍を入れられれば当然と言える反応だろう

 

襲撃によって起こされた爆発により浮かんでいた爆煙が風によって次第に流されてゆく

 

 

そうして、彼女達の前にその声の主の姿が露わになっていった

 

 

三人の人影、その背丈から一人は恐らく男性だと推測出来る

 

 

闇の書の守護騎士はいかにも怪しげなその集団に身構えたまま自身のデバイスを強く握り締めた

 

 

「…お前等、何者だ…」

 

 

「…安心しろ君に危害を加えるつもりは無い寧ろ我々は協力者の様な者だ」

 

 

警戒に身構える彼女に赤雲の衣を纏った仮面を付けた忍は静かな声色でそう告げた

 

 

奇妙な事に魔法使いではないその忍は他の者達と変わらず空中に浮かんだ状態である

 

 

それは何故か?…その理由は彼が足に付けている靴が恐らく原因

 

 

これは、グレアムから提供して貰った特殊なデバイスと言われるものだ、大概の魔導師達が空中戦で戦う事を知っていた彼は忍に遅れを取らぬ様にとこの特殊な靴を渡していた

 

 

まさに、それが的中したのか現在進行形で忍はこうして彼等の前に身を晒す事ができている

 

 

(…グレアムさんの言っていた通りだったな助かった…)

 

 

靴により宙に浮く忍は視線をそれに微かに落として、改めて彼の思慮深さに関心する

 

 

まぁ、ひとまずはそれは置いておくとしておこう、

 

それより、今は突然現れた自分達を警戒しているこの眼の前にいる守護騎士についてだ

 

 

敵意が無い事を示し、身を晒した以上、自分達が何者であるのかを話す必要があるだろう

 

「…我々は闇の書を完成させる為に動いている者だ、君に協力してリンカーコアの蒐集を手伝いたい」

 

 

「…正体を隠してるあんた等の話はどうも信用に足らないね…部外者は引っ込んでな!」

 

 

強い口調でデバイスを構えたまま、警戒を解かずに声を荒げる闇の書の守護騎士

 

 

まぁ、こうなる事も勿論知っていたが…

 

 

赤雲の衣を身に纏う忍は視線を外し、こちらを同様に警戒した素振りを見せる魔法少女にそれを向けた

 

 

緊迫した空気がその場を包み込み、一触即発のものにへと変わる

 

 

そんな中、忍の横にいた協力者であるどう仮面を身に付けた一人が真っ直ぐにこちらを見据えてくる魔法少女にこう言葉を投げかけた

 

 

「…気に食わないねぇ…その眼」

 

 

「貴方達は何者なんですか、邪魔…しないでください…」

 

 

静かな声色で白いバリアジャケットと呼ばれる魔道服に身を包んだ少女は現れた彼等にそう告げる

 

 

自分は今、ただでさえこの守護騎士との戦いで説得を試みているのにこれ以上、面倒事を増やさないで欲しい

 

 

そう、彼女の身構えるその態度から受け取る事が出来る

 

 

仮面を付けている忍はその仮面から覗かせる漆黒の眼をデバイスを構えた彼女に向け、こう告げた

 

 

「…守護騎士である君がどう受け取るかは知らないが、信用に足らないのなら今すぐそれを証明しよう」

 

赤雲の衣を身に纏う忍は懐から鋭利な苦無を取り出すとその先端を少女に向ける

 

 

そうして、彼は呟く様に自身の傍に浮く二人に静かに指示を出す

 

 

「…やれ、殺しはするな」

 

 

「「了解…」」

 

 

忍の傍にいた二人は短くそう承諾すると互いにデバイスを構えて一直線に白い魔道服を身に纏った少女にへと突っ込んで行く

 

 

そうして、先程の戦闘から疲弊していた彼女に向かい容赦なく放たれる魔法

 

 

激しい空中戦の再開と共に相棒であるグラーフアイゼンを握り締めたまま、自分の獲物であった少女に攻撃を仕掛けるように指示を下した謎の忍に信じられないといった表情を浮かべ振り返る

 

 

だが、一方の忍は振り返りこちらを見据えてくる彼女に何事も無いような物腰

 

 

彼女は構えていたグラーフアイゼンをその忍へと突き出し低い声色でこう脅しを掛ける

 

 

「…今すぐやめさせろ、あれは私の獲物だ」

 

 

「…悪いが断る…君にはそれを俺に突きつけるよりやるべき事が他にあるんじゃないのか?」

 

 

仮面の内から覗かせる執行の瞳を真っ直ぐに向け、守護騎士に問いかける謎の忍

 

 

彼女は更に表情を険しくして、まるで自分達の行う事を知っているような口ぶりの彼への警戒を高める

 

 

「…なんであんたがそんな事を知っている」

 

 

「さてな…、偶然知ってしまったからとでも答えておこうか」

 

 

何も情報を漏らすつもりもなさそうなその仮面を付けた忍びの毅然とした態度

 

 

その物腰や格好から酷く彼等の事を警戒していた彼女だったがそうする事が時間の無駄というもの、それよりもさっき戦っていた魔法少女から妨害を受けていたために果たせなかった目的を協力すると言い出した得体のしれない彼等を利用して果たした方がまだ効率がいい

 

 

「…胡散臭い奴だな、あんたら事は信用出来ない、けど私も私でやる事があるんでね、せっかくだから悪いがここは言葉に甘えさせて貰うよ、こちらも蒐集に忙しい身なんで」

 

 

彼女はそう告げると構えていたグラーフアイゼンをおろし忍にへと背を向ける

 

 

彼女のとったその行動は、とりあえずこの場を横槍をいれてきた謎の忍達に委ねるという事を差していた

 

 

なるべくリスクを少なくリンカーコアを集めて自身の主の負担を減らす…

 

 

彼女自身も最優先事項がまずそれである事を理解している為、この場の争い事に首を突っ込む必要性が無いと選択した結果であった

 

 

以前なら、迷う事無くこの急に横槍をいれて来た胡散臭い輩達と事を構えるなどしていたのであろうが、

 

彼女の主の兄である存在のおかげか、多少なりとも辺りを見渡す事の出来る冷静さを培う事がで来たのかもしれない

 

 

この自身の目的を果たすという役割はそれだけ責任が重いのだ

 

 

しかし、こうして突然現れて自身の獲物を横取りした輩はどうも気にいらない

 

 

だから、彼女は抵抗として敢えて彼等にお礼の言葉を告げるという行動はしない事にした

 

 

その正体が自身の大切な身内という事も知らずに…

 

 

こうして、一方的に自分に背を向ける彼女に仮面に素顔を隠した忍は微かに頬を緩ませ、彼女に聞こえない程度の声でこう呟いた

 

 

「…頼むぞヴィータ」

 

 

彼はヴィータと呼んだ守護騎士の背中を見えなくなるのを静かに見送り確認する

 

 

彼女の背中は何処と無く、仮面を付けている今の自分とは遠く感じられた

 

 

さて、そんな事をいちいち感傷に浸る暇など無い

 

 

そうして、彼は彼女の姿が見えなくなるのを確認すると再び、引き受けた戦場にへと視線を引き戻す

 

 

自分の差し向けた魔導師二人と戦闘を繰り広げる白い魔道服に身を包んだ魔法少女

 

 

二体一、しかも明らかに疲弊している向こう側が分が悪いという事実

 

 

爆煙と爆発と同時に彼女の身体はボロボロになり空中で弾ける

 

 

そうして、爆発によって弾け飛んだ身体を持ち直し、デバイスを構えて反撃するの繰り返し

 

 

それでも、諦めずに抵抗を続けている白い魔法少女に忍は静かにこう告げた

 

 

「さて、高町なのは、君はもうやめた方がいい」

 

 

「…なん…なん…ですか…貴方達は!?」

 

 

鋭い眼差しで傷だらけの身体を推して眼の前に立ち塞がる赤雲の忍に問いかける少女

 

 

光を失わせない彼女のその眼差しが気に入らないのか、先程から彼女との戦いを繰り広げていた仮面の一人が彼女に再びデバイスを向ける

 

 

「…この!!」

 

 

「止めろ、これ以上は無意味だやる必要は無い」

 

 

声を荒げて、再びデバイスを構えたその仮面の一人に立ち塞がる形で片手で制す

 

 

当然、片手で自身のデバイスを抑えてくる彼の行動に仮面の人物は不満を抱く

 

 

必然的にそれを彼にぶつけようと彼女が顔を上げたその時だった

 

 

 

その場にいた全員の温度が一気に絶対零度まで下がるのを感じる

 

 

仮面の内側から覗かせる漆黒の眼差し、夜よりも黒く深い闇を思わせるそれ

 

 

無意識の内に仮面を付けたその者は身体中の神経が一挙に硬直し固まった

 

 

「…次は言わない…止めろ手を出すな…」

 

 

「…ひ!?」

 

 

不意にこみ上げる眼の前にいる者に対する凄まじい恐怖心に声を溢す仮面の人物

 

 

闇の中で交わされる、忍が示す更に深い闇

 

 

月が照らす深く暗い、長い夜はまだ続く…

 

 

 


 
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